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「ギ、ギル様……自分で食べれますから」
「私からの食事はいらないの?」
「……い、いや」
明らかにギルベルト様の様子がおかしい。
私が倒れてから目覚めるまでほんの2日。
そして現在、目覚めて部屋に連れてこられてから2日目のお昼だ。
確かに連れてこられた直後は手に力が入らずご飯なども食べさせてもらっていたのだが、手が使えるようになった今でもギルベルト様自ら食事を運んできて手ずから食べさせようとしてくる。
そもそも侍女のララに食べさせてもらえば良かったのではないかと思わずにはいられない。
他にも、移動中もずっと側に居ようとするし(初めは全て抱き上げられそうになった)寝る時も私が寝付くまで離れない。そろそろ授業にも出たいのだが、同じ授業を取ろうとしそうで口に出せていない状況である。
加えて服やアクセサリーなどを大量に買い与えようとしてくる。
必死にいらないと伝えたのだが、自分の妻になるならば必要だと聞かないし、勝手に採寸されてすでに3着ドレスが届いている。
明日にはオーダーメイドのドレス達が届いてしまうらしい。
もしかして運命のパートナーの力ですかと問いかけると、それだけは絶対に無いと言ってくる。
「いい、レティ。私の中のもう1人は無理やりにでも手籠にしようとする人物なんだよ。こんな物を送ったりなんかしないはずだ」
「は、はぁ……」
このように物を多量に送りつけたり、べったりとくっついてくる事は無理やりとは言わないのだろうか。
という疑問は聞かない方がいいだろう。
それよりも、取り繕ったかのように対応してくる事が気になる。ずっとご機嫌を取られているようで気持ちが悪いし何よりギルベルト様ではないみたいなのだ。
「ギルベルト様」
「……レティ、私のことは」
「まだ、身分が違いますから。そう呼ぶ事が辛いのですが」
「……そうか、では無理をさせて悪かったね。すぐにでも結婚を進めて呼べるような環境にしよう」
「えっと……大丈夫ですか?無理をして」
「無理など何もないよ、大丈夫だ」
「…………」
明らかに痩せた顔に無理に浮かべる笑顔は、とてもじゃないが大丈夫とは言えなかった。
だが、先日から毎日大丈夫ですか。と聞く私の声は彼に届かない。恐らく毎日聞いている事すら彼の頭に記憶にないのかもしれない。
何もできない自分が歯痒く、そして申し訳なかった。
共に頑張るなどと言っておきながら、主に動いてくれるのはいつもギルベルト様なのだ。
自分は厄介ごとを持ち込む役割を担っているのみ、ただの疫病神のようだ。
最近は女性関係も遊んではいないようだし、生徒会の仕事も持ち込んで夜までやっているらしく、自分の時間を全く作る様子もないとララが教えてくれた。
そもそもこんな数日で、こんなにやつれるものなのか。
肌も以前よりも青白く、不健康にしか見えない。
「そろそろ着替えの時間?」
「え、ああ。はい」
「では、外で待っているよ。またあとで、私のレティ…」
髪のかかるおでこにキスを落としてギルベルト様は扉から出て行く。
まるで王子様のような仕草に、私は心にモヤがかかったような気持ちになった。
ララと共に着替えをしていると、隣からガタンという音が聞こえてきた。加えて聞こえてくる侍女達の悲鳴に、私とララは慌てて隣の部屋に向かう。
「ギルベルト様!?」
そこには青い顔で倒れるギルベルト様がいた。
駆け寄ると眉にシワを寄せて冷や汗を流しながら荒く息をしている。これは何かの病気じゃないのかと思い、声をかけながら片手に掴まれた本を抜くと、毒が抜けた可能に穏やかな表情に戻った。
一先ずギルベルト様をベッドに寝かせるためにギルベルト様の部屋へと入った。いた仕方ない、緊急事態なのだから。
ギルベルト様を横に寝かせると、ララが本を手渡してくれた。
やはり、先程持っていた本を離してから顔色が良くなったように見える。
