声劇台本置き場

ツムギ

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8人台本

『おはよう、good day.』(男4:女4)約90分

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登場人物(男:4、女:4)

・明日香(あすか)/女
17歳の女子高生。正義感が強くまっすぐな性格。運動神経が抜群。

・巡(めぐる)/女
10歳でナイトピアという異世界に住む聖女。青嵐の妹。少し臆病だが強い心の持ち主。

・青嵐(せいらん)/男
18歳でナイトピアの王子。巡の兄。口が悪く目付きも悪いが、国や妹の事を誰よりも想ってる。

・哀(あい)/女
17歳で元衛兵の新米メイド。頑丈な体の持ち主で轟を義父に持つ。明るく前向きで忠誠心が高い。

・轟(とどろき)/男
37歳で青嵐と巡の教育係。元衛兵。訳あって哀を養女にしている。優しいがミステリアスな性格。

・化野(あだしの)/男
37歳で元衛兵。野望を持つ悪のカリスマ。愛羅(あいら)と言う悪魔の妻がいた。車椅子に乗り下半身を布で隠してる。

・未世(みよ)/女
ナイトピアを襲う悪魔。化野に拾われ育てられる。化野への忠誠心が高い。

・常盤(ときわ)/男
ナイトピアを襲う悪魔。化野に拾われ育てられる。戦う事が大好きで、化野も超えてやろうとしている。

サブキャラクター(兼ね役可能)
・友人/女
・明日香母/女

【時間】約90分
【あらすじ】
少女が明日香に手渡したのは、一つの綺麗なペンダント。知らない少女に強引に渡されたペンダントは返せないまま、いつもより早く眠りについた夜。
目が覚めると知らない場所。目の前には見知らぬ男女。困惑してると更に人が増えてしまった。そこにはペンダントを渡して来た少女がいた。少女の名は巡。この世界、ナイトピアの聖女だと言う。巡は「この世界を救って下さい」と明日香に言った。



【本編】


ざわつく雑踏の一角。巡が明日香にペンダントを渡そうとする。

巡「これ、あげます」

明日香「え?」

巡「このペンダント…あげます…」

明日香「は?…えっと…ねぇ、お嬢ちゃん。貴女は誰?知らない人に物をあげたらダメだよ」

巡「貴女だから、あげるんです。ペンダント、受け取って下さい」

明日香「だから…」

巡「あげます!それじゃ」

強引に渡して走り去る巡。

明日香「あ、待って!渡されても困る……もう見えなくなっちゃった…」

友人「明日香ー?こんな所で何してんの?トイレに行ったんじゃなかったの?」

明日香「あぁ、うん…。トイレは行って来たんだけど…知らない女の子からペンダント…渡されて…」

友人「何それ、怖くない?……でも綺麗なペンダントじゃん。いらないなら私が貰って良い?」

明日香「えー、一応私が貰ったやつだし、あんたアクセとかすぐなくすじゃん。それにこの色、あんたには似合わなくない?」

友人「明日香ひどー!まぁいいや、次あっちの店行こー」

明日香「うん」


離れた所に立つ青嵐に走って来る巡。

青嵐「渡して来れたか?巡」

巡「はい、青嵐お兄様」

青嵐「…あの女がお前が選んだ希望なんだな?」

巡「はい…私達の世界…ナイトピアを救える、美しい魂…それは、あの人です…」

青嵐「選ばれし救世主様…か」

巡「早くしないと…あいつが…ナイトメアが全てを黒に塗りつぶす…」

青嵐「……あの女で大丈夫か?もし、ダメなら…」

巡「あの人です。あの人だから…私は選んだんです」

青嵐「……」

巡「信じましょう。…世界に明日が来る事を……」



夜、明日香の部屋

明日香「ふわ~、何だか今日めっちゃ眠い~。友達と遊んで疲れたとは言えいつも以上に眠いわ…まだ22時にもなってないけど…横になろうかなぁ。………あ、結局昼間のあの女の子何だったんだろ?…このペンダントも…綺麗だけど、真ん中の石…宝石?薄紫色の石?……何であんな強引に渡して来たんだろ……。ま、今考えても眠すぎて分かんないや。これは机の引き出しにしまっといて……よし、寝よー!」

ベッドに潜り込む明日香。

明日香「明日は…学校、だし……。あ、準備して………スゥ…」

眠りに落ちる明日香。
暫くして

哀「スー……起きろーーーーーー!!!」

明日香「!!?」

轟「あ、おはよー」

応接室の様な場所、その場には轟と哀。

明日香「へ!?」

哀「おっはよーございまーす!」

明日香「おは…よ……誰?」

哀「哀です!」

轟「轟だよー」

明日香「………?」

轟「ありゃ、反応鈍いね。寝起き弱い?」

明日香「いえ…そんな事は…」

轟「そっか、そっか。哀、青嵐達を呼んできてくれ。近くにいるだろう」

哀「あい!哀了解です!」

走り、扉を開けて出て行く哀。

明日香「あの、ここは…?私、寝てたはずなんですけど…」

轟「いや~良く来てくれたね!感謝するよ。ここは夜の国、ナイトピアの中心。ナイトブルクと言う城の中なんだ、明日香ちゃん」

明日香「え?何、…て言うか、私の名前…」

轟「…いや、救世主様。君はナイトピアの聖女、巡が選んだこの世界のメシアだ」

明日香「………はぁ?」

轟「あれ、まだ頭起きてない?」

明日香「………救世主?聖女?メシア?…………あー、夢か。これは夢だ。…よく見たら私、いつもの私服じゃん!パジャマ着てベッドに入ったのにおかしいと思った!これは夢なのね。あれか、世界を救う系の夢?子供の頃以来じゃんそんな夢~!あー、夢なら納得ね」

轟「……まぁ、半分正解だからいっか」

哀「轟さーん!青嵐様と巡様連れて来ましたー!」

轟「有難う哀」

明日香「はえ~、綺麗な部屋~今座ってるソファもふっかふか~。お城って言ってたもんね~スゲ~」

哀「救世主様はどうしたんですか?」

轟「現実逃避だろう」


ドアを開き室内に入る青嵐と巡。

青嵐「入ります、轟先生」

明日香「え…」

轟「先生はよさないかい。君を教えていたのは随分と前だ。青嵐」

青嵐「なら、貴方も呼び捨ては止めた方が宜しいかと。俺は今や、貴方より上の立場だ」

轟「ふっ。…それより、目が覚めたみたいだよ。巡、彼女で間違いないのだろう?」

巡「……」

明日香「あ!昼間ペンダントを渡して来た女の子!?」

巡「明日香…。よく来て来れました…」

明日香「え…」

巡「私は巡。ナイトピアを守りし聖女です」

明日香「貴女も私の名前…知ってるのね」

巡「明日香、この世界を救って下さい!」

明日香「は?」

青嵐「巡の兄、青嵐と申す。このナイトピアの次期国王だ。頼む、この国を救ってくれ」

明日香「ま、待って待って!幾らなんでも意味が分かんない!私が見てる夢だとしても、色々話が急よ!まず、ナイトピアって?国を救うってどうやって…?夢だとしてももうちょい説明してちょうだい?私、夢の中で叩き起こされて頭こんがらがってんのよ!」

