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九章
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それについて思う処のあった長老達は2020年、猫将軍本家に集まり水晶に尋ねた。
「水晶は、翔人になる率に差が生じることを、事前に知っていたのではないか」
一族を代表し尋ねた先代へ、水晶は飄々と答えた。
「もちろん知っておったよ」と。
結婚相手を親が決めていた時代、水晶を始めとする陽晶達は結婚相手について親から相談されると、的確な助言を必ずしていた。恋愛結婚が広まった時代、子供を見定めてから翔家の秘密を明かすという方法を提案したのも、陽晶達だった。ただ、子供の見定めは長老達がするよう陽晶は命じた。長老達は絶対的自信のもとそれを引き受け、数十年間うまく機能したが、1980年台に破綻した。長老達は必死になって助言を求めたが、水晶は無表情で「大切なこと故そなたらが決めなさい」と応え続けた。水晶だけでなく、表情のない陽晶を見かける機会は年々増えて行った。しかしある出来事を境に、陽晶達は朗らかさを取り戻して行った。その出来事こそが2000年の、続けるか辞めるかを迫る掟だったのだ。然るに長老達は問うた。「事前に知っていたのではないか?」 そしてそれへ「もちろん知っておったよ」と、水晶は飄々と答えたのである。
その後、水晶が明かした処によると、ほぼ全ての人に配偶者の候補が必ずいると言う。だがそれはただ一人に固定されているのではなく、そのとき抱いていた価値観と時代の風潮によって絶えず揺れ動いているため、相性抜群の人を選ぶ場合もあれば相性の悪い人を選ぶ場合もある。最高の結婚相手が目の前にいても「年収幾ら以上じゃないと結婚なんてあり得ない」等の時代の風潮に流され、その人との縁を絶ってしまう事がままあるのだ。しかしそうであっても、結婚への要望は叶えられることが多い。魔物に変じない配偶者を親と親族が選び抜けば、少なくともその望みだけは高確率で叶えられるのである。それと同様な事が、2000年の掟でも起こった。翔人を辞める選択をした者達が第一に望んだのは、「決断の少ない結婚生活」だった。言葉を濁さずはっきり言うと、その人達は掟の有無に関係なく、「決断する苦悩の少ない結婚相手」を選んでいた。一方翔人を続ける決断をした人は、「先祖伝来の決まりを破ってでも打ち明けられる結婚相手」を最初から選んでいた。ただそれだけの事だったのである。
とはいえ言うまでも無く、金持ちや美人がいつまでも金持ちや美人でいられないように、「決断する苦悩の少ない結婚生活」が一生続く保証は無い。翔人を辞める選択をした人達が、まさにそれだ。その人達は2020年以降、決断の苦しみから逃れたことを、苦しんだのである。このように人の望みは、短期的には叶えられても、それが永続するとは限らない。水晶によるとそれは、より根源的な善悪を学ぶための措置なのだと言う。それこそがあの、「もちろん知っておったよ」なのであった。
仮に2000年、翔家の存続を第一に考えた長老達が、翔家一族は翔人とのみ結婚すべしという掟を発表したとしよう。それを第一に願ったのだからそれは短期的には叶えられても、決して永続せず翔家は断絶した。我が子の幸せより家系存続を優先させることは、新時代に入った人類にとって、悪に他ならなかったからだ。
翔家存続より魔想討伐を第一に考えた長老達の願いは、結果的に一族の翔人を増やした。一族の翔人が減り続けた時代に、一族でない翔人を誠実に育てたので、三翔家に連なる翔人も飛躍的に増加した。血縁関係のない大勢の子供達と深く関わった経験は、翔家一族に人としての成長も促してくれた。そうまさに、あれは良いこと尽くめの掟だったのである。それを、水晶は初めから知っていた。八百年以上の歳月を生きてきた水晶にとって、それは不確定要素のまるでない、確固たる未来でしかなかったのだ。ではなぜ、水晶はそれを話さなかったのか? それについて、水晶はこう答えたという。「我らが手を貸し過ぎると、そなたらの害になるからの」と。