何が書いてあるのかを確認しようと開こうとした瞬間、ギルベルト様の手によって阻まれた。
「だめだ。開いては」
どこからそんな力が出るのかと思うほど、すごい強さで腕を掴んでくる。気を失っていたのに、急に起きては体にも良くないはずだ。
「ギルベルト様、寝ていなくては…」
「レティ、それを返して」
「……ダメです。これ持っていたらギルベルト様顔色悪くなります」
「いやだめだ。それが無いと、俺がレティを好きだと分からなくなるんだ」
「いいえ」
私は本を持ち上げてギルベルト様の手を押し返した。
「ギルベルト様。もう無理しなくて良いですよ。きっとパートナーの力で私の事を好きになりかけているのを、ご自身の気持ちだと思いたいという気持ちも分かりますが。無理に自分の気持ちであるように取り繕わなくて良いのです」
私が本をギルベルト様から離しつつ、そうまくし立てると、ギルベルト様の表情が悲しげに歪んだ。
そして、掴まれていた腕からもするりと手が離れる。
「レティは俺を信じてくれないのか」
「え………」
私の事を真っ直ぐに見つめながら、ギルベルト様の目がうっすら充血しているように見えた。
常に悠々と構えていた人物だと知っているだけに、普通ではあり得ないことだと理解できる。
どうしたのですかと、問いかけようとしたその時、後ろから学園で働いている侍女が話しかけてきた。
「レティシア様、学園長がお呼びです」
「学園長が?」
「はい、急ぎ向かっていただきますよう」
私はため息をついた後に分かりました。と答えると、侍女が出ていくまで見届けた後、ギルベルト様に話しかける。
「ギルベルト様はもう少しゆっくり休むべきです。精神的にも不安的になっているのではないですか」
「……ああ、そうだね」
私の言葉にギルベルト様が頷いた。
その表情に、別の誰かが重なったように見えて目をこする。
「……レティ?」
「あ、いえ……なんでもないです。行ってきます」
なんだか懐かしいような気持ちになったことに違和感を覚えつつ、私は学園長の元へと向かった。
そういえば、「本を持っていなければ、私の事を好きか分からなくなる」とはどういう意味だったのだろう。
先程のギルベルト様はとても不安そうな表情をしていた。
何か引っかかるものがあるなと考えながら歩みを進めていると、誰かの声が聞こえてきた。
『そっちへ行ってはだめですよ』
「……え?」
後ろから聞こえてきた気がしたので振り返ると、誰もいない廊下が続いていた。気のせいかと思いまた歩き出すと
『いけません。せめてララを待つのです』
「……あれ」
そう言えば学園の侍女の方が自分を呼びに来てから姿を見ていないなと思った。普段であれば当たり前のように後ろについてくるはずなのに。少し不安になり一旦自分の部屋に戻ると、ララが慌てたように飛んできた。
「レティシア様!良かった、急に姿が見えなくなったので心配致しました」
「あれ?学園の侍女の人が学園長が呼んでるって……聞いてない……?」
「先程すれ違いましたがそんな事は一言も……」
私たちは顔を見合わせると察したかのように押し黙った。
「また追放かな」
「……今回は付き添います」
ただ、今回は相手が悪いことが1番厄介であると分かっていた。
学園長は好意的なあいてだと思っていたが、一体何を言われるのだろう。
ただ出ていくように言われただけでは現在情緒が不安定とは言え、いつかギルベルト様が迎えに来れてしまう。
例えば魔力を消されたり、探知出来なくさせたり、そんな魔法をかけられてしまう可能性もある。
「記憶消される魔法されたりして……」
「ああ、ではこれを」
「ん???」
ララが手渡してきたのはアメジストだった。
これは魔法石らしく、ギルベルト様の魔力がかかっているらしい。発動の際は、私の魔力を媒体として魔法が展開し、外部からの攻撃を守ってくれるとのこと。
「実はアスティア様とお話しされる際に渡されていたのですが、今は時ではないと思い渡さなかったのです」
でも、あの時も隣町へ連れ去られたよね。というコメントは口の中で飲み込んだ。
