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十章
それは再会の、1
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短くとも真剣なやり取りを経て、チャットをする余裕の有無を北斗と真山にメールで尋ねてみた。ホワイトデーの疲労に部活の疲労が加わった二人は、余力を残していない可能性があったからだ。けどそれは杞憂だったらしく、
北「問題ない、大丈夫だ」
真「このまま俺らに声をかけてくれなかったら、大丈夫じゃなかったね」
との書き込みがすぐさまなされる。僕ら三人は、二人にこれまでのチャットを読んでもらい意見を求めた。二人の意見は、僕らと完全に一致した。よって北斗が代表し、クラスHPの「六年でまた同じ組になろう」掲示板に議題を書き込んだ。爆発的反応があるまで五分とかからなかった。なぜなら明日三月十五日は、六年生の卒業式だったからである。
湖校はだいたい二年に一度の割合で、六年時のクラスが一年時とまったく同じになる。だがその仕組みを教育AIは一切明かしておらず、同じクラスにならなかった二期生から十一年経った今も、この割合を上げることを湖校生は叶えていない。ただ、六年時と一年時を不定期で同じクラスにするのは全研究学校に共通しており、その全国平均は三年に一度であることから、仕組み解明の鍵は湖校にあると考えられてきた。そして明日卒業式を迎える湖校の六年生は、同じクラス替えになった先輩方だった。つまり明日を逃すと、卒業する先輩方に直接尋ねる機会はそうそう廻ってこないのである。よって、
――序列意識の強弱がクラス替えの指標なのではないか
という推測を無礼にならぬよう問う方法を、僕らは必死になって探した。新忍道サークルに六年の先輩がいない僕にその問いはできないが、そんなの関係なかった。残念脳味噌をフル稼働させ意見を述べ、皆とその方法を模索して行った。その甲斐あって、午後九時前に結論を導き出せた。僕の就寝時間が午後九時だって、みんな知ってたんだろうなあ。
「この問いは原則として、五年の先輩方がいない時に行う。だが、六年の先輩と五年の先輩の結びつきは非常に強くその機会を得られないことが予想されるため、その場合は掲示板に必ず報告する。一人も質問できなかったら、昴と白銀さんが朝露の白薔薇へ事情を説明する。二人の負担が突出しているこの計画を二人が承諾してくれたことへ、俺達一同感謝を捧げる」
北斗が代表してまとめたように、僕らが最も配慮したのは五年の先輩方だった。仮に六年の先輩方が序列意識をクラス替えの指標と感じたとしても、その対策を施す時間をもう持たない五年生のいる場所で、それを口にするだろうか。口にしても口にしなくても、それは卒業式という日を迎えた先輩方にとって、苦い記憶となるのではないか。そんなこと絶対できないと判断した僕らは、五年生のいる場面ではその質問をしないという結論に、至ったのである。
だがそれでも北斗が言及したように、これは輝夜さんと昴に負担を強いる計画だった。こんなことなら六年の先輩と親しくなっておくべきだったと幾ら悔やんでも、それは後の祭り。感謝の言葉を掲示板に書くことしかできなかった自分を僕は責めた。でも、
「気にせず寝てね」
「気にせず寝なさい」
との音声メールを一秒と違わず送ってくれた二人に報いるべく、僕は気持ちを無理やり切り替え、眠りに着いたのだった。
そして迎えた、三月十五日。
卒業式開始を一時間半後に控えた、朝のHR中。
クラスの叡智を結集した昨夜の計画は、良い意味で修正される事となった。輝夜さんと昴が何とHR前に、しかも負担の全くかからない形で、問いかけの回答を得たのである。二人はここ半年ほど、六年の先輩方から前代未聞の集中稽古を受けていた。六年生から見れば赤子同然の対人技術しか持たなかった二人は、集中稽古を通じて貴重な技を無数に学んだ。そしてそれは、六年生にとっても同じだった。敗北が死に直結する真剣勝負を日常とする二人との試合は、六年生たちを薙刀の新境地へ導いたのだ。その日々が六年生たちに、ある想いを芽生えさせた。卒業式の朝の六年生道場で、二人に最後の挨拶がしたい、と。
