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香織、龍蔵を斬る

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幸之介の剣は凄まじいものがあった。
まるで大根でも切るように熊斬斎はやくざ達を斬っていった。
上半身が飛んではドスンと落ちる。

「人間じゃねえ…」

信じられない光景に逃げることすら忘れてしまい斬られてゆく。
熊斬斎の後からドス(やくざが使った侍の刀より刀身の短い刀)と虎蔵の兜割りを握った沙織が援護しようとしたがほとんど熊斬斎がひとりで斬ってゆく。
その様子を道場の窓から一瞥した香織は不敵に笑った。

熊斬斎…沙織殿のために…

いい男だな…

香織は龍蔵に言った。

「虎蔵とやらは死んだぞ。真っ二つだ」

龍蔵は表情ひとつ変えずに言った。

「集中しろ。今おめえも死ぬかもしれねえんだぞ」

「そうか」

香織は両腕を上げ刀を全身の盾にするように構えた。
下がった切っ先がつま先と揃っている。

見事な構えだな陰流愛洲…俺にはわかるぜ。

頭をかばわせるためにおめえの技を真似て上から連続して攻撃してたんだ…

大男の俺が上から攻撃を繰り返せばどうしても頭をかばいたくなる…

龍蔵は上段に構えた。
その巨躯の上段はまさに大上段とも言える構えだった。

その細腕で防ごうというのか…

おめえを動けなくして、俺がおめえの残りの人生をもらってやるぜ…

脚を切ってな…

龍蔵は大上段から振り下ろすように見せ、剣を反転させて香織の脚を切りにいった。
突然の変えた剣の軌道だ。よけれるはずがなかった。
しかし龍蔵の剣が香織の脚を薙ぐ瞬間だった。
香織は素早く脚を引いた。

「えっ?」

香織は待っていたように脚を引いて体を入れ替え寝かしていた剣が天を突き上げた。
下段の脚を狙ったことで龍蔵の頭は下がり、その後頭部のうなじめがけて香織は剣を振り下ろした。
ゴトンと龍蔵の大きな頭が床に血と共に落ちた。
やくざ達派一瞬なにが起こったのか理解できず固まっている。
香織は龍蔵の髷を握って持ち上げるとやく達に向けた。

「さてと、次は誰だ!」

やくざ達はたじろいた。
香織がやくざ達に向けて龍蔵の首を投げた。

「うわあああああ!」

「龍蔵のアニキがやられた…」

「鬼だ!こいつは鬼だ!」

やくざ達は悲鳴を上げ一斉に逃げ出した。
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