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おじさん♡間違えます②
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庭師♡
おかえりなさい、とリリィは私に言った。
それは貴方が、私にかけた言葉では無い。
それでも、私はどうしようもない喜びを感じてしまう。
実際に君のお屋敷には8日ぶりに参ったのです。
…そんな事は貴方がご存知であろうはずも無いのに。
リリィ。
貴方が我が国にいらした時から、私は君に懸想しておりました。
姿も知らぬ人にその気配だけで惹かれるなど酷く滑稽でしょう。
しかし、それは実際に私に起こったことだ。
しかも、残酷な事に。
目の当たりにした貴方は想像を絶する程に可愛かった。
今となっては貴方は私の全てだ。
私は君に生命懸けなのだ。
私はただ、貴方のご無事を確かめたかったのです。
他意は無い。
その様なものは抱く事も許されぬ。
その様な決意でもって、君の寝室に参ったのだ。
君は寝台に横になって休んでいらした。
とても安らかな様子が見てとれる。
私は心底から安心した。
そして私は踵を返す。
速やかに部屋を出て庭の手入れに戻らねばならない。
…そうするつもりであった。
なのに、君の剥き出しの肩が目についた。
貴方は可憐な薄手の夜着を纏っただけで、掛布を下敷きに眠っている。
秋も深まり冬の入り口という季節にあり、今夜は冷えるだろう。
手近のスツールにブランケットが掛けてある。
…そっと、かけて差し上げよう。
みっともなくも震える手で、小さな頭以外の全てを覆った。
私は、ホッとする。
君の素肌は目の毒だった。
「…ん、ふぅ」
起してしまっただろうか。
いや、違う。
君は確かに寒気を感じていらしだ。
ブランケットの温もりが快くて微笑んだのだ。
お役に立てて光栄です。
私の胸も温かく満ち足りていく。
おやすみなさい、リリィ。
胸の内でだけ挨拶してこの場を辞する。
…最後に一目だけ。
ここまで、私は君を直視せぬ様に気をつけていた。
けれどもう二度とこんなにも直近に君とまみえる事など無いだろう。
だから、許してください。
その様な言い訳をして、私は貴方を見た。
そして禁を破った事を後悔する。
目を閉じてうとうとと微睡んでいる貴方は酷く可愛らしくて…
私は動けなくなった。
だから私は去る事が出来なかった。
そう、したくなかった。
あと、ほんの少しだけ、もう、ほんの…
止せ。
私の正義が、淫心を撃った。
我を失っていた事を悟り、ゾッとする。
私は何というみっともない真似をしているのだ。
憧れの君から目を引き剥がし、きっぱりと背を向けて真っ直ぐに出口に向かった。
その時。
…私の踵が鳴ったのは、偶然では無い。
私はどうしても、哀れな自分に一縷の望みを与えずにおれませんでした。
だが、その微かな足音に君が飛び起きるとは思わなかった。
そして、甘く、優しく、愛らしく、お出迎え頂けるとは夢にも思っていなかった。
「おかえりなさいっ」
君の可愛いお出迎えに、私の心はふるえたのです。
貴方の待ち人は私では無い。
それは充分なくらい、承知している。
だが、今、貴方の前に居るのは私だ。
…止せ。
黙れ。
身の程を弁えろ。
片恋の人の目前でただ立ち尽くし、圧倒されるばかりの酷く情けない男。
身の程を知らぬ恋慕と欲望に身を焦がす、哀れな男。
それがこの、私、アレクサンドールである。
未だ受領にすら至らぬ若年の、貴方には無粋な私だ。
女王に挑む事など許されぬ。
恥を知れ。
さあ、用は済んだ。
去れ。
…この様に。
私は自制心に慰められて、貴方の寝室を去る決心をしました。
それだと言うのに。
…貴方は酷い人だ。
「…セス♡セバスティアン♡」
私は貴方に触れる事など、考える事すら禁じていた。
君に触れる、それは畏れ多い事です。
それなのに。
貴方という人はそんな私の禁を易々と破ってしまわれるのか。
しなやかな貴方の腕が私に向かって伸ばされている。
…貴方は間違えておられる。
姉上から貴方のお身体の具合について、私は聞かされております。
大層に弱っておいでなのだ。
そうでなければ、お間違えになどならない。
「…セス、セス、セバスティアン!会いたかった」
この私が、あのセバスティアンであろうはずがない。
「淋しかったよ」
いけない。
「…もっと、ちゃんと、側に居て」
リリィ!止してくれ。
君は、私の敬愛する従兄弟殿の妻なのだ。
「僕の事、愛してないの?」
…残酷な人だ。
私は、貴方を愛しています。
「…どうした、の?」
どうしようも無い。
これでは、私は兄上達を裏切ってしまう。
「…リリィ、」
貴方から匂いがするのだ。
凄まじい誘引の芳香。
もはやこの部屋には愛が満ちている。
「ね、シて?…抱いて。早く!」
私はどうしようもなく、αなのです。
君に、逆らう事など出来ようものか!
