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二階堂流平法の極意
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小倉城の道場では稽古着姿の忠利が村上吉之丞を相手に主水に稽古をつけてもらっていた。
互いに木刀を構えた忠利と村上に主水が言った。
「殿。一文字の小手詰めを」
忠利は木刀を右後方へ向けて脇構えにとった。
村上が振り下す木刀を素早く剣先で摺上げ、鋭く小手を詰めた。
「どうやら一文字は会得されましたな。それでは八文字に進みましょう」
「おお。そうか!早く十文字まで覚えたいものぞ。のう村上!」
「しかし十文字はまだ拙者もそこまで進んでおりませぬゆえ」
「もたもたしておると、わしのほうが先に十文字まで進んでしまうかもしれんぞ。はっはっはっは」
村上は、笑みを浮かべて会釈すると言った。
「拙者は十文字を会得し早く心の一法を学びとうございます」
「そうじゃ。心の一法じゃ。あのすくみの技を早う習いたい」
主水が言った。
「この吉之丞はまだ己の強さにこだわっている段階ゆえ、教えることはかないませぬ。大切なのは相手と同調すること」
すると忠利と村上は周りの空気の変化を感じ始めた。
「今、殿と吉之丞、二人の気と拙者の気が同調させております」
空気は二人の体を取り巻き、異変とも通常とも判断のつかないとない変化をもたらした。
己の体なのに他人の体のような気がしてくる。
「なにやらおかしな感覚じゃ」
村上は下っ腹を手で抑えた。
「まるで臍下丹田を引っ張られているような…」
主水が突然、気合の声を上げた。
「いえあああああああああ!」
どんっ!と、床を踏んだ。
途端に、忠利と村上は足腰に力が入らずふらふらし始めた。
「な、…なんじゃこれは?」
「立ってられん!」
真っ青な顔をして、二人とも慌てて道場の外へと這うように逃げ出した。
記録ではこの日道場で大きな奇声とどんっという床を踏む音がし、細川忠利と村上吉之丞が青い顔をしてふらふらと出てきたという。
おそらく主水は、己の臍下丹田と敵の丹田を気で結び、剣を構えた時の斬ろうとする切っ先の意識を主水が左手を峰に置き己の意識と結んだと思われる。
相手の丹田に気を送り、背骨を通って敵の切っ先から主水自身へその気が返すことで体の自由が奪う。
故に松山主水は左手を峰に置き、己が送り出した気を己自身が食らわぬようにしていた。
これが主水の心の一法「すくみの術」の仕組みだったのだと思われる。
まだ十文字まで会得していない二人だったが、主水は心の一法の仕組みを見せた。
いや、見せたかったのだ。
心の一法を見た者はみな、主水を化け物を見るような目で見る。
しかし、しっかり修行を積めば心の一法も使えるようになるということを主水は知ってほしかった。
夕飯時、なにやら嬉しそうに食べている主水を見て阿国は言った。
「なにかいいことでもあったんですか?」
「ふふ…いいことか。忠利公が一文字を習得した」
「まあ。では次は八文字ですか」
「そうだな」
「吉之丞も八文字でございましょう。そろそろ十文字まで進むのですか?」
主水は、表情を少し曇らせた。
「十文字か…吉之丞は凶暴なところがあってな。なかなかすべてを教える気にはならん」
ふと、一刀斎が善鬼でなく自分を選んだことを思い出した。
善鬼は、我が強く好戦的だった。
だが、誰よりも繊細で純粋な心がその我の奥に隠れていることを、主水は知っていた。
村上も、小次郎への憧れ方は純粋だ。
もしかすると奴は武蔵に似てるのかもしれないな…
「まあ。でもあなたも若いころは、そうだったじゃございませんか」
「そうであったか?」
主水はとぼけて、ごはんを飲みこみ味噌汁を流し込むと言った。
「それは忠明のことか?それとも小次郎のことか?」
「ほんと、仕方のない人ね」
「はっはっは。そうだ。明後日、駿府藩へ発つ」