確かにギルベルト様がすぐに助けに入れる状態であったし今思えばこれから対決する相手よりは遥かに弱小な相手だった気もしてくる。
「なるほど?」
「ええ、ですから今お渡し致します」
ただその判断をするのはララではなくギルベルト様ではないのかなと思うが、私は考える事をやめた。
ララなど侍女達を含め、ギルベルト様の実家ザヘメンド家は複雑な事情が多くありそうだからだ。
あんなに辺境伯様は婚約を反対していたのに、ここまですんなり自分と婚約が進むなんて普通はあり得ない。それにララへのギルベルト様の態度はかなり気を使っているようにも感じるのだ。
恐らくそこには、ギルベルト様の母、アナリアが関わってくるとは思うのだがそこまで他人の家に口を出す事は憚られる。
私は威を決してアメジストがついたネックレスを首から下げ、服の中に入れると、アメジストと触れた部分がじんわりと暖かかった。
まるで、ギルベルト様に守られているようだ。
「さて、学園長の場所へ向かいますか」
こうして私は考え事をしながら歩いたため。先程聞こえてきた声のことをすっかり忘れてしまったのである。
「ああ、来たね、平民の娘」
「お久しぶりです、学園長」
「久しぶり、早速だけどこの学園から出て行ってもらおうと思うよ」
学園長は以前と変わらない笑みで私を見つめながらそんな事を言ってきた。やはり仰々しいと思う白い建物の中は私にはとても似合わないとは感じる。そして、平民の身としてはここの学園に入ることが出来た事自体異例だと理解している。
しかし、学園長の隣に立っている噂の『パートナー』達が私の中で納得させてくれない。
「信じられないですよね、魔獣を倒した場所に居なかったくせにまだ、ギルベルト様のパートナーを名乗るなど」
「全くだわ、私たちの力で倒したというのに」
パートナー達が発言する内容を理解する事は出来なかった。
そもそも、『私たちの力』とは何を指しているのか聞きたいところである。
それに私だってギルベルト様に魔法をかけたのに、それを無かったことにされた事に対して反論をしたいと思った。
「ほら、こうやって2人も言っているじゃないか。それに『運命のパートナー』は結ばれる運命になければ共にいるべきではないよ」
「……はぁ」
そういえば、出会った初日で結婚をしないのかと聞いてきたのは学園長だったなと思い出す。
現在ギルベルト様と婚約者である場合、は免れるのではないかと一応口を開く。
「ギルベルト様とは先日婚約を結びましたが」
「だが、平民の君は自分に相応しいとは思わないだろう?当たり前ではあるけど。確かに魔力は増幅できたかもしれないが、よく考えればあの程度は増やすよう見せかけられるしね」
なるほど、私の言葉はまるで聞いてはくれないらしい。
確かに自分の中でギルベルト様との婚約関係は相応しいとは思っていない。
それはそうだろう。今まで平民として育ってきたのだから突然貴族と婚約を結ぶなんて気遅れるものだ。
しかしそれはギルベルト様だからではなく、相手が貴族であれば誰にでもしていた事だった。
この学園長は、自分の理想となる『運命のパートナー』を残したいと思っているのだと予想がついたが、その思考を変える事は今の私には不可能だ。
とりあえず、魔獣を倒した時に本当に2人が活躍したのかを確認したいと思った。
「では質問しても良いでしょうか」
「なんだろうか」
「魔獣を『私たちの力で』倒したとの事ですが、一体何をされたんですか」
自分たちに話を振られないとでも思っていたのか、2人は驚いた顔をして私を見てきた。
「何って《黄金のスター》を唱えたから倒せたのですよ!」
「馬鹿な事言わないでくださいよ」
パートナー達はそんな事を言ってきた。
そう言えば何やらすごい魔法陣を出せる事で有名だったはず。だが、私はその魔法を見てもいないし感じてもいない。
私が行った時すでにギルベルト様はフラフラで、魔力が上昇しているとも思えない状況であった。
それなのに、《黄金のスター》?
