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絶体絶命
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峰岸達の方を見ると一心不乱に稽古をしている。
まだ気づかれていない。
忠明は走らず歩いて近づくことにした。
そして背中の鍋蓋を捨てた。
実は鞘引きをするのに、かなり邪魔だった。
円頭腕の盾は一枚の厚めの木に、金属の装飾を施したものでそれなりに重さがあった。
だがあの流星捶の鉄球に耐えられるかはわからなかった。
三人まで二十歩ほどの距離まで近づいた。
忠明はいつになく笑顔で近づいた。
苦無を当てるにはせめて十歩くらいまで近づきたい。
忠明の方を全員一瞥したが目で挨拶する程度の反応だ。
まだ俺を警戒していない…
しかし張は忠明の眼帯がないことに気づいた。
「オマエ。目。見エルノカ?」
その言葉でラオと、峰岸が忠明の方を同時に見た。
十五歩、十四歩、距離が近づいてゆく。
返事をしない忠明が笑顔で近づいてくるのをまだ警戒してはいない。
眼帯をしてないというだけの話だ。
流星捶を先にやる…一番やっかいな武器だ。
しかし峰岸が動いた。
笑顔で返事もなく近づいてくることを不自然に思ったのだ。
今、十二歩ほどだ。まだ峰岸の槍も届かないだろう。
峰岸が槍を脇に抱え忠明に向かって走った。
間合いが合った刹那、峰岸が槍を構えた瞬間、峰岸の喉に忠明の苦無が刺さった。
と、同時に峰岸は人生最後の一撃の槍を突いた。
矛先は円頭腕の盾の金属の装飾の部分で虚しく弾かれた。
峰岸は喉の気管が血で溢れ出しそのまま絶命した。
さっそく円頭腕の盾に救われたか…
ガンッ!すぐに忠明の持つ盾に衝撃が走った。
ラオの流星捶だ…
こいつを先に苦無で仕留めたかった…
びゅんびゅんと音を鳴らし、竜巻のように鉄球が舞い上がったと思えば突然地面すれすれに這い忠明の足を狙う。
とっさに足を上げやりすごすがまたすぐに頭、胴を狙って飛んでくる。
二撃、三撃、鉄球の衝撃が盾に当たるたびに背中まで響く。
鉄球の重さに遠心力が加わる武器。
凄まじい衝撃だ。
とても円頭腕の盾がなかったら、今この瞬間に頭を砕かれていただろう。
しかし張は八斬刀を構えて様子を見ている。
流星捶の巻き添えを喰らいたくないのだろう。
しかし忠明にも流星捶の呼吸が読めてきた。
打ったあと、必ず引き戻して打つ。
剣であろうと弓であろうと、必ず次の攻撃に転ずる前に間が開くものだ。
盾が衝撃を受けた。と、同時に忠明は苦無を打った。
まっすぐに苦無はラオの目に刺さった。
指よりひと回り細いほどの四角苦無だが刺されば深い。
鉄のラオの眼球から脳まで達した。
ラオはよろけ、もう流星捶を振り上げるだけの力はなかった。
あとは張だけだ…
張に苦無を投げつけたが、張は難なく八斬刀でそれを弾いた。
その時だった。
背後から砂の上を走るわずかな音がした。
そして忠明は背後の足音に対し振り返り盾を向けた。
盾に「カンッ」というなにかの衝撃を受けた。
盾の横から見えたのは木本が長剣を納刀している瞬間だった。
長剣抜刀術の木本だ!
木本に盾を向けたまま背後の張を片目の視界に入れる。
それは張が攻めてくる瞬間だった。
とっさに剣を抜いて張の足を薙いだ。
張は慣れた感じで前足を上げた。
張の足の上げ方は型そのものに見えた。
永春八斬刀とは体術か…
そして木本を見ると、横から胴へ剣を飛ばしてきた。
盾を合わせそれを弾く。
そしてすぐに後ろの張に片手で斬りつける。
が、張は片方二キロあると言われる八斬刀で弾く。
張か木本どちらか一人ならまだなんとかなるが二人の達人を同時に相手していると片方に攻め入ることもできない。
攻めている間に、背後を取られる。
すると木本と張が同時に攻めてきた。
前後を見ながら盾で剣を弾き、剣で張を牽制する。
それがせいいっぱいの動きだった。
少しでも気を抜けばやられる。
忠明は悟った。
とてもこの二人の達人を同時に倒すのは無理だ…
鬼爪を倒すまで生きていられん…
かくなる上は片方だけでも道連れにし、あとは小幡と柳生に任せるしかないか。
円頭腕はこやつらにどこまで義理を立てるかわからぬが…
六人衆のうち三人倒せば、柳生が一軍を率いてやってきて残りの木本と張、鬼爪を倒して倭寇を絶滅させられるだろう。
三人倒した。十分だ。
二人の攻撃をかわしながら、忠明は己の最後を感じた。
いつまでかわせるか…
これで俺の人生も終わりか…
剣に生き、戦いの人生だった…
忠明の脳裏には一刀斎、善鬼との出会い、小幡、但馬、関ケ原の合戦、秀忠、島津義弘と抜刀隊を思い出した。
走馬灯か…
そして阿国の顔が浮かんだ。
せめて阿国に最後の別れを言いたかった…
阿国の笑顔…もう、見ることはできなぬ。
すまぬ、阿国。どうやら俺はお前を小倉に連れていけそうにない…
木本の切っ先が激しく盾を削ってゆく。
そして張はなんとか忠明の隙を突こうと血眼になっている。
そして忠明の頭には、沢庵の姿が浮かんだ。
