チートツール×フールライフ!~女神から貰った能力で勇者選抜されたので頑張ってラスダン前まで来たら勇者にパーティ追放されたので復讐します~

黒片大豆

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第4話 追放勇者、暗殺される【その2】

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 魔王城、門前。
 元は次元錠が設置されていた場所には、今現在は国の兵士たちが集まり、『最前線基地』が準備された。といっても、簡素なキャンプ地程度ではあるが。
 幌やテント張っただけの休憩場や露店、宿などが並んでいた。
 勇者たち一行は魔王城内部へ攻め入った。だが内部は幾重もの階層に分かれていることが判明したため、一気に攻略はせず、このキャンプ地を起点に1層ごとの攻略へと切り替えたのだ。

 この最前線基地には、一般人はもちろんのこと、勇者専属新聞屋すら入ることを許されていない。かなり強い情報統制がされており、新聞記者たちは、手前の第二中継地点から勇者たちの活躍を伝聞で受け取っていた。報告される内容には、一旦公開を規制されるほどの最重要機密事項も含まれていたため、クリエたち記者は、得られる情報が常に最新であると思い込んでいた。

「すこし、遅い気がするんだ」
 勇者イザムたちの性格から推測すると攻略が遅い気がする。サックはそう考えていた。
「つまりは……モグモグ。公開されていない情報があると?」
 クリエが、少し前のめりになり話に聞き入った。……もしゃもしゃと野菜サンドを咀嚼しながらであるが。

「機密情報も織り交ぜて、さも内容が最新であるように思わせる。イザムがやりそうなことだよ」
「──あっ!」
 クリエは『勇者の剣「ハルペリオ」』のことを思い出した。サックの勇者引退を『追放』と銘打ち、新聞屋すら興味を引かせて、未だに『勇者の剣』が砕けた事実を隠し通している。

 が、ここでサックは思い止まった。少し考えすぎていたのかもしれない。
「いや、思い過ごしかも知れん。俺が抜けて戦況は変わっている。着実な攻略に舵を切ったのかも」
「ふむふむ……ゴックン。つまりは……ズズズズ……私の好奇心を駆り立てて真意を探ろうと言う魂胆ですね」
 野菜サンドとグラスティーを一気に口に流し込み、クリエは頷いた。

「いや、そんなつもりは──」
「言いたいことは判りました! けど。私も勇者専属記者の権利剝奪は避けたいので。そういう強行取材は行いません」
「なんだ、残念だ。好奇心の塊みたいなのにな」
 ちっ。サックは心の中で舌打ちした。クリエの好奇心や探求心は良く知っていたので、きっかけを与えれば勝手に情報を集めてくれると思っていたのだ。

 しかしながら、結局のところサックの目論み通りに事が進む。

「ええ、なので『取材』はしません。自己満足の世界です。今回はあなたの企みに乗ってみますよ。仰る通り、私は好奇心だけで生きているようなモノですからね! それに──」
 野菜サンドを食べ終えたクリエはそういうと、にやっと笑い、伝票を持って席を立った。
「真実を追うのが、新聞屋ですから」
「真実を追う、ねぇ。だったら早く『道化師』の修正を」
「そういえばサックさんは、何故この街に?」

 話の方向を180度曲げられた。おそらく彼女は、暫く修正記事を出すつもりはないらしい。
 サックは、結局彼女に弄ばれる運命であった。

「まあいい……いやよくないが。この街に来たのは、人生で遣り残したことを遂げに来たんだ」
「ぷっ! 遣り残しただなんて大げさな。まるで余命宣告受けてるみたいですよ」
 冗談だと思ったのだろう、クリエはまた人を小馬鹿にするような笑顔を見せた。しかも自分が質問してきたにも関わらず、すぐに興味を逸したようで、すぐに踵を返しサックに背を向けた。