青嵐「はぁ!?何だとパンピーのくせに舐めた口聞きやがって!?」

轟「青嵐、口が悪い。目付きも悪いよ」

青嵐「あ、ぐぅぅ…」

哀「救世主様の言い分も一理ありますね!起きて国を救えじゃ分かるようで分かんないです」

轟「そうだね。まずは詳しく説明しようか」

巡「………きた」

明日香「え?」

青嵐「!?」

轟「っ!?青嵐、巡を連れて逃げろ!哀は明日香ちゃんを!」

哀「あい!救世主様、行きますよ!」

明日香「え、何!?ちょっと、急に腕を引っ張んないで!何処行くのよ~!?」

青嵐「巡、城の地下まで行くぞ。大丈夫か?」

巡「う、うん…。轟先生…外、バルコニーに二人…です」

轟「わかった、ここは私が時間を稼ぐ。早く行け」

青嵐「ご武運を、轟先生!」

明日香「何がどうなってんのよー!?」


城のバルコニーに出る轟。

轟「……お前たちか」

未世「お城ってバルコニーも広いッスよねぇ。いいなぁ未世もこんなお城に住んでみたいっす~」

常盤「轟…次期国王と聖女の教育係…。あれ、あんただけ?」

轟「立ち去れ、悪夢を呼ぶ悪魔達よ。前線は遠に去った身だが、これでも元は衛兵だ…容赦はしない」

未世「常盤~、今日こそあいつ殺そうー?そうすればご主人様…未世達を褒めてくれるッスよぉ」

常盤「褒められるのとかどうでも良い~。でも、あいつ殺すのは僕ちゃんだから♡」

轟「狂信者共め…!」

城の地下

明日香「何がどーなってるのよ!ここは何て世界?何が起きてる訳?」

哀「お、落ち着いて下さい、救世主様…」

明日香「救世主って何なのよ!あーもー、子供じゃないんだからこんなゲームみたいな夢ではしゃがないわよ!早く夢から覚めてー!」

巡「明日香。これは夢じゃないんです」

明日香「は?」

巡「夢だけど夢じゃないんです。そのペンダント…」

明日香「え、…あれ!?あんたから貰ったペンダント、何で私、付けてるの?」

巡「そのペンダントで、明日香をこの世界に呼んだんです」

明日香「呼んだ…?」

青嵐「言っただろう。お前は救世主なんだ」

明日香「はぁ?」

哀「この世界を救って下さい!今この世界はいつ消えてしまうか分からない状態なんです!」

明日香「どう言う事…?」

青嵐「ここは夜の国、ナイトピアと言う世界…。お前に分かりやすく説明してやるなら…異世界とでも言おうか」

明日香「異世界!?」

巡「明日香が普段生活している世界とは違う世界。此処は私達の世界なんです」

明日香「……」

哀「そんなナイトピアが今危機に瀕しているんですぅ!」

青嵐「…この国を乗っ取ろうとする悪魔と言う怪物達がいる。そいつらを倒す事が出来るのは、強く清らかな魂を持ち、聖女に選ばれし救世主のみ……。それがお前なんだ。朝日明日香。」

明日香「………は?」

巡「明日香…お願いです。私と共にこの国を助けて下さい」

明日香「待って、やっぱ待って!聞いてみたけどやっぱ理解出来ない!あのね、私普通の人間!正義感強いよねみたいな事は言われるけど、世界を救うなんて映画じゃないんだから。夢の中だとしてもスケールデカすぎ!ダメ、理解不能!どうすれば起きれるんだろ。ほっぺつねってみよ~。んっ、……いったぁ!?…………は?」

青嵐「無駄だ」

明日香「夢…でしょ?痛いっておかしいじゃない!つねるのがダメならほっぺを叩いて………(パチンと両頬を叩く)…いったぁい!?何で…、何で痛いの?何で夢から覚めないの!?」


轟の足音

轟「夢だけど夢じゃない。それが答えだよ、明日香ちゃん」

哀「轟さん!」

青嵐「無事でしたか。奴等は?」

轟「未世と常盤の二匹だけだったから、少し相手してやればさっさと退散したさ」

哀「さすが轟さんですね!」

轟「まぁ、いつも通りだ。…奴等はまだ力を蓄えている。奴等の主も…いまだ姿を見せないし…」

青嵐「そうですか…」

明日香「轟…さん?…何でボロボロなの?」

轟「少し奴等の攻撃を受けてしまってね。大丈夫、これくらいいつもの事さ」

明日香「いつも…?」

青嵐「言っただろう?この国は悪魔共に狙われている。先生や兵士たちが奴等の進行を食い止めているが、長きに渡る争いで多くの兵士や民が犠牲になった…。国王である父も…先の戦いで…帰らぬ人となった…!」

明日香「!?」

轟「私達は藁にもすがる思いなんだ。この国を救うには古の伝説、救世主と聖女が悪しき夢を払う…それを信じるしかない」

明日香「……その救世主が、私…?」

巡「はい…」

明日香「聖女…、巡ちゃんと私が…この国を救う…?」

巡「この国は明日香の世界とリンクしているんです。だから、私は明日香を見つけて、この国に呼ぶ為のペンダントを渡しました。この国が悪魔達に乗っ取られてしまえば…明日香の暮らす世界にも災いが降りかかります」

明日香「え?」

轟「ここは夜の国、夢の世界。…此処が崩れれば、リンクしている世界に悪影響が出るのは当然なんだ」

明日香「……それって」

轟「残酷な二択だと思っているよ。この国を救うか、現実世界を壊すか…」

明日香「……」

哀「救世主様…」

青嵐「頼む…!」

巡「明日香…」

明日香「……………分かり、ました……」


化野のアジト

未世「化野様ぁ!未世ボロボロッス~」

常盤「本気出したら僕ちゃん絶対轟に勝てるのに~」

化野「おかえり。未世、常盤。ナイトブルクはどうだった?」

未世「相変わらずの厳戒態勢って奴?まぁ未世達も本気じゃなかったし~」

常盤「僕ちゃん本気出せば、轟にも勝てるしー」

化野「やはり国王亡き今、ナイトブルクを支えるのは聖女と王子の教育係である轟だろうな」

常盤「何でまだ本気出しちゃいけないの~?僕ちゃんあいつら皆殺し出来るよう?」

化野「安心しな、常盤。次の出陣で本気を出して良い」

常盤「え、ほんと~?」

化野「あぁ、そして俺も出る」

未世「化野様も!?…え、でも…足は動くんすかぁ?」

化野「動けるよ。この身が化け物に堕ち、体の半身が崩れかけようと…この闘いに決着を着けるため…俺は立ち上がるさ」

未世「化野様かっこいいッス~」

常盤「化野様の本気かぁ、それって僕ちゃんより強い~?」

化野「轟より強いよ」

常盤「うわぁ殺してぇ~♡」

化野「さぁ、忌まわしきナイトピアを永遠の悪夢で包み込んでしまおう」

未世「は~い♡」


ナイトブルク

明日香「話を聞いて思わず頷いちゃったけど…いくら夢とは言え、壮大過ぎるんだよなぁ。…でも覚めない夢ってある?痛覚もあるし……、本当に私がこの世界を救うの?」

青嵐「まだ疑っているのか?」

明日香「青嵐…だっけ…。そりゃそうでしょ…。私普通の人間よ?何でこんな事に巻き込まれてるか理解出来ないわよ」

青嵐「…急に連れて来た事は謝る。しかし、事は一刻を争うんだ。それはお前の世界にも影響が及ぶ」

明日香「信じがたい…」

青嵐「だろうな。だが、次お前が目覚める事が出来るかは、このナイトピアの存続によって変わってしまう。目覚めなければ良かった。いや、目覚められないかもしれない…それは嫌だろう?」

