僕の名前は、猫将軍眠留

初山七月

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十八章

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 だって、
「ライトニングブレード!」
 と叫んでエクスカリバーを振ったら、刀身から光のやいばがシュバッと放たれ、モンスターを両断するんだよ!
「プラズマ突き!」
 と叫んで神槍グングニルを突いたら、十万度のプラズマがモンスターを穿うがち、蒸発させるんだよ!
 ドワーフ王の戦斧を振り下ろせば大地に亀裂が生じてモンスターを飲み込んでゆくし、妖刀村正で居合斬りをしたら十匹のゴブリンがお腹で両断されてニ十個になっちゃうし、世界樹の杖を一振りしたら・・・・なんて感じに、正直メチャクチャ楽しかったのである。西村と岡崎を始めとする魔法エフェクト係を、皆で褒め称えたのは言うまでもない。なぜ皆かと言うと、僕が武器を振っていたらクラスメイトがどしどし集まって来て、集まった皆に西村と岡崎が事情を説明し、エフェクトの採点者になってもらったからだ。その皆に採点後、
「これ絶対ウケるよ!」「爆ウケ間違いなし!」「つうか俺、文化祭まで我慢できそうにないんですけど」「金を払うから、今すぐ武器を使わせてくれないか?」「あっ、俺も!」「「「俺も!!」」」
 と詰め寄られ、西村達は確かな手応えを得たみたいだった。魔法エフェクト係のみんな、おめでとう!
 そうこうするうち防具の採点が始まり、用済みとなった僕はその場を離れた。というのは建前にすぎず、
「ん? 牛若丸の防具はないのか?」「防具って、稚児服の事?」「そうそう、稚児服!」「猫将軍君の稚児服姿、わたし見たい!」「「「私も~~!!」」」
 てな具合に、牛若丸イジリが始まったので逃げ出したというのが、ホントなんだけどね。
 
 逃亡後は台座係を手伝った。偶然通りかかったら腰痛予防の体操を丁度始めたところだったので、木屑の掃除を買って出たのだ。智樹はストレッチ責任者としても優秀だったのだろう、腰の不調を訴えるクラスメイトは今のところ一人も出ていない。それに報いるべく、台座係の野郎どもはとても真面目に腰痛予防体操をこなしていた。僕はニコニコ顔にならぬよう、せっせせっせと木屑を掃いていった。
 