「これから忙しくなりますねー。何とか伝手つてを使って、最前線基地まで入り込めると良いんですけどね。では、ごきげんよう」
「もし有用な情報が入ったら教えてくれ。無論、報酬は弾む」
 すると、クリエはくるりと振り返り、そして人差し指を立てて「1」のハンドサインを示した。
「本件、1回だけ情報はサービスしますよ、あと新聞屋は、報酬より情報を欲するので、お間違えないよう」



 さて。
 クリエは早速、北の魔王城方面に『飛んで行った』。彼女は有翼種であり、かつ、特殊能力『めがみのつばさ』を使える。一日に使える回数制限はあるが、行ったことのある場所へ瞬時に移動できるスキルだ。
 魔王の復活に併せて、各都市を結ぶ転移装置ゲートが封鎖されているため、移動スキルを持つ彼女が羨ましい。

 サックは背伸びして、席を立った。ちょうど、露店や薬局、バザーなどのお店が開き始める時間帯だ。
「俺も、今夜に向けていろいろ準備しておかないとな」
 目的の薬品や、調合用のアイテムは入手できるだろうか。失くしたマントの代替品も欲しい。それには転売で十分稼がないとな。
 これから、店が閉じるまでの間で、サックの仕入れの腕が試される。


 ++++++++++++++


 夜。

 ビルガドからかなり北に外れた一画であるハクノ区は、昼間にもそこそこの賑わいを見せてはいるが、しかし、この街が本領を発揮するのは、この時間帯だ。

 この街は、公的にギャンブルが認められている。そのため夜になれば一攫千金を夢見て集まる猛者達で、街は昼間以上の賑やかしを見せる。そうすると自然に、お酒が呑める夜の店も増え、夜限定のショップも現れる。
 そして何より。
 ここには、『遊郭』。花街があるのだ。

 これも実は、街が行う公営事業だというから、外から来た人たちには驚かれる。
 花街に立つ娼婦はみな、例外なく首から『ギルド証』をぶら下げていた。とてつもなく際どい服でも、可愛らしいファッションの格好でも、何なら、殆ど裸のような格好の女性もいた。
 この街では、『娼婦』がギルドの職業として認められているのだ。

 公共事業として、風俗業を許可制にすることで、厳しい審査が定期的に行われ風俗店の室は否応なく向上する。違法な風俗は公的機関が強く取り締まることができ、汚いお金の流れを断つことができる。そして娼婦が公共事業の職業、つまりは『公務員』として登録できるため、人権的な問題も解決できている。利用者も運営も、娼婦にとってもWin-Winの関係を作ることができ、ある意味、理にかなっている。

 そして今宵。この、ハクノ花街の表通りに、一人の男が立っていた。そう、我らが勇者アイサック=ベルキッドである。

(金は……まあまあ! 薬もOK!)

 勇者、今朝がたの『人生の遣り残し』とは、この事。
 今夜はとうとう、彼はここで『捨てる』つもりである。

 そう。この男。全く諦めていない。そして、懲りていないのである。

(やべぇ……やべぇよ……)

 しかし気合い込めて花街に来てみたものの。前屈みになった状態で街を闊歩することになった。
 既に多くの人で賑わっており、ガラス張りの建物ではショーケースよろしく娼婦が並んで客を待っていた。美しいドレス姿、きわどい水着衣装、獣の耳を付けた女性など色々なニーズに対応できるようになっていた。そして身なりのよい男が建物の中に入ると、女性の一人が奥に消えていった。中で呼ばれ、営みが行われるのだろう。

(す、すげぇ! すげぇよ!)
 この花街に入った瞬間からサックの語彙力はとっくに消え失せていた。そして緊張で体が震え、汗が噴き出ていた。こんなにも切迫したのは、魔王城の攻城以来といっても過言ではない(過言である)。
 すーっ、ふうーっ。
 サックは大きく深呼吸をし、覚悟を決めた。
 街灯の下や道端でも、客を拾う娼婦が点在している。もちろん、外で客を待つ娼婦も、ギルド証がよく確認できるよう首からぶら下げていた。公営の『娼婦』である証だ。
 まれに、非公認で客引きを行う女性もいるらしいが、大抵は忌避される。殆どが何かしら問題のある人であるからだ。

(やばい。やばい。ここにいるだけで、気持ちが高ぶりすぎて果ててしまいそうだ。聞き及んでいたより、遥かに刺激が強すぎる……!!)