…去る、べきだっだ。
何としても去らなければならなかった。
私の…
死に勝る、後悔です。
\\\٩(๑`^´๑)۶////
おかえりなさい、とリリィは私に言った。
それは貴方が、私にかけた言葉では無い。
それでも、私はどうしようもない喜びを感じてしまう。
実際に君のお屋敷には8日ぶりに参ったのです。
…そんな事は貴方がご存知であろうはずも無いのに。
リリィ。
貴方が我が国にいらした時から、私は君に懸想しておりました。
姿も知らぬ人にその気配だけで惹かれるなど酷く滑稽でしょう。
しかし、それは実際に私に起こったことだ。
しかも、残酷な事に。
目の当たりにした貴方は想像を絶する程に可愛かった。
今となっては貴方は私の全てだ。
私は君に生命懸けなのだ。
私はただ、貴方のご無事を確かめたかったのです。
他意は無い。
その様なものは抱く事も許されぬ。
その様な決意でもって、君の寝室に参ったのだ。
君は寝台に横になって休んでいらした。
とても安らかな様子が見てとれる。
私は心底から安心した。
そして私は踵を返す。
速やかに部屋を出て庭の手入れに戻らねばならない。
…そうするつもりであった。
なのに、君の剥き出しの肩が目についた。
貴方は可憐な薄手の夜着を纏っただけで、掛布を下敷きに眠っている。
秋も深まり冬の入り口という季節にあり、今夜は冷えるだろう。
手近のスツールにブランケットが掛けてある。
…そっと、かけて差し上げよう。
みっともなくも震える手で、小さな頭以外の全てを覆った。
私は、ホッとする。
君の素肌は目の毒だった。
「…ん、ふぅ」
起してしまっただろうか。
いや、違う。
君は確かに寒気を感じていらしだ。
ブランケットの温もりが快くて微笑んだのだ。
お役に立てて光栄です。
私の胸も温かく満ち足りていく。
おやすみなさい、リリィ。
胸の内でだけ挨拶してこの場を辞する。
…最後に一目だけ。
ここまで、私は君を直視せぬ様に気をつけていた。
けれどもう二度とこんなにも直近に君とまみえる事など無いだろう。
だから、許してください。
その様な言い訳をして、私は貴方を見た。
そして禁を破った事を後悔する。
目を閉じてうとうとと微睡んでいる貴方は酷く可愛らしくて…
私は動けなくなった。
だから私は去る事が出来なかった。
そう、したくなかった。
あと、ほんの少しだけ、もう、ほんの…
止せ。
私の正義が、淫心を撃った。
我を失っていた事を悟り、ゾッとする。
私は何というみっともない真似をしているのだ。
憧れの君から目を引き剥がし、きっぱりと背を向けて真っ直ぐに出口に向かった。
その時。
…私の踵が鳴ったのは、偶然では無い。
私はどうしても、哀れな自分に一縷の望みを与えずにおれませんでした。
だが、その微かな足音に君が飛び起きるとは思わなかった。
そして、甘く、優しく、愛らしく、お出迎え頂けるとは夢にも思っていなかった。
「おかえりなさいっ」
君の可愛いお出迎えに、私の心はふるえたのです。
貴方の待ち人は私では無い。
それは充分なくらい、承知している。
だが、今、貴方の前に居るのは私だ。
…止せ。
黙れ。
身の程を弁えろ。
片恋の人の目前でただ立ち尽くし、圧倒されるばかりの酷く情けない男。
身の程を知らぬ恋慕と欲望に身を焦がす、哀れな男。
それがこの、私、アレクサンドールである。
未だ受領にすら至らぬ若年の、貴方には無粋な私だ。
女王に挑む事など許されぬ。
恥を知れ。
さあ、用は済んだ。
去れ。
…この様に。
私は自制心に慰められて、貴方の寝室を去る決心をしました。
それだと言うのに。
…貴方は酷い人だ。
「…セス♡セバスティアン♡」
私は貴方に触れる事など、考える事すら禁じていた。
君に触れる、それは畏れ多い事です。
それなのに。
貴方という人はそんな私の禁を易々と破ってしまわれるのか。
しなやかな貴方の腕が私に向かって伸ばされている。
…貴方は間違えておられる。
姉上から貴方のお身体の具合について、私は聞かされております。
大層に弱っておいでなのだ。
そうでなければ、お間違えになどならない。
「…セス、セス、セバスティアン!会いたかった」
この私が、あのセバスティアンであろうはずがない。
「淋しかったよ」
いけない。
「…もっと、ちゃんと、側に居て」
リリィ!止してくれ。
君は、私の敬愛する従兄弟殿の妻なのだ。
「僕の事、愛してないの?」
…残酷な人だ。
私は、貴方を愛しています。
「…どうした、の?」
どうしようも無い。
これでは、私は兄上達を裏切ってしまう。
「…リリィ、」
貴方から匂いがするのだ。
凄まじい誘引の芳香。
もはやこの部屋には愛が満ちている。
「ね、シて?…抱いて。早く!」
私はどうしようもなく、αなのです。
君に、逆らう事など出来ようものか!
…去る、べきだっだ。
何としても去らなければならなかった。
私の…
死に勝る、後悔です。
\\\٩(๑`^´๑)۶////
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