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円頭腕
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忠明は考えていた。
六人衆のうち刀を使うのは居合の男のみ。
しかも飛び道具のような抜刀術…
あの流星捶にしても、与一の苦無にしても正面から相手にするのは難しい。
ただ、今相手は自分を仲間だと思って油断している。
夜、油断している隙に闇討ちにするか。
それしかない!
夜になると全員集まって宴会を始めた。
海賊達はみなそれぞれの大部屋に集まって飯を食い酒を喰らった。
そしてたいていは酔ってその場で寝てしまう。
忠明は、島津義弘と抜刀隊と飲んだときのことを思い出した。
あのときも飲み明かしてそのまま道場で寝た。
忠明はそれを思い出して思わず笑みを浮かべた。
義弘や抜刀隊とやり合ったときのことが楽しかったのだ。
命をかける男達は、なんともいえない気持ちのよい空気をもっている。
倭寇の男達も、そういう意味では命をかけた仲間とともにいる。
「仲間として内情を知ると敵がよく理解できる。だか
らと言って情に流されて斬り損じては決してならん」
自分に限ってそんなことはないと忠明は思っていたが命をかける者は命をかける者に惹かれるようだ。
但馬はわかっていたのだ。
忠明は感情に流されないよう公儀隠密としての目的を心の中心に置いた。
よく見ると、六人衆も気の合う者同士がいるようだった。
流星捶のラオは永春八斬刀の張と飲んでいる。
尾張貫流槍術の喧嘩槍の峰岸は居合の木本と。
与一や鬼爪は、それぞれの手下達と。
黒人の円頭腕という男は、肉を持ったまま歩き回り、
いろんな集まりに加わろうとして飲んでいるようだった。
なじんでいるようには見えなかった。
忠明は、なんとなく声をかけた。
「おぬしは、どこから来たのだ?」
「オレ?オレハ、イロイロイダヨ」
片言だ。なじめないわけだ。
いろんな場所にいたと言いたいらしい。
「円頭腕とは、どこの名前なのだ?」
「フロンス!」
「ふろんす?」
フランスと言っているのだが、忠明が一度聞いたことがあったかなかったかという国だった。
「では、おぬしはふろんすの人間なのか?」
「オレ、アフリカネ」
「アフリカ?」
「アフリカ、コートディヴォワーリアン」
「こうと…わからぬ。鬼爪が言っていたが剣闘士とい
うものなのか?」
「ケントウ?アア、イエス。オレ、ドレイ、サーカス
デケントウシニナッタ」
「さーかすとは?」
「ミセモノ」
「見世物か!おぬしは見世物の剣闘士なのか」
「ソウソウ。ムカシ、ローマノグラディエーターノマ
ネダネ。ツマリ、マネ!」
「真似?なにか剣闘士の真似をしてるということか」
円頭腕、つまりエントワンという名前はフランス人の名前だが元々はアフリカのコートジボワールに生まれだ。
十七世紀と言っても、コートジボワールが当時まだフランス領になる前のことだ。
イギリスに奴隷として買われていき、サーカスで剣闘士の真似をして生活していたのだ。
イギリスのサーカスで、なぜかフランス人の名前をもらった。
イギリスにとってフランスはライバル国であり、ハイソサエティーな文化を持ってる国でもある。
イギリス人に対して印象づけるための名前のようだ。
円頭腕は決して弱くはないが、本物の剣闘士ではない。
「オニヅメ、フネ、コロシニキテ、オレ、ジユウクレタ」
鬼爪が船を襲撃に来たとき、自由にしたということか…
義理があるなら、奴を斬るときこやつも向かってくると見たほうがいいだろう。
「オマエツヨイノカ?」
忠明は、空の瓶を宙に投げて瓶割の刀で真っ二つに切った。
切れた瓶の断面を見て、円頭腕は興奮しているのがわかった。
ここへ来て何度もやっているが、瓶割の刀の効果は抜群だ。
円頭腕は尊敬の眼差しで忠明を見た。
忠明は、円頭腕に酒を注いでやると円頭腕も忠明に注ぎ返した。
円頭腕はカタコトだが話してみるといいやつだった。
だが、斬るときはすべてを情を断ち切る…
六人衆の稽古をもう一度思い出してみることにした。
まず居合の木本の技だ。
あの長剣をどうやって抜いているのか?
木本の動きを注意深く見ていると、剣を抜き付ける瞬間、
鞘引きで切っ先の回転を上げていることに気づいた。
なるほど。右腕だけで剣を抜いてもああは、素早く抜けない。
左腕で鞘を引くからこそ、成り立つ技だ。
忠明もやってみると、すぐにできるようになった。
瓶割の刀は、峰岸のような長剣ほど長くない。
それになんと言っても、一刀流を継承した小野忠明である。
技の理合や要訣は一瞬で会得できる。
六人衆のうち刀を使うのは居合の男のみ。
しかも飛び道具のような抜刀術…
あの流星捶にしても、与一の苦無にしても正面から相手にするのは難しい。
ただ、今相手は自分を仲間だと思って油断している。
夜、油断している隙に闇討ちにするか。
それしかない!
