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03.馬車に揺られて
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勇者の素質を授かる『天啓の儀』。
15歳を迎えるに当たって、俺はその儀式を受けるため、馬車に揺られていた。
高熱から目覚め(=転生してから)、わずか3日後のことだった。
儀式は、中央教会の本部で行われる。といっても、ヴァリヤーズの屋敷と中央教会本部は、馬車を使えばそこまで遠い距離ではないとのこと。
今現在、その馬車は教会へ向かっているところだ。
豪華な装飾が成された、貴族が使うような、いかにもな馬車。
観光地電車のボックス席よろしく、向かい合って座るタイプであった。
そして正面に、あの父親。そして、蒼白な顔をした母親が鎮座し、両親と対面に、俺、そして、双子の弟妹が並んで座っていた。
「奥様、具合はいかがでしょうか」
「……今日は気分が良い方よ。ありがとう、トモエ」
母親は体調が万全ではないためか、今回、トモエさんも同伴だ。
この六人乗りの馬車に同乗し、母を看護していた。
一方父親は、俺を対面に見据え──いや、睨みつけていた。不本意と不満の塊みたいな表情だ。
(……コイツ、体調不良の母さんに対して、何も気にならないのか??)
本当なら、強く言い寄ってやりたかったが、あまり変なトラブルを起こすのは避けたほうが良いと判断し、俺はただ時間が過ぎ、『天啓の儀』が無事に終わることだけを願った。
終始無言。
馬車はただ、静かに音を立てて揺れていた。
「オレは認めません」
「わたくしもですわ」
唐突に、弟妹──キストとカーリアが、口を開いた。双子のなせる業か、ほぼほぼ同時の発声であった。
弟妹の『ムスッ』とした顔は、まあホントよく似ている。
美男美女のそれはしかし、非常に絵になるものでもあった。
「オレのほうが、兄様より強い。オレに勇者の天啓が来るべきだ」
「わたくしのほうが、兄様より秀でております。少なくとも妹に劣る長兄より、キストが勇者になるべきです」
(言うなぁ……)
兄の威厳は、虚空の彼方に消え去っているらしい。ただ、彼らの言い分ももっともだ。
俺──ランジェは、やはり相当、『普通』だった。
剣術も、体力も、頭脳も、魔法力も、法力も。
いずれも適度に、どれもまあまあの力を示せる。
ただ、どれをとっても、普通なのだ。
世界の命運を預かる勇者としては、些か心もとない。
「だまれっ!」
双子が垂れた文句は、父親の一喝で吹き飛ばされた。
想定外の反応だったのだろうか。父親の怒号に対して、双子は同時に肩をすくませた。
その突然の声に、横にいたトモエさんからも小さな悲鳴が漏れ出ていた。
そして情けないことに、俺もビビった。なんなら、ちょっと漏らしたかもしれん。
しかし驚いた……。いや、声の大きさについてではない。
俺に不平不満を漏らした双子を、父親が叱ったことに、である。
いろいろ俺に不満はあったのだろうが、いざこれから勇者の称号を得ようとしているのだ。
(もしかして、長兄に威厳を復活させようとしてくれている……?)
ここに来て、まさかの父親デレか。
「儂とて、不本意で仕方ないのだ」
前言撤回、違った(知ってた)。
「伝説の通りであれば、コイツが勇者の天啓を授かる。紛れもない事実だ」
ども、コイツ、もとい勇者です。
「さすれば、すぐにでもコイツは魔王討伐の旅に出させる」
ほほー……ん……?
「魔王と刺し違えれば御の字。途中で野垂れ死のうと、儂の家系から勇者が生まれたことに、間違いない」
あーそういうことねOK理解。
自分の家系から勇者が排出され、家には箔がつく。
それでいて、特にスキルも才能も無い役立たずは、名誉ある家系からポイできる。
うまく行けば英雄。そうでなくても、悲劇の主人公として語られる。
一石三鳥って奴だな。
この父親、やはりだいぶクソ野郎です。
「キスト、カーリア。貴公らには、ヴァリヤーズ家の今後を支えてもらう必要がある──無能な長兄の代わりに、な」
俺は特段、顔に表情を浮かべることはせず、コイツの話を聞いていた。
正直、腹は立った。けど、逆に、勇者になればコイツから離れていくことができると思えば、気が楽にもなった。
それにしても……こういうこと、本人を目の前にして言うかね。
「……ぬう」
「くっ……」
クソ親父の言葉に、双子は、まだ何となく納得してないみたいだった。
未だ、自分より弱い奴が勇者になるのが嫌なのだろうか。
本心は解らなかったが、その後、二人して俺を睨んでいたので……そういうことなのだろう。
(ああ……この視線の痛みにも慣れた)
転生してからというもの、周囲の期待と妬みに押しつぶされそうな毎日を送っていた。
前世では許されていた……むしろ、現代社会的に最も扱いやすい『普通』なことが、この転生先では、全く許されないことになろうとは。
(それでも……)
それでも、もう少しでこの『普通』からは開放される。
俺はこの世界で『唯一』のものを、手に入れることが約束されているのだから……。
15歳を迎えるに当たって、俺はその儀式を受けるため、馬車に揺られていた。
高熱から目覚め(=転生してから)、わずか3日後のことだった。
儀式は、中央教会の本部で行われる。といっても、ヴァリヤーズの屋敷と中央教会本部は、馬車を使えばそこまで遠い距離ではないとのこと。
今現在、その馬車は教会へ向かっているところだ。
豪華な装飾が成された、貴族が使うような、いかにもな馬車。
観光地電車のボックス席よろしく、向かい合って座るタイプであった。
そして正面に、あの父親。そして、蒼白な顔をした母親が鎮座し、両親と対面に、俺、そして、双子の弟妹が並んで座っていた。
「奥様、具合はいかがでしょうか」
「……今日は気分が良い方よ。ありがとう、トモエ」
母親は体調が万全ではないためか、今回、トモエさんも同伴だ。
この六人乗りの馬車に同乗し、母を看護していた。
一方父親は、俺を対面に見据え──いや、睨みつけていた。不本意と不満の塊みたいな表情だ。
(……コイツ、体調不良の母さんに対して、何も気にならないのか??)
