僕の名前は、猫将軍眠留

初山七月

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二十一章

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 幸い更衣室におにぎりの匂いは届いておらず、僕は胸をなでおろした。また更衣室に、衣服総着替えの最中だった生徒が大勢いた事も、おにぎりによって引き起こされた心の嵐を沈めてくれた。僕は彼ら同様素っ裸になり、汗拭きシートを全身に使ってゆく。シャワーを浴びたに等しい爽快感と、全身気化熱による体温の適正化がまことに心地よい。一分前とは打って変わり、僕は意気揚々と更衣室を後にした。と言ってもその直後、空腹との戦いに再度身を投じなければならなかったんだけどね。

 待ち合わせ場所の昇降口中央に、約束した時間の五分前に着いた。昭平アニコミを介し小学生のころ知った格言を、心の中で口ずさんでみる。
 ――着替えの所要時間として女性から提示された時間は二倍に考えねばならず、それができない男性にはケンカ別れの未来が待っている――
 へなちょこっぷりが尋常ではなかった小学生の頃はこの格言に腰を抜かしたものだが、今は深い感謝を捧げている。ひとたびイライラしたら表面をどう取り繕おうと相手に伝わってしまうものだし、また男性に綺麗な自分を見てもらおうとすればするほど女性は身繕いに時間を費やすということを、今は理解できるようになったからだ。人格にも優れる輝夜さんのことなので二倍は掛からないにせよ、約束した時間を五分後ではなく十五分後に脳内で書き換えて、僕は待ち合わせ場所に佇んでいた。
 ふと思い立ち、ライブがもたらした筋疲労とカロリー消費を考察してみる。ハッチャケまくったあのライブで僕は両腕を大きく振り、かつジャンプを繰り返していた。ジョギングに換算すると、二十分程度になるだろう。仮に午後のライブも同等の運動量で臨めば合計四十分のジョギングになり、それに普段より四時間遅い昼食時間という要素を加えると、空腹はどれ程になるのか? 昨日より一合多い四合おにぎりを平らげる空腹が、果たして訪れるのか? 直感は、
 ―― 危うい
 と叫んでいた。理由はすぐ思い付いた。僕が昨日、三合おにぎりを余裕を残して完食できたのは、昼食時間が普段より二時間遅かったからではなかった。余裕ある完食の主理由は昨日の早朝の、一時間五十分に及ぶ神経感度五割増しにあった。そう僕は、四合おにぎりとの死闘の三時間半前になって、勝敗を左右する最重要事項に気づいたのである。
 ならば僕は、死闘までの三時間半をどう過ごせばよいのだろう。その考察に脳をフル稼働させていた僕の肩を、
 ポンポン
 誰かが叩いた。顔を向けるとそこに、時代を超越した頭脳の持ち主がいた。「異世界転生小説定番のステータスボードを現代技術で製作可能か」という、99.99%以上の人が一笑に付すであろうお題目を、原理だけならほぼ解明してしまった超頭脳の持ち主が、そこにいたのである。僕は神速をもって体の向きを変えその人の両手を握り、息せき切って問うた。
「輝夜さん、僕は昼食までにもっとカロリーを消費しないといけない。これからの三時間半を、どう過ごせばいいかな?」
 輝夜さんは、あっけらかんと正解に辿り着いた。
「文化祭を楽しもう、眠留くん!」
 僕は目を剥く。続いて破顔し、
「ウルトラクイズ、再開だ!」「うん、行こう!」
 僕と輝夜さんは手を繋ぎスキップして、次の中継ポイントを探したのだった。

 合唱やペアダンスをしつつクイズに答えるという、意味不明のような意味ありありのようなウルトラクイズを完遂したのは、三十分後の正午だった。手を取り合って喜ぶ僕らの頭上に3Dのくす玉が現れ、
 パンパカパ~ン♪
 の定番曲と共にそれがパカッと割れて紙吹雪が舞った時は、一緒に飛び上がってはしゃいだものだ。が、
「祝、初々しいカップル賞受賞!」
 の垂れ幕が突如くす玉から下がり、二組の教室といきなり中継が繋がって、司会の猛にニマニマされながらマイクを向けられた時は、気を失いかけたというのが正直なところだった。もちろん輝夜さんと協力し、如才なくこなしたけどね。
 司会の猛によると、このクイズには複数のモードがあって、参加者を最も楽しませるモードをAIが自動的に選定すると言う。そう僕と輝夜さんは、知らぬ間に初々しいモードを選ばれていたのだ。それはまさしく正鵠を射ており、僕と輝夜さんは見本の如くクイズを楽しみ、AI判定による初々しいポイントを順調に重ねていった。その結果、
「祝、初々しいカップル賞受賞!」
 の運びとなったそうなのである。咲耶さんが目を光らせているから二組の生徒がクイズの参加者を盗み見ているのではないと最初から解っていた事もあり、突如始まった受賞式に僕らはすぐ順応できた。そんな僕と輝夜さんは、
「さすが!」「お似合い!」「いよっ、受賞カップル!」「「「せ~の、おめでとう!!」」」
 てな具合に、周囲を囲む大勢の生徒達と中継で繋がった二組の生徒達の双方に祝福され、ウルトラクイズを終えたのだった。
 
 そうこうするうち丁度良い時間になり、ニ十組へ足を向けた。十分後の十二時半から、冒険者店の僕のシフトが始まるんだね。西階段を上り三階に着き、廊下に出る。するとたまたま廊下に誰もいなかったので輝夜さんにウインクし、腰に下げていた巾着を外し、中からマントを取り出して颯爽と羽織った。すると、
「眠留くん似合う!」
 輝夜さんが拍手してくれた。その瞳の輝きに販売促進の仕事を思い出した僕は、丁度よい機会なのだと覚悟を決め、羽織ったばかりのマントを外し輝夜さんに持ってもらう。首をかしげる輝夜さんに三メートル離れてもらうようお願いし、そして周囲に人がいないことを確認してから、
 タンタタタ――ンッッ
 二連続定点バク転からの定点バク宙を決めた。
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