僕の名前は、猫将軍眠留

初山七月

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十八章

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「ううん、僕もそこに含まれている。あのとき秋吉さんは、僕にも怒っていた。けど、秋吉さんが今日僕と一緒に帰らなかったのは、僕に怒っていたからじゃない。さっき話したように秋吉さんは数週間前、『あなたは私にとって格下の人間』と僕に面と向かって言った。それは僕に、『あなたは恋愛対象ではない』と伝えるための行為だった。僕はそれでもかまわなかったから、秋吉さんの前ではいつも、秋吉さんにとっての僕でいた。でも今日の放課後、僕は初めてそこから抜け出て、秋吉さんを守る僕になった。戸惑いを必死で隠す秋吉さんを見ていられず、僕は男子達と一緒にバカ騒ぎして、一緒になって怒られて、色々なことを有耶無耶にしようとした。秋吉さんはそれに、一瞬とはいえ乗せられた。格下認定を直接言い渡した者による救済措置に、そうとは気づかずまんまと乗せられ救済してもらった。そのことに気づいた秋吉さんは、多分こう考えたんじゃないかな。本当は自分は、自分が思っているような優れた人間ではなく、むしろ劣っているのではないか。それを実行委員の皆は知っているけど、プライドの高い自分を気遣い、知らない演技をしてくれているのではないか。帰り支度中の秋吉さんがこんな事を考えていたと仮定するなら、あの不可解な挙動の説明が付くんだよ。この仮定は、昇降口に向かっている時は既に僕の中にあったけど、強烈すぎて明確に意識する事ができなかった。それを今こうして言葉にできたのだから、僕は一歩先に進もうと思う。ねえ猫将軍、好きな人をこうも苦しませるヤツは、人を好きになっちゃいけなかったのかな」
 明日は討伐日なせいで、「今すぐ引き返して今日は僕の家に泊まろう!」と久保田に言ってあげられない自分を、僕は無限に責めたのだった。