明日香「恐い事言わないでよ…」

青嵐「…悪い。しかし、残念ながら事実だ」

明日香「………」

青嵐「一度は話を受け入れたんだ。時間がない…腹を括るのは早い方がいいぞ」

明日香「っ……」

青嵐「…明日香。お前は、聖女であり俺の妹である巡が選んだこの世界の救世主。この国の為、俺の命に換えてもお前は守る。ナイトピア次期国王青嵐がここに誓おう」

明日香「……」

青嵐「ま、俺も次期国王と言う立場…簡単には死ぬつもりはないし、巡を危険に晒す事はしない」

明日香「……はぁ」

青嵐「だが、お前の命は優先だ。俺を信じろ」

明日香「……信じろって、随分自分勝手で自身満々な王様ね…。でも、ありがと」

青嵐「ふっ…」

哀「あ、救世主様に青嵐様!こんな所に居ましたか!城内を探し回ってしまいましたよー」

明日香「哀さん?」

哀「あいあい!哀です♪幾らメイドに転職したとは言え、使用人や民衆を避難させたせいでお仕事の事や城内の事を聞ける方がいないのどうにかしてくれませんかー?」

青嵐「仕方ないだろ。何度も言うが父が亡くなり、兵も犠牲が出ている。民衆の避難が最優先だったんだ」

明日香「そう言えば、ここって他に人はいるの?私、貴方達や巡ちゃん、轟さんにしか会ってない」

青嵐「ナイトピアには地下空間があるんだ。先程避難したこの城の更に奥へ進むと民衆を避難させるための場所がある。この争いが落ち着くまで民達はそこに身を潜めてるんだ」

明日香「地下シェルター的な?」

青嵐「だが、この戦いでもし…俺達が敗れてしまえば…。悪魔共は地下へ雪崩れ込みナイトピアの民達は……全滅するだろう」

哀「縁起でもない事言わないで下さい、青嵐様!救世主様が来てくれたんですよ!この戦い絶対勝ちます!私だって戦いますよ!」

明日香「哀さん戦えるの?」

哀「私これでも身体能力激ヤバなんですよ?メイドになる前は衛兵の一員だったんです!」

明日香「何故メイドに!?」

哀「そりゃ他のメイドさんは地下に避難してます。私は戦える上に轟さんに育てられたので表向きは新米メイドとして働いてるんです」

明日香「なる…ほど……とはならんけど。轟さんの子供なの?」

哀「…ううん。先生は育ての親です」

明日香「そう…」

青嵐「……まぁ、あの人は強い。俺と巡の教育係でもあった。しかし、先生一人で争いは終わらせられるかと言われれば絶対に無理だ。悪魔の力は底知れないし、親玉も動きがないからな…」

明日香「そういえば悪魔って、このナイトピアを乗っ取って何がしたいの?私の世界をメチャクチャにしたいだけ?」

青嵐「いや、リンクしている世界を壊す事は後付けだ。国を乗っ取った結果、他の世界に悪影響が出る事になる。真の目的は正直分からない…」

明日香「何よそれ…」

青嵐「悪魔が何を考えてるかなんて知らねぇよ。あいつらは争いと悪意を好む。人々が恐怖に慄く様が好物らしい。…全く、悪趣味だ」

哀「……はい」

明日香「そう…」



慌てた様子で巡が駆け寄ってくる。

巡「っ、……明日香」

明日香「わっ、どーしたの巡ちゃん。走って飛び付いて来るなんて、びっくりするじゃん~」

轟「明日香ちゃんに青嵐、哀もいたのか」

哀「轟さん!…巡様どうしたんですか?」

轟「……巡」

青嵐「……まさか」

巡「くる。奴らが。禍々しき翼を持った、悪魔が……悪意に染まった心……ナイトメアがぁ!!」

青嵐「先生、兵は!?」

轟「配置済だ。救護隊も城内で動ける様に手配したが…問題は……」

青嵐「奴らの本気度…か。未世と常盤……」

轟「そして……最大の悪意。化野」

明日香「あだしの…?」

哀「元…ナイトピアの住人。その身を悪魔に堕とし、悪魔と共に行動するナイトピアの汚点…それが化野です」

明日香「そんな人が…」

巡「化野は、恐い…悪魔達に知性を与え、理性を植え付けた…」

明日香「え…?」

轟「悪魔とは本来、理性なき生き物で、人間を襲う怪物なんだ。そこに化野と言う男が悪魔達に理性を植え付けた。知能を持った怪物が出来上がってしまったんだ」

青嵐「悪魔達が知性を身につけ、そこからが早かった。奴等は徒党を組んでナイトピアへ攻撃を仕掛けて来た。そうして約17年…この国は悪魔共と攻防を繰り広げているんだ…」

明日香「……そんな」

轟「今までの悪魔はこの国の者たちを無差別に襲って来た。ただの害獣が、危険思考を持ち合わせた強い個体が増えて来た。その中で二匹、未世と常盤と言う悪魔は化野に育てられ完成された存在…」

哀「さっき轟さんが追い払った悪魔達です」

明日香「え、追い払えたのに強いの?」

轟「化野に言われての敵情視察だ。それにあいつらは私を殺すか、戦線離脱させる事を目的としてるはずだ」

青嵐「先生が戦闘不能になって仕舞えば戦況は一気にひっくり返ってしまう…」

轟「……しかしこの命は、巡。君とこの国の為にある」

巡「先生…」

轟「先に行く」

轟、去る。

巡「……っ」

明日香「…本当に戦争がはじまるの?」

青嵐「あぁ」

巡「うぅ…」

哀「巡様、震えてる…大丈夫ですか!?」

青嵐「巡、お前と明日香は俺が守ってやる。大丈夫だ」

巡「お兄、様…」



常盤「あ“ーはっはっはっはっはぁ!!」

青嵐「!?」

常盤「あ”っはぁぁ!!」

ガラスが激しく壊れる音。

明日香「い“っ!?な、何?凄い音がしたわよ!?」

哀「っ!あっちの窓ガラスが壊されたみたいです!それに今の声…」

常盤「見つけたぁ!…あぁん?轟はぁ?」

青嵐「常盤…」

常盤「なんだよぉ轟いねぇの?つまんなぁい……あ、でも聖女いんじゃんラッキー」

巡「え…?」

明日香「巡ちゃんに何かするつもり!?」

常盤「ん?誰あんた?……この国の住人じゃないね。…この感じ、外の世界の人間かぁ?」

青嵐「下がってろ、お前たち!」

常盤「わぁ、王子様自ら剣を抜くってことはぁ、そいつら大事なんだ~?いいねぇ、僕ちゃんも武器抜いてあげる~」

哀「青嵐様、此処は私が応戦します!二人を連れて逃げて下さい!」

青嵐「哀…しかし、お前一人じゃ…せめて轟先生が…」

常盤「あ、轟呼んでくれんのぉ?助かる~」

哀「あいつ…今までより力が強くなってるように感じます。悪魔の力を解放したのかと…」

常盤「……何でそんな事メイド風情が知ってんの?」

哀「……私は轟さんの教え子なので」

常盤「あー、なるほど?じゃぁ鬱陶しいから死ねっ」

哀「あがっ!?」

明日香「哀さん!?」

哀「う、うぅ…なんて早い斬撃なの…!?」

常盤「あれ?脇腹えぐったんだけどまだ立ってんの?……お前丈夫なんだぁ?あっはぁ、僕ちゃん興奮すんじゃん。強い奴と丈夫な奴ってだぁいすきぃ♡」

青嵐「この化け物がぁ!」

常盤「おっとぉ…何その軌道バレバレな大ぶりの剣捌き?本当に轟の生徒ぉ?今まで相手した事なかったけど…弱いんだ、王子様って?」

青嵐「!!?」

明日香「っ…」

巡「う、うぅ…」

青嵐「んだと…?……もっぺん言ってみろこの害獣がぁ!!」

常盤「あっはぁ、だから軌道バレバレぇ!っ!?」

哀「よそ見すんなぁ!」

常盤「うぐっ!?」

青嵐「あ、哀…」

常盤「……僕ちゃんの顔面に蹴り入れるとか…やっぱ死にたいんだねクソメイドぉ」

哀「青嵐様早く行って!貴方までやられたら誰が二人を守るの!?」

青嵐「くっ…」

明日香「哀、さ…血、血が……」

哀「早く!」

青嵐「っーーーーー!……行くぞ明日香、巡!」

明日香「ちょっと、引っ張らないで、哀さんがぁ!」

巡「哀…!」

常盤「あぁ!?逃げんのかよ腰抜け王子!まだ王様の方が強かったぞぉ?あいつ面白かったんだよ!僕ちゃんが殺したんだけどさぁ、王様のくせに兵隊共を守って死んでんの!あいつ死に際お前らの名前呼んでたんだよぉ?」