人は成長に伴い、外部からの助力が少なくなっていく生き物だ。例えば生まれたばかりの赤ちゃんは、自分で食事をすることも、体を清潔に保つことも、トイレの始末をすることもできない。よって周囲の人達がその手助けをするのは、正しいことと言える。だがいつまでもそれを続けると、それはその子の害になる。食事や着替え、入浴やトイレを一人で済ませられるように育てることが、その子にとっての幸せにつながるのだ。身の回りの整理整頓や学校での過ごしかた等々にもそれは当てはまり、大人が介入し過ぎると、かえって成長の妨げになってしまう。つまり助力は人が成長していくに従い、意図的に減らしていくべきものなのである。
水晶によるとこれは個人だけでなく、人類全体にも当てはまると言う。翔家の結婚の変遷は、その好例と言えよう。人類全体が幼く、結婚相手を親が決めるのが当然だった時代は、結婚相手について水晶たちは積極的に助言した。新時代が近づき、恋愛結婚が広まると、翔家の秘密を明かすか否かを長老達に一任した。更に月日が流れ、一族以外の子供達を翔人として育ててゆく時代が訪れると、結婚に関する一切の助言を止めた。勝手知ったる身内を育てることのみに安住してきた翔家は、自分達が新たな成長段階へ入った事に、自ら気づく必要があったのである。それは、賭けだった。間違った道を選べば、翔家は遠からず消滅していた。それは陽晶達にとっても悲しい未来だったので、無表情の陽晶達が次第に増えていった。ただ、希望もあった。人類の歩みを八百年間見守ってきた水晶は、知っていたのだ。名誉や名声や金銭的見返りを求めず、人知れず身を粉にして働いてきた者は、名誉や名声や金銭的豊かさ以外の報酬を、創造主から受け取るという事を。
陽晶達は、翔家がそれを数百年間受け取り続けてきたことを知っていた。それは、心の向こう側から届けられる声だった。心でどんなに考えても解答を得られない時、心として認識している領域の外から、解答やヒントが届けられるという報酬。その声を送ってくる創造主と人は、金銭や名誉のやり取りができない間柄ゆえ、同じくそのやり取りができない社会貢献をした者へ、金銭の代わりに贈られる報酬。それを翔家が受け取ってきたのを、陽晶達はつぶさに見てきたのである。然るに翔家存続をかけた場面でも、その声はきっと届けられると、陽晶達は予想していたのだ。
それは的中し、声は届けられた。二十年近い議論と熟慮の末、長老達は最後の最後で正しい選択をした。混乱と諦観が自分達を覆ってもその選択に基づき、血縁関係のない子供達を誠実に育てていった。「そなたらは気づいておらぬようじゃが、あの子らを育てた姿がその証拠じゃ。世俗的報酬を一切受け取らずあの子らを育てるそなたらの姿は、創造主がそなたらを育てる姿と、瓜二つじゃからの」 2020年、水晶からそれを教えられた際、身をよじって泣かぬ長老は一人もいなかったと伝えられている。
そして今、2061年現在も、あの掟は変わることなく守られている。というか2020年以降、結婚を機に翔人を辞める者達は一人もいなくなった。神崎さんがそうであるように、結婚相手が翔人になる例も年々増えてきている。ただこれは一族に限ったことで、一族以外の翔人にはまだ例がないのだけど、それでもきっとそのうち、それは翔人全体の傾向になることが予想されている。かくいう僕もそう予想している一人だ。なぜって翔人は皆が皆、幸せな結婚生活を送っているからね。
僕の両親は翔人ではなかった。また両親は、「死が二人を分かつまで」という言葉を体験した人達だった。しかしそれでも、二人は本当に仲睦まじい夫婦だった。今ふり返ると父にとって、自分を真に理解してくれる人は母だけだったのだろう。親も子供も翔人の、自分だけが翔人でない家で、同じく翔人でない母が父をどれほど支えたのか。僕は翔人だから、それを理解できる環境にいない。だがそれでも、母が生きていたころの両親と、それを思い出さずにはいられない幸せそのものの神崎さんと紫柳子さんを見ていたら、こう思うことができた。
