時ノ糸~絆~

汐野悠翔

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第一幕 京•帰還編

逆襲の始まりか

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突如として巻き起こった騒ぎに、何事かと千紗が何事かと視線を向ける。
と、そこには小次郎と秋成、そして貞盛の姿があって――

一体何事が起きているのかと、慌てて千紗は3人の元へと駆け寄ろうとした。

だが、駆け寄る事は叶わない。
朱雀帝がそれを許さなかったから。

千紗を行かせまいと、千紗の手をきつく握り締め決して離さなかったから。

千紗は戸惑いながら彼の方を振り向くと、彼は静かに顔を横に振って見せた。


「…………」


千紗は困った顔で朱雀帝と秋成達とを交互に見比べる。

朱雀帝の手を振りほどき、小次郎達の元へ駆けつけたい。

そんな千紗の迷いを感じ取って、朱雀帝は静かに言った。


「千紗姫様、約束をお忘れですか?」

「っ……」


彼の放った一言に、千紗は力を失い項垂れる。


「帝、ここは危のうございます。姫様と共に中へ」

「うむ」


帝の側近の計らいで、朱雀帝は千紗を連れ、足早に屋敷の奥へと急いだ。

やっと手に入れた千紗を、小次郎達に決して奪われまいと、焦る気持ちが朱雀帝の歩く速度を加速させた。

そんな二人の姿に気付いた小次郎が、遠くから慌てて千紗の名を呼ぶ。


「千紗っ!!」


小次郎の叫びにも似た呼び声に、秋成もまた貞盛への怒りを一旦忘れて千紗を見る。

名前を呼ばれて振り返った千紗は、ピタリと足を止め二人の向ける視線に対して、何か言いたげな瞳で見つめ返した。

だが――


「千紗姫」

「っ!」


朱雀帝に名前を呼ばれて、千紗は悩みながら二人から視線を外す。

そして朱雀帝に手を引かれるままに、再び屋敷の奥へと歩き出した。


「千紗っ!!!待ってくれ……千紗っっっ!!」

「姫様っ!!」


自分達の元から離れて行こうとする背中に、小次郎と秋成は何とか彼女を引き留めようと、何度も何度も千紗を呼び続けた。

だが、千紗が二人を振り向く事はもう無かった。


「……悔しいか?小次郎」


千紗の姿が完全に見えなくなって、項垂れる二人に、貞盛はアザだらけのボロボロの顔で、クックと笑みを浮かべながら問うた。


「………」

「悔しいだろう? だがな、世の中は権力ちからのある者が勝つのだ。この世は権力が全てなのだ!」

「………」

「お前のような綺麗事だけでは大切な物を守ってはいけぬのだ!よくよく覚えておけ!」

「…………」


貞盛の罵倒に、小次郎は何も言い返す事が出来なかった。

そしてこの後すぐに、秋成が引き起こした騒ぎにより宴は中止された。

やはり身分の低い者は野蛮者だと、貴族達は皆声を潜めて馬鹿にした。

秋成と小次郎の二人は、騒ぎを起こした咎を受け、それぞれ別々の場所へと連れて行かれ、その日一日監禁される事となる。

そして朱雀帝と共に二人の前から姿を消した千紗はと言えば――

あの宴を最後に、忠平の屋敷へ戻る事はもうなかった。

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