アラサー伯爵の病気名は初恋です。

りょう。

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「本当にバカよね、早く言ってしまえばいいのに」
「そんなものだろう、私たちは一生を生きなければいけないのだからな」
「ん?なんの話?」

ここには東の魔女以外の3人の魔女たちが集まってきていた。ローズヒップのハーブティーを飲みながら、甘いクッキーをつまんでいる様子は、ただのお茶会をしている少女たちに見える事だろう。

「カランとの事だ」
「あの2人がどうしたの?」

最近人間と恋人となった南の魔女だけが状況を理解していない様子で2人の魔女の顔を交互に見る。その魔女たちは呆れ顔で南の魔女を見ると、ため息をついて再び話しを始めた。

「昔からあの子だけ贔屓にしてたじゃない、カランてば隠してるつもりだろうけど東のの事が……」
「え、うそ……それほんと?」

流石にそこまで話しをすれば南の魔女も理解したらしい。
そもそも東の魔女に人間の恋人ができた時も、『世界』からの反対があったとはいえ、今回の南の魔女の時のようにフォローなどを全く行わないなんて彼にしては珍しいことだった。

人間との関わりを積極的に持つべきだと考えていたカランにとって、人間と魔女が恋仲となるなんて、またとないチャンスだったからだ。

「別に責任を取って自分が捕まる必要なんてなかったのに自分から牢屋に入ったじゃない?あれもねぇ!」
「ああ、あそこからもう、あからさまだったな」
「全然知らなかった」

人間の感情を分析しているはずの南の魔女が気がつかないなんて、という表情を再び2人の魔女たちがしていると、そこに南の魔女の恋人であるトルネン伯爵が入ってきた。

「紅茶、そろそろ冷めてしまうだろう、新しいものを淹れてきたよ」
「ありがとうございます、リチャード様。あとは私が、」
「だめ、エマはこのまま話していて。今日は私が奉仕すると言ったでしょう」
「……分かりました」

2人の魔女たちがカップルたちの様子をニヤニヤと眺めていると、西の魔女が思いついたかのように話しを始める。

「そう言えば伯爵様、あなたカランの友達なんでしょう?」
「え?ええ……一応そうなりますかね」
「ふふふ、恋の相談とかしてたんじゃないの?」
「………………カ、カランからもされていたので」

伯爵はまだ、エマ以外の魔女達への礼儀を取りきる事ができていない。魔女は敬意を持つべき相手というのは昔から変わっていない常識である。

西の魔女は自分の姉の恋人をからかおうと思っていたようだが、カランもしていた、という方が気になったらしい。
そのまま話しを促して自分も椅子に座るようにと、新しい椅子を出して床に置いた。

「なになに、カランと恋バナしてたの?」
「そうですね、なんというか……魔女の方々にそういった感情を与えたのは、私のせいというか」
「どういう事ですか?」

「つまりね、南の魔女エマを好きになった私の話しを聞いて、カランは人間と関わりたいと思ったらしいんだ」

それまで、人間を豊かにするために必要な知識と、人間の感情の理解はしていたが、自分でその感情を持った事が無かったカランは、トルネンの話しを聞いて初めて、自分でもその感情を持ってみたいと思ったらしい。
愛情などを自分で体験しなければ、人間の最高の幸せを理解する事が出来ないという判断に至ったからというのがカランの意見のようだ。

だが、確実に、その時の言葉には『羨ましい』という感情が見えたと、トルネンは話した。

「なぜ、と、とても聞かれたんだ。なぜその意見に辿り着くのか、自分に理解できない事がなぜお前には分かる。と何度も聞かれて、あまりにもしつこいから彼を説教したんだよ。
そうしたら、それは怒りという感情のはずだ。なぜ怒るのか。って結局彼の知る感情の種類全部説明させられて仕方がないから事細かに教えたんだ。終わった直後に『世界』に感情を入れる許可が出たから、お前も魔女と恋愛とやらが可能だとか言い始めて。
そこで初めて、カランが世界で唯一の魔法使いだと知ったんだけどね」
「え、どうして私の事好きになった話ししたんですか」
「酒場のカウンターで隣に座ってたんだ……その日はかなり酔っていて」
「なるほどぉ、そこでカランには唯一の友人認定されたのね」
「はい、そうです。……まさか、あの時に自分の記憶は繰り返すようにされたとか……」
「可能性としてはある。それはおそらくカランにではなく、『世界』にそうさせられた可能性が高いがな」

正確に言えば、そこでトルネンは『世界』に気に入られたのが正解なのだが、それについて知る者はいないだろう。

何故なら、『世界』は口を持たない。
『世界』の口はカランの仕事、カランからの情報が全て、世界からの情報である。

「『世界』は、私たちが付き合った事について何か話しているのですか?」
「カランが何も言っていないから、それについては分からないわね」
「そうだな、恐らく何も言っていないのではないか?」
「うーん……『世界』が何も言わないとは思えないんだけどな」
「エマは『世界』を知っているの?」

少しだけ考え込んだ南の魔女にトルネンが声をかけると、南の魔女は思い出したように顔を上げた。そして懐から古めかしい本を取り出す。
それは古ぼけた表紙で、触れただけでぼろぼろと壊れてしまいそうなほど古い本だった。

「これは?」
「これ、昔私が生まれた時に横に置いてあった本」
「生まれた時?」
「そう、生まれたばかりだったから文字とか分からなかったけど、でも、多分、『世界』はカランから聞くよりも人間の事が好きだったと思う。だって私はこれを読んで人間の感情を研究しようと思ったから」

魔女たちに向けていた顔をトルネンに向けると、南の魔女は言葉を続けた。

「自分はまだ未熟だから、どうか力を貸して欲しい。人間の愛情というものは、恐らく光り輝く宝石よりも価値のある物だから。それをすべての人間が理解すれば絶対に豊かな世界にできるから。だからこそ、貴方にはそれを感じたいと思うまで解放しないようにしてあります。
人間とは楽しい生き物です。それを理解した時こそ幸せな人になれるのです。それを伝えたい。だからぜひ、愛情を向けられる人間となってください」

「そう、書いてあったの?」
「まとめると、そうなります」
「……懐かしい。なるほど、エマがあの時に『人間は楽しいですか、貴方は幸せですか』と聞いてきたのはその本の文面だったのか」
「私、初めて会話した人間が多分リチャード様です」
「………………」
「………………」
「じゃあ何よ、初めから『世界』は人間と魔女の交流を望んでいたって事?」


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