――僕も結婚すれば、父さんと母さんの気持ちを、理解できるようになるんじゃないかな。
人知れずそう思い、そして人知れずその光景を心に思い浮かべた僕は、力を尽くして戦った結果、顔面大爆発をなんとか回避できたのだった。
午後四時、神崎さんと紫柳子さんへ暇乞いをした。お二人は大層寂しがり、それは僕らも同じだったけど、こういうのは「もっともっと一緒にいたいよ早すぎだよ」と不平が出るくらいでお開きにするのが一番。僕らは心から、皆で過ごした時間の素晴らしさを称え、そのお礼を述べ、そして再会を堅く誓い会って、ガレージを後にした。
新年一月五日の、午後四時過ぎ。セピア色に染まる秋葉原の街を言葉数少なく、だが大いなる感動を胸に僕らは歩いた。帰りの電車も、行きとは比較にならぬほど静かだった。その代わり、思い出し笑いを幾度もした。心が沈んでいるとき無意識に溜息をつくのとは真逆の、楽しかった出来事を思い出して僕らは笑った。つり革を握り電車に揺られながら、あるいは目を閉じ椅子に腰掛けながら、僕らは笑みを浮かべた。それは誰に向けるでもない笑みだったが、神崎さんと紫柳子さんの仲睦まじさを思い出し誰かが微笑むと、皆それを感じ取り、そして感じ取ったことを相手に気配で伝えた。それはとても自然なやり取りだったため、それがどれほど得難い時間なのかを誰一人意識することはなかった。ようやくそれに気づいたのは、池袋駅のホームで解散してからだった。北へ向かうグループ、南へ向かうグループ、西へ向かうグループ、そして駅を出て京馬の家へ向かうグループの四つに分かれて初めて、電車内で共有した時間の素晴らしさを僕らは知った。胸に熱いものが込み上げてきた。
その熱を、今日のお二人のように大切な誰かへ伝えられる日を夢見て、それぞれの向かう先へ、皆で力強く歩いて行ったのだった。
「水晶は、翔人になる率に差が生じることを、事前に知っていたのではないか」
一族を代表し尋ねた先代へ、水晶は飄々と答えた。
「もちろん知っておったよ」と。
結婚相手を親が決めていた時代、水晶を始めとする陽晶達は結婚相手について親から相談されると、的確な助言を必ずしていた。恋愛結婚が広まった時代、子供を見定めてから翔家の秘密を明かすという方法を提案したのも、陽晶達だった。ただ、子供の見定めは長老達がするよう陽晶は命じた。長老達は絶対的自信のもとそれを引き受け、数十年間うまく機能したが、1980年台に破綻した。長老達は必死になって助言を求めたが、水晶は無表情で「大切なこと故そなたらが決めなさい」と応え続けた。水晶だけでなく、表情のない陽晶を見かける機会は年々増えて行った。しかしある出来事を境に、陽晶達は朗らかさを取り戻して行った。その出来事こそが2000年の、続けるか辞めるかを迫る掟だったのだ。然るに長老達は問うた。「事前に知っていたのではないか?」 そしてそれへ「もちろん知っておったよ」と、水晶は飄々と答えたのである。
その後、水晶が明かした処によると、ほぼ全ての人に配偶者の候補が必ずいると言う。だがそれはただ一人に固定されているのではなく、そのとき抱いていた価値観と時代の風潮によって絶えず揺れ動いているため、相性抜群の人を選ぶ場合もあれば相性の悪い人を選ぶ場合もある。最高の結婚相手が目の前にいても「年収幾ら以上じゃないと結婚なんてあり得ない」等の時代の風潮に流され、その人との縁を絶ってしまう事がままあるのだ。しかしそうであっても、結婚への要望は叶えられることが多い。魔物に変じない配偶者を親と親族が選び抜けば、少なくともその望みだけは高確率で叶えられるのである。それと同様な事が、2000年の掟でも起こった。翔人を辞める選択をした者達が第一に望んだのは、「決断の少ない結婚生活」だった。言葉を濁さずはっきり言うと、その人達は掟の有無に関係なく、「決断する苦悩の少ない結婚相手」を選んでいた。一方翔人を続ける決断をした人は、「先祖伝来の決まりを破ってでも打ち明けられる結婚相手」を最初から選んでいた。ただそれだけの事だったのである。
