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第一幕 板東編
見えなかった真実
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小次郎と貞盛との間で、今後についての話がまとまりかけていた頃、その様子を群衆の最後尾から見守っていた千紗と秋成はと言えば、彼等の話し合いにある違和感を覚えていた――
「のう、秋成?」
「はい、姫様」
「今の小次郎達の話、私にはいまいち良く分からなかったのだが……」
「そうですか」
「小次郎は土地を奪われた事があるのか?」
「さあ?」
「ある者は、また卑怯な手を使って奪うつもりなのかと言っていたな。また何もせずに奪われるつもりなのかとも言っていた」
「はい」
「でも小次郎は、自身の伯父を殺めたと言っていたはず。何も抵抗していないのなら、何故そのような事になったのだ?」
「……さぁ、俺には分かりません」
「そうだろう? 分からぬのだ。私にも分からない。私の訊いた話とは、何かが食い違っていて……いったい何がどうなっているのだ? 今まで訊いて来た話の何が真実か、私には分からない。なぁ秋成、教えてくれ。この二年の間に、小次郎に一体何があったのだ? 何があって伯父を殺めるような事になったのだ? 私にも分かるように教えてくれ」
「…………」
それまで淡々と、短くはあったが千紗からの疑問に返事だけは返していた秋成。
だが、それ以上を求められても、わからないことはわからないと答えることしか出来なくて、秋成は口を閉ざした。
「秋成、何故黙り込む。私の質問に答えよ!」
なかなか返事をしない秋成に、千紗の口調も強いものとなる。
今まで見えていなかった何かが見えそうで、でもはっきりと見る事のできない現状がもどかしくて、秋成を困らせている事に気付いていながらも焦る気持ちがつい感情となって乗ってしまったのだ。
そんな千紗の隠せない怒りに触れ、傍で二人の会話を訊いていた朱雀帝が恐怖に後退る。
――と、突然背中に何かぶつかるものがあって、驚き振り返ると、そこには白髪交じりの男が立っていた。
男は朱雀帝に向かってニッコリと穏やかに微笑んで見せた後、千紗達に向かってこう声を掛けた。
「では私が、教えてさしあげましょう」と。
二人の会話に割って入った第三者からの突然の呼びかけに、千紗と秋成もまた驚いた顔で声の方へと振り返った。
そこに立っていたのは――
「か、景行殿?! なぜここに」
四郎と千紗が師と仰ぐ、菅原景行。
驚く二人とは対照的に、景行は穏やかな口調でこう続けた。
「いえいえ、私も今の小次郎殿達の話合いの中にいたのですがね、なにやらコソコソした様子の貴方達の姿が見えたものですから、少し気になって」
「う……コソコソしていた事まで見抜かれているとは。群衆に紛れて上手く隠れていたつもりだったが、もしや私達の姿は周りから浮いて見えているのか? 小次郎にも気付かれてしまっただろうか?」
たじたじしながら恐る恐る訊ねる千紗に、ただ無言で微笑みを浮かべる景行。
「その笑顔はどっちなのだ、景行殿?」
肯定か否定か、判断のつきかねる景行の反応に、千紗はガクンと頭を垂れた。
「のう、秋成?」
「はい、姫様」
「今の小次郎達の話、私にはいまいち良く分からなかったのだが……」
「そうですか」
「小次郎は土地を奪われた事があるのか?」
「さあ?」
「ある者は、また卑怯な手を使って奪うつもりなのかと言っていたな。また何もせずに奪われるつもりなのかとも言っていた」
「はい」
「でも小次郎は、自身の伯父を殺めたと言っていたはず。何も抵抗していないのなら、何故そのような事になったのだ?」
「……さぁ、俺には分かりません」
「そうだろう? 分からぬのだ。私にも分からない。私の訊いた話とは、何かが食い違っていて……いったい何がどうなっているのだ? 今まで訊いて来た話の何が真実か、私には分からない。なぁ秋成、教えてくれ。この二年の間に、小次郎に一体何があったのだ? 何があって伯父を殺めるような事になったのだ? 私にも分かるように教えてくれ」
「…………」
それまで淡々と、短くはあったが千紗からの疑問に返事だけは返していた秋成。
だが、それ以上を求められても、わからないことはわからないと答えることしか出来なくて、秋成は口を閉ざした。
「秋成、何故黙り込む。私の質問に答えよ!」
なかなか返事をしない秋成に、千紗の口調も強いものとなる。
今まで見えていなかった何かが見えそうで、でもはっきりと見る事のできない現状がもどかしくて、秋成を困らせている事に気付いていながらも焦る気持ちがつい感情となって乗ってしまったのだ。
そんな千紗の隠せない怒りに触れ、傍で二人の会話を訊いていた朱雀帝が恐怖に後退る。
――と、突然背中に何かぶつかるものがあって、驚き振り返ると、そこには白髪交じりの男が立っていた。
男は朱雀帝に向かってニッコリと穏やかに微笑んで見せた後、千紗達に向かってこう声を掛けた。
「では私が、教えてさしあげましょう」と。
二人の会話に割って入った第三者からの突然の呼びかけに、千紗と秋成もまた驚いた顔で声の方へと振り返った。
そこに立っていたのは――
「か、景行殿?! なぜここに」
四郎と千紗が師と仰ぐ、菅原景行。
驚く二人とは対照的に、景行は穏やかな口調でこう続けた。
「いえいえ、私も今の小次郎殿達の話合いの中にいたのですがね、なにやらコソコソした様子の貴方達の姿が見えたものですから、少し気になって」
「う……コソコソしていた事まで見抜かれているとは。群衆に紛れて上手く隠れていたつもりだったが、もしや私達の姿は周りから浮いて見えているのか? 小次郎にも気付かれてしまっただろうか?」
たじたじしながら恐る恐る訊ねる千紗に、ただ無言で微笑みを浮かべる景行。
「その笑顔はどっちなのだ、景行殿?」
肯定か否定か、判断のつきかねる景行の反応に、千紗はガクンと頭を垂れた。
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