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彼は走っていた。
信じられない事が起きたと兄に報告するためである。
誰にも見つからないよう慎重に場所を選びながらそれでも急いで伝えるために走り続けた。
ドンっと衝撃を受け立ち止まると、1人の女性が後ろに転び、腰をついていた。走ってきた自分にぶつかって転んでしまったらしい。
「申し訳……」
しかし、彼はこの場所に見知らぬ女性がいる事に疑問を覚えて差し出そうとした手を止めた。
彼女の方は驚いて動けないのか、その場で目をパチパチと瞬いて、顔を上げる。
「いたた、あら?貴方は……」
「お前は誰だ」
「ああ、待って。私は悪い人じゃありませんわ」
「私は誰かと聞いただけだ。その回答、何かやましい事がある、という事か」
「あら、どうしましょう。だって貴方の顔がとても険しいから」
困った様に眉を垂らす女性は、腰をついたまま頬に手を当てていた。悪人でなければと支えようと伸ばした手を、男はまた伸ばす。
「とりあえず起きてくれ」
そう声をかけられて、彼女はようやく自分が地べたに座ったままだと気が付いたらしい。少し頬を染めてありがとうと手を乗せた。壊れそうなほど小さな手を引かれ、ふわりと起き上がった彼女は、すぐに体を離して礼を取った。
「挨拶もせず申し訳ありません、我が国の太陽である皇帝殿下にご挨拶申し上げます。セスティーナ・ハイトランデでございます」
「セスティーナ・ハイトランデ!?」
「え、は、はぁ」
「もしかして、あのセスティーナ・ハイトランデか?」
「あの……とは分かりませんが、恐らくわたくしかと」
こて、と小首を傾げ、何故彼が怒り、動揺しているのか彼女は考えているようだった。
頬に手を当てて悩ましげな顔は、いつもは周りをときめかせ、時に陶酔させるはずだが、目の前の男には全く通じないようだ。
そこに気がついたセスティーナは目をキラキラと輝かせた。
「では答えてもらおうか」
「はい、なんでもお答えします」
「お前は何故ここにいる。ここは普通の貴族は入って来れない場所だ」
「そうでしたか、でも、こちらには我が国の太陽、皇帝陛下に案内されたのです」
「は!?陛下に!?それはいつだ?」
「この行事の初日です」
「初日!?」
顰められた眉に手を当てて、少し考える素振りをした男は呟く。
「なるほど……父上の目的は貴女だったのか」
暫く何かを考えているようだったが、
しかし、何かを思い出したのか彼ははっと顔を上げた。
「兄上に報告しなければ!」
「えっ」
知らぬ間に掴まれた手首をセスティーナは見つめた。
解放されるかと思ったが逆に捕まることとなったらしい。
彼に顔を向けると、また眉が顰められていた。
「不本意だが、ここで逃がすわけにもいかない。ついてきてもらおう」
「えっ」
気がついた時には走り出しており、セスティーナは邪魔なドレスを必死に蹴った。だが、ほとんど重さのないズボンと何キロもあるドレスには男女の差以上に2人の足の速さを変えた。
痛みを覚え始めた手首を、どうしたものかと見つめていると、彼の手が離れる。
クルリと振り返り、「仕方ない」と言ってセスティーナをお姫様抱っこした彼は彼女を抱えたまま走り出した。
頬を染め、これは「仕方ない」ことと彼の首に手を回したセスティーナは、足が止まるまでその状況を楽しむことにしたようだ。
扉への挨拶もそこそこに入った部屋には、心底驚いた表情のレイモンドが待っていた。
信じられない事が起きたと兄に報告するためである。
誰にも見つからないよう慎重に場所を選びながらそれでも急いで伝えるために走り続けた。
ドンっと衝撃を受け立ち止まると、1人の女性が後ろに転び、腰をついていた。走ってきた自分にぶつかって転んでしまったらしい。
「申し訳……」
しかし、彼はこの場所に見知らぬ女性がいる事に疑問を覚えて差し出そうとした手を止めた。
彼女の方は驚いて動けないのか、その場で目をパチパチと瞬いて、顔を上げる。
「いたた、あら?貴方は……」
「お前は誰だ」
「ああ、待って。私は悪い人じゃありませんわ」
「私は誰かと聞いただけだ。その回答、何かやましい事がある、という事か」
「あら、どうしましょう。だって貴方の顔がとても険しいから」
困った様に眉を垂らす女性は、腰をついたまま頬に手を当てていた。悪人でなければと支えようと伸ばした手を、男はまた伸ばす。
「とりあえず起きてくれ」
そう声をかけられて、彼女はようやく自分が地べたに座ったままだと気が付いたらしい。少し頬を染めてありがとうと手を乗せた。壊れそうなほど小さな手を引かれ、ふわりと起き上がった彼女は、すぐに体を離して礼を取った。
「挨拶もせず申し訳ありません、我が国の太陽である皇帝殿下にご挨拶申し上げます。セスティーナ・ハイトランデでございます」
「セスティーナ・ハイトランデ!?」
「え、は、はぁ」
「もしかして、あのセスティーナ・ハイトランデか?」
「あの……とは分かりませんが、恐らくわたくしかと」
こて、と小首を傾げ、何故彼が怒り、動揺しているのか彼女は考えているようだった。
頬に手を当てて悩ましげな顔は、いつもは周りをときめかせ、時に陶酔させるはずだが、目の前の男には全く通じないようだ。
そこに気がついたセスティーナは目をキラキラと輝かせた。
「では答えてもらおうか」
「はい、なんでもお答えします」
「お前は何故ここにいる。ここは普通の貴族は入って来れない場所だ」
「そうでしたか、でも、こちらには我が国の太陽、皇帝陛下に案内されたのです」
「は!?陛下に!?それはいつだ?」
「この行事の初日です」
「初日!?」
顰められた眉に手を当てて、少し考える素振りをした男は呟く。
「なるほど……父上の目的は貴女だったのか」
暫く何かを考えているようだったが、
しかし、何かを思い出したのか彼ははっと顔を上げた。
「兄上に報告しなければ!」
「えっ」
知らぬ間に掴まれた手首をセスティーナは見つめた。
解放されるかと思ったが逆に捕まることとなったらしい。
彼に顔を向けると、また眉が顰められていた。
「不本意だが、ここで逃がすわけにもいかない。ついてきてもらおう」
「えっ」
気がついた時には走り出しており、セスティーナは邪魔なドレスを必死に蹴った。だが、ほとんど重さのないズボンと何キロもあるドレスには男女の差以上に2人の足の速さを変えた。
痛みを覚え始めた手首を、どうしたものかと見つめていると、彼の手が離れる。
クルリと振り返り、「仕方ない」と言ってセスティーナをお姫様抱っこした彼は彼女を抱えたまま走り出した。
頬を染め、これは「仕方ない」ことと彼の首に手を回したセスティーナは、足が止まるまでその状況を楽しむことにしたようだ。
扉への挨拶もそこそこに入った部屋には、心底驚いた表情のレイモンドが待っていた。
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