「なんの兵法よりも法華経を用いよというとこだ。究極の兵法だからな」
一刀斎から受け継いだ無敵の剣、一刀流が今通用していない…
師匠はわかっていたのか?しょせん剣には限界があることを…
まだ気づかれていない。
忠明は走らず歩いて近づくことにした。
そして背中の鍋蓋を捨てた。
実は鞘引きをするのに、かなり邪魔だった。
円頭腕の盾は一枚の厚めの木に、金属の装飾を施したものでそれなりに重さがあった。
だがあの流星捶の鉄球に耐えられるかはわからなかった。
三人まで二十歩ほどの距離まで近づいた。
忠明はいつになく笑顔で近づいた。
苦無を当てるにはせめて十歩くらいまで近づきたい。
忠明の方を全員一瞥したが目で挨拶する程度の反応だ。
まだ俺を警戒していない…
しかし張は忠明の眼帯がないことに気づいた。
「オマエ。目。見エルノカ?」
その言葉でラオと、峰岸が忠明の方を同時に見た。
十五歩、十四歩、距離が近づいてゆく。
返事をしない忠明が笑顔で近づいてくるのをまだ警戒してはいない。
眼帯をしてないというだけの話だ。
流星捶を先にやる…一番やっかいな武器だ。
しかし峰岸が動いた。
笑顔で返事もなく近づいてくることを不自然に思ったのだ。
今、十二歩ほどだ。まだ峰岸の槍も届かないだろう。
峰岸が槍を脇に抱え忠明に向かって走った。
間合いが合った刹那、峰岸が槍を構えた瞬間、峰岸の喉に忠明の苦無が刺さった。
と、同時に峰岸は人生最後の一撃の槍を突いた。
矛先は円頭腕の盾の金属の装飾の部分で虚しく弾かれた。
峰岸は喉の気管が血で溢れ出しそのまま絶命した。
さっそく円頭腕の盾に救われたか…
ガンッ!すぐに忠明の持つ盾に衝撃が走った。
ラオの流星捶だ…
こいつを先に苦無で仕留めたかった…
びゅんびゅんと音を鳴らし、竜巻のように鉄球が舞い上がったと思えば突然地面すれすれに這い忠明の足を狙う。
とっさに足を上げやりすごすがまたすぐに頭、胴を狙って飛んでくる。
二撃、三撃、鉄球の衝撃が盾に当たるたびに背中まで響く。
鉄球の重さに遠心力が加わる武器。
凄まじい衝撃だ。
とても円頭腕の盾がなかったら、今この瞬間に頭を砕かれていただろう。
しかし張は八斬刀を構えて様子を見ている。
流星捶の巻き添えを喰らいたくないのだろう。
しかし忠明にも流星捶の呼吸が読めてきた。
打ったあと、必ず引き戻して打つ。
剣であろうと弓であろうと、必ず次の攻撃に転ずる前に間が開くものだ。
盾が衝撃を受けた。と、同時に忠明は苦無を打った。
まっすぐに苦無はラオの目に刺さった。
指よりひと回り細いほどの四角苦無だが刺されば深い。
鉄のラオの眼球から脳まで達した。
ラオはよろけ、もう流星捶を振り上げるだけの力はなかった。
あとは張だけだ…
張に苦無を投げつけたが、張は難なく八斬刀でそれを弾いた。
その時だった。
背後から砂の上を走るわずかな音がした。
そして忠明は背後の足音に対し振り返り盾を向けた。
盾に「カンッ」というなにかの衝撃を受けた。
盾の横から見えたのは木本が長剣を納刀している瞬間だった。
長剣抜刀術の木本だ!
木本に盾を向けたまま背後の張を片目の視界に入れる。
それは張が攻めてくる瞬間だった。
とっさに剣を抜いて張の足を薙いだ。
張は慣れた感じで前足を上げた。
張の足の上げ方は型そのものに見えた。
永春八斬刀とは体術か…
そして木本を見ると、横から胴へ剣を飛ばしてきた。
盾を合わせそれを弾く。
そしてすぐに後ろの張に片手で斬りつける。
が、張は片方二キロあると言われる八斬刀で弾く。
張か木本どちらか一人ならまだなんとかなるが二人の達人を同時に相手していると片方に攻め入ることもできない。
攻めている間に、背後を取られる。
すると木本と張が同時に攻めてきた。
前後を見ながら盾で剣を弾き、剣で張を牽制する。
それがせいいっぱいの動きだった。
少しでも気を抜けばやられる。
忠明は悟った。
とてもこの二人の達人を同時に倒すのは無理だ…
鬼爪を倒すまで生きていられん…
かくなる上は片方だけでも道連れにし、あとは小幡と柳生に任せるしかないか。
円頭腕はこやつらにどこまで義理を立てるかわからぬが…
六人衆のうち三人倒せば、柳生が一軍を率いてやってきて残りの木本と張、鬼爪を倒して倭寇を絶滅させられるだろう。
三人倒した。十分だ。
二人の攻撃をかわしながら、忠明は己の最後を感じた。
いつまでかわせるか…
これで俺の人生も終わりか…
剣に生き、戦いの人生だった…
忠明の脳裏には一刀斎、善鬼との出会い、小幡、但馬、関ケ原の合戦、秀忠、島津義弘と抜刀隊を思い出した。
走馬灯か…
そして阿国の顔が浮かんだ。
せめて阿国に最後の別れを言いたかった…
阿国の笑顔…もう、見ることはできなぬ。
すまぬ、阿国。どうやら俺はお前を小倉に連れていけそうにない…
木本の切っ先が激しく盾を削ってゆく。
そして張はなんとか忠明の隙を突こうと血眼になっている。
そして忠明の頭には、沢庵の姿が浮かんだ。
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