「誰か一人にでも洩らせば六年生道場に部員全員が押し寄せることになるから、絶対秘密だぞって先輩方に念押しされちゃって」
「私達がお前達にする最後の頼みだって六年の先輩方に見つめられたら、何があっても約束を守りたいって思っちゃって」
「だから昨夜は、どうしてもみんなに明かせなかったの」
「皆さん、申し訳ございませんでした」
HRの連絡事項の時間、昴と輝夜さんは交互にそう言い、揃って腰を折った。二人の行動は充分共感できるものだったし、二人だけに負担を強いず済んだことへの安堵もあったし、もとより二人を責める気持ちなどハナから持ち合わせていなかった皆は、「いいっていいって!」「頼むから謝らないで~」と大慌てになった。特に僕の狼狽っぷりは群を抜いていたらしく、皆の笑いを誘った。意図した事ではなかったけど、クラスの空気を和やかにできたのだから、僕は大満足だった。
それから二人は、六年の先輩方の回答を皆に伝えた。結論を言うと先輩方は僕らの推測へ、同意を示したそうだ。そのとたん爆発的な歓声が上がり、それに重なって一限開始のチャイムが鳴ったのだけど、僕らは満場一致で臨時HRを開く申請を教育AIに出した。「許可します」という教育AIの即答も手伝い、僕らは沸騰寸前で今後の予定を話し合った。
まず決まったのは、六年生への問いかけの続行だった。これ関係の回答は、数が多いほど正解に近づいてゆくもの。よって機会に恵まれたら臆さず質問すべしと、決定したのである。
そして矢継ぎ早に、絶対焦ってはならないことも決定した。二人からその質問をされた薙刀部の先輩方は何より先に、五年生への配慮の的確さを褒めたと言う。それを聞くや僕らは誇張ではなく、全員同時に安堵の息を吐いた。級友でいられる時間が残り一週間強の僕らは、最終学年のクラス替えまで残り三週間強となった五年生の気持ちを、我がことのように感じられたのである。
その次が決定するにはかなりの時間を要した。「序列意識の強弱が最終学年のクラス替えの指標」を正しいと判断できた場合、それを同級生に伝えるか否かで意見が分かれたのだ。すぐ伝えるべきとの主張が、十組でいられるのは今日を入れても十日しかないという焦りとともに語られたら、それが唯一の選択肢のように僕らは感じた。しかしその直後、序列意識という強敵を打ち負かすには相応の準備が必要ゆえ焦りは禁物という主張を聴くと、それこそが正しい道のように感じたのである。議論は紛糾し、双方一歩も譲らず己の正当性を説き、意見の一致は永遠に訪れないかのように見えた。だが、人の体力は無限ではない。論戦開始から三十分後、一限目が終わるや卒業式の会場に向かう手筈だった級友達がソワソワし始めたころ、立ち上がっていた最後の論者が疲労のため着席する。それを合図に、皆一斉に北斗へ顔を向けた。おどおどモジモジの僕ですら熱中して意見を述べていた空気の中、その最前線にいるはずの北斗が瞑目し沈黙を貫いていたことを、全員知っていたのだ。濃密過ぎて空間が揺らぐのではないかと危惧する程の、四十一人が向ける強烈な視線を浴びた北斗は、目を閉じたまま言霊を放った。
「どちらも正しい」
呼吸が止まった。知らぬ間に用いていた僕の翔化視力は、教室を覆う凝固した意識が北斗の言霊によって柔軟さを取り戻したのを、はっきり捉えたのである。その、柔らかさを取り戻した意識へ、引き続き瞑目したまま北斗は語りかけた。
「俺達はまだ、完全な大人とは言えない。と同時に俺達は、まるっきり子供とも言えない年齢になっている。よって皆、経験済みなんじゃないか。どちらも正しいと感じる相反する想いが、心の中で堂々巡りをする経験を」
北斗の周囲に渦巻いていた皆の視線が霧散するのを、翔化視力が知覚した。思春期の多感な時期を過ごしている大勢の年頃男女にとって、北斗の指摘は思い当たることのあり過ぎる事柄だったのだ。誰もがバツ悪げに、明後日の方角へ視線を泳がせている。本当は僕こそが、そうしたかったんだけどね。
「俺達は未熟だ。己の心の統一すら困難な、未熟者なのだ。そんな俺らが、双方に正当性を感じずにはいられない、相反する意見を持つことは当然だと思う。だから俺は提案する。双方が少しずつ、歩み寄ってみてはどうだろうか。俺達が一年かけて築いてきた絆があれば、両者が少しずつ歩み寄ることによって、両方の長所を活かす方法をきっと見つけられると俺は確信している」
