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ガクサオ

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翌日の放課後。
詠春拳の稽古だ。
沙織と香織は内股のロックマーで向かい合っている。
沙織は両拳を脇につけ、香織は手刀を正面に構えている。

「パクサオいくよ」

沙織が連続で縦拳の突きを繰り出す。
パパパパパと、香織がそれを掌底で横から払いまくる。
香織は無言だか目は必死で沙織の突きのスピードについていっている。

「じゃ交代」

ふうっと一息つくひまもなく今度は香織が拳を連打で繰り出す。
沙織は慣れた感じで掌底で弾いてゆく。
終わると香織の手首は赤くなっていた。

「けっこう痛いよね」

「慣れる慣れる。タンサオやってラプサオ、ガンサオやりたいけど先にガクサオやろう」

「ん?ガンサオとガンサオ?」

「ガンサオとガクサオはべつ。じゃ正面立って」

香織が先ほどのように対面に立つと沙織は右拳は脇に、左手は指を伸ばしたまま斜め下へ向けた。

「同じようにやって」

「うん」

2人が同じ形で立つと沙織が「真似して」と、言って左手を内側へ動かした。
香織が同じようにすると互いの手首の内側が当たった。
すかさず沙織が肘を中心に上に向かって下腕を返す。
香織も同じようにすると今度は上で互いの手首が当たった。
2人は下腕を下に戻した。
すると今度は手首の外側が互いに当たった。

「はい。今度は右」

次は右腕で同じことをする。
そして左右この動作を続けてゆく。

沙織慣れているが香織は痛そうだ。
だがやめようとは言わない。

「いいねぇ」

沙織は笑みを浮かべた。
しばらく続けて「やめ」。
香織は自分の赤くなった手首をさすった。

「こうやって鍛えるんだ。合気道は筋とか鍛えるけど」

「でも初めてにしてはけっこう頑張ったよね」

「合気道は横面打ちで手首の外側を互いに当てるから外側は少し慣れてるけど、内側ってやらないかな」

「詠春拳だとタンサオで手首の内側当てるから」

「あ~。なるほど」

香織は習った受け方を一通りおさらいしてみた。

「タンサオ、ガンサオ、ラップサオ、でガンサオ」

「ガクサオ。今やったやつ」

「ガクサオ。手首イジメるやつ」

「鍛えるって言って」
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