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ベットに横になると僅かに甘い香りがする事が分かった。頭の中でその香りを探るけれどなかなか思い出せない。
何かの作用があるものだった気がするけれど、今は伯爵に対して認めてしまった気持ちをしっかりと落とし込もうと頭を働かせていた。
「はぁー」
正直、伯爵を自分で避け始めた時から伯爵を好きだと分かっていたと思う。だって、好きじゃなければ普通に会えるはずなのだから。
普通に会って、他に婚約者がいたのならすこし脅して口止め料でももらえばそれで良かったのだ。
ただそれは出来なかった。
他に婚約者がいた事にショックを受けてランクさんが語る話に傷ついていた。
「はぁぁー」
ほんの数ヶ月で落とされてしまう自分が情けない。
確かにカッコいいし、紳士だし、すごく尽くしてくれていたけど。いや、大分尽くしてくれていたのかもしれないけど。
しかし……先ほどの伯爵はいつもよりかなり、はしゃいでいたなぁ。もっとしっかりした人だった気がするんだけど。でも、最初に私に一目惚れしたと言ってきた時もあんな感じだったかもしれない。
最初……そう言えば最初部屋に連れ込まれた時。何で私がワンダーソン家の人間だと分かったのだろう。
エマという名前は他の家にも居るし、舞踏会で働いていた中にもエマという人物はいたはず。
エマと名乗っただけで、『もしかして』ワンダーソン家の次女と聞くことが出来るはずがない。
まさか、私の事を始めから追っていたのか。
何故。
もしかして、伯爵は私のやっている事に気がついてる?
それならば逆に、私が思い切り裏で動いても伯爵の目の中ということか。では……
「エマ」
「うわぁ!」
悪い事を考えている時にほど、誰かに声をかけられたく無いものだ。
ついさっき出て行ったからこんなに早く戻ってくるとは思わなかった。
私は、驚いてつい起こした体を伯爵に向けてコホンと咳払いをしてみせた。別に、そんな…誰かを殺そうとか思ってたんじゃないし誤魔化す必要はないのだけど。
ただ伯爵自身は私が驚いた事はさほど気にしている様子がない。
むしろ彼の方が気恥ずかしそうにして私に近づいてくると、同じようにコホンと咳払いをした。
「その、先ほど……取り乱してすまない」
「い、いや。私も避けておりましたし」
「…………」
「…………」
なんだ、何か言うんじゃないのか。
取り乱していた事だけを言うために、慌てて戻って来たんじゃないだろう。
私はジトリと彼を見上げ、言葉を待った。
「あー……エマ」
「なんでしょう」
「貴方は……私の事を好いてくれているだろうか」
「……もし、そうだと言ったらどうなるんですか」
「殿下に、お伝えしようかと思ってね」
「殿下に?何を伝えるのです?」
「…………」
そこまで言うと伯爵は顔を赤くして横を向いた。
今までの伯爵の行動の方がよほど恥ずかしい事だったのだから今更何を恥ずかしがることがあるのだ。
手を、口元に置いてすこしだけためらうようなそぶりをするもしばらくして口を開いた。
「やっと、貴方に見てもらえたと」
「は……やっと?」
「ああ、そうだよ」
「やっとって。まだ数ヶ月ではありませんか」
「ふふ……エマにとってはそうだね」
そこまで言うと彼は人差し指を口元に持っていき、ゆっくりと微笑んだ。
「内緒」
「随分と大胆な内緒ですね」
「そうだよ」
「……まだ好きじゃないです」
「ふぅん、まだね」
「あ、違」
くすくすと笑い始めた伯爵には私の言葉が聞こえないらしい。結局肯定の意味に捉えられてしまった。
つい口にしてしまった失態に顔が赤くなるのが分かる。本当に憎たらしい人だ。
「では、しっかりと現実にしなければいけないね」
「嫌味ですか」
「いいや、可愛いなと思って」
「……バカですか」
まだ笑いがおさまらないらしい伯爵に私は手を伸ばしパシリと腕を叩いた後、そのままベッドに顔まで潜った。
「まだ嫌いなんですからね」
「今はまだで、いいのかな?」
「もう!あっち行ってください!」
「あっははは」
少しだけ出ていた私のおでこに、また柔らかな感触がして伯爵が離れた気配があった。足音の後にパタリと扉が閉まる音を聞き終えるとガバッと起き上がる。
「ああ!もう!」
枕をばしりとベッドに叩きつけるとそこに顔を埋めた。
彼の言動や行動にドキドキしてしまっている自分が恥ずかしくて、どうにかなってしまいそうだ。
