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第一幕 京•帰還編
忍び寄る魔の手
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「今日ここに来たのは、一言貴方様にも謝りたかったからです。どんな理由であれ、私はすぐに帰ると言う貴方様との約束を違えてしまいました。本当に、申し訳ございませんでした……」
「………」
「許してくれとは申しません。でも……これだけは知っていて欲しい。私は誰も裏切るつもりなどなかった。私の貴方様への忠誠心に嘘偽りなどございません。こうして会いに来たのは、貴方様との約束を果たす為。遅くなってしまいましたが、こうして約束を果たす事が出来て良かった」
ずっと心に抱えてきた罪悪感に正面から向き合った事で、肩の力が抜けたのか、貞盛の表情が一気に和らいだ。
そして今一度深く深く頭を下げると、ゆっくりと立ち上がり、朱雀帝のもとを自ら去ろうとした。
「…………ま、待て」
遠ざかる貞盛の背中に、朱雀帝は思わず声をかける。
朱雀帝の呼び掛けに、貞盛はゆっくりと振り返る。
「誰が……立ち去る事を許した?」
「………え?」
「…………また朕の元から離れて行く事は許さぬぞ。約束を果たしに来たと言うのならば、最後まで果たせ。お主は……お主だけは……私の側にいてくれるのであろう? これ以上、私を一人にするな」
「………帝……それはこの私を……お許し下さると言う事ですか?」
「……ふん。一度だけだ。2度目はないぞ。分かったな」
「ありがたき……幸せ。この貞盛、貴方様の厚意に報いるべく、今後益々、誠心誠意貴方様にお仕えいたします」
「うむ。期待しておるぞ」
「勿体なきお言葉、感謝致します」
朱雀帝と貞盛、二人の仲直りに側で見ていた成明が満足気に笑っていた。
「……所で寛明様、ずっと気になっておりましたが……」
「何だ」
「そのように目を腫らしている理由、お聞きしてもよろしいですか?」
「っ………」
貞盛からの問いに、朱雀帝は先程の千紗とのやり取りを話して訊かせた。
朱雀帝の話を、貞盛はうんうんと頷きながら静かに訊いていた。
「そうですか。千紗姫様にそのような事を……」
「どうしたらあの方は朕を見てくれるのだ? どうしたらあの方を手に入れる事が出来る?」
「…………」
千紗への報われない想いを口にして、朱雀帝の瞳に再び涙が溢れて来た。
「本当にお好きなのですね。千紗姫様の事が」
「……あぁ。だがあの方の瞳に朕は写らない」
悲しげに呟く朱雀帝の姿に、貞盛は幼き日の自分の姿が重なって見えた。
杏子姫の心を独り占めする小次郎に嫉妬ばかりしていた幼き日の自分と――
「…………ってしまえば良い……」
千紗が好きだと泣く朱雀帝の姿に、貞盛の口からポロリと溢れた言葉。
「………え?」
その言葉が上手く聞き取れず朱雀帝は聞き返す。
「欲しいのならば奪ってしまえば良い。千紗姫様を」
「…………貞……盛?」
「私に良い考えがあります。この件、私に任せてはいただけませんか?」
そう言って貞盛は不適に笑う。
その顔があまりに不気味で、朱雀帝は思わず息を呑んだ。
「………」
「許してくれとは申しません。でも……これだけは知っていて欲しい。私は誰も裏切るつもりなどなかった。私の貴方様への忠誠心に嘘偽りなどございません。こうして会いに来たのは、貴方様との約束を果たす為。遅くなってしまいましたが、こうして約束を果たす事が出来て良かった」
ずっと心に抱えてきた罪悪感に正面から向き合った事で、肩の力が抜けたのか、貞盛の表情が一気に和らいだ。
そして今一度深く深く頭を下げると、ゆっくりと立ち上がり、朱雀帝のもとを自ら去ろうとした。
「…………ま、待て」
遠ざかる貞盛の背中に、朱雀帝は思わず声をかける。
朱雀帝の呼び掛けに、貞盛はゆっくりと振り返る。
「誰が……立ち去る事を許した?」
「………え?」
「…………また朕の元から離れて行く事は許さぬぞ。約束を果たしに来たと言うのならば、最後まで果たせ。お主は……お主だけは……私の側にいてくれるのであろう? これ以上、私を一人にするな」
「………帝……それはこの私を……お許し下さると言う事ですか?」
「……ふん。一度だけだ。2度目はないぞ。分かったな」
「ありがたき……幸せ。この貞盛、貴方様の厚意に報いるべく、今後益々、誠心誠意貴方様にお仕えいたします」
「うむ。期待しておるぞ」
「勿体なきお言葉、感謝致します」
朱雀帝と貞盛、二人の仲直りに側で見ていた成明が満足気に笑っていた。
「……所で寛明様、ずっと気になっておりましたが……」
「何だ」
「そのように目を腫らしている理由、お聞きしてもよろしいですか?」
「っ………」
貞盛からの問いに、朱雀帝は先程の千紗とのやり取りを話して訊かせた。
朱雀帝の話を、貞盛はうんうんと頷きながら静かに訊いていた。
「そうですか。千紗姫様にそのような事を……」
「どうしたらあの方は朕を見てくれるのだ? どうしたらあの方を手に入れる事が出来る?」
「…………」
千紗への報われない想いを口にして、朱雀帝の瞳に再び涙が溢れて来た。
「本当にお好きなのですね。千紗姫様の事が」
「……あぁ。だがあの方の瞳に朕は写らない」
悲しげに呟く朱雀帝の姿に、貞盛は幼き日の自分の姿が重なって見えた。
杏子姫の心を独り占めする小次郎に嫉妬ばかりしていた幼き日の自分と――
「…………ってしまえば良い……」
千紗が好きだと泣く朱雀帝の姿に、貞盛の口からポロリと溢れた言葉。
「………え?」
その言葉が上手く聞き取れず朱雀帝は聞き返す。
「欲しいのならば奪ってしまえば良い。千紗姫様を」
「…………貞……盛?」
「私に良い考えがあります。この件、私に任せてはいただけませんか?」
そう言って貞盛は不適に笑う。
その顔があまりに不気味で、朱雀帝は思わず息を呑んだ。
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