僕の名前は、猫将軍眠留

初山七月

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二十四章

一対一で有用な敵、1

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 新忍道部の入部審査が終了した金曜日の、前日。
 木曜日の三限、場所は三年生校舎の剣道場。
 個人的には三年生になって二度目となる剣道の選択授業に出た僕は、
「なぜこうなった」
 周囲に聞こえぬよう、小声でそう呟いていた。
 前回の剣道の授業には、一年生から四年生までの二十五人の生徒が出席していた。内訳は、四年生は藤堂さん一人、三年生が十二人、二年生が七人、一年生が五人といったところだ。千メートル以上離れた第二エリアから藤堂さんがはるばるやって来たことを除けば珍しい事などさしてない、普通の選択授業だったと言えよう。
 だが今回は前回の六割増しの、四十人が剣道場にいた。増えた十五人のうち八人は四年生で、そこに藤堂さんを加えた九人は、湖校剣道部の全四年生部員らしい。三年生の剣道部員は前回から九人全員が出席していたので増加はなく、二年生は前回いなかった部員の二人が加わり、一年生も増加した五人はすべて剣道部の新入部員だと言う。二年生と一年生も部員全員が出席したのは同じだったから、四年生以下の剣道部員がこの選択授業に勢ぞろいした事になる。これだけでもさっき呟いた「なぜこうなった」は妥当なのに、
 ――今回は剣道部員を優先した
 と教育AIは明かした。希望者を全員出席させたら定員の倍の八十人になってしまうため、剣道に青春をかける剣道部員を今回は特例として優先しただけなのだと、教育AIは説明したのである。これは今回のみの特例で「次回以降は抽選にします」と宣言した教育AIは剣道部員達に詰め寄られ、その剣幕に咲耶さんが涙目になっているのを幻視した僕は、出席時間を増やしますと発言しかけた。けどその直前、
「間違っているぞ眠留」
 とのテレパシーが心に響いた。それは通常のテレパシーとは若干異なっていて、かつその声を聞くのは二度目だった事もあり僕は多大な興味を覚えたのだけど、今はその時ではない。助言をもらった直後なら尚更なのである。僕は瞑目し、剣道部員達がこの授業にこうも出席した理由と、正面から向き合う覚悟をした。
 それが、ニ十分と経たず活きた。試合稽古は四限に行うのが常なのに、剣道部員たっての願いによって三限半ばから試合が始まったのだ。しかもそれは四年生から、しかも藤堂さんから始まると来れば、全力で臨まねば失礼になる。その全力をニ十分足らずで出せたのは、先ほどの覚悟を基に準備運動をしたお陰。テレパシーの送り主に、僕は胸の中で手を合わせた。
 藤堂さんの太刀筋は、やはり古武術の影響なのだろう。現代剣道しか知らない清水の太刀筋とは一味も二味も違い、多数の学びをもたらしてくれた。その筆頭は、
 ――試合は偉大
 だった。藤堂さんの習う古武術は絶えて久しく、そのせいで藤堂さんは、同門の剣士達と試合ができなかった。型稽古によって習得した古式特有の身体操作を、試合を介して「血の通った生きた剣」にすることが、藤堂さんには不可能だったのである。でなければ、これほどの素質を有する人が全中八位に甘んじるなど、ある訳がない。という藤堂さんの不幸な境遇を、この選択授業で覆せるなら、僕はどんな協力もしよう。その覚悟のもと、
「籠手!」
 藤堂さんの籠手を僕は竹刀で打った。審判の旗が三本上がり、僕の勝ちとなる。この授業に出席している全員と戦う事になっているから、通常とは異なる一本試合にしていたんだね。作法に則り試合を終えた僕に、清水が問う。
「猫将軍、どうだ?」
「休憩無しで三十九戦できると思う」 
 そう答えた僕に、燃え盛る炎の眼差しを向けた清水は三年後、全国を狙える剣士になっているんだろうな。
 との呟きを胸中のみでした僕は、休憩を取らず次の試合に臨んだのだった。

 三限と四限に挟まれた休憩時間をすっ飛ばしてその後も試合を続け、約四十分後の十一時半、三十九連戦を僕は終えた。輝夜さんと昴が去年四月、延べ百人の一年生部員と休憩無しの百本試合をしたことと比べたらその四割にすら届かないのだから、大した事ではまったく無いんだろうな。と思っていたのだけど、
「「「「猫将軍眠留――ッッ!!」」」」
 三十九人目の一年生との試合を終えた途端、四年と三年の男子全員から羽交い絞めにされてしまった。いや、剣道の防具を付けているため羽交い絞めというより、団子状態で揉み合っていただけなのだと思う。それを見かねた四年女子の先輩方が男子達を叱ってくれたお陰で比較的早く解放されたが、質疑応答はそのぶん長々と続けられた。とはいえそうなった原因は僕にあるのだから、仕方ないんだけどさ。
 すっ飛ばした十分休憩を試合後に設けたのち、質疑応答は始まった。四年の先輩方は質問の優先順位を休憩中に決めてくれていたらしく、藤堂さんによって最初に成されたそれは、三十九人の総意とも呼べるものだった。
「眠留はなぜ、籠手ばかりを狙ったんだ?」
「籠手は間合いに最も近く、最も攻撃しやすい箇所だからです」
 そう僕は一人を除き、三十八人全員の籠手を打って勝ちを得た。僕が籠手ばかり狙うので開始後すぐに竹刀を上段に構え、籠手を打たれないようにした先輩は、「竹刀落とし」を二回して一本試合における敗者となった。先輩が打ち下ろした竹刀を、僕が爆渦軸閃で二回連続弾き飛ばしたのだ。それ以降は開始直後の上段構えはなくなり、結果的に僕は三十八人全員を、籠手で破ったのである。
 藤堂さんは僕の返答に相槌を打っていたが、それ以外の三十七人はそうではなかった。四年女子剣道部員の学年長を務める高柳さんが代表し、「最も簡単なのが籠手という説明をしてくれないかな」と請う。僕はそれに、表向きの返答をした。
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