青嵐「!?」

明日香「王様って…青嵐と巡ちゃんの」

常盤「僕ちゃんが王子と聖女もさっさと殺してあげるって言ったらさぁ、すっげぇ睨み付けて来てんの~?だから僕ちゃん、あいつが守ってた兵隊共もその場で全員…」

哀「それ以上喋るな」

巡「お父…さ、ま……」

青嵐「くそがぁぁ!!」

三人、走り去る。

常盤「……あー、行っちゃったぁ。王様と違って王子様は弱っちくてすぐに逃げるね」

哀「お前は絶対に殺す…」

常盤「……あれ、お前……、いや、いいや。気のせいかも。僕ちゃんは強い奴を殺せればいいし♪」

哀「化野の目的は何?」

常盤「化野様ぁ?化野様はぁ、聖女の力を欲しがってるらしいの。それを得ればもっと強くなるんだって」

哀「どう言う事…」

常盤「えー、秘密♪…それより、やんねぇの?僕ちゃんの事、殺してくれんでしょお?」

哀「あの二人を悲しませた…。絶対に許さない!」


城の裏庭

明日香「はぁ、はぁ、はぁ…!」

巡「ふぅ…ふぅ…」

青嵐「っ、………くっそぉ!」

巡「お兄様…」

明日香「さっきの人が、悪魔…?何だか、凶々しいって言うか…哀さん、大丈夫かな…」

青嵐「…あいつが化野に育てられた悪魔の一体…常盤だ。争い好きのサイコ野郎…。正直、強い……」

明日香「そんな奴に哀さん一人でなんて…」

青嵐「…哀は俺より強い…。轟先生のお墨付きだからな」

明日香「…轟さんって相当強いんだね」

青嵐「昔からあの人はナイトブルクの兵に属して、今は教官だ」

明日香「あんたと巡ちゃんの教育係って言ってなかった?兵の教官もしてんの?」

青嵐「あぁ。だから、あの人に育てられ教わった哀の強さは半端じゃない」

明日香「そう…」

巡「……明日香」

明日香「ん?どうしたの巡ちゃん。大丈夫よ」

青嵐「二人とも、移動しよう。広く木々が茂ってるとは言えここは城の裏庭だ。表は他の悪魔と城の兵が戦ってるだろう。お前たちは避難させたい」

明日香「また地下に行くの?」

青嵐「あぁ、しかし下手に動いて地下への道をバレるのは不味いな…少しずつ場所を変えながら移動したい…」

明日香「……あんたって結構慎重派なのね」

青嵐「何だと?」

明日香「いや、悪い意味じゃないんだけど…、慎重過ぎるって言うか…私とは逆だなって思って…」

青嵐「逆…?」

明日香「私、普段突っ走る所があってさ、悪い事が目の前で起こると放って置けないのよね…。まぁ、ここまで現実味のない夢だと何とも言えないんだけどさ…。でも、痛いのも怖いのもみんなの本気も伝わって来て、たった少しの時間だけど、悪い奴等にこの世界が乗っ取られるのは嫌」

