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第一幕 板東編
敵も味方も
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予想もしていなかった小次郎軍の行動に、良兼軍の兵士達は互いに顔を見合わせては怪訝そうに首をかしげた。
そして外へと逃れる事も出来たはずなのに、誰が言い出したわけでもなく一人、また一人と小次郎軍の後を追って彼等もまた屋敷の奥へと駆け出して行く。
「千紗、あったぞ!井戸だ!」
「よし! 出かしたぞ小次郎! では皆の者、ここへ10人一組になって並べ。良いか、井戸から組み上げた水を人の手から手へ、前へ前へと送っていくのだ!」
「はい、千紗姫様!小次郎様!!」
追いかけた先で、不思議な光景を目撃する。
1人の少女の命により、井戸の前にはあっと言う間に綺麗な列が形成され、井戸から組み上げた水を兵士達が被っていた笠に注ぎ入れたかと思うと、それを人の手から手へと渡して行くのだ。
そして手渡された笠は前へ前へと送られて、最前列に立つ者達は火の手が上がる場所へ向けてその水をかける。
何度となく繰り返されるその作業に、良兼軍の兵士達も小次郎軍が必死になって屋敷に上がる火の手を消そうとしているのだと言う事が分かった。
けれど、一つだけ分からない事があった。何故彼等は、自らが放ったはずの火を消火しようとしているのか。
良兼軍の兵士達は小次郎達の行動が理解出来なくて、ただただ呆然と彼等の姿を見守っていた。
「お主達、何をぼーっと突っ立っておる!」
「「「………えぇ?」」」
そんな良兼軍の兵士達に、千紗から罵声が飛ばされた。
「えぇ? ではない! ぼーっと突っ立っている暇があるのなら、お主達も手伝え! 皆でこの火を止めるのだ!」
「と、止めるって……どうして敵軍のあなた達がそんな事……」
「それが我等が大将の望みだからだ。敵も味方も誰にも死んで欲しくないと言うな。だから私達はここに来た。主等を助ける為にここへ来たのだ」
嘘偽りなど微塵も感じられない力強い物言いに、一瞬呆気にとられる良兼軍の兵士達。
だが、千紗の放った言葉に鼓舞されるように、一度光を失ったはずの彼等の瞳には、再び生きる為の希望の光が宿り始めていた。
「……よ、よし! やるぞ! おいら達もやってやるぞ!!」
そして一人の兵士が、声を上げる。
「お、おう!皆であの炎を止めるぞ!!」
一人の勇気に背中を押されるようにまた一人、また一人と声を上げて行く良兼軍の兵士達。敵であった筈の彼等も加わって、敵味方入り交じっての消火活動が始まった。
「そうだ、その意気だ! 幸い天は私達の味方。皆で生きてここを出ようぞ!!」
千紗の励ましの声に呼応するかのように、空から降る恵みの雨は、更に激しさを増して行く――
「すまない、千紗」
「どうした小次郎?」
敵も味方も一丸となって消火活動に励む中、小次郎が隊列を抜け出し千紗の元へとやってくる。
「悪いが少しの間、お前にこの場を任せても良いか」
「それは構わぬが、お主はどうするつもりだ?」
「良兼伯父上と良正叔父上の姿が見えないんだ。もしかしたら二人はまだ屋敷の中に取り残されているのかもしれない」
「何、誠か?」
「あぁ……。だから俺は屋敷の中を探してくる。その間お前にこの場を任せたい。頼んだぞ千紗」
「ま、待て、小次郎……」
千紗の返事も聞かずに小次郎は一人隊を離れて、良兼と良正、二人の伯父を探しに、まだ火の手の上がる建物の内部へと駆け出して行く。
「小次郎っ!」
遠ざかって行く小次郎の背中に向けて再び大きな声で彼の名を呼んだ千紗。
だが千紗の呼ぶ声に小次郎が振り返る事はなかった。
仕方なく千紗は小次郎の無事を天に祈った。
「……死んではならぬぞ小次郎……死んではならぬ。あぁ神様……どうか小次郎を……小次郎の伯父上達をお守り下さい」
千紗が一人小さく漏らしたその願いを、すぐ近くで聞いていた朱雀帝が小さな声で千紗の名を呼ぶ。
「千紗……姫様………」
だが、どんなに近くにいても今の千紗には朱雀帝の声など聞こえてはいない。
