幸せはなくならない

松本ゆい

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幸せはなくならない

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 通りから少し外れたところにある広い公園には、私とあなた以外に誰もいなかった。遠くでは、私の家の向かいに住むおじいさんと犬が散歩をしていた。
 蕾をつけた桜の木の下で、私たちは肩を並べてベンチを温めていた。私は疲れた足を伸ばしてつま先をぼんやり見ていた。
「寒いなあ」
あなたは、そわそわしながら私の方にちらっと視線を寄こした気がした。
「まだ少し寒いかもしれませんね」
私と向かい合わせの太陽を眺めながら答えた。ふと、あなたは私の右手の先を握った。
「冷たいね」
薄っすら温もりを感じるその手を、一呼吸置いてから握り返し、あなたの方を向いた。あなたはいつもの微笑みを浮かべている。私も笑みがこぼれる。夕焼けが私たちの横顔を照らす。

 幸せが私の胸を締め付けた。

 目を開けると、薄暗い部屋で眠るように横たわるあなたがいた。私と同じしわしわだった顔は、どこか若返ってしまったような気がした。
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