アイスとチーズ

迷熊井 泥(Make my day)

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転がるアイス

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畳に左手がついたと同時に紺の袴がフワッと弧を描く。
起き上がった香織は放課後ひとりでこの古い柔道場で稽古するのが日課だ。
一人で受け身をし、今度は正座で足の指を立て膝を左右に進めて移動する。膝行と呼ばれる合気道独特の歩法だ。
手刀を中段に構え、横に捌くと同時に下から拳を突き上げる。
横にやった手刀を相手に掴まれてるイメージでその相手の手首を掴み肘ごと腕をかち上げて落とす。一歩二歩と足を進めて正座し、そのまま相手の腕を抑える…というイメージ。
一教という技だ。
それを左右合わせて十回。

「次は裏」

香織はひとりでエアー合気道を夕方まで稽古する。

「いい汗かいたぁ」なんてことは言わない。

いや言えない。なにしろ相手は空気。
この上なく物足りない。

「相手ほしいな…」

香織のたっての願いは練習相手だ。

「…明日また勧誘しよ」

翌日、昼休みに「合気道愛好会」と書いた手作りのビラの束をもって校内で配り歩く。

「この間もらったから」

「いや俺はいい」

「興味ないから」

いろんな断われられ方をする。

自ら描いた袴姿の虎のキャラクターが手に取る者をまっすぐに指差し「君も合気道でアオハルしないか」と呼びかけているのが虚しく感じる。
最初はビラも減ったが今ではまたかという顔をされるのでビラを新しく描き直してなんとか勧誘につなげようとしている。
袴姿のキャラクターが猫になりパンダになり犬になり鶏になり今回は虎だったわけだ。
それでも香織は諦めることなく月に一、二回ビラを配る。
ただ成果があったことは一度もなかった。
いつものこと。
ビラを持って教室に戻ろうとした時だった。
カンフー映画に出てくる中華服でビラ配りをしている女子がいた。

「まだ学園祭じゃないよね」

近寄ってみると相手はガッと香織を目で捉えた。

「ねえ!カンフーやらない?」

「カンフー?」

相手はビラを押し付けるように香織に渡した。

「詠春拳っていうんだけど面白いよ」

「カンフー同好会」「永春拳で強くなろう」

との謳い文句が並んでいる。

「カンフー同好会なんだ」

「そうそう」

「何人くらいいるの?カンフー同好会って?」

すると相手は急にばつが悪そうに目を逸らした。

「何人っていうか。まだこれから集まるんだよね」

「これから?」

「なんか合気道同好会の人がビラ配ってるらしくてわたしもやってみようと思ったの」

「合気道愛好会ね」

「どっちでもいいけどね。うちはカンフーだから」

香織は少しムッとした顔になり自分のビラを押し付けた。

「合気道愛好会だから」

相手はビラを取り上げるようにして食いつくように見た。

「あ。ゴメン。本人だったんだ」

そしてビラと香織を交互に見てやるとまるでビラ配りの先輩かというような態度で言った。

「だってさ。合気道って袴履くんでしょ?」

「あんたってさ。今ビラ配り制服じゃん。同好会をやろうっていう熱意が感じられない」

香織は雷槌でも食らったような感覚になった。

だからこの人は中国の服を着てるんだ…

「だって。少しでも興味もってもらいたいじゃない」

その通りだ!




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