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第一幕 京•帰還編
嵐を呼ぶかもしれない男
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小次郎を見送るべく、千紗と秋成、キヨ、ヒナの5人が屋敷の正面門を目指して、広い屋敷の廊下を歩いていると、ふと前から見慣れない白髪の老夫が歩いてくる姿に気が付いた。
彼の後ろには、鮮やかな反物を山のように抱えて運ぶ従者が続く。
「見慣れぬ者だな」
「あの方が、先程忠平様が仰っていた来客者ではないですか?」
千紗の疑問に、キヨが耳打ちする。
「っ……………」
そんな二人の隣で、小次郎が突然に歩みを止めた。
「小次郎?」
小次郎は、どこか緊張した面持ちで、近づいてくるその人物を瞳に写している。
小次郎の緊張が伝わって千紗は息を呑んだ。
「これはこれは将門殿。このような所でお会いするとは」
「……………護殿……」
護と呼ばれたその老夫は、穏やかに微笑みながら、小次郎に話し掛ける。
だが、そんな老夫とは対照的に、小次郎の表情は堅い。
「そなたも太政大臣様に挨拶を?」
「…………」
「あぁ、そう言えば将門殿は京に居た頃、太政大臣様の下で働いていたと、前に婿殿から訊いた事があったな。そなたのような田舎の荒くれものをも下働きとは言え家来に迎え入れるとは、太政大臣様は余程器の大きな方のようだ」
「…………」
「謀反の疑いで訴えられている人間がここにいると言う事は、あの方の器量につけこんで、罪を間逃れるおつもりですかな?」
「……いえ。そのようなつもりは……。俺はただ……」
「言い訳とは見苦しい。……まぁ良いでしょう。そなたが我が息子にしでかした事。その罪の報いは必ず受けてもらいますぞ」
穏やかな表情はどこへやら。
小次郎と言葉を交わすうちに、老夫の表情は憎しみに満ちたものへ変わって行った。
「今のうちに、せいぜい惨めに命乞いでもしていろ」
最後に一言、そう吐き捨てると、千紗達の脇をすっとすり抜け、護は屋敷の中へと消えて行く。
「…………」
「小次郎、今の者は?」
「あ、あぁ。源護殿だ。確か下野の国府で、千紗は一度会っていたか。あの時の姫君、杏子姫の父上だ」
「あぁ、あの綺麗な姫君の。ではあの者も坂東の者か。坂東人が、何故京に?」
「あの方も、俺を訴えた一人だからな。下野国府と、あの方の訴えで、俺は京に呼ばれたんだ」
「あの老夫も当事者の一人なのか? お主、あの者に何をしたんだ。相当にお主を恨んでいるいるように見えたが」
「……あぁ。あの方の御子息を……二人殺した……」
「えぇ?!」
小次郎の口からなされた驚きの告白に、千紗は思わず声を大きくして驚いた。
「国香の叔父上との戦のおり、国香の叔父上の援軍には護殿の御子息が駆け付けていたんだ。その時に俺は、叔父上だけでなく、護殿の御子息も殺した。だから護殿は俺を訴えたんだ。それだけじゃないな。杏子姫の事も……。あの方は俺をもの凄く恨んでいる」
「………お主には謀反の疑いの他にも、そんな罪状もあったのか? 知らなかったぞ私は! 何故言わなかった!」
「……すまない。どうしてもお前達には……知られたくなかったから……」
「ふん。まぁ良い。過ぎた事をいちいち責めても仕方ない。お主の事だ。叔父との争いに、あの老父の子を巻き込み見殺しにてしまった事、散々に思い悩み今も苦しんでいるのだろう。そんなお前をこれ以上攻めても仕方あるまい」
「…………」
「だが解せぬな。何故護と言うあの老人は、父上の元を訪ねて来たのだ?」
「それはきっと…………」
何かをいいかけて、小次郎は言葉を躊躇った。
