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「ちょっとカラン!どういう事なの!」
「おー東の。どういう事って?」
「南の姉様婚約までしちゃったじゃない!」
「あぁ……もう諦めてやれよ」
「嫌!これじゃあ何の為にあんたに私の初めてをあげたか分からないじゃない!」
「……………………」
カラン・スタートッドの家には時を渡ることができる絵画が並ぶ廊下がある。
カランも、魔女も、時を渡る事は簡単に行えることではない。それ相応の対価を払って数年戻ることが出来るくらいである。
この絵画がどうやって生まれるのかは分かっていないが、これを全てカランが管理しており、使用できるのはカランに対価を払った者のみである事は分かっていた。
因みにこの東の魔女も、処女という対価を払って数年時を戻っている。
自分が人間と幸せになれなかった事が彼女にとって汚点であり、彼女にとって愛する存在である姉達がそんな汚点を持って欲しくないという考えからこういった行動に出ている事は明白であるのだが。
どうやら彼女はリチャードが前の世の記憶を保持している人間であっても人間であることに変わりないと思っている様子だ。
それは、普通の人間とはかけ離れた存在であることに気がついていない。
そもそも、何千年も同じ人物を好きでいる事自体なかなかに普通ではない、純愛と呼ぶには難しいことである。
「じゃあ、また対価を払って戻るのか?」
「当たり前じゃな……何よその顔」
「……別に、こんな無駄なことをして何の意味があるのか不思議だと思って」
カランの無駄という言葉に東の魔女は怒った様子だ。
文句を言いながら彼の肩を叩く。
「何よ!何が無駄なのよ!」
「前から言っているけど、リチャードとエマが結婚することは決まってる、今後のどの選択肢を選んでも、2人は結婚して、夫婦になる」
「分からないじゃない、だって過去が変われば、未来だって変わるもの」
「…………東の、ファミリアはもう戻らないんだよ」
「うるさいわね!!!そんなの分かってるわよ!」
「分かってない」
「分かってる!」
「分かってない!」
「だって!!だって……あの人が言ってたもの……リアが、選択を間違えなければ大丈夫だったって……」
「………………」
「きっと、私となんか出会わなければ良かったと思っていたんだわ……こんな、こんな辛い気持ちなんかいらないじゃない……」
東の魔女は、初めて人間を好きになった魔女だった。
あまりにも短い間だったが、彼女の中にはとても深い傷ができた、出来事。
彼女が汚点だと言うそれは、自身にできた心の傷の事なのかもしれない。そうでなければ、こんな悲しい顔をする彼女は見ることができない。
ただ、その出来事は『世界』が魔女を大切に思いすぎていたからだと思っている。
それは半分以上間違いであることは、今まではカランだけが知っていたことだ。
「人間なんていなくなればいいと思ってるよ、俺は」
「は……?」
「そうしたら、そんな感情は生まれないだろ?そもそも、何で俺たちは人間の面倒を見なければいけない。永遠に縛られて、こんなに頑張っても結局1番幸せになれるのは人間だ」
『世界』が魔女を大切にしていることは間違っていない。でも、そこには誤りがある。
それは、『世界』は人間が好きということだ。
そして、人間と、魔女達が、仲良くなればいいと思っている事だった。
「リチャードはね、『世界』が俺に与えた友人用の人間だった。だから、魔女とくっつくことは決まってたんだ、分かるよね?だから、東のが何かをしても無駄なんだ」
「………………じゃあ何で私とセックスしたのよ」
「俺が東のを好きだから」
『世界』はカランの事も大切だった。
『世界』はカランに人間を好きになって欲しかっただけだった。それが、間違っていたなんて、誰が言えよう。
「だから……俺が好きでいる限り、東のは人間とは恋ができない仕組みになっている」
「どうして」
「俺がもっと人間を嫌いになるからだよ、『世界』が、そうした」
「じゃあ!あんたがリアを殺したの!?」
「……ああ」
パンッという音がそこに響いた。
東の魔女が思い切り叩いたカランの顔には、一切の感情を抜き取ったかのような何も見ていない瞳がある。
