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第一章

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 ……

 ……おい……おい、女神、聞こえてるんだろう?

 ……私は女神ではありませn

 ……いいから!あまりにも出来過ぎていないか? これこそまさに「運命」を操作した、としか思えない程なのだが……。
 
 ……データによると、ネメシス嬢の先祖が呪いを受けたのは250年以上前、その解呪術式を失伝したのは100年以上前です。
 アテナ嬢が光属性を持って生まれたのも今から10数年前、ネメシス嬢の父親が赤熱病にかかったのも貴方がこの世界に来る前です。
 そこから貴方を召喚し、上空から地上に落ちてすぐアルテミス嬢と遭遇し彼女を殺さなかったのも、アテナ嬢と巡り合いこの場にいるのも、ネメシス嬢にネックレスを購入して懇意になれたのも、全て貴方の意志による行動ですよ。  

 ……あくまで偶然というのか?

 ……はい、もしこれらの条件が揃ってなくても、まずネメシス嬢の父親がそのまま亡くなったとしても政局に影響はありません。そしてネメシス嬢が看取れなくても、貴族として・冒険者として外遊も多い彼女は既に覚悟はなされている筈です。そして彼女の貴方に対する思いも……まあ見ての通りでしょうし、今回の件が婚約に影響する訳ではありませんね。

 ……そうなら、何故今呼びかけに答えた? 黙っていても解決する問題なら、わざわざ喋らなくてもいいだろう?

 ……

 ……今回の問題は、俺が解決出来ると思った。そちらが運命を操作してないというのが本当なら、お前もこの結末がどうなるか見てみたい、そうなんだろ?

 ……私はあくまで傍観者です。しかし……

 ……?????

 ……目の前で「奇跡」が起きたのなら、やはり上手くいくように、見守りたいですよね?

 ……例の力で、何人まで……行ける?

 ……そこまでは判りません……でもここまで出来過ぎた「奇跡」ですし、頑張ってみてはいかがでしょうか?

 ……ったく……やってみるよ。あ、後……

 ……?何か?

 ……よくも最初にあんな上空から落としやがったな! アレに対しても後で文句言ってやるからな!!

 ……
 
 ……

 「……ネメシス!」
 「ひっ……な、何ですの急に……」
 「今から何が起こっても、俺を信じて、動じないと誓えるか?」
 「え……ええっ?」
 「アテナっ! アルテミスっ! お前たちもだ!」
 「……私はずっと、アヤカートの事を信じているわよ」
 「……ふん、奴隷が主人に逆らえる訳はないわ……何を思いついた?」
 「詳しく説明する時間も惜しい。ネメシス、辺境伯の屋敷迄ここからどのくらいかかるんだ?」
 「……ヘレネ、地図をここに。早馬で行っても十日はかかりますわ……夜中は馬の休息やモンスターの襲撃を考え休む必要もありますし」
 「フルーツ村はここ、河口の工場村まで1日半ほどかかった……馬は確か1日50kmほどだから7,80kmか……という事は領都迄……300kmって所か」
 「直線距離ではそうですが……実際は大きく迂回せねば危険な地帯もありますし」
 「問題は俺とアテナ・アルテミス・ネメシスが1つの「ユニット」として認識されるかどうかか……」
 「……何を……」
 「まあ女神お墨付きで「奇跡」認定されたんだ、まずはやってみるか、アテナ、アルテミス、ネメシス、この家の屋根にのぼるぞ!」
 「え?」

 不思議がるネメシスを強引に連れ出し、4人で5mほどの屋根の上にのぼる。
 「ヘレネさん、もしここから落ちても、フライの魔法で緩和出来ますか?」
 「え、ええ……四人程度でしたら」
 「もしもの時は頼みます。アルテミス、俺の背中におぶされ。アテナ、ネメシス、失礼するぞ」
 「え、ちょっと!」
 「あん……情熱的ですわね……」
 「まだ余裕あるようだな」
  俺はアテナとネメシスをそれぞれ両脇に抱き、しっかり掴まれ、という。
 「おい、まさかアレをする気か……」
 アルテミスは最初に見ているからな、気付いたようだ。
 「よし、全員掴まったな……ではヘレネさん、フォローお願いいたします!」
 
 ……そういうと俺は屋根の端から……

 ゆっくりと……

 カーンカーン、事前予測LV1……失敗。緊急回避が発動しました。
 「え……何これ?」
 「これが貴様の技能か……」
 「え……なんですのこれは?」

 ……あれ? 以前アルテミスと対峙した時や、ゴブリンに襲われた時のアテナは止まっていたのに、今回は意識があるのか? ネメシスも……

 ポーン。緊急回避を行った時点で触れている者も動く事が出来ます。また、改修で横方向移動時等自動で同じ動作を繰り返せるようになりました。シームレスで移動出来ますのでご利用ください。今回の改修に伴い初期出現位置の一件での抗議はお控え頂けると幸いです。

 ……ぐぬぬ、仕方がない。あのお陰で緊急回避もカンストしたし寛大な心で見逃してやろう。

 「だ、旦那様……説明お願いいたします。一体これは、どういう事ですの?」
 ネメシスの質問に
 「そうだな……お姫様の為に空駆ける天馬(ペガサス)って所かな? 行く先は天国かもしれないが、この騎士めを信用し身を預けてくださるかな?」
 「は……はい……(ぽっ 」
 「……アやカート……何が起きたか判らないけど……とりあえず全てが終わったら、土下座だからねっ!」

 ……しまった、アテナの前なのにまた気障モードが発動してしまった……アルテミスさんもむごんでかみつくのやめてけいどうみゃくががが

 「では、行くぞ3人の女神たち、しばらくは空の旅をお楽しみあれっ!」

 そういうと俺は彼女らを連れ、領都に向けて飛び立った……残されたヘレネのぽかんとした顔に見送られつつ。
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