小次郎の様子に、千紗もまた、それ以上聞く事はしなかった。
立ち話を止めて、最初の目的通り小次郎を見送るべく、千紗達は屋敷の正面門まで歩みを進めた。
彼の後ろには、鮮やかな反物を山のように抱えて運ぶ従者が続く。
「見慣れぬ者だな」
「あの方が、先程忠平様が仰っていた来客者ではないですか?」
千紗の疑問に、キヨが耳打ちする。
「っ……………」
そんな二人の隣で、小次郎が突然に歩みを止めた。
「小次郎?」
小次郎は、どこか緊張した面持ちで、近づいてくるその人物を瞳に写している。
小次郎の緊張が伝わって千紗は息を呑んだ。
「これはこれは将門殿。このような所でお会いするとは」
「……………護殿……」
護と呼ばれたその老夫は、穏やかに微笑みながら、小次郎に話し掛ける。
だが、そんな老夫とは対照的に、小次郎の表情は堅い。
「そなたも太政大臣様に挨拶を?」
「…………」
「あぁ、そう言えば将門殿は京に居た頃、太政大臣様の下で働いていたと、前に婿殿から訊いた事があったな。そなたのような田舎の荒くれものをも下働きとは言え家来に迎え入れるとは、太政大臣様は余程器の大きな方のようだ」
「…………」
「謀反の疑いで訴えられている人間がここにいると言う事は、あの方の器量につけこんで、罪を間逃れるおつもりですかな?」
「……いえ。そのようなつもりは……。俺はただ……」
「言い訳とは見苦しい。……まぁ良いでしょう。そなたが我が息子にしでかした事。その罪の報いは必ず受けてもらいますぞ」
穏やかな表情はどこへやら。
小次郎と言葉を交わすうちに、老夫の表情は憎しみに満ちたものへ変わって行った。
「今のうちに、せいぜい惨めに命乞いでもしていろ」
最後に一言、そう吐き捨てると、千紗達の脇をすっとすり抜け、護は屋敷の中へと消えて行く。
「…………」
「小次郎、今の者は?」
「あ、あぁ。源護殿だ。確か下野の国府で、千紗は一度会っていたか。あの時の姫君、杏子姫の父上だ」
「あぁ、あの綺麗な姫君の。ではあの者も坂東の者か。坂東人が、何故京に?」
「あの方も、俺を訴えた一人だからな。下野国府と、あの方の訴えで、俺は京に呼ばれたんだ」
「あの老夫も当事者の一人なのか? お主、あの者に何をしたんだ。相当にお主を恨んでいるいるように見えたが」
「……あぁ。あの方の御子息を……二人殺した……」
「えぇ?!」
小次郎の口からなされた驚きの告白に、千紗は思わず声を大きくして驚いた。
「国香の叔父上との戦のおり、国香の叔父上の援軍には護殿の御子息が駆け付けていたんだ。その時に俺は、叔父上だけでなく、護殿の御子息も殺した。だから護殿は俺を訴えたんだ。それだけじゃないな。杏子姫の事も……。あの方は俺をもの凄く恨んでいる」
「………お主には謀反の疑いの他にも、そんな罪状もあったのか? 知らなかったぞ私は! 何故言わなかった!」
「……すまない。どうしてもお前達には……知られたくなかったから……」
「ふん。まぁ良い。過ぎた事をいちいち責めても仕方ない。お主の事だ。叔父との争いに、あの老父の子を巻き込み見殺しにてしまった事、散々に思い悩み今も苦しんでいるのだろう。そんなお前をこれ以上攻めても仕方あるまい」
「…………」
「だが解せぬな。何故護と言うあの老人は、父上の元を訪ねて来たのだ?」
「それはきっと…………」
何かをいいかけて、小次郎は言葉を躊躇った。
小次郎の様子に、千紗もまた、それ以上聞く事はしなかった。
立ち話を止めて、最初の目的通り小次郎を見送るべく、千紗達は屋敷の正面門まで歩みを進めた。
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