真山が、川の流れのように続けた。
「俺は北斗に賛成。白状すると俺には、堂々巡りをする二つの想いがあってさ。たった今まで、選ぶのは無理だって考えていたけど、北斗の話でそれが少し変わったんだよね。例えばクラスの意見が二つに割れている時、歩み寄りの道を模索し、その技術を磨いてゆけば、自分の中の相反する想いにも歩み寄れるようになるのではないか。自分の外に生じた問題への解決能力は、自分の内に生じた問題への解決能力に、反映するのではないか。そんなふうに、今は思えるんだよ」
猛がバトンを流麗に受け取る。
「みんな知っているように、俺は一昨年の夏、脚に大ケガを負った。だから二つの意見のどちらにも共感して、スッゲー困った。脚を早く治したいと焦りまくっていた俺にとって、十組でいられるのはあと十日しかないという焦りは、どうにかなっちまうほど共感できた。その一方、この大ケガを治すには焦りは禁物と自分に言い聞かせ続けてきた俺は、焦りは禁物と説く奴らにも、どうしようもないほど共感した。そんな俺にとって北斗の提案と、続く真山の打ち明け話は、救いの突破口だった。よって俺は、二人に賛成するよ」
次の走者は京馬だった。
「プレゼンで話したように、俺の小学校時代と幼稚園時代は悲惨だった。偉大な兄貴達を持つ俺は、序列意識がどれほど強敵なのかを、小学校と幼稚園の八年間で学んだんだ。その傷を、十組は癒してくれた。四月から三月までずっと楽しかったのは、みんなと過ごしたこの一年が初めてだったんだよ。だから、歩み寄ろうぜ。どちらかを捨てどちらかを採用するなんて、他の組にも出来る。なら俺達は、俺達にしかできないことを成し遂げよう。俺達ならきっとできる。なぜなら俺らは一年間、そうしてきたんだからな」
北斗、真山、猛、京馬の言葉は、それぞれ胸を深く穿った。それは論戦の先頭に立った両陣営も同じだったらしく、「さっきはゴメンな」「いやこっちこそゴメンな」というジェスチャーを、双方がしきりと送り合っていた。ああこれこそが十組だ、一年間一緒に過ごしてきたクラスメイトなんだと、僕は全身でニコニコしていた。のだけど、
・・・ヒヤリ
北「問題ない、大丈夫だ」
真「このまま俺らに声をかけてくれなかったら、大丈夫じゃなかったね」
との書き込みがすぐさまなされる。僕ら三人は、二人にこれまでのチャットを読んでもらい意見を求めた。二人の意見は、僕らと完全に一致した。よって北斗が代表し、クラスHPの「六年でまた同じ組になろう」掲示板に議題を書き込んだ。爆発的反応があるまで五分とかからなかった。なぜなら明日三月十五日は、六年生の卒業式だったからである。
湖校はだいたい二年に一度の割合で、六年時のクラスが一年時とまったく同じになる。だがその仕組みを教育AIは一切明かしておらず、同じクラスにならなかった二期生から十一年経った今も、この割合を上げることを湖校生は叶えていない。ただ、六年時と一年時を不定期で同じクラスにするのは全研究学校に共通しており、その全国平均は三年に一度であることから、仕組み解明の鍵は湖校にあると考えられてきた。そして明日卒業式を迎える湖校の六年生は、同じクラス替えになった先輩方だった。つまり明日を逃すと、卒業する先輩方に直接尋ねる機会はそうそう廻ってこないのである。よって、
――序列意識の強弱がクラス替えの指標なのではないか
という推測を無礼にならぬよう問う方法を、僕らは必死になって探した。新忍道サークルに六年の先輩がいない僕にその問いはできないが、そんなの関係なかった。残念脳味噌をフル稼働させ意見を述べ、皆とその方法を模索して行った。その甲斐あって、午後九時前に結論を導き出せた。僕の就寝時間が午後九時だって、みんな知ってたんだろうなあ。
「この問いは原則として、五年の先輩方がいない時に行う。だが、六年の先輩と五年の先輩の結びつきは非常に強くその機会を得られないことが予想されるため、その場合は掲示板に必ず報告する。一人も質問できなかったら、昴と白銀さんが朝露の白薔薇へ事情を説明する。二人の負担が突出しているこの計画を二人が承諾してくれたことへ、俺達一同感謝を捧げる」
