僕の名前は、猫将軍眠留

初山七月

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四章

出雲、1

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 お盆に入り猛と真山が帰省してからも、陸上部とサッカー部は僕を快く受け入れてくれた。それに応えるべく、僕は懸命に頑張った。それが認められたのか、サッカーで少し変化があった。
「猫将軍、そろそろ3対3をやってみないか」
 サッカー部の皆が、僕を3対3に誘ってくれたのである。お盆休み中、湖校の部活及びサークルは自主練習期間になり、届け出れば八月九日から十六日までの八日間を連続して休むことができる。自由日の三日を前後に付ければ十四日間、つまり二週間の休暇が出現するので、それを利用し夏休みを満喫する部員がちらほらいた。よってこの期間はどの部も人が減るらしく、サッカー部もいつもの半数未満の状態だった。それを補うためという理由ももちろんあるだろうが、それでも僕は天に昇るほど嬉しかった。なぜなら3対3に混ざっても、皆の足を引っ張らないレベルに到達したという事だからだ。個人技能もさることながら連携プレイを理解していないと成り立たない3対3に、僕は夢中になった。敵の意図を察知しパスをカットし、敵の裏をかき味方とパスをつないでゆく。この「パス」に芥子粒ほどのセンスがあったのか、猫将軍ナイスとたまに言ってもらえた。それが嬉しくて、僕は毎回ぶっ倒れるまで3対3に没頭した。

 お盆休みはあくまで自主練期間であり休日ではないため、僕は陸上部とサッカー部にそれまでと同じペースで参加していた。しかし新忍道サークルでは、二日間の休日を設けることになった。八月九日、サークル開始前のストレッチ中、真田さんが「ストレッチをしながら聞いてほしい」と前置きして言った。
「八月十三日と十四日、3D機材のメンテナンスを湖校全体で行う事が決まった。我々のサークルは3Dに負うところが多いので、その二日間を休みにしようと思う。自由日の三日を前後に付ければ、八日間の連続休暇が可能だ。各々自由に、休みを満喫して欲しい」
 十四日は土曜なので翌十五日に新たな自由日が発生する。よって自由日を前後に付ければ、八日間の休日を作ることが可能となるのだ。このサークルには寮生がおらず、また自主練期間の休暇申請をした会員も一人もいなかった。最も活発なサークルとして名高い新忍道サークルに、お盆休みを利用する人がいないことへ僕は疑問を感じなかったが、サークル長としては思う処があったのかもしれない。真田さんを初めとする六人の先輩方に絶大な信頼を寄せている僕は、この八日間の使い方を真剣に考えることにした。帰宅後、学内ネットにアクセスし調べてみたところ、休日前に自由日を二日設け、その二日を陸上部とサッカー部に当てれば、十三日と十四日を完全休日にできることが判明した。それを北斗と二階堂にチャットで告げると、
「ならどちらか一日は、三人で遊びに行かないか」
「おおっ、それ最高じゃん!」
 みたいな感じで大いに盛り上がった。討伐予定日を確認すると十四日が休みになっていたので、
「十三日の方が僕は都合が良いのだけど、いいかな?」
 僕はおずおずお伺いを立てた。すると間髪入れず、
「当たり前だろう!」
「このボケナスが!!」
 と、二人からきつく叱られてしまった。どうせならプロレス技をかけられながら叱られたかったなあと残念に思ったのは、ナイショにしている。

 八月十三日の午前十時。南池袋の雑司ヶ谷にある二階堂家に僕らは集合した。お盆だったこともあり、僕と北斗は二階堂の家族全員に挨拶することができた。二階堂の家族は一言でいうと、豪快な方々だった。挨拶を終えるなり「会いたかったよ~」とおばさんは太い両腕で僕と北斗をまとめてヘッドロックし、おじさんは「ちゃんと鍛えてるか!」と子供の手首ほどもある巨大な指で、僕と北斗の腹筋を鷲掴みにしたのだ。
「ほうほう、どちらもそこそこ腹筋があるようだな」
「よしよし、首の筋肉もちゃんと鍛えているみたいね」
 なんて言いつつ、おじさんとおばさんは大層嬉しそうにしている。これだけでも僕と北斗は、こりゃ二階堂がお調子者になるわけだと内心ため息をついたが、
「「待ちわびたぞコノヤロウ!」」
 二人のお兄さんがそう叫ぶや、そんな余裕は消し飛んでいった。初対面から一分と経っていないのに、僕と北斗はお兄さん達から強烈なプロレス技をかけられ続けたのである。二人ともメチャクチャ慣れていて、というかお二人は100%本格的な格闘家で、僕と北斗は格好の餌食になってしまった。それを見かねた二階堂とおじさんが参戦し、即席のタッグを組みお兄さん達と戦い、お二人をホールドすることに辛うじて成功した。
「ワン、ツー、スリー! カンカンカ~ン♪」
 いつの間にかレフリーになっていたおばさんが試合終了を告げ、僕と北斗の手を高々と掲げる。僕らは「「ヒャッハー」」と飛び上った。そして気付くと、僕と北斗は二階堂家の方々へ、まるで十年来の知り合いのような感覚を抱いていたのだった。

「また来いよ~」
「またいつでも来いよ~」
「つうか夕飯を一緒に食おうな~」
「たっぷり作っておくから、五時半までに帰っておいで~」
 二階建ての二階堂家の前に勢ぞろいし、にこやかに皆さん手を振ってくれた。背の低い僕からすると四人とも天を突くような巨体の持ち主なので、僕はバスケットゴール前のディフェンスのようにピョンピョン飛び跳ね両手を振り返した。それに合わせお兄さん達もピョンピョン飛び跳ね、するとおじさんとおばさんもノリノリでそれに加わり、四人は息の合ったジャンプウエーブを始めた。僕らは腹を抱えて笑いながら最後に大きく手を振り、四つ辻を曲がった。
「あ~、面白い人達だった。僕は皆さんが大好きだよ」
「ホントそうだな。ああいう賑やかな家族に囲まれて育ったから、二階堂はクラスのムードメーカーになったんだな」
「うっ、恥ずかしいよ。でも二人とも、ありがとな」
 恥ずかしそうにしつつも、二階堂はとても嬉しそうにしている。僕と北斗は頷き合い、二階堂を北の頂点とする正三角形を作った。これは三人チームを組むことの多い湖校新忍道サークルの、気合い入れの儀式。チームリーダーとなった二階堂はニヤリと笑い、音頭を取る。
「一年生トリオ~~、ファイ」
 発音されなかった最後の「ト」の部分で、僕らはそれぞれ両隣とハイタッチした。六つのてのひらから一斉に、
 パァ――ン・・・
 小気味いい音が高らかと、住宅街にこだましてゆく。
「ウオー、俺らサイコー!!」
 そう雄叫びを上げた二階堂の目は、いつもよりほんの少し潤んでいる気がした。
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