本当なら、強く言い寄ってやりたかったが、あまり変なトラブルを起こすのは避けたほうが良いと判断し、俺はただ時間が過ぎ、『天啓の儀』が無事に終わることだけを願った。
終始無言。
馬車はただ、静かに音を立てて揺れていた。
「オレは認めません」
「わたくしもですわ」
唐突に、弟妹──キストとカーリアが、口を開いた。双子のなせる業か、ほぼほぼ同時の発声であった。
弟妹の『ムスッ』とした顔は、まあホントよく似ている。
美男美女のそれはしかし、非常に絵になるものでもあった。
「オレのほうが、兄様より強い。オレに勇者の天啓が来るべきだ」
「わたくしのほうが、兄様より秀でております。少なくとも妹に劣る長兄より、キストが勇者になるべきです」
(言うなぁ……)
兄の威厳は、虚空の彼方に消え去っているらしい。ただ、彼らの言い分ももっともだ。
俺──ランジェは、やはり相当、『普通』だった。
剣術も、体力も、頭脳も、魔法力も、法力も。
いずれも適度に、どれもまあまあの力を示せる。
ただ、どれをとっても、普通なのだ。
世界の命運を預かる勇者としては、些か心もとない。
「だまれっ!」
双子が垂れた文句は、父親の一喝で吹き飛ばされた。
想定外の反応だったのだろうか。父親の怒号に対して、双子は同時に肩をすくませた。
その突然の声に、横にいたトモエさんからも小さな悲鳴が漏れ出ていた。
そして情けないことに、俺もビビった。なんなら、ちょっと漏らしたかもしれん。
しかし驚いた……。いや、声の大きさについてではない。
俺に不平不満を漏らした双子を、父親が叱ったことに、である。
いろいろ俺に不満はあったのだろうが、いざこれから勇者の称号を得ようとしているのだ。
(もしかして、長兄に威厳を復活させようとしてくれている……?)
ここに来て、まさかの父親デレか。
「儂とて、不本意で仕方ないのだ」
前言撤回、違った(知ってた)。
「伝説の通りであれば、コイツが勇者の天啓を授かる。紛れもない事実だ」
ども、コイツ、もとい勇者です。
「さすれば、すぐにでもコイツは魔王討伐の旅に出させる」
ほほー……ん……?
「魔王と刺し違えれば御の字。途中で野垂れ死のうと、儂の家系から勇者が生まれたことに、間違いない」
あーそういうことねOK理解。
自分の家系から勇者が排出され、家には箔がつく。
それでいて、特にスキルも才能も無い役立たずは、名誉ある家系からポイできる。
うまく行けば英雄。そうでなくても、悲劇の主人公として語られる。
一石三鳥って奴だな。
この父親、やはりだいぶクソ野郎です。
「キスト、カーリア。貴公らには、ヴァリヤーズ家の今後を支えてもらう必要がある──無能な長兄の代わりに、な」
俺は特段、顔に表情を浮かべることはせず、コイツの話を聞いていた。
正直、腹は立った。けど、逆に、勇者になればコイツから離れていくことができると思えば、気が楽にもなった。
それにしても……こういうこと、本人を目の前にして言うかね。
「……ぬう」
「くっ……」
クソ親父の言葉に、双子は、まだ何となく納得してないみたいだった。
未だ、自分より弱い奴が勇者になるのが嫌なのだろうか。
本心は解らなかったが、その後、二人して俺を睨んでいたので……そういうことなのだろう。
(ああ……この視線の痛みにも慣れた)
転生してからというもの、周囲の期待と妬みに押しつぶされそうな毎日を送っていた。
前世では許されていた……むしろ、現代社会的に最も扱いやすい『普通』なことが、この転生先では、全く許されないことになろうとは。
(それでも……)
それでも、もう少しでこの『普通』からは開放される。
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