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二人と一人

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朝、台盤所に最後に来たのは沙織だった。
香織も真紀理も朝飯を食べ始めていた。
亜香里が沙織の膳を用意した。

「すまぬ」

と、着座して香織と真紀理の様子を見たぎ妙に爽やかな二人に見えた。
よそよそしくもなくかと言って互いを意識してるんけでもなく。
どこかスッキリしてるというか。

「で、夕べはどうしたのだ?なにかあったのか?」

かまかけてみようとした。

「なにかだと?おなご同士でなにかあるわけなかろう。おかしなことを言う」

香織は沙織の目をまっすぐに見て余裕のある笑みを浮かべた。

なんかおかしい…

真紀理も目を合わせてこない。

真紀理、いや真吉は町人だ。

隠し事をすると如実に所作に現れるはず。

…オレと目を合わせないというのはやましいからか。

「ぬしら…できたな?」

かまをかけ、動揺を引き出そうとした。

「なにを馬鹿なことを。おなご同士ただ一緒に寝ただけだ」

やはり答えたのは香織。
そしてなんともいえない自信のようなもの。
それを香織と真紀理で共有してるような空気。
沙織は思い出していた初めて熊斬斎と男女の契りを交わしたときのことを。
互いの命を共有するような、二人だけがいる世界。
沙織は一瞬うつろな目をした。
心に開いた穴の蓋が取れかけた。
香織と真紀理のことなど、どうでもよくなった。
さ~っと飯を平らげると立ち上がって言った。

「亜香里!稽古つけてやる。来い!」

「うむ」

亜香里はなぜか悠然と立ち上がった。
亜香里も香織と真紀理の空気の変化に気づいた。
道場で亜香里に稽古をつけながら沙織は一人取り残されたような寂しさを怒りにの感情に置き換えていた。


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