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忠明の奇襲

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 朝になると全員が浜辺で飯を食いだした。
 鬼爪はまだ寝ているようだ。
 忠明の目に味噌汁の鍋が映った。
 鍋…いや、その鍋蓋に目がいった。
 取っ手がついていてちょうど小さな盾のようだ。

 あれで流星捶の鉄球をやり過ごせないだろうか?

 忠明は鍋蓋を、背中に紐で縛った。
 海賊達を視るとまだ飯を食う者、船での作業をする者、武器の手入れをする者とまばらにいるがほとんどがまだ寝ていた。
 円頭腕は波打ち際で立ってなにかしている。
 海の水を指につけて歯を磨いているようだ。
 その手前、円頭腕と忠明の間では与一が手下に、なにか指示を出している。
 船を襲撃する打ち合せだろう。
 右手の方には、離れたところで峰岸が槍の手入れをしている。
 そしてその向こうにはラオと張が、それぞれ稽古をしている。

 木本が見当たらない。

 まだ寝ているのか?

 六人衆のうち五人が今いる…やるか!

 与一を見ると、ちょうど手下が今離れていったところだ。

 忠明は、深呼吸をすると眼帯を外して走り出した。
 もう、なにも考えなかった。
 与一が、忠明に気づいた。
 与一は笑顔で忠明の方へ向き直ったが、両目のある忠明が柄に手をかけたまま走ってきているのが見えた。

 敵!

 与一は袖から苦無を出し、素早く身構えた。

 その瞬間、忠明は居合の抜刀ですでに左手で鞘引きをしていた。
 ただし手にかけたのは脇差し。
 そして斬りつけではなくそのまま手裏剣のように投げつけた。
 木本の居合と与一の手裏剣の技を融合したのだ。
 苦無を打とうとした与一の口に忠明の脇差がまっすぐに刺さった。
 切っ先は与一のうなじの延髄を飛び出し、投げ損ねた苦無は与一の体とともに砂の上に落ちた。

 六人衆最強の男を倒した!次だ。

 歯を磨きながら、それを見て固まったのは円頭腕だ。

 円頭腕に見られてる…

 忠明は倒れた与一を通り過ぎ、円頭腕の方へ向かっていった。

 こやつを斬るか?どうする?斬るしかない!

 忠明の脳裏にその思考が現れたが、脚は止まらずに円頭腕に向かって走っていた。

 円頭腕は腰には剣を差し、足元には、網と盾が無造作に置いてあった。
 円頭腕が武器を拾った。

 こやつは斬る!

 忠明の心は決まった。
 間合いに入った瞬間、鯉口を切って抜きつけようとした時、円頭腕は盾を差し出した。
 忠明は動きを止めた。
 円頭腕が二尺ほどの長さの盾を、受け取れと言わんばかりに忠明に差し出している。
 忠明は殺意を抑え盾を受け取った。

 罠かもしれない…外国人の考えていることはわからない。

 今から右手側にいる峰岸とラオと張を相手にする。

 それは円頭腕に背中を見せることになる…

 あの三人を相手にしてるとき円頭腕がもし、網を後ろからかけてきたら絶望的だ。

 円頭腕の剣をかわして応戦してる間に木本達が来たら、それこそひとたまりもない。

 忠明は円頭腕の目を見た。

 言葉は片言でも忠明には敵意のない目、親友を見るような目に見えた。
 そして忠明はこの異国の男、円頭腕を信じると決めた。

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