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いつしか、セスティーナを恋に落とした人物こそがこの世で最も名誉ある人物である。と噂が流れ始めていた。
そして、セスティーナの美しさは隣国にまで轟き、急遽、その国の王まで訪問することになったのである。
隣国の宰相ヒルデンは、すでに無くなりかけている髪の毛を撫でながら、どうしたものかと頭を抱えていた。
ヒルデン達がこれから訪れる国は、知る限りで100年あまり他国との交流を避けてきた国である。
唯一門が開かれているヒストリア市場でも、貿易に対して厳格な人物が盾となり常に決まった内容しか取り扱ってはくれない。
最近動き始めたリポーター商会が唯一、僅かに他国の新しい技術を取り入れ始めたと聞くだけだ。
それでも隣国が変わらぬ豊かさを保ちつつ、戦火に焼かれなかった理由は、隣国が世界の端に位置し、豊富な資源を充分に確保され、その国だけでも成り立つ技術力を持っていたからに他ならない。
さらには、数百年前に無くなったとされる魔力を用いた防御壁が国全体を覆っているらしいのだ。
攻め入ろうとした国はことごとく大砲が跳ね返り、国で疫病が流行り始め、更にはその国の隣国までもが不幸の巻き添えを喰らうとされた。
『あの国は襲ってはならない』そんな暗黙の了解が生まれるほど、あの国と剣を交えたいと思う国は居なかったのだった。
「へ、陛下……」
「なんだヒルデン」
「やはりもう帰りましょうよぉ。恐ろしいですよ私は……急に入国の許可が出るなんてきっと監禁されるんですよぉ」
「馬鹿を言うな。流石に監禁……されたら、終わるのか」
「陛下ぁ……」
そういえば監禁されても戦争を仕掛ける事ができないと気がついた陛下だったが、時はすでに遅し。すでに国境を超えて隣国に馬車は入っており、ヒストリア家が管理する大門が、ガチャリと閉まった所だった。
「何かありましたか?」
案内役のヒストリア伯爵が馬車の窓からひょこりと顔を覗かせた。
ヒルデンはヒッと小さな悲鳴を上げつつ、多量の汗を拭きながら首をブンブンと横に振る。
「い、いえいえ!何もございませんぞ!」
「ああ、案内ご苦労」
同じく冷や汗はかきつつも笑顔で誤魔化したヒルデンの主は片手を上げて伯爵を下げる。
流石にここで帰るという選択は非常識であると判断した2人だった。
「そうですか?では、このまま向かいます」
穏やかそうなヒストリア伯爵の顔がニコリと笑った顔を思い出したヒルデンは、更に冷や汗をかきながら自分の主人に声をかける。
「交渉で頑なに折れないと有名なヒストリア卿が、あの様な穏やかそうな人物だとは思いませんでした」
「ああ……」
隣国の陛下、アルデント・データリエンは瞼を閉じて頬杖をついた。
今のところ何も起こってはいないものの、もしかすると厄介な事に巻き込まれたのではないか、と脳内を働かせる。
「だが、ここで我が国が動かねば他国にこの権利を奪われていたはずだ。もしこれが成功すれば、我が国もより地盤を築けるだろう」
データリアンは我が国を思い出して目を瞑った。
海に面しておらず、土地もあまり豊かではない。そのために食料は他国からの輸入の割合がどうしても高くなる。
だからこそ、周辺の国との力の格差を見せられてはいけない、そして、データリアンは案外間違った選択をした事がないと自負していた。
「……大丈夫だヒルデン。私は案外運がよい」
「は、はいぃ」
手を顔の前で組み神に祈る姿勢を取ったヒルデンは、体を震わせながら目を瞑っている。
彼が信仰する宗教は自分の努力の分だけ願いが叶うという内容だったはずだが、それでも祈らざるおえないのだろう。
連れてきた事に後悔はないが、少し申し訳ない気持ちになりつつ、帰ったら高い育毛剤を買ってやろうと考えた。
(まぁ、まずは帰る時まで残っている事を願ってやろう)