自分の存在など見えてはいないのだと思い知らされる。
込み上げてくる嫉妬心から、朱雀帝は寂しげな瞳で千紗を見つめていた。
そして外へと逃れる事も出来たはずなのに、誰が言い出したわけでもなく一人、また一人と小次郎軍の後を追って彼等もまた屋敷の奥へと駆け出して行く。
「千紗、あったぞ!井戸だ!」
「よし! 出かしたぞ小次郎! では皆の者、ここへ10人一組になって並べ。良いか、井戸から組み上げた水を人の手から手へ、前へ前へと送っていくのだ!」
「はい、千紗姫様!小次郎様!!」
追いかけた先で、不思議な光景を目撃する。
1人の少女の命により、井戸の前にはあっと言う間に綺麗な列が形成され、井戸から組み上げた水を兵士達が被っていた笠に注ぎ入れたかと思うと、それを人の手から手へと渡して行くのだ。
そして手渡された笠は前へ前へと送られて、最前列に立つ者達は火の手が上がる場所へ向けてその水をかける。
何度となく繰り返されるその作業に、良兼軍の兵士達も小次郎軍が必死になって屋敷に上がる火の手を消そうとしているのだと言う事が分かった。
けれど、一つだけ分からない事があった。何故彼等は、自らが放ったはずの火を消火しようとしているのか。
良兼軍の兵士達は小次郎達の行動が理解出来なくて、ただただ呆然と彼等の姿を見守っていた。
「お主達、何をぼーっと突っ立っておる!」
「「「………えぇ?」」」
そんな良兼軍の兵士達に、千紗から罵声が飛ばされた。
「えぇ? ではない! ぼーっと突っ立っている暇があるのなら、お主達も手伝え! 皆でこの火を止めるのだ!」
「と、止めるって……どうして敵軍のあなた達がそんな事……」
「それが我等が大将の望みだからだ。敵も味方も誰にも死んで欲しくないと言うな。だから私達はここに来た。主等を助ける為にここへ来たのだ」
嘘偽りなど微塵も感じられない力強い物言いに、一瞬呆気にとられる良兼軍の兵士達。
だが、千紗の放った言葉に鼓舞されるように、一度光を失ったはずの彼等の瞳には、再び生きる為の希望の光が宿り始めていた。
「……よ、よし! やるぞ! おいら達もやってやるぞ!!」
そして一人の兵士が、声を上げる。
「お、おう!皆であの炎を止めるぞ!!」
一人の勇気に背中を押されるようにまた一人、また一人と声を上げて行く良兼軍の兵士達。敵であった筈の彼等も加わって、敵味方入り交じっての消火活動が始まった。
「そうだ、その意気だ! 幸い天は私達の味方。皆で生きてここを出ようぞ!!」
千紗の励ましの声に呼応するかのように、空から降る恵みの雨は、更に激しさを増して行く――
「すまない、千紗」
「どうした小次郎?」
敵も味方も一丸となって消火活動に励む中、小次郎が隊列を抜け出し千紗の元へとやってくる。
「悪いが少しの間、お前にこの場を任せても良いか」
「それは構わぬが、お主はどうするつもりだ?」
「良兼伯父上と良正叔父上の姿が見えないんだ。もしかしたら二人はまだ屋敷の中に取り残されているのかもしれない」
「何、誠か?」
「あぁ……。だから俺は屋敷の中を探してくる。その間お前にこの場を任せたい。頼んだぞ千紗」
「ま、待て、小次郎……」
千紗の返事も聞かずに小次郎は一人隊を離れて、良兼と良正、二人の伯父を探しに、まだ火の手の上がる建物の内部へと駆け出して行く。
「小次郎っ!」
遠ざかって行く小次郎の背中に向けて再び大きな声で彼の名を呼んだ千紗。
だが千紗の呼ぶ声に小次郎が振り返る事はなかった。
仕方なく千紗は小次郎の無事を天に祈った。
「……死んではならぬぞ小次郎……死んではならぬ。あぁ神様……どうか小次郎を……小次郎の伯父上達をお守り下さい」
千紗が一人小さく漏らしたその願いを、すぐ近くで聞いていた朱雀帝が小さな声で千紗の名を呼ぶ。
「千紗……姫様………」
だが、どんなに近くにいても今の千紗には朱雀帝の声など聞こえてはいない。
自分の存在など見えてはいないのだと思い知らされる。
込み上げてくる嫉妬心から、朱雀帝は寂しげな瞳で千紗を見つめていた。
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