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小次郎の植木職人
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庄吉は歳で植木職人をやめ、小倉藩士の世話をする下男をしていた。
今回は、松山主水という新しい剣技指南役が召し抱えられたということで妻と一緒に、主水と阿国を剣技指南役の屋敷に案内していた。
まさか佐々木小次郎時代自分達が住んでいた屋敷にまた住むとは夢にも思っていなかった。
「懐かしい…」と、言いそうになるのを阿国はこえていた。
庄吉は己の手柄話のように説明した。
「ここはですね。かつて佐々木小次郎という、そりゃあすごい剣技指南役の先生が住まわれていた屋敷でございまして…」
ふと庄吉は剣技指南役である主水がかつての剣技指南役だった佐々木小次郎を知っているのか気になった。
「主水様は佐々木小次郎をご存じですか?」
ご存じもなにも本人なのだが。
江戸を発ってから松山主水大吉は頭を月代にした。
つまり前頭部を剃って髷を結っている。
髪は白い。派手な肩衣や着物より落ち着いた大人の色を身につけると、とてもかつて
佐々木小次郎と名乗っていた人物には見えなかった。
庄吉は植木職人をしていたとき、この屋敷の庭の手入れを何度かしたことがあった。
そのときに小次郎に何度か挨拶したこともあったが、まさか目の前にいるのがその本人であるとは夢にも思わなかった。
「佐々木小次郎か。聞いたことはある。宮本武蔵に敗れた者ではなかったか?」
「宮本武蔵ね。ええ、まさか小倉藩剣技指南役の佐々木小次郎が、武蔵なんかに負けるとは当時、誰も思ってませんでしたよ」
「そうなのか?」
「そりゃあそうですよ!武蔵が強かったら、とっくに剣技指南役なりなんなり、小倉藩で召し抱えているはずです。だって、武蔵の親父は小倉藩の家臣をしてるんですよ。おかしいじゃないですか」
「そうか」
「武蔵なんて、小次郎に勝ったのに小倉藩からまったく相手にされてませんからね。あの決闘はなんか…どうなんでしょうね。小次郎の体調でも悪かったんですよ。あの佐々木小次郎が負けるなんて…」
「そうか…おぬしはよほど佐々木小次郎が気に入っていたようだな」
「気に入るなんて…そりゃあ、姿の良さときたら女達は夢中でしたね」
一瞬、主水の脳裏に佐々木小次郎時代が蘇った。
あの頃は若かったな…
阿国も微笑ましく庄吉の話を聞いていた。
阿国の演出した作品でもある。
「それにあの物干し竿という三尺の長剣は迫力でしたよ。燕返しっていう必殺技が有名でしてね」
「そうか。わしもその佐々木という者に負けないよう剣技指南役をまっとうせんとな」
主水は小次郎に心酔している庄吉を見て思わず笑みを浮かべた。
阿国は、室内の壁に懐かしそうに触れている。
小次郎が死にまたここへ戻ってこようとは阿国も思っていなかった。
「それではなんなりとお申し付けくださいませ。ここにいる間は、私ども夫婦でお世話させていただきます。庭の手入れは明日にでも取りかかりますんで」
「わかった。よろしく頼む」
庄吉が妻と一緒に頭を下げると、屋敷を出ていった。
今回は、松山主水という新しい剣技指南役が召し抱えられたということで妻と一緒に、主水と阿国を剣技指南役の屋敷に案内していた。
まさか佐々木小次郎時代自分達が住んでいた屋敷にまた住むとは夢にも思っていなかった。
「懐かしい…」と、言いそうになるのを阿国はこえていた。
庄吉は己の手柄話のように説明した。
「ここはですね。かつて佐々木小次郎という、そりゃあすごい剣技指南役の先生が住まわれていた屋敷でございまして…」
ふと庄吉は剣技指南役である主水がかつての剣技指南役だった佐々木小次郎を知っているのか気になった。
「主水様は佐々木小次郎をご存じですか?」
ご存じもなにも本人なのだが。
江戸を発ってから松山主水大吉は頭を月代にした。
つまり前頭部を剃って髷を結っている。
髪は白い。派手な肩衣や着物より落ち着いた大人の色を身につけると、とてもかつて
佐々木小次郎と名乗っていた人物には見えなかった。
庄吉は植木職人をしていたとき、この屋敷の庭の手入れを何度かしたことがあった。
そのときに小次郎に何度か挨拶したこともあったが、まさか目の前にいるのがその本人であるとは夢にも思わなかった。
「佐々木小次郎か。聞いたことはある。宮本武蔵に敗れた者ではなかったか?」
「宮本武蔵ね。ええ、まさか小倉藩剣技指南役の佐々木小次郎が、武蔵なんかに負けるとは当時、誰も思ってませんでしたよ」
「そうなのか?」
「そりゃあそうですよ!武蔵が強かったら、とっくに剣技指南役なりなんなり、小倉藩で召し抱えているはずです。だって、武蔵の親父は小倉藩の家臣をしてるんですよ。おかしいじゃないですか」
「そうか」
「武蔵なんて、小次郎に勝ったのに小倉藩からまったく相手にされてませんからね。あの決闘はなんか…どうなんでしょうね。小次郎の体調でも悪かったんですよ。あの佐々木小次郎が負けるなんて…」
「そうか…おぬしはよほど佐々木小次郎が気に入っていたようだな」
「気に入るなんて…そりゃあ、姿の良さときたら女達は夢中でしたね」
一瞬、主水の脳裏に佐々木小次郎時代が蘇った。
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阿国も微笑ましく庄吉の話を聞いていた。
阿国の演出した作品でもある。
「それにあの物干し竿という三尺の長剣は迫力でしたよ。燕返しっていう必殺技が有名でしてね」
「そうか。わしもその佐々木という者に負けないよう剣技指南役をまっとうせんとな」
主水は小次郎に心酔している庄吉を見て思わず笑みを浮かべた。
阿国は、室内の壁に懐かしそうに触れている。
小次郎が死にまたここへ戻ってこようとは阿国も思っていなかった。
「それではなんなりとお申し付けくださいませ。ここにいる間は、私ども夫婦でお世話させていただきます。庭の手入れは明日にでも取りかかりますんで」
「わかった。よろしく頼む」
庄吉が妻と一緒に頭を下げると、屋敷を出ていった。
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