Re:noteーこの音が君に届いたらー

しろのね

文字の大きさ
30 / 34
1章ー記憶の旋律ー

堂々と自分の好きを

しおりを挟む

急に教室のドアが開き、中から同い年くらいの女の子が勢いよく飛び出してきた。

俺も向こうも何が起こったのかわからず、しばらくその場で固まっていると──

「どうした?」

奥から男の子が顔をのぞかせた。

「何か用でも?」

背丈の近いその男は、じっと俺を見据えてくる。目が鋭い。

「い、いや……音楽が聞こえてきて……なんとなく気になって」

俺がそう答えると、最初に出てきた女の子がパッと表情を明るくした。

「えっ、音楽に興味あるの!?」

「いや、まあ……」

「ちょうど今ね、人手が足りなくて困ってたの! 一緒にやってみない!?」

「え、いや、でも……」

「今時間ある? だったらとりあえず入って!」

強引に手を引かれそのまま教室の中へと連れて行かれた。

「鈴ちゃん、その人は?」

教室の中にはもう1人、眼鏡をかけた大人しそうな女の子が座っていた。床には楽譜と楽器が散乱していて、部屋は少し雑然としていた。

「なんだここ……めっちゃ散らかってるじゃん」

「ようこそ! 私たちの楽園へ!」

「ら、楽園……?」

「勝手に言ってるだけだから気にすんな」

男の子が呆れたように言った。

そのあと、簡単に自己紹介を受けた。

鈴、明里、そしてさっきの男が怜央。
3人で音楽ユニットのようなものを組んでいるらしい。

「でね、隼人君にはドラムやってほしいの」

「……俺、ドラムなんてやったことないけど?」

「大丈夫大丈夫! 明里だって、キーボード始めたの最近だし」

「別に、鈴が勝手に言ってるだけだから。無理はしなくていい。でも、人手が足りないのは事実。手伝ってくれると助かるよ」

「あたしも最初に触ったとき、すっごく楽しくて、それで入ったんだよ。だから、隼人君も一回やってみようよ」

気づけばドラムスティックを手渡されていた。

「……マジかよ」

とりあえず構えて、試しに軽く叩いてみる。

最初はリズムもテンポもぐちゃぐちゃだったけど、何度か繰り返すうちに、少しずつ音が形になってきた。

「どう? 楽しいでしょ?」

ニヤニヤしながら聞いてくる鈴に、少しムカつきながらも──

「……まあ、悪くない」

そう答えていた。

「よしっ、じゃあ決まりね! 隼人君も加入決定~!」

こうして、半ば勢いだけで話は進み、10月の文化祭に向けた練習が始まった。

放課後は音楽室か、怜央の家。
曲作りの日は、練習はお休み。

最初は不安だったけど──
気づけば、3人と打ち解けていて、ドラムを叩くことも、みんなと音を合わせることも、楽しく感じていた。

「目指すのは世界」

最初は冗談かと思ってた彼らの目標が、いつのまにか俺の中にも芽生えていた。



ある日──

その日は、楽器屋に寄ってから帰ろうとしていた。

たまたま立ち寄ったその店の前で偶然、かつての部活仲間たちに出くわした。

「うわっ、隼人じゃん! 久しぶり!」

「元気してたか?」

久々の再会に、自然と笑顔がこぼれる……はずだった。

「……お前、楽器とかやってんの?」

そのひと言を皮切りに、みんなが口々に言い出す。

「似合わねー! 隼人が音楽とか、マジで?」

「いやほんとそれ、意外すぎる」

きっと軽いノリだった。悪気はなかったんだと思う。

けど、俺の中には、何か鋭いものが突き刺さっていた。

「……まあ、俺もそう思うよ」

そう笑って返したけど、心の奥では、そうは思っていなかった。

楽器は意外と面白い。
サッカーと同じように、努力して上達していくのが楽しい。
それをちゃんと伝えたかった。

でも──口に出す勇気がなかった。

「まあ、楽器なんて柄じゃないしな」

そんな言葉を吐いて別れたあと、ふと思った。

(……俺、何やってんだろ)