とはいえ言うまでも無く、金持ちや美人がいつまでも金持ちや美人でいられないように、「決断する苦悩の少ない結婚生活」が一生続く保証は無い。翔人を辞める選択をした人達が、まさにそれだ。その人達は2020年以降、決断の苦しみから逃れたことを、苦しんだのである。このように人の望みは、短期的には叶えられても、それが永続するとは限らない。水晶によるとそれは、より根源的な善悪を学ぶための措置なのだと言う。それこそがあの、「もちろん知っておったよ」なのであった。
仮に2000年、翔家の存続を第一に考えた長老達が、翔家一族は翔人とのみ結婚すべしという掟を発表したとしよう。それを第一に願ったのだからそれは短期的には叶えられても、決して永続せず翔家は断絶した。我が子の幸せより家系存続を優先させることは、新時代に入った人類にとって、悪に他ならなかったからだ。
翔家存続より魔想討伐を第一に考えた長老達の願いは、結果的に一族の翔人を増やした。一族の翔人が減り続けた時代に、一族でない翔人を誠実に育てたので、三翔家に連なる翔人も飛躍的に増加した。血縁関係のない大勢の子供達と深く関わった経験は、翔家一族に人としての成長も促してくれた。そうまさに、あれは良いこと尽くめの掟だったのである。それを、水晶は初めから知っていた。八百年以上の歳月を生きてきた水晶にとって、それは不確定要素のまるでない、確固たる未来でしかなかったのだ。ではなぜ、水晶はそれを話さなかったのか? それについて、水晶はこう答えたという。「我らが手を貸し過ぎると、そなたらの害になるからの」と。
人は成長に伴い、外部からの助力が少なくなっていく生き物だ。例えば生まれたばかりの赤ちゃんは、自分で食事をすることも、体を清潔に保つことも、トイレの始末をすることもできない。よって周囲の人達がその手助けをするのは、正しいことと言える。だがいつまでもそれを続けると、それはその子の害になる。食事や着替え、入浴やトイレを一人で済ませられるように育てることが、その子にとっての幸せにつながるのだ。身の回りの整理整頓や学校での過ごしかた等々にもそれは当てはまり、大人が介入し過ぎると、かえって成長の妨げになってしまう。つまり助力は人が成長していくに従い、意図的に減らしていくべきものなのである。
水晶によるとこれは個人だけでなく、人類全体にも当てはまると言う。翔家の結婚の変遷は、その好例と言えよう。人類全体が幼く、結婚相手を親が決めるのが当然だった時代は、結婚相手について水晶たちは積極的に助言した。新時代が近づき、恋愛結婚が広まると、翔家の秘密を明かすか否かを長老達に一任した。更に月日が流れ、一族以外の子供達を翔人として育ててゆく時代が訪れると、結婚に関する一切の助言を止めた。勝手知ったる身内を育てることのみに安住してきた翔家は、自分達が新たな成長段階へ入った事に、自ら気づく必要があったのである。それは、賭けだった。間違った道を選べば、翔家は遠からず消滅していた。それは陽晶達にとっても悲しい未来だったので、無表情の陽晶達が次第に増えていった。ただ、希望もあった。人類の歩みを八百年間見守ってきた水晶は、知っていたのだ。名誉や名声や金銭的見返りを求めず、人知れず身を粉にして働いてきた者は、名誉や名声や金銭的豊かさ以外の報酬を、創造主から受け取るという事を。
