僕の名前は、猫将軍眠留

初山七月

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十八章

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 う~む、やっぱこういうのは、男友達じゃなきゃ味わえない楽しさだな!
 という僕の想いを、久保田もきっと共有しているのだろう。久保田は僕と瓜二つの表情を浮かべて、実行委員達の議論の内容に耳を傾けていた。のだけど、
「あのさあ猫将軍。文化祭の本質に気づいたことを、なぜ話してないの?」
 聴き終わるなり、呆れ顔でそう詰問してきた。その表情の豊かさだけでも嬉しかったのに、
「いやあのですね、話さなきゃって幾度も試みたのですがタイミングがどうしても合わず」
 などと言い訳を始めた僕を、
「だまらっしゃい!」
 久保田はなんと、男子特有のノリでぶった切ってみせたのである。そんな友に、僕は嬉しくて堪らなくなってしまった。本人が言っていたように、以前の久保田はこれ系のやり取りが苦手だったらしく、教室で見かける事はほぼ無かった。だがこの文化祭を機に頻度は急上昇し、久保田も自分の変化を気に入っているようで、もちろんそれは台座係の野郎共も同じだったから、木彫り八人衆は男友達のノリをいつも楽しんでいた。その日々を介し、
 ――文化祭の本質は、文化を実際に体験し、楽しさを仲間と共有して満喫する事――
 に久保田は心底共感し、よって「なぜ話してないの?」と僕を詰問したのである。しかもそれを「だまらっしゃい!」という、いつの時代の人だよと突っ込まずにはいられないボケで結んだものだから堪らない。僕は嬉しくて仕方なくなり、智樹を始めとする野郎共も競うように乗っかってきて、実行委員達の場は一時、はしゃぎまくる子猿どもに占拠されてしまった。が、
「ああもう、あなた達こそだまらっしゃい!」
 秋吉さんが一喝するなり場は一転した。床に正座する気構えをもって椅子の上で姿勢を正したダメ男子達を、秋吉さんは姐御モード全開で睨みつけている。そんな秋吉さんに僕は胸の中で、久保田の恋の成就率を下方修正した。ああ秋吉さんは、久保田が自分のために一芝居打ってくれた事を、気づいていないんだなあ・・・
 その一方、理解した上で軌道修正してのけた人もいた。
「まったく、秋吉さんが怒るのも無理ないよ。あのねえ猫将軍君、私達には時間が無いの。文化祭の本質に気づいたことを書き留めるから、すぐ話して」
 書記は休む暇がないなあと愚痴をこぼしつつ、香取さんが2Dキーボードを立ち上げたのである。僕は心の中で智樹をゴツき、お前はメチャクチャ頑張ってこの才女を射止めるんだぞ、と発破をかけてから説明した。
「僕は文化祭を、将来の訓練と考え過ぎててさ。また今年の文化祭を、去年を清算する場と位置付け過ぎてもいた。その上、議長の役目を全力で果たそうとする強張りもあったから、求道者的な硬直状態に陥ってたんだよ」
 はしゃぐ時間と台座制作に打ち込む時間を巧く調整しながら文化祭を楽しむ木彫り八人衆に教えてもらったことを、僕は説明していった。いつの間にかクラス中がこちらに耳を澄ませていて、それは冷や汗を流さずにはいられない状況だったけど、「私達には時間が無いの」という香取さんの助言のお陰で乗り切る事ができた。
「文化祭の本質は、文化を実際に体験し、楽しさを仲間と共有して満喫する事なんじゃないかって僕は思う。それを具現化したのが、木彫り八人衆の木製台座だって僕は感じる。後輩達があの台座をそのまま使うか、備品の材料として加工するかは分からない。でも、あの台座を手に取った未来の後輩達が、先輩方は文化祭を楽しんだんだな自分達も楽しもうって感じてくれたら嬉しいし、またそれは」
 ここで久保田が、「その先を引き継がせてよ」という強い意志を送ってきたため、僕は親指をグイッと立てた。久保田は七人の台座係に顔を向け、八人全員で僕と同じ動作をしてから、別人かと見紛うばかりの頼もしさで先を引き継いだ。
「文化祭の準備に余裕があるなら、僕らは台座を工芸品の域まで高めたい。理由は僕らが文化祭をとことん楽しんでるからで、そして猫将軍の言うようにあの台座を介して、僕らがどれほど楽しい日々を過ごしたかを後輩に感じて欲しいんだ。個人的な話だけど、僕は弓道部の先輩方に凄くお世話になっていて、恩返しをしたいっていつも願ってる。だから後輩の役に立つチャンスが目の前にあるなら、それを逃したくないって心から思うんだよ」
 久保田の声は途中まで教室に朗々と響いていたが、ある個所を過ぎるや、ざわめきがその邪魔をするようになった。その箇所とは、『先輩方に凄くお世話になっているから恩返しをしたい』に他ならず、かく言う僕も声を出さなかっただけでウズウズしっぱなしだった。それはクラスメイト全員に当てはまり、四十一人がこうもウズウズしたら、それだけでざわめきが生じるものなのである。するとその空気を、惚れるほど男らしく利用したヤツがいた。そいつはクラスメイトの高揚を翼で受け止めたかのように立ち上がり、頼もしい声を教室に響かせた。
「委員長として発言する。聴いて欲しい」
 そんな智樹に息を呑み、眩しそうに眼を細めていた才女がいた事をどうやって伝えようか・・・
 とそれはさて置き、香取さんは智樹に見入るあまり書記としての役目を忘れているらしい。僕は2Dキーボードをこっそり出し、十指を走らせた。
「湖校には、『好機は余裕を好む』との格言がある。二十組は今、この格言のただ中にいると俺は思う。準備をこなすだけで精一杯の場に好機が足を運んでも、好機は仕事を増やす厄介者とみなされ、追い払われてしまう。然るに好機は余裕のある場を訪れ、大切にされ活かされることを望んでいる。その状況にまさしく今、俺達はいる。高品質のクラス展示を計画しつつも遅滞なく準備を進め、豊富な余裕を有するこの二十組に好機は好意を抱き、訪れてくれた。文化を楽しみ共有するという文化祭の本質が、俺達の眼前に現れてくれたのだ。俺はそう感じたが、皆はどうだろうか?」
 それから十秒ほど、同時多発と異口同音の見本市のような状態に教室はなった。けどそこは、さすが湖校生。隣の人と意見を等しくしていると知るや、同じことが隣の集団ともすぐさま成され、それが次々伝播した結果、たった十秒ほどで教室全体の共通見解を得るに至ったのである。それはもちろん、
 ――好機を歓迎しよう
 であり、そしてその根幹をなすのは言うまでもなく、
 ――先輩方に恩返ししたい
 だった。湖校には、先輩から授かった恩を後輩に還すという伝統がある。これは湖校生が最も誇りにしている伝統であり、二十組は全員が部やサークルに所属しているから、それが特に強いのだろう。つまり何が言いたいかというと、智樹には悪いがクラスメイト達は、文化祭の本質や好機に関する格言うんぬんより、「文化を楽しんだことを後輩に伝えられたら、それは先輩方への恩返しになる」という考えの虜になってしまったのだ。理屈抜きで、それがしたくてしたくて堪らなくなったのである。よって、
「委員長権限をもって宣言する。二十組は文化の楽しさを共有し、満喫するぞ!」
「「「「オオオ―――ッッ!!」」」」
 僕らは一致団結して雄叫びを上げた。
 最終下校時刻に間に合うギリギリの、午後五時四十五分。
 二十組の四十二人は気分を一新して、文化祭に臨むこととなったのだった。
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