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植芝盛平 対 国井善弥

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「合気道の開祖植芝盛平先生は鉄砲の弾を避けるほどの名人」

「それは知っておる!対する国井善弥といえばGHQから禁止された日本武道を米兵と戦って見せ、勝ってしかもとどめを刺さないのが日本武道の精神だと証明し戦後日本武道を復興させた武道家じゃ。その二人が闘ってどうなったというのだ?」

亜香里は興奮のあまりぐっと香織に顔を近づけた。

「近いな…まあ結論から言うと開祖は国井善弥が挑んできたとき…」

「挑んだとき?」

「開祖は留守だったんだって」

それを聞いて亜香里はズッコケたが、すぐに起き上がった。

「留守ぅ~?」

「そんなことがあって開祖は鹿島神流を研究したみたい」

「それでこの組太刀になるわけか。仕太刀打太刀を逆にして勝つ型にしたのだな」

「たぶんね。あくまでたぶんだけど」

亜香里は鋭く突きをやってみせた。

「この突き技に対し斬り下ろしで果たして勝てるのか…」

「ま。実際に闘ってたら型どおりには動かないでしょう。お互い」

亜香里は口惜しさで舌打ちをした。

「できたら闘っててほしかった…」

「そだね」

そこへ腕を組んだ沙織が入ってきた。

「さっきからなんの話し方してるの?」

「植芝盛平 対 国井善弥の話じゃ」

「殿様のお手つき女中がどうのこうのとか言ってなかった?」

「いやそれはこやつが初いやつだったからよ」

香織が亜香里を指して不敵な笑みで言った。

「いやいやこやつこそ初いやつでな」

「いやいやおぬしこそ初いやつよ」

「初いやつのおしつけあいってナニ?」

真紀理が無垢な顔で聞いた。

「殿様のお手つき女中ってなに?」

沙織が任せろと言わんばかりに説明する。

「殿様が女中に手を出すこと」

「ああぁ~」あまり興味なさそうな真紀理のリアクションに沙織は追い打ちをかけた。

「昔は着物じゃん。帯を殿様が引っ張ると駒みたいに女中が回るんだよ。あれぇ~って言いながら」

沙織はバレエで鍛えた軸でしっかりとターンを繰り返した。

「あれえええぇ」

沙織のとぼけた声に香織も亜香里も爆笑した。

「なんでそんなしっかり回ってるの?」

「ほらみんな回るよ」

わざと真顔で言う沙織に香織はツッコまずにいられない。

「なんで?」

言われるがままとりあえず3人は回った。
沙織が「あれえええ」と言うと3人は笑い崩れた。
香織は笑いながら吐き捨てるように言った。

「バカっぽいわぁ!」

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