青嵐「明日香…」

明日香「私に出来る事ってある?私が救世主なら何か解決出来る方法があるんじゃないの?」

巡「……明日香…!」

明日香「巡ちゃん?」

巡「明日香を選んでよかった…。明日香のその強い魂。その心は全てを守る暖かい太陽の光…!」

明日香「太陽の光…?私の心が?」

巡「私の聖女の力と明日香がいれば、ナイトメアを退ける」

青嵐「巡…お前…」

明日香「どうやるの?」

巡「……ナイトブルクの1番高い所」

明日香「青嵐、何処!?」

青嵐「え、……ベルクフリート…ここからも見えるだろう。城の1番高い塔の事だ」

明日香「行き方は?」

青嵐「…行くのか?」

明日香「行くに決まってんでしょ!?さっきまで腹括れとか言ってたくせに、いざ腹括ったら不安にでもなった?」

青嵐「そういう訳じゃ…」

巡「お兄様、私はもう逃げない。私は、明日香を選んだ。明日香と一緒ならナイトピアを救える。そう思ったから連れて来た。そうでしょう?」

青嵐「そう…言ったのはお前だが…」

巡「私が言って、お兄様はそれに同意して下さいました。私は、私の行いに後悔はしません。明日香を連れて来た事に間違いはないんです!」

明日香「巡ちゃん……うん!私が出来る事は何でもする!」

青嵐「お前たち………」

明日香「早速塔に向かう?と言うか私はどうやって悪魔達と戦えばいいの?」

巡「それは、塔に着いてから……っ!?」

明日香「巡ちゃん?」

青嵐「どうし……っ!?そこにいるのは誰だ!?」

明日香「え?」

①①
車椅子に乗った男がゆっくりと近づいて来る

化野「聖女の察知能力…。悪魔には有効だが、ナイトピアの住人には発動しない…。悪魔に染まった俺は少し探知が遅れる位か…」

明日香「車椅子…?だ、誰…?」

青嵐「何だ、ナイトピアの住人…じゃない。この気配は間違いなく悪魔のそれ……だが、お前…何者だ?」

化野「あぁ、お前らは俺の姿は見たことなかったか。轟辺りが伝えてると思ったんだが…」

巡「な、な……」

化野「化野だ」

巡「ナイトメアぁ!!?」

青嵐「化野!?お前がか!」

剣を抜く青嵐。

化野「おぉ、勇ましい王子様だ。剣を構えただけで絵になるな」

明日香「化野?ナイトメア?え、あいつが?」

巡「あいつが全ての元凶…。悪魔を仕切る元ナイトピアの住人。城の兵としても仕えていたと聞きます…」

明日香「そんな人が何で敵になってんの?」

化野「君は……ナイトピアの住人じゃない…?……あぁ、外の世界か。と言う事は、あの古めかしい伝説を信じたんだな?馬鹿馬鹿しい。あんなのただの伝説だろうが」

巡「伝説は、過去に何も無ければ記されません。だから私は明日香を連れて来たんです!」

化野「所詮伝説は伝説だ。本当にあった事だと誰が言った?信じ過ぎるのは良くないぞ」

青嵐「逃げろ二人とも!こいつは俺が殺す!」

化野「ふっ、俺は車椅子なんだから、手加減が欲しい所だな」

青嵐「貴様は抹消すべき存在だ、悪魔を率いる貴様の能力はあってはいけない!」

化野「能力ではなく才能だ。轟と一緒さ」

巡「先生と貴方を一緒にしないで下さい!先生は貴方の……」

化野「何だ?轟が俺の尻拭いをしてくれた事か?」

巡「……貴方は、……」

明日香「青嵐、あんたも早く!」

青嵐「ダメだ!俺は此処でこいつを殺す。明日香、巡を連れて行け!」

明日香「でも…」

青嵐「正直怖いし、強い訳でもねぇ…。でも、俺が今二人を守る為に戦わないとナイトピアの王として、成り立たないだろ!」

化野「そう言えば、王様は常盤が殺害したらしいな。お世話になったのに悲しい事だ」

青嵐「貴様が命令したんだろうが!父様を殺しやがって、貴様は絶対許さない!…明日香早くしろ!巡に凄惨な場面は見せたくない…」

明日香「青嵐……」

化野「あの時、俺は王を殺す命令はしていない。常盤が勝手にはしゃいだだけだ…まぁいずれどうにかしようとは思っていたが…」

青嵐「貴様ぁ…」

化野「青嵐王子を殺めるのはこの手となるか…まぁ、聖女を手に入れられるのならば関係はない」

明日香「……巡ちゃんを捕まえてどうするつもり?」

化野「悪魔の世界を作りたい」

明日香「え…」

化野「それだけだ」

①②

明日香「それって、どう言う……」

化野「…それは……あ?」

轟「見つけた、こんな所にいたのか化野!」

青嵐「轟先生!?何故此処に」

化野「久しいな、轟。元気そうじゃないか。何度か未世と常盤が世話になったそうだが…今日の未世は、どうだった?」

青嵐「先生、まさか急遽こちらに!?」

轟「前線は任せて来た。敵の総大将の首を取る事を優先としただけだ。青嵐、お前も二人に…ちっ」

巡「あ、み、未世…!?」

未世「勝手に何処行ってやがるこのクソ野郎がぁ!!」

轟「っく、うまく逃げれたと思ったんだけど…未世、しつこいと好きな相手から嫌われるよ?」

未世「私が大好きなのは化野様だけッス!化野様が未世の事好きなら何も問題ないっス!」

化野「はは、…嬉しいな未世。俺も素直なお前が好きだよ?」

未世「あぇ!?あ、化野様いたんスかぁ?やだぁ、未世恥ずかしい事言っちゃったッス~♡」

化野「これで2対1だ…どうする?轟」

轟「…問題ない。お前は動けない様だしね」

未世「はぁ!?化野様をみくびるなッス!化野様は車椅子でも強いんスよ!」

化野「確かに…このままじゃ勝てないかもな」

未世「か、勝てないかもしれないけど化野様は強いんス!」

化野「だから……ぐっ…うぅ……ふぅ…」

化野、ゆっくりと立ち上がる。

明日香「な、…あいつ立てるの?」

巡「…?……ひっ!?」

青嵐「何だ…あれは、人の足じゃない…化け物の様な足…」

轟「悪魔に堕ちた者の末路がそれか?凶々しい獣の様な足…あの子の足を移植したんだろう?」

化野「あぁ、逃げる時足を潰されたからな。死んだとは言え彼女は悪魔だ…足を貰ったが適応するまでに時間がかかってしまった。今も一歩踏み出す事に痛みを伴う…おまけに美しかった彼女の足が見るも無残な有様だ。…ま、彼女と共にこの世界を変えられるのなら、この体の痛みなんてどうって事はない」

未世「化野様ぁ大丈夫なんスかぁ?」

化野「あぁ、問題はない。この程度の痛み…彼女を殺された時に比べれば…な」

轟「……はぁ。意地でも捕まえるよ、化野」

未世「化野様には近付かせないッス!」

轟に襲いかかる未世。

轟「くっ…!?…この…、躾のなってない悪魔が!」

青嵐「轟先生!?」

化野「王子様のお相手は俺かな?」

青嵐「なっ!?くっ…!」

化野「うまく剣で防いだな?しかし、俺の剣捌きも一級品だぞ。轟に聞いてないか?」

青嵐「知らねぇな…」

化野「おまけにこの悪魔の足は……っらぁ!」

青嵐「ぐっ…!?」

化野「力も増幅してるようだ」

明日香「青嵐!」

轟「蹴り一発で青嵐を吹っ飛ばした…!?」

未世「流石っス化野様ぁ!」

青嵐「くそ…」

明日香「……っ、巡ちゃん行こう!」

巡「え?」

明日香「私達が出来る事をしに行くの!」

巡「う、うん…!」

走り去る明日香と巡。

青嵐「…やっと、行ったか…」

化野「やっと逃がせたなぁ?ま、ゆっくり捕まえるさ。青嵐王子は俺相手に一人で大丈夫か?轟に助けを求めるのをお勧めするぜ?」

青嵐「その口を閉じろ不届き者!貴様は我がナイトピアに楯突いた反逆者として、切り捨ててくれる!」

化野「勇ましいな、ククッ…」

①③
城内。

明日香「何とか、城の中に移動出来たけど…。巡ちゃん、塔までの道は分かる?」

巡「はい、分かります」

明日香「……ねぇ、今更引くなんて考えて無いんだけどさ…。私はどうやって戦うの?さっきは化野が来たから、聞きそびれちゃったし…」

巡「…そう、ですね。……私も実際こう言う事になるなんて思わなかったので、伝説の通りに従うしか無いのですが…」

明日香「そう言えば、伝説がどうとか言ってたね」

巡「古くから言い伝えられているナイトピアに危険をもたらす、ナイトメアと言う強大な悪魔を退ける伝説です」

明日香「ナイトメア…それがあの化野って事ね」

巡「あの人は悪魔とは言い切れませんが、悪魔を率いて国を襲っている…恐ろしいナイトメアです…」

明日香「確か、私と巡ちゃんの力でそいつをどうにか出来るのよね?…うーん、アバウト過ぎてどうすれば良いのか分かんないな…」

巡「………明日香、ここは夢の世界です」

明日香「え?」

巡「願うんです。そのペンダントに…」

明日香「ペンダント…これに?願うって一体何を…」

巡「それは聖女である私の力を宿しています。そこに清らかで真っ直ぐな魂を持つ貴女の願いが合わされば……っ!?」

明日香「巡ちゃん?」

巡「何で、貴方がここに……」

明日香「え?」

巡「常盤…!?」

常盤「あのメイドは殺した。だから僕ちゃんはここにいる。それだけだよ?」

明日香「…あ、哀…さんが、やられた…の?」

巡「このっ…」

常盤「おぉ~っと、怖い顔してどうしたの?まぁまぁ強かったけど、セーブしてない僕ちゃんからするとあれはまだ雑魚だね~。さて、もっと雑魚な君達はどういじめてあげよっか?」

明日香「くっ…」

常盤「兵士でも何でもないただの女の子が僕ちゃんとやり合う気?いいよー相手してあげる」

巡「いけません、明日香!常盤は強いんです!先生でないと…」

明日香「でも轟さんも青嵐も今は戦ってる…」

常盤「轟はやっぱ外かぁ、僕ちゃんももっと広い所でやりたかったぁ。ま、聖女を捕まえさえすれば、僕ちゃんも前戦に行けるしねぇ」

巡「明日香、私が案内するから常盤から距離を取りましょう…」

明日香「う、うん…」

常盤「させないけど……ねっ!!」

明日香に蹴りを食らわす。

明日香「あがっ!?」

巡「明日香ぁ!?」

常盤「蹴り一発で沈んじゃった?ナイトピアの兵士でももうちょい骨あるけど、それ雑魚いね?何?遂に一般人を盾代わりに使い始めたの?やる事残酷だねぇ聖女ちゃん♪」

巡「この、非道な悪魔がぁ!」

常盤「おっと、聖女が無鉄砲に突っ込んで来ちゃダメじゃん。僕ちゃんの目的の一つは君を捕まえる事なんだから」

巡「っ、離して…!」

常盤「離すわけないだろ。…君ら1番高い塔に行きたいんだって?僕ちゃん優しいからひとっ飛びしてやるよ」

巡「いやっ!」

明日香「巡…ちゃんを…離、せ…」

常盤「あ?喋れる元気あるんだ?うざいから殺そ~っと」

巡「やめて!」

常盤「……じゃぁ、もう僕ちゃんに口答えしない?聖女ちゃん」

巡「は、はい…だから、明日香には……」

常盤「……いーよ。じゃ行こっか」

明日香「まっ、巡…ちゃ……」

巡を連れて去る常盤。

①④

明日香「うぅ…痛い…悔しぃ……」

哀「はぁ、はぁ……救世主様!?」

明日香「あ、……哀、さん?なんで…あいつにやられたんじゃ…」

哀「私、丈夫なので……少し気を失ってましたが…。常盤は死んだと勘違いしたんでしょうかね」

明日香「そう…」

哀「常盤の奴…、随分はしゃいでる様でした…。この争いを楽しんでる…」

明日香「あいつら、巡ちゃんを狙ってた…。私がやられちゃったから巡ちゃん…連れて行かれた!…逃げないって決めたのに、何も出来なかった……」

哀「……救世主様は、何も悪くありません。救世主といえど、貴方はただの人間なんですから…。この世界に来たばかりなんですから…」

明日香「それでも、私が頑張らなきゃこの国も私の世界も危ないかも知れないんでしょ!?だったら逃げる選択肢なんて今更無いわよ!私の心を揺らがせないで!」

哀「救世主様…」

明日香「悔しくて怖くて、心がぐちゃぐちゃなの…。みんながボロボロになってるのが見てられない。哀さんだって…傷だらけじゃない…」

哀「はい、私は兵士なので」

明日香「……え」

哀「私はメイドですが、兵士です。私の命はこの国の為、王子と聖女様の為。この戦いで命を落とそうと二人が無事なら良いんです」

明日香「…」

哀「この体は普通より丈夫で、轟さんに鍛えられたから傷が付いても気になりません。それより、青嵐様たちや救世主様が傷付くことが私に取っては大問題なんです!……だから、私が言いたいのは」

