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第一幕 板東編
仲間割れ
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――小次郎軍・陣営
小次郎が不在の中、小次郎軍の陣営では四郎と玄明の激しい言い争いの声が響いていた。
「おい、おっさん! あんた何勝手な事してくれたんだ」
「は? 何の事だ。俺様が一体何をしたって言うんだ」
「あの炎だよ! 館を真っ赤に染めてるあの炎だよ! あんた、勝手に火計を仕掛けただろ。何て事をしてくれたんだ!」
「それがどうした。お前達がいつまでもグズグズしてるから、仕方なく俺様が敵を挑発してやったんだろ。これでやっと戦況が動く。感謝して欲しいくらいだ」
「感謝って、ふざけんな! あんた、自分が仕出かした事の重大さ分かってる? あんたのせいで俺達国の反逆者になるかもしれないんだぞ」
「かもしれないだろ。未確定の要素をいちいち喚くなよ。戦において迷いは命取りになる。勝ちが見えてるのに何故躊躇う必要がある? とっとと覚悟を決めて最後のとどめをさしに行こうじゃねぇか」
「んな無責任な……おっさん、ホント疫病神……」
「何? この俺様が疫病神だと?! 聞き捨てならねぇな。俺様のどこが疫病神だって言うんだ!」
よかれと思ってした行動を、疫病神扱いされカチンと来たらしい玄明は、手に持っていた弓矢を乱暴に投げ捨てると、四郎に向かって掴みかかった。
掴まれた四郎もまた玄明の胸ぐらを掴んで睨み付ける。
「俺達の事情も、周りの意見も訊かずに勝手に突っ走る所がだよ! 余所者のくせに、余計な事してくれるな」
「お前っ……あぁ、あぁ、確かに俺様は余所者だよ。でも余所者の俺様が掴んだ情報があったからこそ敵をここまで追い詰める事が出来たんだろ」
「確かに情報には感謝してる。けど、それとこれとは話が別だ」
今にも殴りあいの喧嘩が始まりそうな二人に、兵士達はおろおろと、ただ見守る事しか出来なかった。
と、その時突然に、少し離れた場所から喧嘩をする二人の名を呼ぶ声が聞こえた。
「四郎っ! 玄明っっ! お前達何をしている? あの炎は何だ? 俺がいない間にいったい何があった?」
皆が一斉に振り返った先には、血相を変えて駆け寄ってくる小次郎の姿があって、大将の帰還に兵士達は皆安堵した。
そして四郎もまた、戸惑いと喜びの声を上げた。
「兄貴っ!!」
「四郎、説明しろ。俺の居ぬ間に一体何があった? 何故館が燃えている?」
「……これは……実は俺が少し目を離した隙にこのおっさんが勝手に下野守様の邸に火矢を放って……ごめん兄貴……勝手な事して本当にごめんよ……」
「玄明が? ではこの炎は伯父上達が自ら放ったわけではないのだな」
「伯父貴が? 違う違う。全て何もかもこの疫病神のおっさんが原因だよ」
小次郎の疑念を完全に否定した四郎。彼の話を聞くなり小次郎は、二人を咎めるでもなく突然に、四郎と玄明の脇をすり抜け燃え盛る屋敷へ向かって一人走って行ってしまった。
「………え? ちょ……兄貴?! どこ行くつもりだよ?」
小次郎が不在の中、小次郎軍の陣営では四郎と玄明の激しい言い争いの声が響いていた。
「おい、おっさん! あんた何勝手な事してくれたんだ」
「は? 何の事だ。俺様が一体何をしたって言うんだ」
「あの炎だよ! 館を真っ赤に染めてるあの炎だよ! あんた、勝手に火計を仕掛けただろ。何て事をしてくれたんだ!」
「それがどうした。お前達がいつまでもグズグズしてるから、仕方なく俺様が敵を挑発してやったんだろ。これでやっと戦況が動く。感謝して欲しいくらいだ」
「感謝って、ふざけんな! あんた、自分が仕出かした事の重大さ分かってる? あんたのせいで俺達国の反逆者になるかもしれないんだぞ」
「かもしれないだろ。未確定の要素をいちいち喚くなよ。戦において迷いは命取りになる。勝ちが見えてるのに何故躊躇う必要がある? とっとと覚悟を決めて最後のとどめをさしに行こうじゃねぇか」
「んな無責任な……おっさん、ホント疫病神……」
「何? この俺様が疫病神だと?! 聞き捨てならねぇな。俺様のどこが疫病神だって言うんだ!」
よかれと思ってした行動を、疫病神扱いされカチンと来たらしい玄明は、手に持っていた弓矢を乱暴に投げ捨てると、四郎に向かって掴みかかった。
掴まれた四郎もまた玄明の胸ぐらを掴んで睨み付ける。
「俺達の事情も、周りの意見も訊かずに勝手に突っ走る所がだよ! 余所者のくせに、余計な事してくれるな」
「お前っ……あぁ、あぁ、確かに俺様は余所者だよ。でも余所者の俺様が掴んだ情報があったからこそ敵をここまで追い詰める事が出来たんだろ」
「確かに情報には感謝してる。けど、それとこれとは話が別だ」
今にも殴りあいの喧嘩が始まりそうな二人に、兵士達はおろおろと、ただ見守る事しか出来なかった。
と、その時突然に、少し離れた場所から喧嘩をする二人の名を呼ぶ声が聞こえた。
「四郎っ! 玄明っっ! お前達何をしている? あの炎は何だ? 俺がいない間にいったい何があった?」
皆が一斉に振り返った先には、血相を変えて駆け寄ってくる小次郎の姿があって、大将の帰還に兵士達は皆安堵した。
そして四郎もまた、戸惑いと喜びの声を上げた。
「兄貴っ!!」
「四郎、説明しろ。俺の居ぬ間に一体何があった? 何故館が燃えている?」
「……これは……実は俺が少し目を離した隙にこのおっさんが勝手に下野守様の邸に火矢を放って……ごめん兄貴……勝手な事して本当にごめんよ……」
「玄明が? ではこの炎は伯父上達が自ら放ったわけではないのだな」
「伯父貴が? 違う違う。全て何もかもこの疫病神のおっさんが原因だよ」
小次郎の疑念を完全に否定した四郎。彼の話を聞くなり小次郎は、二人を咎めるでもなく突然に、四郎と玄明の脇をすり抜け燃え盛る屋敷へ向かって一人走って行ってしまった。
「………え? ちょ……兄貴?! どこ行くつもりだよ?」
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