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第一幕 京•帰還編
深い闇
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――それから、3ヶ月の時が流れた。
気がつけば暦は1月。
年を跨いでも未だ、小次郎と良兼の裁判には決着がつかず、長引いていた。
開始当初は小次郎に同情する声が多かった裁判も、長引く程に良兼、護有利へと情勢は変わっていく。
ついには『将門謀反により処刑』と京中で噂されるまでになっていた。
「父上!これはいったいどういう事ですか?!」
「落ち着け、千紗」
「落ち着いてなどいられません! このままでは小次郎が……」
そんな不穏な噂達に、千紗の焦りは最高潮に達していた。
そして、何も出来ない無力な自分へ対しての苛立ちもまた高まっていた。
「何度も申しているように、小次郎はただ、攻められたから仕方なく戦に応戦しただけなのです。下野国司の屋敷に火を放ったのだって小次郎の意思ではなかった! 小次郎に謀反の意思など無かった! その証拠に、屋敷の火を消し止めたのは小次郎ですよ。そう私は何度も何度も説明しているのに……なのに何故……何故小次郎の疑いは晴れないのですか!」
「言ったであろう。この戦い、小次郎にとっては厳しいものになると」
「だから何故! 裁判が始まった当初は小次郎への同情の声が多かったはず。それなのにどうして今世間は、小次郎の味方をしてくれなくなったのですか?」
「それは………」
「それは、何ですか父上? 父上はその理由を知っているのですか?」
「………………」
「教えて下さい父上! 今、朝廷で何が起きているのか!」
「…………それは………良兼、護の両名は、裁判に関わる官僚達に………賄賂をばらまいているからだ。己に味方するよう、賄賂で官僚達を懐柔しているからだ」
「なっ………」
忠平の言葉に、3か月前、父の元を訪ねて来た護の姿を思い出す。
「………そ……んな……」
千紗は衝撃を受けた。
「そんな………では、なんのための裁判ですか? 何の為の朝廷ですか。何のための……法があるのに、その法が機能していないなんて……」
「そうだな。己の都合で法をねじ曲げていては、法などあってないようなもの。だが、これが朝廷だ。これが今の私達の実体だ……」
そう語る忠平の表情はとても寂しげで、悔しげで
「変わらぬな。ここは昔から何も変わらぬ……。道真を太宰府へ追いやったあの頃から何も……」
未だ友と交わした約束を果たせずにいる現状に、太政大臣として無力な己に、罰を与えるかの如く悔しげに唇を噛みしめる。
「では、小次郎を助ける方法は何も?」
突きつけられた現実に、千紗達はなす統べなく立ち尽くす事しか出来なかった。
――『小次郎、お前の無実は、京で私が説明する。お主の事は必ず私が守ってやる!だから、大船に乗ったつもりでいろ!!』
約束したのに。
必ず守ると、約束したのに……
小次郎の為に、自分は何もしてやれない。
ただ、嘆く事しか出来ない。
無力な己が悔しくて仕方ない。
何か無いのだろうか?
小次郎の為に自分がしてやれる事は……何か……
気がつけば暦は1月。
年を跨いでも未だ、小次郎と良兼の裁判には決着がつかず、長引いていた。
開始当初は小次郎に同情する声が多かった裁判も、長引く程に良兼、護有利へと情勢は変わっていく。
ついには『将門謀反により処刑』と京中で噂されるまでになっていた。
「父上!これはいったいどういう事ですか?!」
「落ち着け、千紗」
「落ち着いてなどいられません! このままでは小次郎が……」
そんな不穏な噂達に、千紗の焦りは最高潮に達していた。
そして、何も出来ない無力な自分へ対しての苛立ちもまた高まっていた。
「何度も申しているように、小次郎はただ、攻められたから仕方なく戦に応戦しただけなのです。下野国司の屋敷に火を放ったのだって小次郎の意思ではなかった! 小次郎に謀反の意思など無かった! その証拠に、屋敷の火を消し止めたのは小次郎ですよ。そう私は何度も何度も説明しているのに……なのに何故……何故小次郎の疑いは晴れないのですか!」
「言ったであろう。この戦い、小次郎にとっては厳しいものになると」
「だから何故! 裁判が始まった当初は小次郎への同情の声が多かったはず。それなのにどうして今世間は、小次郎の味方をしてくれなくなったのですか?」
「それは………」
「それは、何ですか父上? 父上はその理由を知っているのですか?」
「………………」
「教えて下さい父上! 今、朝廷で何が起きているのか!」
「…………それは………良兼、護の両名は、裁判に関わる官僚達に………賄賂をばらまいているからだ。己に味方するよう、賄賂で官僚達を懐柔しているからだ」
「なっ………」
忠平の言葉に、3か月前、父の元を訪ねて来た護の姿を思い出す。
「………そ……んな……」
千紗は衝撃を受けた。
「そんな………では、なんのための裁判ですか? 何の為の朝廷ですか。何のための……法があるのに、その法が機能していないなんて……」
「そうだな。己の都合で法をねじ曲げていては、法などあってないようなもの。だが、これが朝廷だ。これが今の私達の実体だ……」
そう語る忠平の表情はとても寂しげで、悔しげで
「変わらぬな。ここは昔から何も変わらぬ……。道真を太宰府へ追いやったあの頃から何も……」
未だ友と交わした約束を果たせずにいる現状に、太政大臣として無力な己に、罰を与えるかの如く悔しげに唇を噛みしめる。
「では、小次郎を助ける方法は何も?」
突きつけられた現実に、千紗達はなす統べなく立ち尽くす事しか出来なかった。
――『小次郎、お前の無実は、京で私が説明する。お主の事は必ず私が守ってやる!だから、大船に乗ったつもりでいろ!!』
約束したのに。
必ず守ると、約束したのに……
小次郎の為に、自分は何もしてやれない。
ただ、嘆く事しか出来ない。
無力な己が悔しくて仕方ない。
何か無いのだろうか?
小次郎の為に自分がしてやれる事は……何か……
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