佐々木小次郎と名乗った男は四度死んだふりをした

迷熊井 泥(Make my day)

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六人衆

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 鬼爪は、忠明を倭寇の集落へと案内した。
 屋根があるだけの吹きさらし大部屋がいくつかあり、
これまた大勢の女達が食事の用意や洗濯をしていた。
 どうやらほとんどの者がでそこで寝食を共にしてるようだ。
 一箇所まだ切り倒した木材の匂いのする新しい大部屋があった。

 「これからどんどん仲間を増やすからよ。新しく造っ
 たんだ」

 大部屋をすべて通り過ぎると村と呼べる集落が見えてきた。
 鬼爪と六人衆、それぞれの班の指揮を取る者が住んでいるという。
 集落の中心の広場では技の稽古をしてる者達がいた。
 そのなかのひとりの動きに目がいった。
 男は寝ころんだ状態で小さく跳躍し、浮いた身体と地面の間で紐を回している。
 振り回す紐の先端には拳ほどの大きさの鉄球が、生き物のようにうなり声をあげ飛び回る。
 しゃがみ、跳躍し、規則正しい型の中で鉄球を投げつけている。
 まるで己の身体の一部のように鉄球が宙を舞う。
 身につけているものも袖や裾がまっすぐに伸びた服を着ている。
 紐状のボタン、黒い靴、髪を三つ編みにし、ひとつにしている。
 唐の国の者だ。
 忠明には初めて見る武器だ。鉄球の武器…鎖鎌の分銅より動きが読みにくそうに見えた。

 「こいつがラオ、あの武器は唐の国のもの流星捶りゅうせいすいとかいうらしい」

 「流星捶…」

 船の上であれで敵を正確に打つとしたら、相当な腕があるはずだ…

 忠明の目に二本の大きな包丁を振り回す男が目に入った。
 後ろ足に体重をかけたような姿勢で身幅の広く短い
 中華包丁のような刃物を、細かく振り回している。

 「張。永春拳とかいう船の上で尼が考えた武術らしい。張はその刀術の使い手だ」

 「尼が船の上で考えた技…?」

 忠明は、張の技は正面に対して強い武術だと思った。
 永春拳は元々正面の相手の腕を絡めながら攻めることを得意としている。
 その拳法の二刀流の刀術となればかなりやっかいなはずである。

 びゅんっびゅんっシャカシャカという音が聞こえる。
 見ると、十尺以上の槍で稽古している者がいる。

 「あれは尾張貫流槍術を使う峰岸という男だ」

 「尾張の…」

 「長さは十二尺(三百六十センチ)ある」

 「十二尺?」

 よく見ると前の手は、槍本体に装着した筒を握っている。
 その筒の中を槍が手の摩擦を受けず、滑りながら突き、引きを行っている。
 その速さは尋常ではない。
 三体のかかしを一瞬で刺し、左右に振るとかかしが一瞬で叩き飛ばされた。

 噂に聞いたことがある。尾張の喧嘩槍とはこれのことか…

 一刀斎は中国の槍術を蹴り上げて鉄扇で打倒したが、あの筒の操作は蹴りの反動などもろともしないだろう。

 「そしてあれは居合、抜刀術の木本」

 腰の長剣を一瞬で抜いて、一瞬で納刀している。
 手下がなにかを投げているのを切っている。
 忠明は目をこらした。
 木本という男は、投げられた小さな豆を正確に切っている。
 あの長剣をまるで己の腕のように扱い、切っ先は飛び道具のようだ。

 あの男、狙ったところは外すまい…

 「そして南蛮の剣闘士、#円頭腕_エントワン__#だ」

 鬼爪ほどではないが、身長六尺(百八十センチ)はあろう黒人だ。
 肌の黒い人間を忠明は初めて見たが、しなやかな筋肉、日本人にはない体の使い方が目についた。
 円頭腕は左手には盾、右手には網を持っている。
 向かってくる二人の倭寇の者を網で絡めとり、動けなくしてから両刃の短剣を抜いて二人を斬るしぐさを大げさにやると豪快に笑いだした。
 笑うと健康そうな白い歯が際立つ。

 「西の国では奴隷同志を戦わせて貴族が楽しむ風習が
 残っているところがあるらしい」

 「ほう…」

 「西の船を襲ったときに鎖でつながれていてな。その
 わりには御馳走を食っていた。言葉はわからんが、俺
 はすぐ戦える者だと思って連れてきた。まずこいつを
 見たらどんな奴も驚く」

 鬼爪は自慢気に言った。

 「南蛮の剣闘士か…」 
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