何かを諦めたような、そんな瞳だった。
「最低ね!」
「……じゃあ、どうしたらいいんだ」
「なによ」
「どうしたら好きじゃなくなるんだ。こんなの……呪いだろ、どうしたらなくなる?俺だって、好きじゃ無かったらと、どれだけ願ったか分からない!そうすればお前の、幸せな姿が見れたかもしれない……」
「…………」
「リチャードの恋は、病気だな……あいつの言葉を聞かなければ、こんな気持ちを持つことなんて無かったのに、興味を持たなければ……こんな」
お互いに黙ると、2人が座っていたソファの前に暖かい紅茶が用意されていた。
現在カランに仕えているアタマハという男は丁度良いタイミングというものを知っている。
紅茶の横には、今まで南の魔女に集めさせていたそれが置かれていた。
「……償いにはならないけど、これをもらってほしい」
「なによ、これ」
「ファミリアの宝石、東ののために作った宝石だと、本人が言っていた物だけを集めた」
「…………」
「ごめん、謝って終わる話じゃない。でも、頑張って、俺、別のやつを好きになるから、そうしたら好きな人を好きになればいい」
「…………じゃないわよ」
「え?」
「勝手に言って終わろうとしてんじゃないわよ!」
パーンという音がまた部屋に響く。
同じ場所を叩かれたそこは、真っ赤に手形が残るほどに痛々しい。
「好きにさせてみせて、私のこと。ちゃんと……トルネンとかにも相談すればいいんだわ」
「は?!」
「あんたが慰めなさいよね!!勝手に居なくなるとかやったらただじゃおかないんだから」
「急に……なんだよ」
「……好きだけ言って終わりとか、許さない。しっかり恋についてトルネンから学んで。そしたら……ちょっとトルネンもあんたも許すわ。恋が悲しいことばっかじゃない事、知ったらいいのよ」
________
「ふぅ……あと少しで世界滅亡の危機だった」
そこには、おでこが後退した膨よかな男が立っていた。
彼は、当たり前のように時を跨ぐ絵画の前に立つと、手を突っ込む。そして、当たり前のようにその中に入っていった。
「ちょっとカラン!どういう事なの!」
「おー東の。どういう事って?」
「南の姉様婚約までしちゃったじゃない!」
「あぁ……もう諦めてやれよ」
「嫌!これじゃあ何の為にあんたに私の初めてをあげたか分からないじゃない!」
「……………………」
カラン・スタートッドの家には時を渡ることができる絵画が並ぶ廊下がある。
カランも、魔女も、時を渡る事は簡単に行えることではない。それ相応の対価を払って数年戻ることが出来るくらいである。
この絵画がどうやって生まれるのかは分かっていないが、これを全てカランが管理しており、使用できるのはカランに対価を払った者のみである事は分かっていた。
因みにこの東の魔女も、処女という対価を払って数年時を戻っている。
自分が人間と幸せになれなかった事が彼女にとって汚点であり、彼女にとって愛する存在である姉達がそんな汚点を持って欲しくないという考えからこういった行動に出ている事は明白であるのだが。
どうやら彼女はリチャードが前の世の記憶を保持している人間であっても人間であることに変わりないと思っている様子だ。
それは、普通の人間とはかけ離れた存在であることに気がついていない。
そもそも、何千年も同じ人物を好きでいる事自体なかなかに普通ではない、純愛と呼ぶには難しいことである。
「じゃあ、また対価を払って戻るのか?」
「当たり前じゃな……何よその顔」
「……別に、こんな無駄なことをして何の意味があるのか不思議だと思って」
カランの無駄という言葉に東の魔女は怒った様子だ。
文句を言いながら彼の肩を叩く。
「何よ!何が無駄なのよ!」
「前から言っているけど、リチャードとエマが結婚することは決まってる、今後のどの選択肢を選んでも、2人は結婚して、夫婦になる」
「分からないじゃない、だって過去が変われば、未来だって変わるもの」
「…………東の、ファミリアはもう戻らないんだよ」
「うるさいわね!!!そんなの分かってるわよ!」
「分かってない」
「分かってる!」
「分かってない!」
「だって!!だって……あの人が言ってたもの……リアが、選択を間違えなければ大丈夫だったって……」
「………………」
