『忘れられた公爵家』の令嬢がその美貌を存分に発揮した3ヶ月

りょう。

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これは誰でも聞いたことのある噂話だ。
『この国では昔からパーティーには美しい幽霊が現れる』

とても美しい貴婦人と話していたはずが、いつの間にか姿が無い。
場所は、会場内だけではなく、人気の無い庭や、密室の空間など様々であった。

ただ、幽霊を見たと証言した者たちの多くが、いつの間にか貴族界から姿を消すことから、それは変事へんじが起きる前触れだとされ、誰もが次第に幽霊の事を話さなくなっていったのだった。


トラデイン伯爵は、この噂を信じている張本人である。
理由は簡単だ。

幽霊を見た人物を知っているからだ。



「聞きました?バーバリア様が療養で田舎に行かれたとか」
「ええ、あんなに毎日着飾ってお茶会に顔を出しておりましたのに急に療養なんて、霊にでも取り憑かれたのでは?」

あははは、と御令嬢たちが笑う側をトラデイン伯爵は真っ青な顔をしながら足早に通り過ぎた。

バーバリアはトラデイン伯爵の叔母であり、一ヶ月ほど前に彼女と茶菓子囲んだあの日を思い出す。

『美しい方にアドバイスをいただいたのよ』
『わたくしのこと、何でも分かってくださって』
『だから、アドバイス通り田舎で過ごすことにしたの』

初めて見る高揚とした表情と、声。神も信じなかった彼女が信仰の処女を捧げた相手がまさか、幽霊の貴婦人だとは誰も思うまい。

バーバリアは結局、お茶に手をつけることなく小一時間喋り通して夢心地のように帰っていった。
そして、そのまま僻地へと向かったらしい。







パシャリと雷が鳴った。
いつのまにか人気のない廊下に出ていたトラデイン伯爵は、目の前に女性が立っている事に気がついた。

「ひっ」
「あら、ふふ、困りましたわ。そんな幽霊を見たような顔で」

輝くプラチナの髪、アメジストの瞳にスッと通る鼻筋、ふっくらと赤く色づく唇。

「……ハイトランデ嬢」
「はい、どうしましたか?お顔が真っ青ですよ?」


まさに、バーバリアが言っていたような美しい方が目の前にいた。
気がつけば膝をつき、首を垂れてもおかしくないほどの麗しさ。辺りは薄暗いはずが彼女の周りだけ輝いているように見えるほど僅かな光で髪がキラキラと光っている。

引き込まれるような恐怖が、トラデイン伯爵から思考を奪った。

「あ、貴女がやったんだろう」

無意識に叫んだトラデイン伯爵は自分にも驚いたようだ。だが、転がり始めた石のように、溢れ出る言葉を止めることはできなかった。

「貴女が、バーバリアをあんな辺鄙な場所へ送ったんだろう!」
「バーバリア?ああ、あの黒髪が美しい翠の目を持ったご婦人の事でしょうか?」
「そうだ、バーバリアは、バーバリアは……」
「バーバリア様はご自身の意思でアスタカ地方へ向かわれたとお聞きしましたわ」
「何を言う、彼女はあの場所で満足できる人間ではない!一体どうやって彼女をそそのかしたんだ!」

唆したなんて、と彼女は呟く。
頬に手を当て、コテリと傾げられた小首は芸術品かと思えるほど隙がない。
トラデイン伯爵はグッと喉を鳴らすと顔を伏せた。

「あの場所で満足できる人間ではないんだ……ようやく、……を取り戻してきたというのに……なぜ……」

絞り出された声は、セスティーナの耳に僅かに届いた。
彼は、その後もぶつぶつと何かを呟いている。セスティーナはふわりと微笑んだ。


「ふふ、お優しいのですね」
「……」
「ご自身が手塩にかけた作品を、汚されると思ったのですか?」
「バカを言うな!作品などでは無い、侮辱するのもいい加減にしてくれ!」
「ええ、ええ、もちろんですわ。侮辱などしておりません。私は貴方の力量を見込んでお願いしに参ったのですから」

ニコリと微笑んだセスティーナの顔は、まるで死を迎えにきた天使の如く魅力的な色を孕んでいた。
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