明日香「……」

哀「自分が出来る事を全力でやる。それだけです!」

明日香「……哀、さん」

哀「救世主様、いえ…明日香様、貴方は危険な場所に来てしまった…。それに関しては申し訳ありません。…轟さんは他の方でも務まるとも仰ってました。それでも貴方が選ばれたのは巡様の意志。大人しくて臆病な巡様が直々に選んだお方なんです!」

明日香「……」

哀「明日香様、巡様からお聞きになりませんでしたか?貴方の出来る事を…」

明日香「私の…出来る事……!」

哀「それが、この国を救う方法です!」

明日香「うん…ありがとう哀さん。私、巡ちゃんを助けに行く!」

哀「あいあい!」

明日香「ねぇ、1番高い塔って何処?」

哀「お供いたしまっ……うっ!?」

明日香「哀さん!?大丈夫?」

哀「くっ…丈夫とは言え…常盤にやられたせいで…満足に戦えそうにないです…。案内は、致しますが…」

明日香「私が常盤を止める!…ごめんだけど、案内だけお願い」

哀「あいあい…哀に、お任せあれ…!」

①⑤

青嵐「ぐっ…、はぁはぁ…くそぉ!」

化野「威勢だけ良くても呆気ないな。この国の未来が心配になる…まぁ、今宵で俺のものとなるが」

青嵐「……貴様は何故、悪魔の国を作るなどとのたまう?元はナイトピアの者だろう?悪魔は…人々を襲う怪物だ…」

化野「人間だって悪い奴くらいいるだろ。…俺とか…なぁ?」

青嵐「…それは、そうだが……」

化野「……あー、王子様あれか…?俺が何でナイトピアを追放されたか知らないのか?」

青嵐「追…放?」

化野「…知らないのか」

青嵐「どういう事だ!?」

化野「誰かなぁ、事実を隠したのは…」

轟「私だと言いたいのか?」

青嵐「轟先生!」

化野「よぉ、未世はどうした?」

轟「無駄に手強い。かわすので手一杯さ」

化野「お前が本気を出せば未世なんてすぐに始末出来るだろ?」

轟「かもね」

化野「それでもしないのは、優しさのつもりか?お前は俺が追放されてから、悪魔を殺さなくなった。俺の手駒だけだが…」

轟「野良の悪魔より厄介で殺しにくいだけだ」

青嵐「…轟先生、一体何の話を…」

化野「で、俺の真相を隠したのはお前か?轟」

轟「隠す様に頼んだのは貴様だろう?化野」

化野「ふ、まぁいいさ。知られてないからこうやって派手な争いが起きてんだろ?人が、悪魔が散りゆく様に心を痛めてる自分に酔ってるだけだろ?自分の手を汚してないとは言え、俺の駒を…王様を殺したのはお前の判断ミスだ、馬鹿野郎」

轟「違う」

化野「違くねぇ!愛羅(アイラ)の事がバレたのだってお前がっ」

轟「違う!あれはお前達の密事(みつじ)を知った一般兵の密告だ!お前は敵を作りやすかった。だからあの夜、着けられていたんだ!…そいつは数年前に戦死した」

化野「は?」

轟「お前の復讐は無意味だ」

化野「……」

青嵐「せ、先生……今の話、どういう事ですか…」

轟「青嵐…それは…」

①⑥

未世「轟ーー!!」

青嵐「っ未世!?」

轟「くそ、本当にしつこいな」

未世「化野様に何したッス!?」

轟「何もしてない。諭してるだけさ」

未世「それで化野様がこんな辛そうな表情するわけないッス!化野様を傷付けるあんたら人間なんて私が全員殺してやるッス!」

青嵐「…未世は、何故そこまでそいつに従うんだ?」

未世「はぁ!?何スかくそ雑魚王子!」

青嵐「ぐっ、……いや、聞いてみたかったんだ。悪魔であるお前達の言葉を」

轟「青嵐…」

未世「そんなの化野様が大好きだからッス。化野様以外はいらない。悪魔の世界は弱い奴は死ぬんス。強くありたいなら人間たちを襲って自分の強さを示さなくちゃいけないスよ。化野様はその近道を教えてくれた。化野様は悪魔の世界を変えた、だからナイトピアも変えるって言うなら手伝うに決まってるじゃないスか!」

化野「……」

青嵐「……そうか」

化野「未世…」

未世「化野様?大丈夫なんスか?」

化野「あぁ、…下がってろ。やはり、あいつらは俺がやる」

未世「でも…」

化野「お前のお陰で俺のすべき事がはっきりした。やはり俺はこの国を許せない。化け物とは言え悪魔も血の通った生き物だ。愛羅の足も言っている!あの体にも血は通っていた。心があった!それを殺したのは、お前たちなんだ…」

轟「…今更私の言葉で納得するお前じゃ無いよな。青嵐、サポートを頼む。もし未世が手を出して来たら…」

青嵐「俺が対処します。先生は化野を…」

轟「あぁ…」

化野「この国に悪魔の革命を…!」

①⑦

常盤「ほら、着いたよ。ここがこの城で1番高い塔だよね?あ、外で争ってるの見える~!わー、僕ちゃんもあそこ行きてぇ」

巡「…なら、行ってくればいいのでは?」

常盤「んー、お前が何企んでんのか教えてくれて、お前を殺したら行こうかな」

巡「化野には私を捕らえる様に言われていたのではないのですか?」

常盤「そうだけど、うっかり殺しちゃいましたー…でも、最悪いいらしいんだ。生きれると思った?残念だったねぇ♪」

巡「…目的は何ですか?聖女と言えど、私の力は強くありません。悪魔の察知能力しかない私は貴方達にとっては無力でしょう?」

常盤「んー、化野様はぁ聖女の本当の力はそれだけじゃないって言ってたけど?」

巡「……」

常盤「何故聖女なのか。それはナイトピアを正しい明日に導く力。朝日を呼び寄せる力…。この世界に置いて聖女は神様に等しい…って聞いたんだけど…それってマジ?それが本当なら僕ちゃんすっごい興味があるんだよねぇ。神様になっちゃえば…化野様がお前を狙う理由も分かるし」

巡「…っ、」

常盤「ひひっ、だから僕ちゃんお前の力が欲しいんだよねぇ。本当はさっさと殺したいけど、我慢してるのはその為…どーやったらお前の力、僕ちゃんの物になるかな?」

巡「知るもんですか!それに、聖女の力が貴方の様な悪魔に扱えません!」

常盤「そんなんやって見ないとわかんねーじゃん。化野様だって悪魔の足を移植してるけど、長い時間をかけて馴染んだって言ってるよ。案外すんなりいっちゃうかも」

巡「そんな訳ありません!」

常盤「抵抗すんなようざいなぁ…。ま、まずは抵抗出来ないくらいズタボロにしてあげる。力を奪えるかどーかはそれから…ダメっだったら殺しちゃえばいいし♪」

巡「……貴方は、化野の命令から背くのですか?」

常盤「うん。僕ちゃん、未世と違って化野様にちゅーせーしん?ってやつないから。色々教えてくれてサンキューってだけ。つーか僕ちゃんいつか化野様の事殺してやろうと思ってるんだよね。そしたら僕ちゃんこそが悪魔の王様になれちゃうから!……まぁ、王様になってどーしたいつーより、誰よりも強くなりたいだけなんだよねぇ。強いとバカにしてくる奴いなくなるからさ」

