僕の名前は、猫将軍眠留

初山七月

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十四章

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 僕の見立てでは、その躊躇の短さと戦闘終了後の評価は、完全に一致していた。短ければ短いほど、評価も高かったのだ。新忍道は成立して間もない競技ゆえ、インハイ出場を果たした選手に技術力の差はあまり無かった。だがその分、躊躇の短さには違いがあり、それが練度の差を生じさせていた。躊躇の短いチームは長いチームより高レベルのゲームに挑むことができ、その高レベル戦闘における経験値が、選手の練度を引き上げていた。その練度差が、各校の評価を決定していたのである。それを確信した僕はため息をつかずにはいられず、そしてそれは北斗と京馬も同様だったので、僕らは短時間ながらも熱い議論を交わした。
「あの三校は、高評価を得る条件を履き違える可能性が高い。残念でならんな」
「高評価を得る条件は、高レベルゲームを戦えるようになる事。あの三校は、そう考えちまうって事だよな。でもよ、じゃあどうすればいいんだよ。監督がいる限り俺らは強くなれませんから監督のいない部にして下さいって、学校に頼むワケにもいかねえだろ」
「仮にそれが受理されて部活の環境を整えられたとしても、教師のいる学校生活は変えられないよね。それに救命救急三級の取得制度とかもないから、怪我も心配だよね」
「そうだな。よって残酷だが、方法は一つしかないと俺は考えている」
「げっ、なんだよ残酷な方法って」
「うっ、僕まったく想像できないよ」
「松井と竹と梅本はどうだ、思い付くことはあるか?」
 北斗は身を乗り出し、二年生トリオの左隣にいる松竹梅へ尋ねた。一年と二年の計六人は一列に並んで座っており、そして僕らの議論に松竹梅が耳を傾けていたのを、僕らは気づいていたのだ。北斗に問われた竹と梅本は、自分達も高評価を得る条件を履き違えていたと正直に明かした。それを受け僕と京馬は、三校の選手にとって躊躇なしの判断は難しい事と、その仕組みを説明した。ちなみにオドオド性格を多少持つ竹は僕に似ていて、ひょうきん者の梅本は京馬に似ていた関係で、僕らは普段のノリのまま年下の後輩と会話を弾ませることができた。その上、
「松井はどうだったよ」
「松井のことだから、一瞬の躊躇を見逃さなかったんじゃない?」
「朧気に見えただけで、言語化はできていませんでした。お二人の説明を聞き、初めて明瞭に理解できました」
 なんて感じの、北斗を彷彿とさせる知恵者もいたものだから僕ら六人は、去年の自分達を見ているような、もしくは来年の自分達を見ているような、そんな不思議かつ親密な感覚をしばしば共有していた。けどそれはなぜか決まって、今のような時間に余裕のない場面でのみ生じていたのである。よって僕と京馬と松竹梅は今回も、人格と知性を最高レベルで融合させたおとこへ顔を向け、とりあえずの終止符を打ってもらった。それを受け、北斗が朗々と述べる。
「俺の考えるたった一つの解決方法は、三年制高校側にはない。研究学校がインハイ上位を毎年独占することで、強くなるための条件をじかに示すという残酷な方法しか、おそらく無いんだよ」
 ならせめて、それを残酷と思う謙虚さを忘れずにいよう。
 そう胸に刻みつつ、第四戦開始のアナウンスを僕らは聞いたのだった。

 獅子族と高度な戦いを繰り広げる岩手県盛岡市の研究学校の勇姿を、同じ道をゆく仲間として最後まで見届けたかったが、それは叶わなかった。僕らは静かに席を立ち、関係者席に座る人達とジェスチャーのみの挨拶をして、控室へ向かった。
 二つの控室は第四戦と第五戦の学校が使っていたので、僕らは外部ドアの脇でストレッチを始めた。南に正対する観客席の作る大きな陰に冷やされたコンクリートが、とても心地よかった。
 ストレッチを終え、思い思いの準備運動を各自でしているうち、第四戦が終わった。誰が声を掛けるともなく僕らは一か所に集まり、耳を澄ませる。耳朶を震わせたAプラスという評価に、十五人で歓声を上げた。
 それから三分と経たず、盛校の選手達がドアから出てきた。そして出てくるなり、選手達はドアの前に二列横隊を形成した。出迎えた湖校と、同じ隊列を組んでくれたのである。二校は初対面だったが、そんなの関係なかった。
「盛校の健闘を称え、敬礼!」
 真田さんの号令のもと敬礼を捧げた僕らへ阿吽の呼吸で、
「湖校の健闘を祈り、敬礼!」
 盛校も敬礼を返してくれた。その完璧なシンクロ振りに親近感を抱いた僕らは、
「「「頑張れよ!!」」」
「「「任せとけ!!」」」
 見知った間柄のように声を掛け手を振りながら、それぞれの向かう場所へ足を踏み出したのだった。

 埼玉予選と同じく、控室は3D壁と相殺音壁によって二部屋に分けられていた。それでもビシビシ伝わってくる気迫に、思わず立ち止まり目を閉じ、西半分の気配を探ってしまった。荒海さんが近づいてくる気配を察知し瞼を開ける。
「盛校より紙一重上、どうだ」
 野生の狼の気を放つ荒海さんに返答した。
「はい、僕もそう感じました」
 そしてフィールドに顔を向け、続ける。
「熊族用の訓練に比重を傾けた心身のような、気がします」
 心の目に、ヒグマ族と戦う萩校の戦士達の姿が、はっきり映った。そのとたん、
「ブハッ、眠留には敵わねーな!」
「まったく、頼もしい奴だ」
「はい、頼もしい限りですね」
 敬愛してやまない三巨頭から髪をもみくちゃにされ背中を叩かれまくった僕は松竹梅を通り越し、颯太君レベルの豆柴になってしまった。まあこの先輩方になら、それで全然いいんだけどね。
 ともあれ、その後すぐ始まった山口県萩市の研究学校とヒグマ族の戦闘は、見事の一言に尽きるものだった。インハイ本選で戦うモンスターを予想しやすくしてくれた新忍道本部へ、僕は胸中手を合わせていた。

 四十七都道府県の代表が出そろった翌日の、六月八日。新忍道本部は、インハイ本選における対戦モンスターの選考方法を公表した。それにより強いチームほど、戦うモンスターを予想しやすくなったのである。
 例えばこの第四会場には、Aプラスを狙える学校が四校出場していた。そしてAプラスに位置付けられるモンスターは、大きく分けて八種族あった。その内の四種族と、出場四校は地方予選で戦っていたため、インハイ本選で四校が対戦するモンスターは規定によると、残り四種族のどれかになった。そこに「対戦成績の悪いモンスターとは公式戦で戦わない」と「同ランクの学校は同じモンスターと戦わない」の二要素を加えると、どの学校も対戦モンスターを二つに絞り込むことができた。正確には絞り込めるよう、新忍道本部が各学校を、四つの会場へ振り分けていたのである。
 だがこれには、非難もあった。その筆頭の「甘やかし過ぎではないか」へ、本部はこう回答した。
「あなたが作戦指揮官だったら、虎の子の精鋭部隊を、敗北の可能性の高いモンスターと戦わせますか?」
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