北斗が代表してまとめたように、僕らが最も配慮したのは五年の先輩方だった。仮に六年の先輩方が序列意識をクラス替えの指標と感じたとしても、その対策を施す時間をもう持たない五年生のいる場所で、それを口にするだろうか。口にしても口にしなくても、それは卒業式という日を迎えた先輩方にとって、苦い記憶となるのではないか。そんなこと絶対できないと判断した僕らは、五年生のいる場面ではその質問をしないという結論に、至ったのである。
だがそれでも北斗が言及したように、これは輝夜さんと昴に負担を強いる計画だった。こんなことなら六年の先輩と親しくなっておくべきだったと幾ら悔やんでも、それは後の祭り。感謝の言葉を掲示板に書くことしかできなかった自分を僕は責めた。でも、
「気にせず寝てね」
「気にせず寝なさい」
との音声メールを一秒と違わず送ってくれた二人に報いるべく、僕は気持ちを無理やり切り替え、眠りに着いたのだった。
そして迎えた、三月十五日。
卒業式開始を一時間半後に控えた、朝のHR中。
クラスの叡智を結集した昨夜の計画は、良い意味で修正される事となった。輝夜さんと昴が何とHR前に、しかも負担の全くかからない形で、問いかけの回答を得たのである。二人はここ半年ほど、六年の先輩方から前代未聞の集中稽古を受けていた。六年生から見れば赤子同然の対人技術しか持たなかった二人は、集中稽古を通じて貴重な技を無数に学んだ。そしてそれは、六年生にとっても同じだった。敗北が死に直結する真剣勝負を日常とする二人との試合は、六年生たちを薙刀の新境地へ導いたのだ。その日々が六年生たちに、ある想いを芽生えさせた。卒業式の朝の六年生道場で、二人に最後の挨拶がしたい、と。
「誰か一人にでも洩らせば六年生道場に部員全員が押し寄せることになるから、絶対秘密だぞって先輩方に念押しされちゃって」
「私達がお前達にする最後の頼みだって六年の先輩方に見つめられたら、何があっても約束を守りたいって思っちゃって」
「だから昨夜は、どうしてもみんなに明かせなかったの」
「皆さん、申し訳ございませんでした」
HRの連絡事項の時間、昴と輝夜さんは交互にそう言い、揃って腰を折った。二人の行動は充分共感できるものだったし、二人だけに負担を強いず済んだことへの安堵もあったし、もとより二人を責める気持ちなどハナから持ち合わせていなかった皆は、「いいっていいって!」「頼むから謝らないで~」と大慌てになった。特に僕の狼狽っぷりは群を抜いていたらしく、皆の笑いを誘った。意図した事ではなかったけど、クラスの空気を和やかにできたのだから、僕は大満足だった。
それから二人は、六年の先輩方の回答を皆に伝えた。結論を言うと先輩方は僕らの推測へ、同意を示したそうだ。そのとたん爆発的な歓声が上がり、それに重なって一限開始のチャイムが鳴ったのだけど、僕らは満場一致で臨時HRを開く申請を教育AIに出した。「許可します」という教育AIの即答も手伝い、僕らは沸騰寸前で今後の予定を話し合った。
まず決まったのは、六年生への問いかけの続行だった。これ関係の回答は、数が多いほど正解に近づいてゆくもの。よって機会に恵まれたら臆さず質問すべしと、決定したのである。
そして矢継ぎ早に、絶対焦ってはならないことも決定した。二人からその質問をされた薙刀部の先輩方は何より先に、五年生への配慮の的確さを褒めたと言う。それを聞くや僕らは誇張ではなく、全員同時に安堵の息を吐いた。級友でいられる時間が残り一週間強の僕らは、最終学年のクラス替えまで残り三週間強となった五年生の気持ちを、我がことのように感じられたのである。