巡「…」

常盤「だからさ、まずは死なない様に頑張って?」

①⑧

明日香「巡から離れろ常盤ぁぁ!!」

常盤「なっ、ぐっ!?」

哀「ナイスパンチです!明日香様!」

巡「え、明日香…哀も……哀!無事だったんですか!?」

哀「あいあい!…戦うほどの気力は残ってませんが…」

常盤「へー、良いパンチじゃん…ただの人間のくせに」

明日香「これでも格闘技習ってたことあんのよ!…こんな使い方したくなかったけど…。それに、ここは夢の世界だしね!」

巡「明日香…!」

常盤「…そーいやお前は外の世界の人間だったなぁ。夢の世界だから何?何でも出来ると思ってる?」

明日香「思ってる!」

常盤「へー、ふーん…面白いじゃぁん。…さっきのメイドも生きてるし…お前らまとめて僕ちゃんが永眠させてやんよ!」

明日香「やれるものなら…やってみな!」

明日香、剣を構える。

常盤「ほへー、剣なんて扱えんの?刃物はあぶねーよ?僕ちゃんは短剣の二刀流だけど…結構強いから、残念でしたぁ♡」

巡「明日香、無理はしないで…!」

明日香「無理じゃない…。今此処で常盤を止めないと、この世界が…私の世界が危ないんでしょ?なら、此処で立ち向かわないでどうするのよ!」

巡「あ、すか……。うん!私は祈ります、明日香に聖女の加護があらん事を……!」

常盤「な、何!?…人間の胸元が光出した!?」

哀「あれって…巡様がお渡しした…ペンダント…?」

明日香「…暖かい…優しい光…これが、巡ちゃんの力?」

常盤「はっ、それが聖女の力か!じゃぁそいつを手に入れれば僕ちゃんにも聖女の、神の力が…!」

明日香「近寄るな。これが欲しけりゃ私から奪い取ってからよ」

常盤「ふっ、最初から…そのつもり、だっつーの!」

明日香「っ、はぁ!」

常盤「っ!?…へー、僕ちゃんの攻撃をかわしてからのカウンター?ちょっとはやるようじゃん…。いや、人間にしては一発が重い…お前マジで何者?」

明日香「朝日明日香…ただのパンピーよ。剣道も習ってた事はあったわね」

常盤「ふーん。なら、これはどう!?」

明日香「え、きゃぁ!」

哀「明日香様!」

巡「常盤…自分の羽根で明日香を突き飛ばした…!卑怯な…」

常盤「卑怯?タマの取り合いに卑怯もないって。生きるか死ぬか、強いか弱いか。世界は二択なんだよ」

明日香「…全てがそうじゃない…」

巡「明日香!………え」

常盤「おーっと、丈夫だねぇ……あ?」

明日香「答えはいつも自分で作って行くものなのよ!納得いかない選択肢しかないなら、納得の行く選択肢を自分で作れば良い。私は、弱くても今この瞬間だけ強くあればいいのよ!!」

常盤「白い…羽根が見える…何で、あいつは外の世界から来たとは言え、人間だろ!?」

哀「なんて美しい羽根……まるで天使様だわ……」

巡「…あぁ、貴方の魂は本当に真っ直ぐで美しい…。明日香!此処は貴方の夢の世界、何でも叶う!だから、世界に明日を見せるのです!」

明日香「何でも出来る…。ただの人間である私が選ばれた意味…教えてあげる!」

常盤「はやっ、ぐっ!?……くそっ、空に出て体制を立て直すか…」

明日香「逃すもんですか!」

常盤「くっそ、てめぇも飛べんのかよ!」

哀「巡様、常盤と明日香様が外に飛んでいきました!」

巡「明日香…頑張って…!」

①⑨

化野「ん…。何だ、城の塔から何か飛び出してきたぞ」

青嵐「え…あれは、常盤?」

未世「あいつ、聖女は自分が捕まえるから任せてとか言ってたくせに何してんスか!?」

轟「常盤を追ってるあの白い羽根の者は……え!?」

青嵐「明日香…!?は?あいつ何で空飛んでんだよ!?」

化野「…あぁ、あれが聖女の力か…」

未世「え、え?どういう事ッスか?」

化野「常盤を追ってるあの少女は先程の人間だ。俺達の革命を邪魔するこの国の救世主…」

未世「じゃぁ、私達の敵っスね!」

化野「だが……何だあの暖かい光は…」

轟「巡…、あの子の審眼には驚かされる…。本当に救世主じゃないか」

青嵐「…明日香にあんな力があったのか…。ふっ、負けてられないな!」

轟「化野、そろそろこの不毛な争いを終わらせよう。戦争は悲しみしか産まない…。お前だって分かってる事だろう?」

化野「俺はその悲しみから生まれた悪魔だ。いつまでも昔のままだと思うな。俺は…愛羅と共に死んだ」

青嵐「…先生、化野の言う愛羅とは何者なんですか?」

轟「……今は亡き奴の妻…女の悪魔だ」

青嵐「え!?」

化野「俺と愛羅の関係を夫婦としてくれてんのはお前だけだったな。他の奴等は俺と彼女を追い詰めた。俺だって最初は悪魔を嫌っていた。国を襲う悪き存在だからな。でも、愛羅は違った。俺を愛し、愛してくれた…理解してくれたのは…轟、お前だけだと思ってたが、結局お前も他と同じなんだよ。俺と共に人間と悪魔が共存できる世界にしようと約束したのに…お前は未だにそっちにいる……」

轟「やるべき事が出来ただけだ。お前の為に……」

化野「ただの尻拭いだろ?大袈裟に言うんじゃねぇよ、この裏切り者!」

轟「化野……」

②⓪

常盤「くっそ、しつこいなぁ!人間ごときが僕ちゃんの邪魔すんじゃねぇよ!」

明日香「あんたが悪い事するからでしょ!?その性根叩き直してあげるっ、わよ!」

常盤「ちっ、剣技は青嵐以下な筈なのに…、なんて馬鹿力だこの女…!」

明日香「巡ちゃんを…青嵐を傷付けて…二人のお父さんを殺したあんたは許さない!」

常盤「はぁ!?よそ者のくせに何熱くなってんだよ!?この世界で死んだらお前自身どうなるか分かんねぇのに、何でそこまで命張れんだぁ!?」

明日香「夢の中だからよ!」

常盤「はぁ!?…うぁ!……畜生…!人間ごときに負けてたまるかぁ、救世主だかなんだか知らねぇけど悪魔の恐ろしさを思い知らせてやる!ナイトメアは化野じゃなくて僕ちゃんなんだよぉ!!」

明日香「悪夢なんて好きで見たくないわよ!見るなら楽しい夢が良いに決まってる!あんたの強くなりたいって気持ちも夢でしょ、悪夢見せるよりその夢追った方が全然良いわよ!あんたは、賢い悪魔なんでしょ!?」