何を言っているのかと思った。
「それであれば、ギルベルト様の腕の傷を治すべきだったのでは?」
「ぼ、僕たちの魔法に人を治す力なんかない!!」
「そうよ!人聞きが悪いこと言わないで!」
開き直ったのか違うのかよく分からないが、その魔法陣とやらは万能ではないらしい。
聖女の力が加わるその魔法陣には、幾人もの治ることのない病を感知させたと記述が残っているのだが、今回のタイプは違うようだ。
「では、早く魔力向上の魔法をかけてあげれば良かったのでは?」
「な、何言っているか分からない、倒した時には上がっていたのだから問題ないじゃないか」
「そうよ!勝手な憶測で話さないでくれる?」
更に、あの場にいなければ分からない情報を話しているのにも関わらず、私が勝手に憶測で物を言っていると判断している事に最早恐怖を感じていた。
頭悪いんじゃないのか。
もしくは、わざとなのか。
「あの場でギルベルト様に魔力をかけたのは私です。だから運命のパートナーを名乗ることは置いておいて、先日の功績を自分たちの物だと発言する事は良くないかと」
私がそう発言をすると、2人は驚いた顔をした後ににやにやと笑い始めた。
「いやいや、自分があの時活躍できなかったからって後からそんな事を言われてもねぇ?」
「早く認めちゃえばいいのに、自分が能無しだって」
そこまで言われた時、再び頭であの声がしてきた。
『能無しという事は言われたくありませんよね』
「うん」
私が間を置いて頷いた事にパートナー達は笑い始めていた。ついに認めたよとか、普通に頷くなんてと品のない笑い方で笑っている。
学園長は黙ってこの風景を見ているだけらしい。
特に言葉はないようだ。
そんな事よりもこの声の方が気になる。
先ほどもそうだが、実際にこの光景をみているからこその内容を語られると、どこにいるのだろうかと考えてしまう。
やはり聖女様なのだろうか。
「私からの食事はいらないの?」
「……い、いや」
明らかにギルベルト様の様子がおかしい。
私が倒れてから目覚めるまでほんの2日。
そして現在、目覚めて部屋に連れてこられてから2日目のお昼だ。
確かに連れてこられた直後は手に力が入らずご飯なども食べさせてもらっていたのだが、手が使えるようになった今でもギルベルト様自ら食事を運んできて手ずから食べさせようとしてくる。
そもそも侍女のララに食べさせてもらえば良かったのではないかと思わずにはいられない。
他にも、移動中もずっと側に居ようとするし(初めは全て抱き上げられそうになった)寝る時も私が寝付くまで離れない。そろそろ授業にも出たいのだが、同じ授業を取ろうとしそうで口に出せていない状況である。
加えて服やアクセサリーなどを大量に買い与えようとしてくる。
必死にいらないと伝えたのだが、自分の妻になるならば必要だと聞かないし、勝手に採寸されてすでに3着ドレスが届いている。
明日にはオーダーメイドのドレス達が届いてしまうらしい。
もしかして運命のパートナーの力ですかと問いかけると、それだけは絶対に無いと言ってくる。
「いい、レティ。私の中のもう1人は無理やりにでも手籠にしようとする人物なんだよ。こんな物を送ったりなんかしないはずだ」
「は、はぁ……」
このように物を多量に送りつけたり、べったりとくっついてくる事は無理やりとは言わないのだろうか。
という疑問は聞かない方がいいだろう。
それよりも、取り繕ったかのように対応してくる事が気になる。ずっとご機嫌を取られているようで気持ちが悪いし何よりギルベルト様ではないみたいなのだ。
「ギルベルト様」
「……レティ、私のことは」
「まだ、身分が違いますから。そう呼ぶ事が辛いのですが」
「……そうか、では無理をさせて悪かったね。すぐにでも結婚を進めて呼べるような環境にしよう」
「えっと……大丈夫ですか?無理をして」
「無理など何もないよ、大丈夫だ」
「…………」