 木屑掃除の後は、スカーフの絵柄を決められず悩んでいた女の子たちと、最終下校時刻ギリギリまで一緒に過ごした。僕だけなのか、それとも男子全般の事なのかは判らないけど、スカーフのデザインに苦慮している女の子が四人もいる事を、助っ人募集欄を見るまで僕は知らなかった。とは言うものの、本来の僕の性格なら、その子たちのもとを訪れるなんて大胆な行動は絶対しなかった。そういうのは真山や北斗級のトップイケメンの仕事であり、僕如きがしゃしゃり出てはならないとわきまえていたのだ。けど今回は、そうも言っていられなかった。なぜなら、自分でデザインしたスカーフを身に付けて接客する案を提唱したのは、僕だからである。僕は教室を出て廊下の窓辺に立ち、外の景色を眺めつつ生命力補充を行った。そして頬を両手でゴシゴシこすり、普通の顔を作ってから、その子たちのもとを訪ねた。
 まったく想定していなかったのだけど、その子たちは僕を歓迎してくれた。訳が分からず呆ける僕に、くすくす笑いながらその子たちが話してくれたところによると、もう神頼みをするしかないと四人全員が唱え始めた直後、僕が現れたそうなのである。こりゃ創造主が関与しているなと心の中で空を仰ぎ見るや、
 ――頼んだよ
 との声が降りて来たので、任せて下さいと僕は胸を叩いた。もちろんそれは心の中で秘かにした事だったが、ふと目をやると四人の女の子は、一様にキョトンとしていた。続いてそんな自分に気づき、そして自分を含めた全員が同じ状態にいることを知った途端、僕は四連マシンガンによる一斉掃射の、蚊帳の外に置かれる事となった。
「猫将軍君、変なこと訊くけど」「うん、変だけど許してね」「えっと、今・・・」「猫将軍君は・・・」「だっ、誰かとやり取りしてなかった?」「う~ん、誰かというか」「やり取りと言うか」「何だか全然わからないけど」「でも全然わからないのに、すっごくわかるというか」「あっ、わかる。そうだよね!」「そうだけど、異論は全然ないけど、わかるにどの漢字を充てる?」「ん?」「あれ??」「分からない」「ちなみに今のわからないは?」「切り分けるの分かるね」「私も!」「私もそう。例えば判別の判なら」「複数のうちどれを選べば良いか判らないだし」「切り分けるの分かるなら」「気軽に使える分かるだし」「理解の解はまさしく理解できたの解るだけど」「誰かとやり取りは」「うん」「ね」「「「でもさ!」」」
 なんて感じに最初こそ質問されたのだけど、返答のタイミングを掴めぬうちに、完全な蚊帳の外に置かれたのだ。しかしだからと言って、会話を聞き逃すのは愚の骨頂。質問にまだ答えていないし、そもそも四人が悩んでいるのは僕の案のせいなのだから、右耳から左耳へ素通りさせてはならないのである。僕は生命力圧縮四倍を実行して神経伝達速度を二倍に速め、四連マシンガントークの内容把握、及びその記憶に努めていた。
 という僕を含めた五人の状況を、クラスメイト達はほのぼの見つめていた。いや、暢気のんきにほのぼのしているのは男子のみで、女子はほのぼのと一安心の半々といったところだから、さっきの「知らなかったのは僕だけなのか、それとも男子全般か」は、後者で正解のはず。スカーフのデザインに悩んでいる子がいるのを女子は知っていて、そしてそれを、心配してたんだろうな・・・
 みたいなことを考えているのがバレぬよう、またマシンガントークを把握かつ記憶しているのがあからさまにならぬよう、僕は男子共通のほのぼの顔を四人に向けていた。
 それが、良かったのかもしれない。表情に引っ張られて穏やかになった脳に、閃きがやって来てくれたのだ。僕は2Dキーボードを出し、検索をかけてみる。ヒット数順に画像を呼び出し、良く撮れているものを一種類につき四枚ずつ選んでいる最中、
「猫将軍君、どうしたの?」
 いつの間にかマシンガントークを止めていた四人組に、そう問いかけられた。選考も丁度終わったので、手を止めて答えた。
「みんなを見てたら、花壇が心に浮かんでさ。色の種類が豊富な花を検索したら、カーネーション、ガーベラ、ラナンキュラスがヒットしたんだよね」
 ここで十指を走らせ、カーネーションとガーベラとラナンキュラスの計十二枚の写真を、四人に見えるよう空中に映し出した。そのとたん、花に負けない華やかな声が立ち昇り、少なくとも方向性は間違っていないと感じた僕は、押しつけがましくならぬよう注意して意見を述べた。
「例えばの話だけど、花の種類は同じにして、色だけ変えてみるなんてのはどうかな。こんなふうに四人が集まったのも、何かの縁かもしれないしさ」
 何かの縁の個所でハッとした四人は互いの顔を見やったのち、
「「「ギャ――!!」」」
 と四つの爆弾を破裂させた。その炸裂音を教育AIが相殺音壁で消し、仕事に励むクラスメイトを守ったのは、正しい判断だと僕も思う。けど咲耶さん、なぜ僕にだけ相殺音壁を展開しなかったんですか! あの炸裂音を聞かなかったら朗らかに笑って「じゃあ僕、次の助っ人に行くね」と自然に退散することができたのに! そう、できたはずなのに!
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