77 / 263
第一幕 板東編
束の間の休息②
しおりを挟む
千紗と目が合った瞬間、慌てた様子で柱の陰に身を隠す女達。
「……あの者達は、よく食事を運びに来てくれる下女達ではないか」
「はい」
「あの者達が見張っている? それはどう言う意味だ」
「言葉通りの意味です。ああして良く、こちら側を覗き見ているのです」
「何の為に?」
「さぁ?」
「まさか小次郎に命じられて?」
「分かりません」
「小次郎め、あやつは一体何を考えている。小次郎はまだこの屋敷に戻って来てはおらぬのか?」
「四郎の話では兄上はもう数日、留守にされるそうにございます」
何やら急に真剣な様子で話す二人をよそに、未だ無視され続けている朱雀帝は、何とか二人の会話に割って入れないかと画策していた。
「あ、あの~姫様? 聞いておられましたか? 退屈なのでしたら是非私と遊んで――」
「数日とはいつまでじゃ? いったい奴は今何処にいる? 何処で何をしておるのじゃ? いつになったら帰ってくる?」
「さぁ? 俺に聞かれましても」
恐る恐る会話に割り込んだ朱雀帝だったが、残念ながらまたしても無視をされてしまう。
それでも諦めきれなかった朱雀帝は、今度は駄々っ子の如くわめきながら、必死に千紗の気を引こうと食らいついた。
「千紗姫、私の話も聞いてください。退屈なのでしたら是非この私と遊んで下さいませ!千紗姫!千紗姫!千紗姫様!!」
「客をほったらかして主が不在とは、無礼極まりないな!……ってチビ助、お主先程から五月蠅いぞ。今はお主と遊んでいる暇などないのだ」
流石の千紗も鬱陶しく思ったのか朱雀帝を窘める。
やっと千紗から返って来た反応に喜ぶ朱雀帝。
だが、あまりの理不尽な態度に反論せずにはいられない。
「えぇ? でも先程からその男には、暇だ暇だと言っていたではありませんか」
千紗のあんまりな仕打ちに、朱雀帝の瞳はうるうると潤みはじめていた。
「寛明様、残念ながら今、千紗姫様は虫の居所がお悪い様子。そう落ち込まずとも遊び相手ならばこの私がさせていただきますよ。さぁ、何をして遊びましょうか?」
するとそこに、落ち込む朱雀帝を慰めようと、もう一人口を挟んで来た人物が。
「……貞盛殿」
またややこしい人が入って来たなと、秋成はうんざり顔でその人物の名前を呼んだ。
そして更に――
「秋成の兄貴も大変だな~。クセ強なお貴族様達に振り回されて」
左側から聞こえてきた、新たな声に秋成が視線を向ける。
そこには、朱雀帝達とは反対側の几帳から、ひょっこりと顔を出す清太と春太郎、そしてヒナの姿があった。
いつの間に千紗の部屋から清太達の部屋へ移動していたのか、困り顔のヒナとは対照的に、清太と春太郎、二人の顔は明らかに面白がっている様子。
「お前達、笑ってないで俺を助けろ」
「え~やだよ、面倒臭い。それより兄貴、姫様じゃないけどおいら達もここに閉じこもってるのはもう飽きたし、喧嘩もうるさいからさ、ちょっと屋敷の中を探索してきても良い? 良いよね、別にやることもないし。ってなわけで、おいら達ちょっと行ってくるから、兄貴は引き続きお馬鹿な貴族様達の相手頑張ってね。ほら、行くぞ春太郎、ヒナ」
「あ、コラ清太、春太郎にヒナも! 俺だけ置いて逃げるなんて許さないぞ! 戻ってこいお前達!」
秋成の必死の懇願も虚しく、清太は春太郎とヒナを引き連れて、さっさと賑やかな部屋から逃げて行ってしまった。
「………くそ、あいつら……自分達だけまんまと逃げやがって」
「こら秋成~!!」
恨めしそうに清太達の背中を見送る秋成。
そんな彼の背中に千紗の怒声が飛ぶ。
「はいはい、何ですか、千紗姫様!」
全ての苛立ちを腹に押し込め、無理矢理笑顔を作ってみせた秋成は、千紗の方へと振り返る。
と、秋成の我慢も知らずに千紗は彼に追い打ちをかける一言を言い放った。
「清太達ばかりずるいぞ。私達も館の探索に出かけよう!」
――“ブチッ”
「何を薄気味悪い笑みを浮かべて固まっておる。ほらさっさと行くぞ秋成!」
――――“ブチブチッ”
「早く来ぬか秋成、置いていくぞ」
「待って下さいませ千紗姫。ならば私も、私も一緒に行きまする」
――――――“ブチブチブチッ”
みるみる笑顔を引きつらせ、誰が見ても分かる程はっきりと、こめかみにいくつもの青筋を浮かび上がらせた秋成。
そしてついに、必死に堪え続けた怒りが爆発する。
「あぁ~も~、いい加減にしてくださいよ! 少しは貴族の姫らしく大人しく、おしとやかにしてられないんですか?!」
秋成が怒鳴ると同時に、ドタンバタンと何かが倒れるような大きな物音があたりに響いた。
一体何事かと千紗達が一斉に音のした方を見ると、そこには先程からコソコソとこちらの様子を覗き見ていた屋敷の女達が、折り重なるようにして倒れていた。
「……あの者達は、よく食事を運びに来てくれる下女達ではないか」
