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地井頭 対 虎蔵

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「いくぞ。人斬り地井頭」

虎蔵は横から兜割りデ薙いできた。
剣をかばいながらさおは身をかがめてやり過ごす。
すかさずもう一本の兜割りが沙織の足元を薙いできた。
上下連続の攻撃だ。

たちの悪い攻め方だ…

脚を低空で折りたたみ兜割りをなんとか避けた。
が、そのままの体勢で落ち、すぐに立ち上がった。

「いい動きをしやがる」

虎蔵は嬉しそうにニヤけた。

左右から連続して鉄の棒が飛んでくるのはよくねえ…

とっととケリつけたほうがいいな…

沙織は剣を納刀し、左足を半歩出して抜刀の構えをした。

無外流…居合の構えか。

虎蔵は焦ることなく注意深く沙織の動きを観察した。

嫌な感じだ…男なら馬鹿みたいに勢いで来いよ…

虎蔵の落ち着きに嫌悪感を感じた。
攻めの瞬間誰しも隙ができる。
その一瞬の隙に攻撃を加え相手の攻撃を捌く。
それが沙織が身をもって学んできた必殺の呼吸だ。
だが虎蔵は沙織の動きを待っている。

くそ!逆だ…

巨躯の剛力、二本の兜割り、それだけ武器があって女のオレの動きを観察して待つだと?

やっかいだ…

両者身構えたまま睨み合った。
虎蔵は考えていた。

人斬り地井頭とまで呼ばれた女侍だ。

今日まで生きて来られたのには必ず奥の手があるはず…

うかつに攻撃すればこちらの足元がすくわれる…

多くの浪人や用心棒を相手にしてきた虎蔵は知っていた。
強い奴は必ず奥の手があるということを。
虎蔵と龍蔵はそれで辛酸をなめたこともあった。
士道を捨てた浪人はたちが悪い。
武士も最後には刀すら投げてくる。
まさかということを人間はやってのける。
ましてや女侍で人斬りの異名をもってる者など警戒しないわけにはいかない。
しばらく睨み合いが続いた。
そして不意に虎蔵が咳をした。
わずかに視線が沙織から逸れた。

今だ!

沙織は右袖に持っていた苦無を虎蔵の喉元目掛けて投げた。
続いて左手からも苦無を投げた。
二本の苦無が虎蔵の喉と心の臓へ飛ばされた。

やった!

沙織は勝利を確信した。
しかしカキーンキーンと苦無は虎蔵の兜割りで弾かれた。

嘘…

「やはり苦無か。絶対飛び道具かなにかを持ってると思ったぜ!」

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