常盤「っ……!」

②①
回想

化野「お前達は賢いな」

未世「ほんと?あだしのさまぁ」

常盤「ぼくちゃんたち賢い?強いぃ?」

化野「あぁ、賢いし強いよ…。この世界を変えられる位な」


常盤「あっ……化野、様…」

明日香「常盤…、もうやめよう。この世界を悪夢で覆ってはダメ…」

常盤「に、人間ごときが…、僕ちゃんに口出すなぁ…」

明日香「人間とか悪魔とか関係ない…ナイトピアはこの世界に住むみんなの居場所でしょ…それを無くしちゃいけない」

常盤「あ、……」

明日香「常盤…」

常盤「……暖かい、光……」

巡「明日香…貴方の心はこの世界を照らし出す優しい太陽です。さぁ、ナイトピアに素敵な朝を迎えましょう!」

明日香「うん、巡ちゃん…。あんたも行こう。明日へさ」

常盤「う、………」

化野「これ以上、俺から奪うんじゃねぇよ…」

明日香「!?」

巡「化野!…ボロボロの羽根…、あの人悪魔の飛行能力まで手に入れてたの!?」

常盤「化野…様…」

明日香「常盤!私の手を取って!」

化野「悪魔である常盤にその光は毒だ!俺を信じろ!」

常盤「あ、あ…化野、さまぁ…僕ちゃ…僕…化野様…どうするの?助けてぇ…」

明日香「常盤!」

②②

巡「この世界に…聖女の祈りと救世主の心…互いに通わんとする時、全ての世界に祝福の朝よ巡れ…!」


明日香「わっ………うぅ、常盤、化野ぉ!」

常盤「うわぁ!」

化野「くっ…」


青嵐「…何だ、眩しいっ!?」

轟「明日香ちゃんの体が…いや、巡が渡したペンダントが、強く輝いてる…本物の太陽の様だ…」

未世「化野様…常盤…大丈夫なんスか?」


哀「……っ、光が収まった……あっ……」

巡「明日香…」

明日香「………」

巡「……抱えているのは…常盤?」

明日香「化野も掴もうとした…だけど、手を振り払われちゃった…。光の中、気付いたら化野だけ居なくなってた。ねぇ、化野は太陽の光は悪魔にとって毒って言った。本当なの?」

巡「…いいえ、光は人間にも悪魔にも平等です。この世界には必要な物なんです」

明日香「そっか…じゃぁ、常盤は今、眠ってるだけだよね…体温は感じる…」

哀「あ、明日香様…化野は…」

明日香「分かんない…もしかしたらあの高さから……」

哀「っ!?……私、探してきます!」

明日香「え、哀さん!?」

巡「哀……」

明日香「どうしたんだろ、哀さん」

巡「……明日香」

明日香「え」

巡「改めて、ありがとうございました。貴女のお陰でこの国に…世界に朝日が訪れます」

明日香「うん…。お役に立ててよかった!」

②③
森の中。

化野「はぁ……。もろに光を浴びちまった…眩しくて仕方ねぇな…。くそ…ふんばってたが、足も限界だな…愛羅…ごめんな…。俺の力じゃ変えられなかった……」

轟「随分ボロボロで倒れているが、限界か?化野」

化野「…あぁ、こうして口が動くのが奇跡だよ。最後を看取りに来たのか?轟」

轟「看取るのは私じゃない」

化野「は…?」

哀「化野…」

化野「お前は…確か城のメイド…か?」

轟「私の子供…正確には育ての親になる……言いたいことは分からないか?」

化野「……まさか、あの時お前に預けた……そんな、悪魔と人間だぞ!?生きれるはず」

哀「生きてるよ…私は生きてる。父が貴方だって事も知ってる。顔も…昔の写真だけど、轟さんに見せてもらった。母が悪魔なのも知ってる。どんな顔か分からないけど…轟さん曰く、目元が似てるんだって……」

化野「あ、愛…ら……」

哀「私は哀。哀だよ」

化野「あい…そ、うか…。大きくなったんだな…あい」

哀「うん、轟さんのお陰だよバカ親父…」

化野「は…最悪の、サプライズ…だ。死にたくないって…気持ちに…させやがって……」

轟「因果応報さ、愛羅によろしく」

化野「…轟、…未世と…常盤を…」

轟「あぁ、厳罰は降るが命までは取らない。お前の遺言なら私が叶えるよ」

哀「…さようなら…お父さん」

化野「………」

②④

青嵐「巡、明日香!」

明日香「青嵐!」

巡「お兄様、ご無事で?」

明日香「あんたもズタボロじゃない!大丈夫!?」

青嵐「なんて事ない…。それより…お前達を危険な目に合わせた事への罪悪感がひどい……」

明日香「そんな事ないよ!戦わないといけない状況だったんだから仕方ないって。青嵐だって頑張ったんでしょ?」

青嵐「うん…しかし、まだまだだと思い知らされた…。王になる為にはもっと強くないといけない…!」

明日香「…強いだけじゃなくて優しくもあって欲しいな」

青嵐「え…」

巡「明日香…」

明日香「強くて優しい人が国を支えて行く方が良いと思う。私や巡ちゃんみたいに♪」

青嵐「はぁ?」

明日香「それで、人間も悪魔も平和に暮らせる世界になって欲しい…。そんなナイトピアをさ、私は夢見たい…」

巡「…!」

青嵐「……あぁ、俺も…それを夢に…いや目的としてこの国を立て直す!」

明日香「期待してるわ、青嵐」

青嵐「任せろ」

巡「……あ」

明日香「どしたの?巡ちゃん」

巡「明日香の世界ももうすぐ朝日が登ります」

明日香「…て事はお別れか…。争いが終わったばかりだからか、みんなバタバタしてて哀さん達に会えてないのが心残りだなぁ…常盤もまだ眠ってるんでしょ?」

青嵐「未世は捕らえて、常盤は昏睡状態…化野は轟先生が看取った…。本当に争いが終わったんだな…。ま、他の悪魔達がまたいつ襲って来るか分からんから、油断は出来ないが……」

明日香「まだまだ物騒な感じが続きそうね」

巡「明日香…、このペンダント…まだ持ってて下さい」

明日香「え?」

巡「このペンダントは貴女の世界とこの世界を繋ぐ鍵です。だから…」

明日香「…私、また来てもいいの!?」

青嵐「おい、巡!そんな事出来るのかよ!?こいつを呼び寄せる事が出来たのはナイトメアを払う為だろ!?…何も無いのに呼び寄せるなんて…」

巡「呼びます!私が明日香と会いたいから!」

青嵐「…!」

明日香「巡ちゃん…」

巡「この世界はとっても美しいんです。森や川、貴方の世界にはいない生き物だっています…だから、だから…私が、呼ぶから…明日香に会いたい…もっと一緒にいたい…」

明日香「…!うん、呼んで。私は絶対巡ちゃんに会いに来る……約束!」

巡「うん、約束…!」

青嵐「…ふっ、明日香がまた来るまでに良い国にしといてやるよ」

明日香「楽しみにしてる!」

②⑤
現実世界、朝。

明日香母「明日香ー!明日香、まだ寝てるのー?朝ご飯冷めちゃうわよー」

明日香「ん……んぅ?」

明日香母「明日香ー!」

明日香「……ママの声?…朝、か。朝……カーテン開けよ……。んっ…眩しい……。…あっ…、朝!?私、起きて……あ、ペンダント!!」

引き出しからペンダントを取り出す。

明日香「…あっ、……ある。………え?こういうのって夢オチじゃないの?あるの?本当に貰っていいの?……夢じゃない。夢じゃなかった…。いや、夢だけど…あの世界での出来事は夢だけど、夢じゃなかった…!じゃあ、これを持っていればまたみんなに会える…それも嘘じゃなさそう!…嬉しい…」

明日香母「明日香、いい加減にしなさいー!?」

明日香「あ、ママ…はーい!今行くー!」

リビングへ向かう明日香。

明日香「明日が巡る。それは当たり前の事じゃなかった、私の日々はこれからも巡り続ける。きっとまた出会える、夢の世界のみんなもそうやって生きていくんだ」


明日香母「もう、やっと起きてきた。おはよう、随分ぐっすり眠れたのね?」

明日香「うん!ママ、おはよう!今日も良い日だね!」

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