「はい」
「あの者達が見張っている? それはどう言う意味だ」
「言葉通りの意味です。ああして良く、こちら側を覗き見ているのです」
「何の為に?」
「さぁ?」
「まさか小次郎に命じられて?」
「分かりません」
「小次郎め、あやつは一体何を考えている。小次郎はまだこの屋敷に戻って来てはおらぬのか?」
「四郎の話では兄上はもう数日、留守にされるそうにございます」
何やら急に真剣な様子で話す二人をよそに、未だ無視され続けている朱雀帝は、何とか二人の会話に割って入れないかと画策していた。
「あ、あの~姫様? 聞いておられましたか? 退屈なのでしたら是非私と遊んで――」
「数日とはいつまでじゃ? いったい奴は今何処にいる? 何処で何をしておるのじゃ? いつになったら帰ってくる?」
「さぁ? 俺に聞かれましても」
恐る恐る会話に割り込んだ朱雀帝だったが、残念ながらまたしても無視をされてしまう。
それでも諦めきれなかった朱雀帝は、今度は駄々っ子の如くわめきながら、必死に千紗の気を引こうと食らいついた。
「千紗姫、私の話も聞いてください。退屈なのでしたら是非この私と遊んで下さいませ!千紗姫!千紗姫!千紗姫様!!」
「客をほったらかして主が不在とは、無礼極まりないな!……ってチビ助、お主先程から五月蠅いぞ。今はお主と遊んでいる暇などないのだ」
流石の千紗も鬱陶しく思ったのか朱雀帝を窘める。
やっと千紗から返って来た反応に喜ぶ朱雀帝。
だが、あまりの理不尽な態度に反論せずにはいられない。
「えぇ? でも先程からその男には、暇だ暇だと言っていたではありませんか」
千紗のあんまりな仕打ちに、朱雀帝の瞳はうるうると潤みはじめていた。
「寛明様、残念ながら今、千紗姫様は虫の居所がお悪い様子。そう落ち込まずとも遊び相手ならばこの私がさせていただきますよ。さぁ、何をして遊びましょうか?」
するとそこに、落ち込む朱雀帝を慰めようと、もう一人口を挟んで来た人物が。
「……貞盛殿」
またややこしい人が入って来たなと、秋成はうんざり顔でその人物の名前を呼んだ。
そして更に――
「秋成の兄貴も大変だな~。クセ強なお貴族様達に振り回されて」
左側から聞こえてきた、新たな声に秋成が視線を向ける。
そこには、朱雀帝達とは反対側の几帳から、ひょっこりと顔を出す清太と春太郎、そしてヒナの姿があった。
いつの間に千紗の部屋から清太達の部屋へ移動していたのか、困り顔のヒナとは対照的に、清太と春太郎、二人の顔は明らかに面白がっている様子。
「お前達、笑ってないで俺を助けろ」
「え~やだよ、面倒臭い。それより兄貴、姫様じゃないけどおいら達もここに閉じこもってるのはもう飽きたし、喧嘩もうるさいからさ、ちょっと屋敷の中を探索してきても良い? 良いよね、別にやることもないし。ってなわけで、おいら達ちょっと行ってくるから、兄貴は引き続きお馬鹿な貴族様達の相手頑張ってね。ほら、行くぞ春太郎、ヒナ」
「あ、コラ清太、春太郎にヒナも! 俺だけ置いて逃げるなんて許さないぞ! 戻ってこいお前達!」
秋成の必死の懇願も虚しく、清太は春太郎とヒナを引き連れて、さっさと賑やかな部屋から逃げて行ってしまった。
「………くそ、あいつら……自分達だけまんまと逃げやがって」
「こら秋成~!!」
恨めしそうに清太達の背中を見送る秋成。
そんな彼の背中に千紗の怒声が飛ぶ。
「はいはい、何ですか、千紗姫様!」
全ての苛立ちを腹に押し込め、無理矢理笑顔を作ってみせた秋成は、千紗の方へと振り返る。
と、秋成の我慢も知らずに千紗は彼に追い打ちをかける一言を言い放った。
「清太達ばかりずるいぞ。私達も館の探索に出かけよう!」
――“ブチッ”
「何を薄気味悪い笑みを浮かべて固まっておる。ほらさっさと行くぞ秋成!」
――――“ブチブチッ”
「早く来ぬか秋成、置いていくぞ」
「待って下さいませ千紗姫。ならば私も、私も一緒に行きまする」
――――――“ブチブチブチッ”
みるみる笑顔を引きつらせ、誰が見ても分かる程はっきりと、こめかみにいくつもの青筋を浮かび上がらせた秋成。
そしてついに、必死に堪え続けた怒りが爆発する。
「あぁ~も~、いい加減にしてくださいよ! 少しは貴族の姫らしく大人しく、おしとやかにしてられないんですか?!」
秋成が怒鳴ると同時に、ドタンバタンと何かが倒れるような大きな物音があたりに響いた。
一体何事かと千紗達が一斉に音のした方を見ると、そこには先程からコソコソとこちらの様子を覗き見ていた屋敷の女達が、折り重なるようにして倒れていた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
3
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる