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二十二章
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アクセス権を有する者が有さない者へ情報伝達する場合、漏洩を最小限にする義務が生じる。よって黛さんは複数の対策を提示し相談するのではなく、自分が最も良いと判断した対策を、お二人に提案したそうだ。三年生には開示不可能なはずの情報をこれから教えられると判断した僕は、アドレナリンが血液中に大量放出されるのをはっきり感じた。のだけど、
「雅也、その前に真田さんと荒海さんの話をした方がいいんじゃないか」
アドレナリンは極度の緊張を制御するためではなく、尻尾の高速ブンブン振りのために消費される事となった。だがそれは、仕方ない事といえる。なぜなら僕は気づいてない演技をしていただけで、
―― 真田さんと荒海さんは第二通学路で弱音を吐いたのか
を、本当は知りたくて知りたくて堪らなかったからだ。目をかっぴろげて鼻息を荒くする状況に再度陥った僕へ、お二人はこれまた再度「わかるぞ眠留」「俺達も同じだ」との言葉を掛けたのち、真相を教えてくれた。
それによると、真田さんと荒海さんが現役中に通学路で弱音を吐いたことは、なんと一度も無いらしい。忍術部に在籍中は新たな部を立ち上げるという将来の夢の話に終始し、そして新忍道サークル発足後は、
―― 俺達は幸せ者だ
を土台とする話のみをしていたそうなのである。唯一の例外は部を引退して五カ月が過ぎた、今年の一月。荒海さんが新忍道の指導者の道を志したことへ、真田さんは一度だけ「それに引き換え俺は」と弱音を漏らした事があると言う。黛さんによると、真田さんと荒海さんは生涯親友であり続けることを当然と考えていて、そのためには両者並び立った状態の維持が必須であり、しかし荒海さんの出雲行きは真田さんにとって、追いつくことが不可能な崇高な決断に感じられたらしい。然るに杠葉さんが湾岸大学入学の道を切り開いた時の喜びようといったらなく、「これはあくまで黛さんの私見だが」との前置き後に明かされたところによると、
「奥さんの尻に敷かれる度合いは、真田さんが一歩リードしているみたいだぞ」
竹中さんは声を潜めてそう言った。笑いの大噴火が僕の部屋に発生する。僕ら三人はそれから暫く、尻に敷かれる新婚生活について、ああだこうだと想像を膨らませたのだった。
想像を膨らませる過程で、
―― 菊池さんは奥さんの尻に敷かれたい派
であることが発覚するという、今後の超優良ネタを収穫できたのは、さておき。
「真田さんと荒海さんが弱音を吐かなかったことを軸に、黛さんは部長業務と副部長業務の対策を、絞って行ったそうだ」
機を計り、竹中さんが話題を元に戻した。僕も座法を正座に戻し、それに備える。コミュ王の、聞き取りやすい声が部屋に響いた。
「通学路で弱音を一度も吐かなかった前部長から部長職を引き継いだ五年生は、自分への評価が著しく低下する傾向があると、秘密掲示板には書かれていたらしい。己を客観視し、自分もそれに該当すると判断した黛さんは、対策の中から一つを選びだした。それは言うなれば、スパルタ策。部長業に邁進することで部長としての自信を育ててゆくという、脳筋な対策だったんだよ」
思い当たる節があるような無いような、というのが僕の正直な感想だった。黛さんは部長業に邁進していたからそれはそういう理由だったのかと思う半面、スパルタ的な意図はまったくなく自然体で部長業をこなしていたようにも、僕は感じたのである。素直にそう告げると、お二人は「「眠留は正しい」」と声を揃えた。いみじくも当人が言っていたように、
―― 自分への評価が著しく低下した状態
に黛さんは陥っているだけだったのである。よって邁進することで自信を得られるなら新忍道部にも黛さん本人にも損はなく、懸念をあえて一つ挙げるなら、
―― 副部長業務の内容
になるが、それを案じるなど無駄の極みと言えよう。竹中さんと菊池さんに損を強いる提案を黛さんがするなど、天地がひっくり返ってもあり得ないからだ。との想いをまたもや素直に告げ、それをお二人に声を揃えて肯定して頂けると僕は信じ切っていたのだけど、
「それが違うんだよ」
竹中さんは深刻な表情で肩を落とした。僕はパニックになりかけるも、
「このバカ雅!」「痛い痛い、悪ふざけが過ぎましたゴメン裕也!」
菊池さんが本物の怒り顔で竹中さんをポカポカ叩く様子に、安堵の息を全身でついた。ああ良かった、黛さんがお二人に無理難題を強要したのではなかったのだな、と安心したのである。が、
「バカ雅は少し黙ってろ。眠留には俺が説明する」
本物の怒り顔を、本物の深刻顔へ替えた菊池さんに、僕の勝負勘が叫んだ。
―― 戦いはまだ続いている、油断するな!
新忍道部員であると共に翔人としての自分で、僕は菊池さんの説明を待った。瞬き二回分の沈黙を経て、菊池さんが問う。
「今年のインハイにおける黛さんの個人戦闘力を、理由付きで教えてくれ」
それについて散々話し合った北斗と京馬へ胸中礼を述べ、返答した。
「黛さんは去年のインハイでサタンと戦い、勝利しました。その経験は戦士の至宝だと、僕と北斗と京馬は考えています。五年時に至宝を得た黛さんの、六年時における個人戦闘力は、真田さんと荒海さんを僅かに上回ると僕らは推測しています」
北斗が超絶頭脳をフル稼働させプログラムを組み、僕と京馬の戦闘勘をそこに加味してシミュレーションした結果、今年の黛さんは去年の真田さんと荒海さんを僅差で上回る結果が出た。去年のサタンとの死闘は黛さんにとって、まさに至高の宝物だったのである。
「うむ、俺と雅也も眠留達と同意見だ。ならこれも、お前達はシミュレーションしているよな。俺と雅也の、今年のインハイにおける個人戦闘力を」
ここでようやく話の道筋が見えた僕は、それも加えて答えた。
「菊池さんと竹中さんの戦闘力は、去年の黛さんと同等になると僕らは推測します。よって新忍道に青春を捧げる者として、今年のインハイ決勝時におけるサタン戦の勝率も、シミュレーションせずにはいられませんでした。結果は、勝率一割未満。ただこれは去年の秋の数値であり、現時点では勝率三割に届くと僕は考えています」
「雅也、その前に真田さんと荒海さんの話をした方がいいんじゃないか」
アドレナリンは極度の緊張を制御するためではなく、尻尾の高速ブンブン振りのために消費される事となった。だがそれは、仕方ない事といえる。なぜなら僕は気づいてない演技をしていただけで、
―― 真田さんと荒海さんは第二通学路で弱音を吐いたのか
を、本当は知りたくて知りたくて堪らなかったからだ。目をかっぴろげて鼻息を荒くする状況に再度陥った僕へ、お二人はこれまた再度「わかるぞ眠留」「俺達も同じだ」との言葉を掛けたのち、真相を教えてくれた。
それによると、真田さんと荒海さんが現役中に通学路で弱音を吐いたことは、なんと一度も無いらしい。忍術部に在籍中は新たな部を立ち上げるという将来の夢の話に終始し、そして新忍道サークル発足後は、
―― 俺達は幸せ者だ
を土台とする話のみをしていたそうなのである。唯一の例外は部を引退して五カ月が過ぎた、今年の一月。荒海さんが新忍道の指導者の道を志したことへ、真田さんは一度だけ「それに引き換え俺は」と弱音を漏らした事があると言う。黛さんによると、真田さんと荒海さんは生涯親友であり続けることを当然と考えていて、そのためには両者並び立った状態の維持が必須であり、しかし荒海さんの出雲行きは真田さんにとって、追いつくことが不可能な崇高な決断に感じられたらしい。然るに杠葉さんが湾岸大学入学の道を切り開いた時の喜びようといったらなく、「これはあくまで黛さんの私見だが」との前置き後に明かされたところによると、
「奥さんの尻に敷かれる度合いは、真田さんが一歩リードしているみたいだぞ」
竹中さんは声を潜めてそう言った。笑いの大噴火が僕の部屋に発生する。僕ら三人はそれから暫く、尻に敷かれる新婚生活について、ああだこうだと想像を膨らませたのだった。
想像を膨らませる過程で、
―― 菊池さんは奥さんの尻に敷かれたい派
であることが発覚するという、今後の超優良ネタを収穫できたのは、さておき。
「真田さんと荒海さんが弱音を吐かなかったことを軸に、黛さんは部長業務と副部長業務の対策を、絞って行ったそうだ」