それから数日、練習にもあまり身が入らなかった。
叩いても音が響かない。
何をしていても、あの時の声が、頭の中で繰り返される。

「似合わねー」
「音楽なんて、お前っぽくない」

別に、あいつらが悪いわけじゃない。

──問題は、俺の心だ。

鈴も、怜央も、明里も。
それぞれ何か事情を抱えているのに、真っ直ぐ音楽に向き合ってる。
明里だって、何かあったらしい。
でも、少なくとも俺には、ちゃんと音と向き合っているように見える。

音楽が好き。
楽器が好き。

──そんな「好き」を、俺も堂々と言えたらな。

(……俺は、このままあの3人といていいんだろうか)
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

異世界帰りの少年は現実世界で冒険者になる

家高菜
ファンタジー
ある日突然、異世界に勇者として召喚された平凡な中学生の小鳥遊優人。 召喚者は優人を含めた5人の勇者に魔王討伐を依頼してきて、優人たちは魔王討伐を引き受ける。 多くの人々の助けを借り4年の月日を経て魔王討伐を成し遂げた優人たちは、なんとか元の世界に帰還を果たした。 しかし優人が帰還した世界には元々は無かったはずのダンジョンと、ダンジョンを探索するのを生業とする冒険者という職業が存在していた。 何故かダンジョンを探索する冒険者を育成する『冒険者育成学園』に入学することになった優人は、新たな仲間と共に冒険に身を投じるのであった。

俺だけ“使えないスキル”を大量に入手できる世界

小林一咲
ファンタジー
戦う気なし。出世欲なし。 あるのは「まぁいっか」とゴミスキルだけ。 過労死した社畜ゲーマー・晴日 條(はるひ しょう)は、異世界でとんでもないユニークスキルを授かる。 ――使えないスキルしか出ないガチャ。 誰も欲しがらない。 単体では意味不明。 説明文を読んだだけで溜め息が出る。 だが、條は集める。 強くなりたいからじゃない。 ゴミを眺めるのが、ちょっと楽しいから。 逃げ回るうちに勘違いされ、過剰に評価され、なぜか世界は救われていく。 これは―― 「役に立たなかった人生」を否定しない物語。 ゴミスキル万歳。 俺は今日も、何もしない。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

弱いままの冒険者〜チートスキル持ちなのに使えるのはパーティーメンバーのみ?〜

秋元智也
ファンタジー
友人を庇った事からクラスではイジメの対象にされてしまう。 そんなある日、いきなり異世界へと召喚されてしまった。 クラス全員が一緒に召喚されるなんて悪夢としか思えなかった。 こんな嫌な連中と異世界なんて行きたく無い。 そう強く念じると、どこからか神の声が聞こえてきた。 そして、そこには自分とは全く別の姿の自分がいたのだった。 レベルは低いままだったが、あげればいい。 そう思っていたのに……。 一向に上がらない!? それどころか、見た目はどう見ても女の子? 果たして、この世界で生きていけるのだろうか?

転生したらスキル転生って・・・!?

ノトア
ファンタジー
世界に危機が訪れて転生することに・・・。 〜あれ?ここは何処?〜 転生した場所は森の中・・・右も左も分からない状態ですが、天然?な女神にサポートされながらも何とか生きて行きます。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初めて書くので、誤字脱字や違和感はご了承ください。

溺愛少女、実はチートでした〜愛されすぎて大忙しです?〜

あいみ
ファンタジー
亡き祖母との約束を守るため、月影優里は誰にでも平等で優しかった。 困っている人がいればすぐに駆け付ける。 人が良すぎると周りからはよく怒られていた。 「人に優しくすれば自分も相手も、優しい気持ちになるでしょ?」 それは口癖。 最初こそ約束を守るためだったが、いつしか誰かのために何かをすることが大好きになっていく。 偽善でいい。他人にどう思われようと、ひ弱で非力な自分が手を差し出すことで一人でも多くの人が救われるのなら。 両親を亡くして邪魔者扱いされながらも親戚中をタライ回しに合っていた自分を、住みなれた田舎から出てきて引き取り育ててくれた祖父祖母のように。 優しく手を差し伸べられる存在になりたい。 変わらない生き方をして二十六歳を迎えた誕生日。 目の前で車に撥ねられそうな子供を庇い優はこの世を去った。 そのはずだった。 不思議なことに目が覚めると、埃まみれの床に倒れる幼女に転生していて……? 人や魔物。みんなに愛される幼女ライフが今、幕を開ける。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

処理中です...