 それから駅に着くまでの道中、僕は自分に許される可能な限りを明かした。翔人関連は伏せざるを得なくとも、午前二時に起きる神事を僕は週四日行っていて、そして明日はその神事をする日なせいで、今日は久保田を家に泊められない事。去年の夏休み最終日に猛と真山が僕を寮に泊め、そのお陰で僕は救われたのに、同じことを久保田にできず自分に腹が立って仕方ない事。僕が輝夜さんに初めて出会ったのは二千年前の古代ローマ、次は一千年前の中国、僕はその二回とも輝夜さんに相応しい男ではなく、二千年かけて自分を磨き、三回目の今回やっと自分の気持ちを伝えられた事。それらを僕はせめてもの償いとして、久保田に打ち明けたのである。
 そこはかとなく予期していたとおり、二千年の過去を含む僕の話を、久保田は疑いも茶化しもしなかった。そして順を追い、一つ一つに真心のこもった返答をしてくれた。今日は泊まれなくて正直すごく残念だから、機会があったら是非お呼ばれしたい事。自分に腹が立つ気持ちは痛いほど分かるから、そんなに自分を責めないでほしい事。それらの返答を全て終えた久保田は、僕に頼みごとを一つした。
「白銀さんの気持ちもあって難しいと思うけど、可能な部分だけでいいから教えてもらいたい事がある。白銀さんに出会った一回目と二回目、猫将軍は好きな人とどんなふうに接したのかな。ほら僕は、あなたは恋愛対象じゃないって面と向かって言われても、それでいいって思っちゃうヤツだから、気になってさ」
 そんなのは気になって当然、少しでも助けになればと、僕は覚えている限りを話した。一回目の輝夜さんは姉の親友で、輝夜さんは僕を親友の弟としてとても大切にしてくれた。だから僕は輝夜さんを煩わせないよう、親友の弟の領分を最後まで守り通した。二回目の出会いは姉と一緒に僕も親友になれて、そして別れ際、次こそは相応しい男になってみせると宣言した。輝夜さんは、何も説明できず去ってゆく自分を許してほしいと泣いていたけど、それでも最後の最後に、私も次を楽しみにしていると本当の気持ちを明かしてくれた。そして今回、しっかり確認したのではないから輝夜さんがどこまで覚えているか僕は今も知らないが、僕に限って言えば、輝夜さんとの二千年の仲を最初に思い出したのは、去年のゴールデンウィークだった事。それらを僕は、ミーサの相殺音壁に守られつつ話したのだ。
 そんな、妄想はなはだしい中二病患者と取られても文句の言えないアレコレを、久保田は今回も、疑ったり茶化したりせず真摯に聴いてくれた。そのあまりの徹底ぶりに、僕は幾分キョトンとしていたのかもしれない。久保田はクスリと笑い、質問と言うより事実確認のための問いかけをした。
「そのお姉さんは、天川さんだよね?」
 咄嗟に胸を両手で押さえ、心臓が止まるような事をいきなり言わないでと僕は訴えた。久保田はそんな僕にしこたま謝ってから、昴が姉だったという確信を得た理由を説明してくれた。
「猫将軍より全然覚えてないけど、少なくとも五連続の前世で、姉はずっと僕の姉だった。譬えるなら、僕は生粋の弟のようなものなんだ。そして天川さんと一緒にいる時の猫将軍に、僕は以前から自分に似たものを感じていた。それが今の話で、僕と同じ生粋の弟だったんだって分かったから、鎌をかけてみたんだよ」
 久保田によると直前の前世は、今では神話と化したバブル時代を、大学在学中に経験した世代だったらしい。それを久保田は明瞭に覚えていて、前世の住所を訪ねるのは容易いが、姉に止められしていないと言う。久保田姉弟の記憶は和服が当然の時代まで遡り、遡るにつれ曖昧になっていても、最も古いのは江戸時代で間違いないそうだ。ただそれ以前の記憶はなく、姉がすぐそばにいなかった気もするから、思い出す価値はないと久保田は結んだ。そこまで聴き終わった僕は、我慢に我慢を重ねた問いをやっと放った。
「僕は久保田と真逆で、ここ数回の前世の記憶が抜け落ちててさ。覚えているのは日本人だった事と、昴が姉だった事だけなんだよ。しかも直前の前世に至っては、強制的に忘れさせられている気がする。久保田、この現象に関して、何か情報を持ってないかな!」
 久保田はそれに関する情報を持っていた。けどそれは、直前の前世を思い出す方法を知りたい僕にとって、落胆を誘う内容だった。久保田によると、直近数回の記憶を完全に忘れている方が圧倒的に多く、そしてそれが、「転生には数百年を要する」という説の根拠になっているのだそうだ。
「小学校のときオカルト好きのクラスメイトと知り合って、姉と僕が前世の記憶を持っていることを話したんだ。すると、それは嘘だって決めつけられてね。決めつけられた理由は、『転生には数百年かかって性別が毎回入れ替わるって、ネットでみんな言ってる』だった。だから『君はどうなの?』と尋ねたら、泣かれちゃってさ。思い出したくないけど次のクラス替えまで、僕はクラスのみんなにほぼ無視されていたよ」
 僕と美鈴は祖父に助言されていたのが活き、久保田と同じ目に遭ったことが無い。だが祖父は違って、祖父は若い頃、そっち関連の厄介事に幾度も煮え湯を飲まされたと言う。その最大の原因は消滅して久しい、TV局にあったそうだ。
 視聴率至上主義に走ったTV局が、金儲けをしたいだけの自称霊能力者をTVに次々出演させたため、心霊関係は全部嘘と大多数の日本人が思い込んだ。それが「悪貨は良貨を駆逐する」の法則を呼び、良識ある霊能力者の活躍の場を奪ってしまった。その怒りが未だ冷めないのだろう、祖父は折に触れこう語っている。
「TV局は間違った霊的知識を故意に流布し、日本人の成長を妨害した。その悪果が跳ね返って来て、TV局はTV離れを加速させる番組しか作れなくなっていった」 
 TVは世界中で消えたため原因はこれ以外にもあるはずだけど、ここ数回の前世を忘れている事もあり確信を持てない。ただ、なんちゃってスピリチュアル動画主さんが転生時に大変な苦労を背負い込んでも、自業自得なので諦めてもらうしかないと僕は考えている。
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