機を計り、竹中さんが話題を元に戻した。僕も座法を正座に戻し、それに備える。コミュ王の、聞き取りやすい声が部屋に響いた。
「通学路で弱音を一度も吐かなかった前部長から部長職を引き継いだ五年生は、自分への評価が著しく低下する傾向があると、秘密掲示板には書かれていたらしい。己を客観視し、自分もそれに該当すると判断した黛さんは、対策の中から一つを選びだした。それは言うなれば、スパルタ策。部長業に邁進することで部長としての自信を育ててゆくという、脳筋な対策だったんだよ」
思い当たる節があるような無いような、というのが僕の正直な感想だった。黛さんは部長業に邁進していたからそれはそういう理由だったのかと思う半面、スパルタ的な意図はまったくなく自然体で部長業をこなしていたようにも、僕は感じたのである。素直にそう告げると、お二人は「「眠留は正しい」」と声を揃えた。いみじくも当人が言っていたように、
―― 自分への評価が著しく低下した状態
に黛さんは陥っているだけだったのである。よって邁進することで自信を得られるなら新忍道部にも黛さん本人にも損はなく、懸念をあえて一つ挙げるなら、
―― 副部長業務の内容
になるが、それを案じるなど無駄の極みと言えよう。竹中さんと菊池さんに損を強いる提案を黛さんがするなど、天地がひっくり返ってもあり得ないからだ。との想いをまたもや素直に告げ、それをお二人に声を揃えて肯定して頂けると僕は信じ切っていたのだけど、
「それが違うんだよ」
竹中さんは深刻な表情で肩を落とした。僕はパニックになりかけるも、
「このバカ雅!」「痛い痛い、悪ふざけが過ぎましたゴメン裕也!」
菊池さんが本物の怒り顔で竹中さんをポカポカ叩く様子に、安堵の息を全身でついた。ああ良かった、黛さんがお二人に無理難題を強要したのではなかったのだな、と安心したのである。が、
「バカ雅は少し黙ってろ。眠留には俺が説明する」
本物の怒り顔を、本物の深刻顔へ替えた菊池さんに、僕の勝負勘が叫んだ。
―― 戦いはまだ続いている、油断するな!
新忍道部員であると共に翔人としての自分で、僕は菊池さんの説明を待った。瞬き二回分の沈黙を経て、菊池さんが問う。
「今年のインハイにおける黛さんの個人戦闘力を、理由付きで教えてくれ」
それについて散々話し合った北斗と京馬へ胸中礼を述べ、返答した。
「黛さんは去年のインハイでサタンと戦い、勝利しました。その経験は戦士の至宝だと、僕と北斗と京馬は考えています。五年時に至宝を得た黛さんの、六年時における個人戦闘力は、真田さんと荒海さんを僅かに上回ると僕らは推測しています」
北斗が超絶頭脳をフル稼働させプログラムを組み、僕と京馬の戦闘勘をそこに加味してシミュレーションした結果、今年の黛さんは去年の真田さんと荒海さんを僅差で上回る結果が出た。去年のサタンとの死闘は黛さんにとって、まさに至高の宝物だったのである。
「うむ、俺と雅也も眠留達と同意見だ。ならこれも、お前達はシミュレーションしているよな。俺と雅也の、今年のインハイにおける個人戦闘力を」
ここでようやく話の道筋が見えた僕は、それも加えて答えた。
「菊池さんと竹中さんの戦闘力は、去年の黛さんと同等になると僕らは推測します。よって新忍道に青春を捧げる者として、今年のインハイ決勝時におけるサタン戦の勝率も、シミュレーションせずにはいられませんでした。結果は、勝率一割未満。ただこれは去年の秋の数値であり、現時点では勝率三割に届くと僕は考えています」
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