僕の名前は、猫将軍眠留

初山七月

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十七章

集合写真、1

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 翌十五日、木曜の午後八時。
 木製台座案はクラス掲示板にて可決され、同八時半に制作担当の七人が決定した。その七人のみならず、立候補者にすらたった一人の女子もいなかった事が、よほど堪えたらしい。久保田は制作担当が決定するや、「木彫りのプレゼントは永遠に諦める」とのメールを僕に送って来た。その後たっぷり三十分を費やし、諦めるのではなく期間未定の保留にするよう、僕は久保田を説得せねばならなかった。
 まあどうにか、納得してもらえたけどね。
 
 
 翌金曜の、放課後。
 台座制作者に久保田と秋吉さんを加えた九人が神社にやって来て、丸太を七つに切り分けた。目の詰まった重い丸太をのこぎりで正確に切断するのは、慣れていないと正直かなりキツイ。しかしそういう、
 ――筋肉を酷使する事
 にこそストイックな喜びを覚える野郎どもが七人集結したお陰で、僕らはワイワイやりながら作業を進めて行った。
 ティアラの台座となる長さ25センチの丸太七つは、七人の担当者によって一つずつ背負われ、二十組の教室に運び込まれる手筈になっていた。彫刻刀と言うまごう事なき刃物を使い、硬い広葉樹の丸太を彫り上げる作業を自宅で行うことを、教育AIが許可しなかったのだ。過保護等の反対意見も当初は多数出ていたが、切り分ける前の丸太をプロ仕様の彫刻刀で一人一人が実際に削ってみてからは、誰もそれを言わなくなった。小学校の図画工作とは、彫刻刀の切れ味も木の硬さもまるで異なる事を、全員が理解したのである。気持ちを新たに臨んだ丸太切り分けを成し遂げ、自分用の丸太を背負った七人の男達を、僕と久保田と秋吉さんは「行ってらっしゃい」と見送った。なぜ行ってらっしゃいかと言うと、七人の男達は再び神社に戻って来て、皆でカレーを食べることになっていたからだ。然るにみんな嬉々として「「「行ってきます!」」」と手を振っていた。
 丸太を切り分ける作業に秋吉さんは初めから加わっておらず、また祖母と貴子さんも手伝ってくれたので調理はすぐ終わり、カレーを食べ始めたのは午後五時十分という時刻だった。夕飯の時間としては早すぎても、そこは成長期の野郎共。しかも肉体労働をこなしひと汗かいた後で眼前にカレーを置かれたものだから、九匹の子猿達は嵐のごとくカレーを食べ、お代わりをよそってくれた秋吉さんに多大な苦労をかけてしまった。けどさすがは、年の離れた三人の弟の面倒を見てきたお姉さんなのだろう。世話好きの姐御としてカレーのお代わりを快くよそってくれた秋吉さんは夕食後、九人の子分を従える身分になっていた。久保田はちょっぴり焦っていたようだが、良い方に転ぶ気が何となくしたので、僕は静観することにした。
 姐御の指揮のもと子分達が一致団結して後片付けを終えたころ、美鈴が部活を終えて帰ってきた。どうやら美鈴は控えめに言って、伝説の超絶美少女だったのだろう。そのあまりの神々しさに畏怖した台座担当の七人は硬直し、ぎこちなく挨拶したのち、いそいそと帰って行ってしまった。一方秋吉さんは嬉しくて仕方ないらしく、美鈴とキャーキャーはしゃぎながらカレーを食べていた。そう秋吉さんは子猿達の世話をするだけで、夕飯に手を付けていなかったのである。そんな想い人の様子に久保田は少し安心したようだが、僕は帰って行った七人に、なんだか申し訳ない気がしていた。

 
 翌十七日、土曜の朝八時。
 待ちに待った電話が千家さんから掛かって来た。ティアラの塗装の廉価版を、完成させたそうなのである。千家さんは完成品を持って今日の午後一時、荒海さんと一緒に神社を訪れてくれると言う。音声のみ通話であろうと、そんなの知ったこっちゃない。僕は千家さんに平身低頭して部活へ向かった。
 その、約二時間後。Aチームによるモンスター戦が始まる五分前、練習場に荒海さんが現れた。朝の電話で聞いていたから、荒海さんが部活に顔を出してくれることを僕は予想していた。だが、狼の眼差しで後輩達を見つめる荒海さんが視野に入るや、戦闘への集中力が自分でも驚くほど高まっていった。それは皆も変わらず、モンスターと戦った四チームは一つも欠けることなく、過去最高の評価を公式AIからもらう事となった。けどそんなのどうでもいいとばかりに部活を終えた途端、
「「「荒海さ――ん!!」」」
 僕らは全速力で偉大な先輩へ駆け寄った。そして、
「おっ、お前ら慌てるな! 落ち着けオイ止めろ!!」
 荒海さんは威厳もへったくれも無く、後輩達から揉みくちゃにされたのだった。
 
 その日の昼食はいつになく盛り上がった。盛り上がった理由の一つは、荒海さんが上座に座った事にあった。部活を引退して以来、真田さんと荒海さんは上座に決して座らなかったが、ジュースを差し入れしてくれたという名目を掲げ、今日はそれを曲げてもらったのだ。北壁を背にして荒海さんが胡坐あぐらをかき、北東の準上座に黛さんが座る光景を目にしただけで、視界の霞む部員が続出した。それを吹き飛ばすべく全員が大騒ぎしたため、モノマネと漫才とカラオケが同時進行するというカオスに部室はなってしまった。ただし、例外もあった。嵐丸だけは、荒海さんの胡坐の上から決して離れなかったのである。その様子を視界の端に捉えただけで目元のダムは決壊寸前になるのだけど、かといって目を背けるのはもったいなく、しかし見つめたとたん決壊確定になってしまうという窮地に立たされた僕らは、兎にも角にもはしゃぎまくった。それでもお弁当だけはしっかり完食するのが、成長期の体育会系腹ペコ男子というものなのだろう。
 
 偉大なOBが来てくれたということで帰宅時間を十五分延長してもらった、午後十二時半過ぎ。
「なんでテメエら全員付いてくんだよ!」 
「新忍道部部長として、千家さんにご挨拶せねばならないからです」
「部長にそんな責任はねえ! それに大勢で押しかけたら眠留が迷惑だろ!」
「ご挨拶したらすぐ帰りますので心配なく」
「黛本当だな、本当にすぐ帰るんだな」
「荒海さん、わたし千家さんと写真を撮りたいです」
「三枝木、そんなこと口走るな!」
「あっ、俺も撮りたいっす」「俺も混ぜてください」「同じく俺も!」「俺も!」「荒海さんと千家さんを中心にした集合写真、素敵だろうなあ」「イイネそれ!」「素晴らしい」「部長として命じる、お二人を中心にした集合写真作戦、成功させるぞ!」「「「オオ――ッッ!!!」」」
 てな感じに、集合写真を撮ることがなし崩し的に決定したのだった。
 とはいえ反対する気はなくとも、危惧も皆無という訳では決してない。僕はさりげなく皆の最後尾へ移動し、写真撮影について千家さんにメールした。商談で神社を訪れる際、千家さんは暗示化粧をせず、通常の意味での薄化粧をする。最初に訪れた時の女神様化粧こそ二回目以降していないが、百人の老若男女が百人とも振り返るレベルに美人度を神社に来るのは、いつもの事だったのである。今日は文化祭とはいえ塗装に係わることだから、暗示化粧をしていないかもしれない。それを危惧した僕は事前連絡の必要性を感じ、千家さんにメールを送ったのだ。
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