 顔を赤面しつつ、既に御子息(隠語)は元気に立ち上がらんとしている。
 月の光が眩しい今夜。顔のアザが浮き出ないよう、調合した化粧品でファンデーションを塗り、さらにフード付きマントとマフラーで顔を隠していた。だが、あまりに顔が真っ赤になっていたためか、
「あら、お兄さん大丈夫? 顔が真っ赤よ」
 一人の娼婦が、サックに声をかけてきた。体調が優れないサックを心配したのか、禁止されてる客引きを正当化する建前か。

 癖が強い巻き髪茶髪の、少し濃いめの化粧の女。年齢はサックと同じくらい。背は彼より高く、俯いたサックの顔を覗くのに前屈みになっていた。
「あっ、だ、だ、だ、大丈夫っす!」
 顔を伏せ相手の顔を見ずに返事したが、サックの目線はちょうど娼婦の胸元を覗いてしまった。たわわに実った禁断の果実。一枚布を緩く体に巻き付けただけの非常に無防備なドレス姿。ふわりとした布ドレスは、前屈みになることで胸元が大きく開き、胸の谷間が強調されていた。
(おおお……! おおおお……女神よ今だけは感謝いたしますっ)
 目の前に現れた禁断の園に釘付けになった、アイサック=ベルキッド(世界を救う勇者)であったが、まじまじと胸の谷間を凝視するサックの行動から、娼婦は彼が『初めて』であることを感づいた。
「あら──あらあら。こういうの『初めて』なのね」
 優しく、囁くように、サックの耳元で声をかけた。これが『プロ』の業なのだろう。サックは、その娼婦の声色に一気に堕ちた。さすが童貞、優しい言葉にめっぽう弱い。
 何度も繰り返すが、アイサック=ベルキッドは女神に選ばれし七勇者が一人である。
 サックは、今夜のお相手を決めた。人生の『初めて』を受け止めてくれる女性。ああ、麗しき貴女に出会えてよかった。僕の初めてを預けます。
 君に、決め──。



 サックは気づくのが遅かった。
 完全に色香に惑わされ、飲まれていた。
 その娼婦が『鑑定できない』ことに、もっと早く気づくべきだったのだ。



 ドスッ。


「父のカタキだ、ニセ勇者」
 娼婦が、サックの耳元で囁いた。憎悪と怒りを含んだ声色だった。

 サックの下腹部……脇腹から胸椎の手前にかけて。鉄製の刃物が突き刺さった。サックの体内に激痛が走る。

(えっ──)

 刃物は強く押し付けられ、肺にまで達したのが感覚的に理解できた。冷たい鉄の触感が体を突き刺していた。そして肺からの出血はサックの体の中を逆流し、吐血に至った。血液が喉を汚し、声は出なかった。

 女は刃物を素早く引き抜き、数歩、サックから離れた。
 どさっと、前のめりにたおれるサック。刺し傷からは多量の出血。肺に穴が開き、まともに息ができない。
 刺し方が『プロ』だった。暗殺術に長けた人間の仕業だ。

「……きゃああああああっ!!!!」
「な、うわああああ!」

 近くで客引きしていた娼婦や男性客達が、殺傷現場を目撃して悲鳴を上げた。明るく賑やかだった通り怒った突然の悲劇。現場からは蜘蛛の子を散らすように一斉に人が引き、近くの店は一斉に扉を閉ざした。

「父の……カタキだっ!」

 娼婦は髪を引っ張り、くせ毛のウィッグを外した。
 腰まである長い艶やかな髪が、夜風に靡き月夜に映えた。
 彼女の顔は、未だ怒りと憎悪と、復讐心に燃えていた。
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