明らかに痩せた顔に無理に浮かべる笑顔は、とてもじゃないが大丈夫とは言えなかった。
だが、先日から毎日大丈夫ですか。と聞く私の声は彼に届かない。恐らく毎日聞いている事すら彼の頭に記憶にないのかもしれない。
何もできない自分が歯痒く、そして申し訳なかった。
共に頑張るなどと言っておきながら、主に動いてくれるのはいつもギルベルト様なのだ。
自分は厄介ごとを持ち込む役割を担っているのみ、ただの疫病神のようだ。
最近は女性関係も遊んではいないようだし、生徒会の仕事も持ち込んで夜までやっているらしく、自分の時間を全く作る様子もないとララが教えてくれた。
そもそもこんな数日で、こんなにやつれるものなのか。
肌も以前よりも青白く、不健康にしか見えない。
「そろそろ着替えの時間?」
「え、ああ。はい」
「では、外で待っているよ。またあとで、私のレティ…」
髪のかかるおでこにキスを落としてギルベルト様は扉から出て行く。
まるで王子様のような仕草に、私は心にモヤがかかったような気持ちになった。
ララと共に着替えをしていると、隣からガタンという音が聞こえてきた。加えて聞こえてくる侍女達の悲鳴に、私とララは慌てて隣の部屋に向かう。
「ギルベルト様!?」
そこには青い顔で倒れるギルベルト様がいた。
駆け寄ると眉にシワを寄せて冷や汗を流しながら荒く息をしている。これは何かの病気じゃないのかと思い、声をかけながら片手に掴まれた本を抜くと、毒が抜けた可能に穏やかな表情に戻った。
一先ずギルベルト様をベッドに寝かせるためにギルベルト様の部屋へと入った。いた仕方ない、緊急事態なのだから。
ギルベルト様を横に寝かせると、ララが本を手渡してくれた。
やはり、先程持っていた本を離してから顔色が良くなったように見える。
何が書いてあるのかを確認しようと開こうとした瞬間、ギルベルト様の手によって阻まれた。
「だめだ。開いては」
どこからそんな力が出るのかと思うほど、すごい強さで腕を掴んでくる。気を失っていたのに、急に起きては体にも良くないはずだ。
「ギルベルト様、寝ていなくては…」
「レティ、それを返して」
「……ダメです。これ持っていたらギルベルト様顔色悪くなります」
「いやだめだ。それが無いと、俺がレティを好きだと分からなくなるんだ」
「いいえ」
私は本を持ち上げてギルベルト様の手を押し返した。
「ギルベルト様。もう無理しなくて良いですよ。きっとパートナーの力で私の事を好きになりかけているのを、ご自身の気持ちだと思いたいという気持ちも分かりますが。無理に自分の気持ちであるように取り繕わなくて良いのです」
私が本をギルベルト様から離しつつ、そうまくし立てると、ギルベルト様の表情が悲しげに歪んだ。
そして、掴まれていた腕からもするりと手が離れる。
「レティは俺を信じてくれないのか」
「え………」
私の事を真っ直ぐに見つめながら、ギルベルト様の目がうっすら充血しているように見えた。
常に悠々と構えていた人物だと知っているだけに、普通ではあり得ないことだと理解できる。
どうしたのですかと、問いかけようとしたその時、後ろから学園で働いている侍女が話しかけてきた。
「レティシア様、学園長がお呼びです」
「学園長が?」
「はい、急ぎ向かっていただきますよう」
私はため息をついた後に分かりました。と答えると、侍女が出ていくまで見届けた後、ギルベルト様に話しかける。
「ギルベルト様はもう少しゆっくり休むべきです。精神的にも不安的になっているのではないですか」
「……ああ、そうだね」
私の言葉にギルベルト様が頷いた。
その表情に、別の誰かが重なったように見えて目をこする。
「……レティ?」
「あ、いえ……なんでもないです。行ってきます」
なんだか懐かしいような気持ちになったことに違和感を覚えつつ、私は学園長の元へと向かった。
そういえば、「本を持っていなければ、私の事を好きか分からなくなる」とはどういう意味だったのだろう。
