僕の名前は、猫将軍眠留

初山七月

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二十四章

新素材刀、1

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 清水が「剣道部も参加させてもらえるかな」と申し出た、約七時間後。
 金曜日の午後八時、場所は神社の自室。
 藤堂さんから受け取ったメールに目を通すや、
「凄い、さすが先輩方だ。これが湖校の六年生と五年生の、底力か・・・」
 僕はそう、唸り声に等しい感嘆を上げた。
 メールは前半と後半の二部構成になっており、前半は危険性の列挙とそれぞれの対策に充てられていた。そこには、道場に多数の人がいる環境で剣道を習ってきたからこそ気づける危険性が、ところ狭しと書かれていた。そうそれは、翔刀術を基本的に一人で習ってきた僕には、到底想像しえない事柄だったのである。よってメールの前半だけでも千金に値したのに、後半の素晴らしさは感嘆するしかなかった。六年生と五年生の先輩方は剣道に青春を捧げてきたにもかかわらず、
 ―― 剣道を完璧に捨てて、
 火曜日の授業を考察してくれていた。しかも更に、
 ―― その授業で使う新素材刀
 の複数の設計図及びそれぞれの費用も、添付してくださっていたのである。設計図に込められた先輩方の知識と技術と、なにより人間性を理解するにつれ、僕は七時間前の大和さんや北里さんと同じ状態に、つまり泣くことしかできない状態になっていったのだった。

 翌土曜。午前中の、新忍道部の練習場。
 一年生四人を加えた初めての部活が、普段より賑やかに行われた。小笠原、壱岐、奄美、そして淡路という、なぜか四人とも島の名前の名字だった新入部員たちは、
 ―― 新任四島
 とすぐ呼ばれるようになった。そのあだ名が発案された当初は新忍道の二文字を取った新忍四島だったが、あまりにも恐れ多いと一年生達が震えあがったので、「新しく任命された」を意味する新任が採用されたのである。新忍道界を代表する四人とも取れるあだ名を免れ、颯太達は胸をなでおろしていた。だが最下級生の今はいいにせよ、最上級生になっても新任のままでは後輩達が困るんじゃないかなと、ちょっぴり不安に思う僕だった。

 部活を終え帰宅し、ひと息ついた午後二時。僕は剣道部の六年生と五年生の先輩方と、遠隔会議を始めた。
 先輩方の偉大さに感動しまくっていた昨夜は、第二エリアの剣道場に僕が足を運ぶつもりでいた。だがそれを藤堂さんに伝えたところ「よう猫将軍」と、剣道部部長の伊達さんから電話を直接頂戴してしまったのだ。慌てて直立不動になり受け答えする僕に大笑いした伊達さんは、笑いを収めるなり、部活後の栄養補給がいかに大切かを熱心に説いた。伊達さんの指摘はまさに正しく、僕は新忍道部の部活が終わるや着替えだけ済ませて第二エリアに向かうつもりだったのだけど、それでは栄養補給が遅れてしまう。その弊害が、成長期の運動部員は特に多いからなるべく避けなければならないと、伊達さんは親身になって説明してくれたのである。電話を頂く前から感動しまくっていた僕が、感極まらない訳がない。直立不動を改め正座に切り替え、伊達さんの説明に耳を傾けていた僕は、土曜午後二時の遠隔会議の提案を素直に承諾した。という次第でその時間となった今、僕は自室の机に座り、剣道部の先輩方との会議を始めたのだ。
 初対面の先輩方との会議は最初こそ穏やかに進行したが、三分経たず熱を帯び始め、十分後には白熱した意見交換の場となり、ふと気づくと一時間が経過していた。このままではマズイと誰もが思い、火曜日の授業用に提案された四本の新素材刀を二本に絞ることが決定し、するとそのとたん更に白熱した議論が交わされ、二本に絞れたのは一時間後のことだった。二時間経過しているにもかかわらず体感時間は二十分ほどしかない会議に全員が疲労を覚え、休憩を設けた後は、二本の刀を3Dプリンターで製作する申請書を出すことと、その刀を手にした際の所作を考察することのみに時間と労力は割かれた。それでも意見交換に熱が入るのは避けられず、授業を行う最低限の所作に目途が付き会議が終了したのは、午後五時を少し回った頃だった。

 翌四月十六日、日曜日。部活後の午後十二時過ぎ。
 僕は頭の中でこの後の予定を確認しつつ、お弁当をモギュモギュ食べていた。
 お弁当を食べ終えたらシャワーを浴び身を清め、六年生校舎の3Dプリンター室へ向かう事になっていた。新素材刀の刀身の材料である特殊ゴムを扱えるゴム製品特化の3Dプリンターが、六年生校舎にしかなかったからだ。このゴムはプラスティックに準ずる硬さを有していても、微弱な電流を流したとたん、柔らかなゴムに変わる性質を持っている。この性質はさほど珍しくなく、新素材の情報に疎い僕でも知っているくらいだったけど、それを火曜の授業の特異性に結び付け、
 ―― そのゴム製の刀が最良
 と閃くことが僕にはできなかった。いや先輩方は素材のみならず授業に沿う刀の形状も新たに考案し、教育AIに制作の申請書を出し、そして許可されるや3Dプリンターを遠隔操作して、今日の午後一時半に完成品を手にできるよう取り計らって下さったのである。それら一連の出来事を想うと、感動が限界突破してしまうためなるべく意識しないよう努めていたのだけど、意識せざるを得ない問いがなされた。黛さんが箸を止め、
「そういえば眠留はシャワーのあと、六年生校舎に行くんだよな」
 そう訊いてきたのだ。この状況で僕にできるのは、感動を限界突破させない事だけ。よって気合いを入れるべく正座に座り直し、「はい行きます」と答えた僕に、黛さんは伊達さんから昨夕連絡があったことをニコニコ話した。「お前は良い後輩を持ったって、伊達にさんざん言われたよ」と結んだ黛さんがイタズラ小僧の顔になっているのを見て、この状況が意図的に作られた事をようやく悟るも、時すでに遅し。竹中さんと菊池さんがイタズラ小僧の顔で「俺達も同級生の剣道部員達に同じことを繰り返し言われました」と黛さんに同調するや、他の部員達も光の速さで三人に乗っかり、そしてあれよあれよという間に、一連の出来事を白状せねばならなくなってしまったのである。僕は諦めて、今年の湖校の志望者が例年より多かった理由から、順々に話していった。すると、思いもよらぬまでは行かずとも、可能性が低いと考えていた事態になった。
「俺も新素材刀を見たい」「俺も!」「「「「俺も!!」」」」
 と、部室にいた全員が六年生校舎への同行を願い出たのだ。僕は腕を組み首を捻ってそれについて考えた。研究学校には、
 ―― 直接関わっているか否か
 という、今回の目安となる原則がある。新素材刀を設計した剣道部の先輩方と僕、及び火曜日の選択授業に出席予定の颯太は、直接関わっているとして間違いないはず。だが僕と颯太以外の新忍道部員は、正直言って危うい。新素材刀は出雲に連なる刀でも、湖校新忍道部は刀の使用を正式に決めていないのだから、直接関わっているとするには弱いと思えたのだ。よって僕はその旨を伝え「同行は難しいでしょう」との見解を述べたのだけど、黛さんは罠にかかった獲物へ向ける笑みになって言った。
「昨夜、俺と副部長達は話し合い、モンスターによっては刀で戦うこともある抜刀隊の設立を決めた。だから問題は何もないぞ、抜刀隊隊長!」
「「「「抜刀隊隊長ッッ!!」」」」
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