Re:noteーこの音が君に届いたらー

しろのね

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1章ー記憶の旋律ー

エルフの森

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「ここが……エルフの森か」

冒険者登録をしてから、約2年が経ったある日。
ギルドの掲示板に、1つのクエストが貼り出されていた。

「魔物退治……?」

クエストの内容は、エルフの森付近に出没する魔物の討伐。
Dランクにしては報酬が悪くない。魔物も、比較的弱い種ばかりと記載されている。

──にも関わらず、ずっと残っている。

「やっぱ、『エルフの森』ってのが引っかかるんだろうな」

かつての種族間の争いは終結したとはいえ、根深い偏見と緊張感は今なお残っている。
他種族とのパーティ編成も珍しくはなったが、実際にはまだ少ない。
ウルフ族と人間──つまり俺たちのような組み合わせが、エルフの領地に踏み込むとなれば、警戒されても仕方ないだろう。

「エルフって魔法のスペシャリストだろ? その彼らがギルドに依頼を出すってことは……よっぽどの事態ってことだよな」

「うーん……Dランクにしては、やっぱり違和感あるな」

そう思いながら、別のクエストに目を移しかけたその時。

「なあレオ。俺たち、まだ“エルフ”のこと調べてなかったよな?ワンチャンあるかもよ」

「……!」

隼人の言葉に、ハッとする。

そうだ。
“人間以外の姿になっている可能性”──それを、エルフの中に見出すという視点が、すっぽり抜け落ちていた。

「お前の変な直感、当たること多いからな……」

「だろ?だったら行ってみようぜ。エルフの森!」

「……よし。受けてみるか」

 

───

数日後、俺たちはエルフの森に足を踏み入れた。

「……すげぇ、睨まれてんな」

一歩入った瞬間、何人ものエルフに囲まれた。
全員が武器を構え、明らかにこちらを警戒している。
その姿に少し違和感を感じながら敵意はないと手を上げる。

「今日、冒険者が来るはずだったが……まさか、子供とはな」

「初めまして。俺たちはギルドから派遣された冒険者です。依頼を受けてきました」

「はっ。こんな子供が?それにウルフ族と人間が一緒に……?」

「本当です。これが依頼書です」

差し出すと、数人のエルフが慎重に内容を確認する。
しばらくして、渋々といった様子で道を開いた。

「……案内する。ついてこい」

たどり着いたのは、村の中でもひときわ立派な建物だった。

「ここに村長がいる。くれぐれも、無礼のないように」

中へ通されると、長い淡い緑の髪をたなびかせた、若々しいエルフが椅子に座っていた。

「初めまして、冒険者。私はこの村の長、エラード。来てくれて感謝する。……加えて、同族が無礼を働いたようで、申し訳ない」

「いえ、お気になさらず」

エラードを見た瞬間、ふと疑問が浮かんだ。
(この人……本当に村長? というか、何歳なんだ?)

思わずまじまじと見つめていると──

「そんなに見つめるな。私はまだ百歳ほどだよ」

「……百歳、ですか」

エルフ、恐るべし。

「さて、本題に入ろう。我々の願いはただ一つ──“魔物”の討伐だ」

「魔物討伐……やっぱり、エルフが冒険者に依頼を出すなんて珍しいですね」

「無理もない。事情があってな……案内しよう」

そう言うと、エラードは立ち上がり、俺たちを森の奥へと導いた。

 

───

たどり着いたのは、森の中心にある神聖な空気をまとった場所だった。
祠のような建物があり、その中に……見たことのない生き物が、静かにうずくまっていた。

「あれは……?」

「“フォリア”だ。森に古くから棲まう、幻獣にして守護者」

「フォリア……」

その姿は、銀色の毛並みに、月の光を宿したような金色の瞳を持つ、神秘的な狼のようだった。
威圧感はあるが、どこか哀しげにも見える。

「長らく共に暮らしてきた隣人だったが、ここ数ヶ月、突然暴れ出した。
その影響で、森の魔力の流れが乱れ、我々エルフは魔法の制御が難しくなっている」

さっきの違和感の正体がわかった。
魔法を専門としているエルフがなぜ武器を持っていたのかに引っかかっていたんだ。
魔法が使えないからなのか。

「理由は……分かってないんですか?」

「もしかすると、我々の誰かが知らぬ間に、フォリアを傷つけたのかもしれん。
だからこそ、我々以外の手で解決したいと考えた。討伐ではなく──“対話”のために」

「なるほど……でも、それならなぜDランク依頼に?」

「上位ランクの冒険者が来れば、フォリアは“危険な存在”として討伐されてしまうかもしれん。
我々は、共に生きていきたいんだ。森に住む、隣人として」

「要するに、“なんで怒ってるのか”を聞けばいいんだよな? 仲良し大作戦ってやつ!」

隼人が笑って言う。

「そんな簡単にいけば良いが……今のフォリアが、どこまで理性を保っているかは分からん」

「まあ、やってみようぜ」

 

───

フォリアは、まるで銀狼を巨大化させたような姿だった。
その瞳は、月を映したように静かで冷たく……それでいて、どこか寂しげだった。

【人間にウルフ族……珍しい組み合わせだな】

「初めまして。ギル──いや、レオと申します」

「俺はハヤト! よろしくな!」

【……我に何の用だ?】

「ここのエルフたちが、少し困ってるんだ。実は──」

隼人に任せることにした。彼の方が、初対面の相手とは上手くやれる。

「ってなわけなんだよ。どうしてそんなに怒ってるんだ?」

【……確かに怒ってはいるが、エルフたちにではない。安心するがいいと、エラードに伝えておけ】

「へぇ、そうなのか。じゃあ、誰に──」

「“魔力を奪った”奴に、だよ」

不意に、頭上から少女の声がした。

俺たちが驚いて見上げると、木の枝に一人のエルフの少女が腰かけていた。
顔は光に隠れてよく見えないが、声からすると──俺たちと同じくらいの年齢だろうか。

「びっくりしたよ……」

少女は軽やかに木から飛び降り、にっこりと笑った。

「久しぶり!」
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