夜になると全員集まって宴会を始めた。
海賊達はみなそれぞれの大部屋に集まって飯を食い酒を喰らった。
そしてたいていは酔ってその場で寝てしまう。
忠明は、島津義弘と抜刀隊と飲んだときのことを思い出した。
あのときも飲み明かしてそのまま道場で寝た。
忠明はそれを思い出して思わず笑みを浮かべた。
義弘や抜刀隊とやり合ったときのことが楽しかったのだ。
命をかける男達は、なんともいえない気持ちのよい空気をもっている。
倭寇の男達も、そういう意味では命をかけた仲間とともにいる。
「仲間として内情を知ると敵がよく理解できる。だか
らと言って情に流されて斬り損じては決してならん」
自分に限ってそんなことはないと忠明は思っていたが命をかける者は命をかける者に惹かれるようだ。
但馬はわかっていたのだ。
忠明は感情に流されないよう公儀隠密としての目的を心の中心に置いた。
よく見ると、六人衆も気の合う者同士がいるようだった。
流星捶のラオは永春八斬刀の張と飲んでいる。
尾張貫流槍術の喧嘩槍の峰岸は居合の木本と。
与一や鬼爪は、それぞれの手下達と。
黒人の円頭腕という男は、肉を持ったまま歩き回り、
いろんな集まりに加わろうとして飲んでいるようだった。
なじんでいるようには見えなかった。
忠明は、なんとなく声をかけた。
「おぬしは、どこから来たのだ?」
「オレ?オレハ、イロイロイダヨ」
片言だ。なじめないわけだ。
いろんな場所にいたと言いたいらしい。
「円頭腕とは、どこの名前なのだ?」
「フロンス!」
「ふろんす?」
フランスと言っているのだが、忠明が一度聞いたことがあったかなかったかという国だった。
「では、おぬしはふろんすの人間なのか?」
「オレ、アフリカネ」
「アフリカ?」
「アフリカ、コートディヴォワーリアン」
「こうと…わからぬ。鬼爪が言っていたが剣闘士とい
うものなのか?」
「ケントウ?アア、イエス。オレ、ドレイ、サーカス
デケントウシニナッタ」
「さーかすとは?」
「ミセモノ」
「見世物か!おぬしは見世物の剣闘士なのか」
「ソウソウ。ムカシ、ローマノグラディエーターノマ
ネダネ。ツマリ、マネ!」
「真似?なにか剣闘士の真似をしてるということか」
円頭腕、つまりエントワンという名前はフランス人の名前だが元々はアフリカのコートジボワールに生まれだ。
十七世紀と言っても、コートジボワールが当時まだフランス領になる前のことだ。
イギリスに奴隷として買われていき、サーカスで剣闘士の真似をして生活していたのだ。
イギリスのサーカスで、なぜかフランス人の名前をもらった。
イギリスにとってフランスはライバル国であり、ハイソサエティーな文化を持ってる国でもある。
イギリス人に対して印象づけるための名前のようだ。
円頭腕は決して弱くはないが、本物の剣闘士ではない。
「オニヅメ、フネ、コロシニキテ、オレ、ジユウクレタ」
鬼爪が船を襲撃に来たとき、自由にしたということか…
義理があるなら、奴を斬るときこやつも向かってくると見たほうがいいだろう。
「オマエツヨイノカ?」
忠明は、空の瓶を宙に投げて瓶割の刀で真っ二つに切った。
切れた瓶の断面を見て、円頭腕は興奮しているのがわかった。
ここへ来て何度もやっているが、瓶割の刀の効果は抜群だ。
円頭腕は尊敬の眼差しで忠明を見た。
忠明は、円頭腕に酒を注いでやると円頭腕も忠明に注ぎ返した。
円頭腕はカタコトだが話してみるといいやつだった。
だが、斬るときはすべてを情を断ち切る…
六人衆の稽古をもう一度思い出してみることにした。
まず居合の木本の技だ。
あの長剣をどうやって抜いているのか?
木本の動きを注意深く見ていると、剣を抜き付ける瞬間、
鞘引きで切っ先の回転を上げていることに気づいた。
なるほど。右腕だけで剣を抜いてもああは、素早く抜けない。
左腕で鞘を引くからこそ、成り立つ技だ。
忠明もやってみると、すぐにできるようになった。
瓶割の刀は、峰岸のような長剣ほど長くない。
それになんと言っても、一刀流を継承した小野忠明である。
技の理合や要訣は一瞬で会得できる。
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