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第一幕 京•帰還編
決断の時
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――『お前は何も分かっていない!力は時として全ての均衡を崩しかねない猛毒になる。だからこそ、力を持つ者は己が力を理解し制御しなければならない』
ふと、千紗の脳裏に蘇る忠平の言葉。
あの時は、忠平が言っている事の意味がよく分からなかった。
だが、今ならば理解できる。
忠平はこうなる事を恐れていたのだと。
どうして、こんな事になってしまったのか?
どこで道を違えてしまったのか?
やるせなさに拳を握る。
「……どうして…………こんな事……」
「それは…………気付いてしまったから。こうでもしなければ、貴方は私を見てはくれないと。貴方が好きだから……どんな手を使ってでも貴方に振り向いて欲しかった」
「…………」
切ない表情で語る朱雀帝。
「だから決めたのです。貴方を手に入れる為ならば、私は鬼にでもなろうと」
朱雀帝の言葉を聞きながら、千紗は出会った頃から今まで、真っ直ぐに好意を向けていた朱雀帝の姿を思い出していた。
「そんなに……私が好きか?」
「……はい」
「鬼になってまで、私が欲しいか?」
「はい」
千紗の質問に朱雀帝は、迷いのない真っ直ぐな瞳で見つめ返しながら力強く頷いた。
その痛い程の視線に、千紗は観念したとばかりにふっと笑いを溢す。
「それ程までに……人を好きになった経験など私にはない。人を好きになるとは、いったいどんな感情なのだろうな」
いつか好きな人と結ばれたい。
千紗もまがりなりにも貴族の女として、心のどこかではそう願って来た。
だが、自分は未だに人を愛すると言う感情を知らない。
その感情に苛まれて、鬼になるとまで言ってのける朱雀帝を少し羨ましいとすら思ってしまう。
「…………欲しいのならばくれてやる。だから約束しろ。必ず、必ず小次郎を助けると、約束しろ」
「っ…………」
千紗の口から出た了承の言葉に、朱雀帝の頬には一滴の涙がこぼれ落ちた。
ゆっくりと千紗に向かって手を伸ばす。
と、千紗の頬をいとおしげにそっと撫でた。
「ありがとう……ございます。一生を掛けて私が貴方を幸せにします」
朱雀帝からの言葉に、何の返事もしないまま、千紗は朱雀帝の手を払いのけ彼の部屋を後にした。
千紗が去った広い部屋の中、朱雀帝は遠ざかって行く千紗の背中を見つめながらポツリと呟く。
「千紗姫様、人を好きになる気持ちを知らないと貴方は言った。でも自己を犠牲にしてまであの男を助けたいと願うその気持ちは……恋ではないのですか?」
后になって欲しいと言う願いを受け入れてくれた千紗。
だが、自分の気持ちを受け入れたと同時に、千紗の小次郎への強い想いを見せつけられて、朱雀帝の心には千紗を手に入れた喜びと共に、空しさが込み上げて来た。
だが……そんな感情には気付かないふりをして、必死に胸の奥深くへと閉じ込めた。
ふと、千紗の脳裏に蘇る忠平の言葉。
あの時は、忠平が言っている事の意味がよく分からなかった。
だが、今ならば理解できる。
忠平はこうなる事を恐れていたのだと。
どうして、こんな事になってしまったのか?
どこで道を違えてしまったのか?
やるせなさに拳を握る。
「……どうして…………こんな事……」
「それは…………気付いてしまったから。こうでもしなければ、貴方は私を見てはくれないと。貴方が好きだから……どんな手を使ってでも貴方に振り向いて欲しかった」
「…………」
切ない表情で語る朱雀帝。
「だから決めたのです。貴方を手に入れる為ならば、私は鬼にでもなろうと」
朱雀帝の言葉を聞きながら、千紗は出会った頃から今まで、真っ直ぐに好意を向けていた朱雀帝の姿を思い出していた。
「そんなに……私が好きか?」
「……はい」
「鬼になってまで、私が欲しいか?」
「はい」
千紗の質問に朱雀帝は、迷いのない真っ直ぐな瞳で見つめ返しながら力強く頷いた。
その痛い程の視線に、千紗は観念したとばかりにふっと笑いを溢す。
「それ程までに……人を好きになった経験など私にはない。人を好きになるとは、いったいどんな感情なのだろうな」
いつか好きな人と結ばれたい。
千紗もまがりなりにも貴族の女として、心のどこかではそう願って来た。
だが、自分は未だに人を愛すると言う感情を知らない。
その感情に苛まれて、鬼になるとまで言ってのける朱雀帝を少し羨ましいとすら思ってしまう。
「…………欲しいのならばくれてやる。だから約束しろ。必ず、必ず小次郎を助けると、約束しろ」
「っ…………」
千紗の口から出た了承の言葉に、朱雀帝の頬には一滴の涙がこぼれ落ちた。
ゆっくりと千紗に向かって手を伸ばす。
と、千紗の頬をいとおしげにそっと撫でた。
「ありがとう……ございます。一生を掛けて私が貴方を幸せにします」
朱雀帝からの言葉に、何の返事もしないまま、千紗は朱雀帝の手を払いのけ彼の部屋を後にした。
千紗が去った広い部屋の中、朱雀帝は遠ざかって行く千紗の背中を見つめながらポツリと呟く。
「千紗姫様、人を好きになる気持ちを知らないと貴方は言った。でも自己を犠牲にしてまであの男を助けたいと願うその気持ちは……恋ではないのですか?」
后になって欲しいと言う願いを受け入れてくれた千紗。
だが、自分の気持ちを受け入れたと同時に、千紗の小次郎への強い想いを見せつけられて、朱雀帝の心には千紗を手に入れた喜びと共に、空しさが込み上げて来た。
だが……そんな感情には気付かないふりをして、必死に胸の奥深くへと閉じ込めた。
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