先程のギルベルト様はとても不安そうな表情をしていた。
何か引っかかるものがあるなと考えながら歩みを進めていると、誰かの声が聞こえてきた。
『そっちへ行ってはだめですよ』
「……え?」
後ろから聞こえてきた気がしたので振り返ると、誰もいない廊下が続いていた。気のせいかと思いまた歩き出すと
『いけません。せめてララを待つのです』
「……あれ」
そう言えば学園の侍女の方が自分を呼びに来てから姿を見ていないなと思った。普段であれば当たり前のように後ろについてくるはずなのに。少し不安になり一旦自分の部屋に戻ると、ララが慌てたように飛んできた。
「レティシア様!良かった、急に姿が見えなくなったので心配致しました」
「あれ?学園の侍女の人が学園長が呼んでるって……聞いてない……?」
「先程すれ違いましたがそんな事は一言も……」
私たちは顔を見合わせると察したかのように押し黙った。
「また追放かな」
「……今回は付き添います」
ただ、今回は相手が悪いことが1番厄介であると分かっていた。
学園長は好意的なあいてだと思っていたが、一体何を言われるのだろう。
ただ出ていくように言われただけでは現在情緒が不安定とは言え、いつかギルベルト様が迎えに来れてしまう。
例えば魔力を消されたり、探知出来なくさせたり、そんな魔法をかけられてしまう可能性もある。
「記憶消される魔法されたりして……」
「ああ、ではこれを」
「ん???」
ララが手渡してきたのはアメジストだった。
これは魔法石らしく、ギルベルト様の魔力がかかっているらしい。発動の際は、私の魔力を媒体として魔法が展開し、外部からの攻撃を守ってくれるとのこと。
「実はアスティア様とお話しされる際に渡されていたのですが、今は時ではないと思い渡さなかったのです」
でも、あの時も隣町へ連れ去られたよね。というコメントは口の中で飲み込んだ。
確かにギルベルト様がすぐに助けに入れる状態であったし今思えばこれから対決する相手よりは遥かに弱小な相手だった気もしてくる。
「なるほど?」
「ええ、ですから今お渡し致します」
ただその判断をするのはララではなくギルベルト様ではないのかなと思うが、私は考える事をやめた。
ララなど侍女達を含め、ギルベルト様の実家ザヘメンド家は複雑な事情が多くありそうだからだ。
あんなに辺境伯様は婚約を反対していたのに、ここまですんなり自分と婚約が進むなんて普通はあり得ない。それにララへのギルベルト様の態度はかなり気を使っているようにも感じるのだ。
恐らくそこには、ギルベルト様の母、アナリアが関わってくるとは思うのだがそこまで他人の家に口を出す事は憚られる。
私は威を決してアメジストがついたネックレスを首から下げ、服の中に入れると、アメジストと触れた部分がじんわりと暖かかった。
まるで、ギルベルト様に守られているようだ。
「さて、学園長の場所へ向かいますか」
こうして私は考え事をしながら歩いたため。先程聞こえてきた声のことをすっかり忘れてしまったのである。
「ああ、来たね、平民の娘」
「お久しぶりです、学園長」
「久しぶり、早速だけどこの学園から出て行ってもらおうと思うよ」
学園長は以前と変わらない笑みで私を見つめながらそんな事を言ってきた。やはり仰々しいと思う白い建物の中は私にはとても似合わないとは感じる。そして、平民の身としてはここの学園に入ることが出来た事自体異例だと理解している。
しかし、学園長の隣に立っている噂の『パートナー』達が私の中で納得させてくれない。
「信じられないですよね、魔獣を倒した場所に居なかったくせにまだ、ギルベルト様のパートナーを名乗るなど」
「全くだわ、私たちの力で倒したというのに」
パートナー達が発言する内容を理解する事は出来なかった。
そもそも、『私たちの力』とは何を指しているのか聞きたいところである。
それに私だってギルベルト様に魔法をかけたのに、それを無かったことにされた事に対して反論をしたいと思った。