その次が決定するにはかなりの時間を要した。「序列意識の強弱が最終学年のクラス替えの指標」を正しいと判断できた場合、それを同級生に伝えるか否かで意見が分かれたのだ。すぐ伝えるべきとの主張が、十組でいられるのは今日を入れても十日しかないという焦りとともに語られたら、それが唯一の選択肢のように僕らは感じた。しかしその直後、序列意識という強敵を打ち負かすには相応の準備が必要ゆえ焦りは禁物という主張を聴くと、それこそが正しい道のように感じたのである。議論は紛糾し、双方一歩も譲らず己の正当性を説き、意見の一致は永遠に訪れないかのように見えた。だが、人の体力は無限ではない。論戦開始から三十分後、一限目が終わるや卒業式の会場に向かう手筈だった級友達がソワソワし始めたころ、立ち上がっていた最後の論者が疲労のため着席する。それを合図に、皆一斉に北斗へ顔を向けた。おどおどモジモジの僕ですら熱中して意見を述べていた空気の中、その最前線にいるはずの北斗が瞑目し沈黙を貫いていたことを、全員知っていたのだ。濃密過ぎて空間が揺らぐのではないかと危惧する程の、四十一人が向ける強烈な視線を浴びた北斗は、目を閉じたまま言霊を放った。
「どちらも正しい」
呼吸が止まった。知らぬ間に用いていた僕の翔化視力は、教室を覆う凝固した意識が北斗の言霊によって柔軟さを取り戻したのを、はっきり捉えたのである。その、柔らかさを取り戻した意識へ、引き続き瞑目したまま北斗は語りかけた。
「俺達はまだ、完全な大人とは言えない。と同時に俺達は、まるっきり子供とも言えない年齢になっている。よって皆、経験済みなんじゃないか。どちらも正しいと感じる相反する想いが、心の中で堂々巡りをする経験を」
北斗の周囲に渦巻いていた皆の視線が霧散するのを、翔化視力が知覚した。思春期の多感な時期を過ごしている大勢の年頃男女にとって、北斗の指摘は思い当たることのあり過ぎる事柄だったのだ。誰もがバツ悪げに、明後日の方角へ視線を泳がせている。本当は僕こそが、そうしたかったんだけどね。
「俺達は未熟だ。己の心の統一すら困難な、未熟者なのだ。そんな俺らが、双方に正当性を感じずにはいられない、相反する意見を持つことは当然だと思う。だから俺は提案する。双方が少しずつ、歩み寄ってみてはどうだろうか。俺達が一年かけて築いてきた絆があれば、両者が少しずつ歩み寄ることによって、両方の長所を活かす方法をきっと見つけられると俺は確信している」
真山が、川の流れのように続けた。
「俺は北斗に賛成。白状すると俺には、堂々巡りをする二つの想いがあってさ。たった今まで、選ぶのは無理だって考えていたけど、北斗の話でそれが少し変わったんだよね。例えばクラスの意見が二つに割れている時、歩み寄りの道を模索し、その技術を磨いてゆけば、自分の中の相反する想いにも歩み寄れるようになるのではないか。自分の外に生じた問題への解決能力は、自分の内に生じた問題への解決能力に、反映するのではないか。そんなふうに、今は思えるんだよ」
猛がバトンを流麗に受け取る。
「みんな知っているように、俺は一昨年の夏、脚に大ケガを負った。だから二つの意見のどちらにも共感して、スッゲー困った。脚を早く治したいと焦りまくっていた俺にとって、十組でいられるのはあと十日しかないという焦りは、どうにかなっちまうほど共感できた。その一方、この大ケガを治すには焦りは禁物と自分に言い聞かせ続けてきた俺は、焦りは禁物と説く奴らにも、どうしようもないほど共感した。そんな俺にとって北斗の提案と、続く真山の打ち明け話は、救いの突破口だった。よって俺は、二人に賛成するよ」
次の走者は京馬だった。
「プレゼンで話したように、俺の小学校時代と幼稚園時代は悲惨だった。偉大な兄貴達を持つ俺は、序列意識がどれほど強敵なのかを、小学校と幼稚園の八年間で学んだんだ。その傷を、十組は癒してくれた。四月から三月までずっと楽しかったのは、みんなと過ごしたこの一年が初めてだったんだよ。だから、歩み寄ろうぜ。どちらかを捨てどちらかを採用するなんて、他の組にも出来る。なら俺達は、俺達にしかできないことを成し遂げよう。俺達ならきっとできる。なぜなら俺らは一年間、そうしてきたんだからな」
北斗、真山、猛、京馬の言葉は、それぞれ胸を深く穿った。それは論戦の先頭に立った両陣営も同じだったらしく、「さっきはゴメンな」「いやこっちこそゴメンな」というジェスチャーを、双方がしきりと送り合っていた。ああこれこそが十組だ、一年間一緒に過ごしてきたクラスメイトなんだと、僕は全身でニコニコしていた。のだけど、
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