時ノ糸~絆~

汐野悠翔

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第一幕 京•帰還編

求婚

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――それから数日後。

朱雀帝の命令通り、忠平は千紗を連れて内裏を訪れる。


「チビ助、久しいな。お主から呼び出しと聞いて驚いたぞ。この前の話の続きをしてくれる気になったのか?」

「………はい、千紗姫様。その話も含めて、千紗姫様にお話がございます。忠平、お前は少しの間席を外していろ」

「……え? し、しかし帝……」


思いがけず、離席を命じられた忠平。

何故自分だけ離席を求められたのか、理由が分からず戸惑いを覚えた忠平は、主に異を唱えようと口を開いたが、珍しく強い口調で朱雀帝に塞き止められてしまう。


「良いから外せっ!」

「…………仰せのままに」


いつもとは違う朱雀帝の一方的な態度に、忠平はこのまま千紗を朱雀帝と二人にしても良いものかと、言い様のない不安に襲われる。

けれど、いくら太政大臣と言えども、帝の命にまでは背く術を持たない忠平は、苦渋に顔を歪ませながら、渋々部屋を出て行った。


「?どうした? 父上もお主も怖い顔をして」


二人の何処かピリピリとしたやり取りを目撃して、千紗は不思議そうな顔をしながら尋ねた。


「いえ、何でもありません」

「そうか? なら良いのだが……」


ふっと笑ってみせた朱雀帝に、千紗もそれ以上は気にする事はせず、話を本題へと戻す。


「ではチビ助、私をわざわざ内裏に呼んだ理由を話してもらおうか」

「はい。実は――」


  


朱雀帝の話が終わる頃、千紗は予想もしていなかった話に絶句する。


「お主……今何と申した?」 

「千紗姫様に我が妻になって欲しいと。その変わりに平小次郎将門へかけられた謀反の疑いを、私が解いてさしあげましょうと」

「……何故そうなる? それとこれとは、全くの別物であろう」

「そうでしょうか。千紗姫様はあの男を助けたい。朕ならばあの男を助ける事が出来ます」

「お主にその力があるのならば、小次郎を助けてくれれば良いではないか。お主も知っておるであろう。小次郎に謀反の意志などなかったと言う事を。今かけられている嫌疑は事実無根だと言うのに、それなのに何故私に妻になれと……そんな交換条件のような事を言う?」

「………千紗姫様の望みを叶える代わりに、千紗姫様にも私の望みを叶えて欲しいのです」

「……………」

「いかがでしょうか? 決して悪い話ではないと思うのですが」

「…………チビ助」

「はい」

「お主の事、見損なったぞ。それでは自分の欲に溺れ、法を歪めようとする薄汚い大人連中と一緒ではないか。お主は私に貢ぎ物になれと申すか?」

「……はい。どうとって貰おうと構いません」

「ふざけるなっ! そんな話に乗るつもりはない!」


朱雀帝の話に激怒した千紗は朱雀帝に背を向け立ち上がる。


「もう良い!お主の力など借りぬ!そんな事をせずとも、小次郎の無実は必ず証明される。必ずな。私はそう信じておる!」


――『心だに誠の道にかなひなば祈らずとても神や守らん
(心にやましい事がないのならば、堂々と胸を張れ)』――


小次郎の言葉が千紗を勇気づける。
迷いのない瞳で千紗はそう言い切った。


「……これ以上はお主と話す事はない。帰らせてもらうぞ」


そう吐き捨てて、千紗は朱雀帝の前から立ち去ろうと足音荒く歩き出した時


「……本当に、そうでしょうか?」


怖いくらい冷静な、朱雀帝の声がかかる。

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