「きっと、私となんか出会わなければ良かったと思っていたんだわ……こんな、こんな辛い気持ちなんかいらないじゃない……」
東の魔女は、初めて人間を好きになった魔女だった。
あまりにも短い間だったが、彼女の中にはとても深い傷ができた、出来事。
彼女が汚点だと言うそれは、自身にできた心の傷の事なのかもしれない。そうでなければ、こんな悲しい顔をする彼女は見ることができない。
ただ、その出来事は『世界』が魔女を大切に思いすぎていたからだと思っている。
それは半分以上間違いであることは、今まではカランだけが知っていたことだ。
「人間なんていなくなればいいと思ってるよ、俺は」
「は……?」
「そうしたら、そんな感情は生まれないだろ?そもそも、何で俺たちは人間の面倒を見なければいけない。永遠に縛られて、こんなに頑張っても結局1番幸せになれるのは人間だ」
『世界』が魔女を大切にしていることは間違っていない。でも、そこには誤りがある。
それは、『世界』は人間が好きということだ。
そして、人間と、魔女達が、仲良くなればいいと思っている事だった。
「リチャードはね、『世界』が俺に与えた友人用の人間だった。だから、魔女とくっつくことは決まってたんだ、分かるよね?だから、東のが何かをしても無駄なんだ」
「………………じゃあ何で私とセックスしたのよ」
「俺が東のを好きだから」
『世界』はカランの事も大切だった。
『世界』はカランに人間を好きになって欲しかっただけだった。それが、間違っていたなんて、誰が言えよう。
「だから……俺が好きでいる限り、東のは人間とは恋ができない仕組みになっている」
「どうして」
「俺がもっと人間を嫌いになるからだよ、『世界』が、そうした」
「じゃあ!あんたがリアを殺したの!?」
「……ああ」
パンッという音がそこに響いた。
東の魔女が思い切り叩いたカランの顔には、一切の感情を抜き取ったかのような何も見ていない瞳がある。
何かを諦めたような、そんな瞳だった。
「最低ね!」
「……じゃあ、どうしたらいいんだ」
「なによ」
「どうしたら好きじゃなくなるんだ。こんなの……呪いだろ、どうしたらなくなる?俺だって、好きじゃ無かったらと、どれだけ願ったか分からない!そうすればお前の、幸せな姿が見れたかもしれない……」
「…………」
「リチャードの恋は、病気だな……あいつの言葉を聞かなければ、こんな気持ちを持つことなんて無かったのに、興味を持たなければ……こんな」
お互いに黙ると、2人が座っていたソファの前に暖かい紅茶が用意されていた。
現在カランに仕えているアタマハという男は丁度良いタイミングというものを知っている。
紅茶の横には、今まで南の魔女に集めさせていたそれが置かれていた。
「……償いにはならないけど、これをもらってほしい」
「なによ、これ」
「ファミリアの宝石、東ののために作った宝石だと、本人が言っていた物だけを集めた」
「…………」
「ごめん、謝って終わる話じゃない。でも、頑張って、俺、別のやつを好きになるから、そうしたら好きな人を好きになればいい」
「…………じゃないわよ」
「え?」
「勝手に言って終わろうとしてんじゃないわよ!」
パーンという音がまた部屋に響く。
同じ場所を叩かれたそこは、真っ赤に手形が残るほどに痛々しい。
「好きにさせてみせて、私のこと。ちゃんと……トルネンとかにも相談すればいいんだわ」
「は?!」
「あんたが慰めなさいよね!!勝手に居なくなるとかやったらただじゃおかないんだから」
「急に……なんだよ」
「……好きだけ言って終わりとか、許さない。しっかり恋についてトルネンから学んで。そしたら……ちょっとトルネンもあんたも許すわ。恋が悲しいことばっかじゃない事、知ったらいいのよ」
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「ふぅ……あと少しで世界滅亡の危機だった」
そこには、おでこが後退した膨よかな男が立っていた。
彼は、当たり前のように時を跨ぐ絵画の前に立つと、手を突っ込む。そして、当たり前のようにその中に入っていった。
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