データリアンはヒルデンの頭を見つめながら馬車が止まるまで策を練るのであった。
そして、セスティーナの美しさは隣国にまで轟き、急遽、その国の王まで訪問することになったのである。
隣国の宰相ヒルデンは、すでに無くなりかけている髪の毛を撫でながら、どうしたものかと頭を抱えていた。
ヒルデン達がこれから訪れる国は、知る限りで100年あまり他国との交流を避けてきた国である。
唯一門が開かれているヒストリア市場でも、貿易に対して厳格な人物が盾となり常に決まった内容しか取り扱ってはくれない。
最近動き始めたリポーター商会が唯一、僅かに他国の新しい技術を取り入れ始めたと聞くだけだ。
それでも隣国が変わらぬ豊かさを保ちつつ、戦火に焼かれなかった理由は、隣国が世界の端に位置し、豊富な資源を充分に確保され、その国だけでも成り立つ技術力を持っていたからに他ならない。
さらには、数百年前に無くなったとされる魔力を用いた防御壁が国全体を覆っているらしいのだ。
攻め入ろうとした国はことごとく大砲が跳ね返り、国で疫病が流行り始め、更にはその国の隣国までもが不幸の巻き添えを喰らうとされた。
『あの国は襲ってはならない』そんな暗黙の了解が生まれるほど、あの国と剣を交えたいと思う国は居なかったのだった。
「へ、陛下……」
「なんだヒルデン」
「やはりもう帰りましょうよぉ。恐ろしいですよ私は……急に入国の許可が出るなんてきっと監禁されるんですよぉ」
「馬鹿を言うな。流石に監禁……されたら、終わるのか」
「陛下ぁ……」
そういえば監禁されても戦争を仕掛ける事ができないと気がついた陛下だったが、時はすでに遅し。すでに国境を超えて隣国に馬車は入っており、ヒストリア家が管理する大門が、ガチャリと閉まった所だった。
「何かありましたか?」
案内役のヒストリア伯爵が馬車の窓からひょこりと顔を覗かせた。
ヒルデンはヒッと小さな悲鳴を上げつつ、多量の汗を拭きながら首をブンブンと横に振る。
「い、いえいえ!何もございませんぞ!」
「ああ、案内ご苦労」
同じく冷や汗はかきつつも笑顔で誤魔化したヒルデンの主は片手を上げて伯爵を下げる。
流石にここで帰るという選択は非常識であると判断した2人だった。
「そうですか?では、このまま向かいます」
穏やかそうなヒストリア伯爵の顔がニコリと笑った顔を思い出したヒルデンは、更に冷や汗をかきながら自分の主人に声をかける。
「交渉で頑なに折れないと有名なヒストリア卿が、あの様な穏やかそうな人物だとは思いませんでした」
「ああ……」
隣国の陛下、アルデント・データリエンは瞼を閉じて頬杖をついた。
今のところ何も起こってはいないものの、もしかすると厄介な事に巻き込まれたのではないか、と脳内を働かせる。
「だが、ここで我が国が動かねば他国にこの権利を奪われていたはずだ。もしこれが成功すれば、我が国もより地盤を築けるだろう」
データリアンは我が国を思い出して目を瞑った。
海に面しておらず、土地もあまり豊かではない。そのために食料は他国からの輸入の割合がどうしても高くなる。
だからこそ、周辺の国との力の格差を見せられてはいけない、そして、データリアンは案外間違った選択をした事がないと自負していた。
「……大丈夫だヒルデン。私は案外運がよい」
「は、はいぃ」
手を顔の前で組み神に祈る姿勢を取ったヒルデンは、体を震わせながら目を瞑っている。
彼が信仰する宗教は自分の努力の分だけ願いが叶うという内容だったはずだが、それでも祈らざるおえないのだろう。
連れてきた事に後悔はないが、少し申し訳ない気持ちになりつつ、帰ったら高い育毛剤を買ってやろうと考えた。
(まぁ、まずは帰る時まで残っている事を願ってやろう)
データリアンはヒルデンの頭を見つめながら馬車が止まるまで策を練るのであった。
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