「駿府ですか」
「うむ」
「今度こそ、秀頼が見つかるといいですね」
「そう簡単には見つかるまい。ま、生きていればの話だがな」
互いに木刀を構えた忠利と村上に主水が言った。
「殿。一文字の小手詰めを」
忠利は木刀を右後方へ向けて脇構えにとった。
村上が振り下す木刀を素早く剣先で摺上げ、鋭く小手を詰めた。
「どうやら一文字は会得されましたな。それでは八文字に進みましょう」
「おお。そうか!早く十文字まで覚えたいものぞ。のう村上!」
「しかし十文字はまだ拙者もそこまで進んでおりませぬゆえ」
「もたもたしておると、わしのほうが先に十文字まで進んでしまうかもしれんぞ。はっはっはっは」
村上は、笑みを浮かべて会釈すると言った。
「拙者は十文字を会得し早く心の一法を学びとうございます」
「そうじゃ。心の一法じゃ。あのすくみの技を早う習いたい」
主水が言った。
「この吉之丞はまだ己の強さにこだわっている段階ゆえ、教えることはかないませぬ。大切なのは相手と同調すること」
すると忠利と村上は周りの空気の変化を感じ始めた。
「今、殿と吉之丞、二人の気と拙者の気が同調させております」
空気は二人の体を取り巻き、異変とも通常とも判断のつかないとない変化をもたらした。
己の体なのに他人の体のような気がしてくる。
「なにやらおかしな感覚じゃ」
村上は下っ腹を手で抑えた。
「まるで臍下丹田を引っ張られているような…」
主水が突然、気合の声を上げた。
「いえあああああああああ!」
どんっ!と、床を踏んだ。
途端に、忠利と村上は足腰に力が入らずふらふらし始めた。
「な、…なんじゃこれは?」
「立ってられん!」
真っ青な顔をして、二人とも慌てて道場の外へと這うように逃げ出した。
記録ではこの日道場で大きな奇声とどんっという床を踏む音がし、細川忠利と村上吉之丞が青い顔をしてふらふらと出てきたという。
おそらく主水は、己の臍下丹田と敵の丹田を気で結び、剣を構えた時の斬ろうとする切っ先の意識を主水が左手を峰に置き己の意識と結んだと思われる。
相手の丹田に気を送り、背骨を通って敵の切っ先から主水自身へその気が返すことで体の自由が奪う。
故に松山主水は左手を峰に置き、己が送り出した気を己自身が食らわぬようにしていた。
これが主水の心の一法「すくみの術」の仕組みだったのだと思われる。
まだ十文字まで会得していない二人だったが、主水は心の一法の仕組みを見せた。
いや、見せたかったのだ。
心の一法を見た者はみな、主水を化け物を見るような目で見る。
しかし、しっかり修行を積めば心の一法も使えるようになるということを主水は知ってほしかった。
夕飯時、なにやら嬉しそうに食べている主水を見て阿国は言った。
「なにかいいことでもあったんですか?」
「ふふ…いいことか。忠利公が一文字を習得した」
「まあ。では次は八文字ですか」
「そうだな」
「吉之丞も八文字でございましょう。そろそろ十文字まで進むのですか?」
主水は、表情を少し曇らせた。
「十文字か…吉之丞は凶暴なところがあってな。なかなかすべてを教える気にはならん」
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だが、誰よりも繊細で純粋な心がその我の奥に隠れていることを、主水は知っていた。
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もしかすると奴は武蔵に似てるのかもしれないな…
「まあ。でもあなたも若いころは、そうだったじゃございませんか」
「そうであったか?」
主水はとぼけて、ごはんを飲みこみ味噌汁を流し込むと言った。
「それは忠明のことか?それとも小次郎のことか?」
「ほんと、仕方のない人ね」
「はっはっは。そうだ。明後日、駿府藩へ発つ」
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