このまま溶けて消えてしまいたいくらいに。
何かの作用があるものだった気がするけれど、今は伯爵に対して認めてしまった気持ちをしっかりと落とし込もうと頭を働かせていた。
「はぁー」
正直、伯爵を自分で避け始めた時から伯爵を好きだと分かっていたと思う。だって、好きじゃなければ普通に会えるはずなのだから。
普通に会って、他に婚約者がいたのならすこし脅して口止め料でももらえばそれで良かったのだ。
ただそれは出来なかった。
他に婚約者がいた事にショックを受けてランクさんが語る話に傷ついていた。
「はぁぁー」
ほんの数ヶ月で落とされてしまう自分が情けない。
確かにカッコいいし、紳士だし、すごく尽くしてくれていたけど。いや、大分尽くしてくれていたのかもしれないけど。
しかし……先ほどの伯爵はいつもよりかなり、はしゃいでいたなぁ。もっとしっかりした人だった気がするんだけど。でも、最初に私に一目惚れしたと言ってきた時もあんな感じだったかもしれない。
最初……そう言えば最初部屋に連れ込まれた時。何で私がワンダーソン家の人間だと分かったのだろう。
エマという名前は他の家にも居るし、舞踏会で働いていた中にもエマという人物はいたはず。
エマと名乗っただけで、『もしかして』ワンダーソン家の次女と聞くことが出来るはずがない。
まさか、私の事を始めから追っていたのか。
何故。
もしかして、伯爵は私のやっている事に気がついてる?
それならば逆に、私が思い切り裏で動いても伯爵の目の中ということか。では……
「エマ」
「うわぁ!」
悪い事を考えている時にほど、誰かに声をかけられたく無いものだ。
ついさっき出て行ったからこんなに早く戻ってくるとは思わなかった。
私は、驚いてつい起こした体を伯爵に向けてコホンと咳払いをしてみせた。別に、そんな…誰かを殺そうとか思ってたんじゃないし誤魔化す必要はないのだけど。
ただ伯爵自身は私が驚いた事はさほど気にしている様子がない。
むしろ彼の方が気恥ずかしそうにして私に近づいてくると、同じようにコホンと咳払いをした。
「その、先ほど……取り乱してすまない」
「い、いや。私も避けておりましたし」
「…………」
「…………」
なんだ、何か言うんじゃないのか。
取り乱していた事だけを言うために、慌てて戻って来たんじゃないだろう。
私はジトリと彼を見上げ、言葉を待った。
「あー……エマ」
「なんでしょう」
「貴方は……私の事を好いてくれているだろうか」
「……もし、そうだと言ったらどうなるんですか」
「殿下に、お伝えしようかと思ってね」
「殿下に?何を伝えるのです?」
「…………」
そこまで言うと伯爵は顔を赤くして横を向いた。
今までの伯爵の行動の方がよほど恥ずかしい事だったのだから今更何を恥ずかしがることがあるのだ。
手を、口元に置いてすこしだけためらうようなそぶりをするもしばらくして口を開いた。
「やっと、貴方に見てもらえたと」
「は……やっと?」
「ああ、そうだよ」
「やっとって。まだ数ヶ月ではありませんか」
「ふふ……エマにとってはそうだね」
そこまで言うと彼は人差し指を口元に持っていき、ゆっくりと微笑んだ。
「内緒」
「随分と大胆な内緒ですね」
「そうだよ」
「……まだ好きじゃないです」
「ふぅん、まだね」
「あ、違」
くすくすと笑い始めた伯爵には私の言葉が聞こえないらしい。結局肯定の意味に捉えられてしまった。
つい口にしてしまった失態に顔が赤くなるのが分かる。本当に憎たらしい人だ。
「では、しっかりと現実にしなければいけないね」
「嫌味ですか」
「いいや、可愛いなと思って」
「……バカですか」
まだ笑いがおさまらないらしい伯爵に私は手を伸ばしパシリと腕を叩いた後、そのままベッドに顔まで潜った。
「まだ嫌いなんですからね」
「今はまだで、いいのかな?」
「もう!あっち行ってください!」
「あっははは」
少しだけ出ていた私のおでこに、また柔らかな感触がして伯爵が離れた気配があった。足音の後にパタリと扉が閉まる音を聞き終えるとガバッと起き上がる。
「ああ!もう!」
枕をばしりとベッドに叩きつけるとそこに顔を埋めた。
彼の言動や行動にドキドキしてしまっている自分が恥ずかしくて、どうにかなってしまいそうだ。
このまま溶けて消えてしまいたいくらいに。
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