「ほら、こうやって2人も言っているじゃないか。それに『運命のパートナー』は結ばれる運命になければ共にいるべきではないよ」
「……はぁ」
そういえば、出会った初日で結婚をしないのかと聞いてきたのは学園長だったなと思い出す。
現在ギルベルト様と婚約者である場合、は免れるのではないかと一応口を開く。
「ギルベルト様とは先日婚約を結びましたが」
「だが、平民の君は自分に相応しいとは思わないだろう?当たり前ではあるけど。確かに魔力は増幅できたかもしれないが、よく考えればあの程度は増やすよう見せかけられるしね」
なるほど、私の言葉はまるで聞いてはくれないらしい。
確かに自分の中でギルベルト様との婚約関係は相応しいとは思っていない。
それはそうだろう。今まで平民として育ってきたのだから突然貴族と婚約を結ぶなんて気遅れるものだ。
しかしそれはギルベルト様だからではなく、相手が貴族であれば誰にでもしていた事だった。
この学園長は、自分の理想となる『運命のパートナー』を残したいと思っているのだと予想がついたが、その思考を変える事は今の私には不可能だ。
とりあえず、魔獣を倒した時に本当に2人が活躍したのかを確認したいと思った。
「では質問しても良いでしょうか」
「なんだろうか」
「魔獣を『私たちの力で』倒したとの事ですが、一体何をされたんですか」
自分たちに話を振られないとでも思っていたのか、2人は驚いた顔をして私を見てきた。
「何って《黄金のスター》を唱えたから倒せたのですよ!」
「馬鹿な事言わないでくださいよ」
パートナー達はそんな事を言ってきた。
そう言えば何やらすごい魔法陣を出せる事で有名だったはず。だが、私はその魔法を見てもいないし感じてもいない。
私が行った時すでにギルベルト様はフラフラで、魔力が上昇しているとも思えない状況であった。
それなのに、《黄金のスター》?
何を言っているのかと思った。
「それであれば、ギルベルト様の腕の傷を治すべきだったのでは?」
「ぼ、僕たちの魔法に人を治す力なんかない!!」
「そうよ!人聞きが悪いこと言わないで!」
開き直ったのか違うのかよく分からないが、その魔法陣とやらは万能ではないらしい。
聖女の力が加わるその魔法陣には、幾人もの治ることのない病を感知させたと記述が残っているのだが、今回のタイプは違うようだ。
「では、早く魔力向上の魔法をかけてあげれば良かったのでは?」
「な、何言っているか分からない、倒した時には上がっていたのだから問題ないじゃないか」
「そうよ!勝手な憶測で話さないでくれる?」
更に、あの場にいなければ分からない情報を話しているのにも関わらず、私が勝手に憶測で物を言っていると判断している事に最早恐怖を感じていた。
頭悪いんじゃないのか。
もしくは、わざとなのか。
「あの場でギルベルト様に魔力をかけたのは私です。だから運命のパートナーを名乗ることは置いておいて、先日の功績を自分たちの物だと発言する事は良くないかと」
私がそう発言をすると、2人は驚いた顔をした後ににやにやと笑い始めた。
「いやいや、自分があの時活躍できなかったからって後からそんな事を言われてもねぇ?」
「早く認めちゃえばいいのに、自分が能無しだって」
そこまで言われた時、再び頭であの声がしてきた。
『能無しという事は言われたくありませんよね』
「うん」
私が間を置いて頷いた事にパートナー達は笑い始めていた。ついに認めたよとか、普通に頷くなんてと品のない笑い方で笑っている。
学園長は黙ってこの風景を見ているだけらしい。
特に言葉はないようだ。
そんな事よりもこの声の方が気になる。
先ほどもそうだが、実際にこの光景をみているからこその内容を語られると、どこにいるのだろうかと考えてしまう。
やはり聖女様なのだろうか。
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