陽晶達は、翔家がそれを数百年間受け取り続けてきたことを知っていた。それは、心の向こう側から届けられる声だった。心でどんなに考えても解答を得られない時、心として認識している領域の外から、解答やヒントが届けられるという報酬。その声を送ってくる創造主と人は、金銭や名誉のやり取りができない間柄ゆえ、同じくそのやり取りができない社会貢献をした者へ、金銭の代わりに贈られる報酬。それを翔家が受け取ってきたのを、陽晶達はつぶさに見てきたのである。然るに翔家存続をかけた場面でも、その声はきっと届けられると、陽晶達は予想していたのだ。
それは的中し、声は届けられた。二十年近い議論と熟慮の末、長老達は最後の最後で正しい選択をした。混乱と諦観が自分達を覆ってもその選択に基づき、血縁関係のない子供達を誠実に育てていった。「そなたらは気づいておらぬようじゃが、あの子らを育てた姿がその証拠じゃ。世俗的報酬を一切受け取らずあの子らを育てるそなたらの姿は、創造主がそなたらを育てる姿と、瓜二つじゃからの」 2020年、水晶からそれを教えられた際、身をよじって泣かぬ長老は一人もいなかったと伝えられている。
そして今、2061年現在も、あの掟は変わることなく守られている。というか2020年以降、結婚を機に翔人を辞める者達は一人もいなくなった。神崎さんがそうであるように、結婚相手が翔人になる例も年々増えてきている。ただこれは一族に限ったことで、一族以外の翔人にはまだ例がないのだけど、それでもきっとそのうち、それは翔人全体の傾向になることが予想されている。かくいう僕もそう予想している一人だ。なぜって翔人は皆が皆、幸せな結婚生活を送っているからね。
僕の両親は翔人ではなかった。また両親は、「死が二人を分かつまで」という言葉を体験した人達だった。しかしそれでも、二人は本当に仲睦まじい夫婦だった。今ふり返ると父にとって、自分を真に理解してくれる人は母だけだったのだろう。親も子供も翔人の、自分だけが翔人でない家で、同じく翔人でない母が父をどれほど支えたのか。僕は翔人だから、それを理解できる環境にいない。だがそれでも、母が生きていたころの両親と、それを思い出さずにはいられない幸せそのものの神崎さんと紫柳子さんを見ていたら、こう思うことができた。
――僕も結婚すれば、父さんと母さんの気持ちを、理解できるようになるんじゃないかな。
人知れずそう思い、そして人知れずその光景を心に思い浮かべた僕は、力を尽くして戦った結果、顔面大爆発をなんとか回避できたのだった。
午後四時、神崎さんと紫柳子さんへ暇乞いをした。お二人は大層寂しがり、それは僕らも同じだったけど、こういうのは「もっともっと一緒にいたいよ早すぎだよ」と不平が出るくらいでお開きにするのが一番。僕らは心から、皆で過ごした時間の素晴らしさを称え、そのお礼を述べ、そして再会を堅く誓い会って、ガレージを後にした。
新年一月五日の、午後四時過ぎ。セピア色に染まる秋葉原の街を言葉数少なく、だが大いなる感動を胸に僕らは歩いた。帰りの電車も、行きとは比較にならぬほど静かだった。その代わり、思い出し笑いを幾度もした。心が沈んでいるとき無意識に溜息をつくのとは真逆の、楽しかった出来事を思い出して僕らは笑った。つり革を握り電車に揺られながら、あるいは目を閉じ椅子に腰掛けながら、僕らは笑みを浮かべた。それは誰に向けるでもない笑みだったが、神崎さんと紫柳子さんの仲睦まじさを思い出し誰かが微笑むと、皆それを感じ取り、そして感じ取ったことを相手に気配で伝えた。それはとても自然なやり取りだったため、それがどれほど得難い時間なのかを誰一人意識することはなかった。ようやくそれに気づいたのは、池袋駅のホームで解散してからだった。北へ向かうグループ、南へ向かうグループ、西へ向かうグループ、そして駅を出て京馬の家へ向かうグループの四つに分かれて初めて、電車内で共有した時間の素晴らしさを僕らは知った。胸に熱いものが込み上げてきた。
その熱を、今日のお二人のように大切な誰かへ伝えられる日を夢見て、それぞれの向かう先へ、皆で力強く歩いて行ったのだった。
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