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1章ー記憶の旋律ー
パーティー
しおりを挟む「久しぶり!」
その言葉に、俺と隼人は顔を見合わせた。
……こんなエルフと知り合いになった覚えは、ない。
「あ、あの……」
「村のみんなが、人間とウルフ族が一緒に来たって騒いでたから気になって来てみたら……」
少女は目を細めて、懐かしそうに微笑んだ。
「まさか、もう一度会えるなんてね」
その一言に、隼人が反応した。
「え……? あ……かり?」
「?!」
そうだ。誰かに似ていると思っていた。──明里だ。
まさか、エルフになっているなんて。
緑がかった髪と、尖った耳を揺らしながら、少女──明里は嬉しそうに微笑んだ。
「そうだよ。ここでは“ネネ”って名前なんだけど……またそうやって呼ばれるなんて、嬉しいな」
【ネネよ。お主は、この者たちと知り合いだったのか?】
「うん、そうなの。あっ、それでさっきの話なんだけどね──」
「……ああ、魔力を奪ったやつって、どういうことなんだ?」
「実はね────」
明里の話によると、三ヶ月前、この森に何者かが侵入し、フォリアの魔力をほとんど奪っていったのだという。
なんとか撃退したものの、フォリアは瀕死に。
それを明里が偶然見つけ、なんとか助けたらしい。
「なるほど……」
【おそらく、隣国アバンティの者たちだろう。我の魔力を欲しがるとは……よほど大掛かりな魔法を使うつもりかもしれん】
「これはギルドに報告すべきだな」
「うん。それと……もう体は大丈夫なの?」
【ああ。エルフたちにも心配をかけたな。魔力が回復し次第、また顔を出すと伝えておいてくれ】
「わかった」
【ネネ、お主にも世話をかけたな。もう我は大丈夫だ。行くといい】
「うん。でも無理しないでね」
【わかっている。──そうだ、礼といってはなんだが、我の加護を授けよう。お主ら三人全員にな】
「えっ、俺たちもいいの?」
【これからお主たちは、困難な道を歩むことになるだろう。
我の加護、“翠精の祝福”が、きっと風となってお主たちを導く】
「……ありがとう。頑張るね!」
三人が去っていく背中を見送りながら、フォリアはそっとつぶやいた。
【あの三人に祝福があらんことを。
────別の世界から来た子らよ】
────────
「これから、どうする?」
怜央がぽつりと尋ねた。
「2人は冒険者やってるんでしょ?」
「そうだ。情報収集しながら、いろんな町を回ってた」
「やっと会えたな! あとは鈴だけ!」
「鈴ちゃんはまだ……。だったら私も、冒険者やる!」
『…………は?』
「ちょっと憧れてたの。旅しながら誰かを助けるのって、いいなって思ってた」
「いやいや!危険だって!」
「大丈夫!こう見えても風魔法Bランクだよ?」
「マジか……」
「それに、エルフ特有の自然魔法も大体マスターしてるし、戦えるよ?」
「いや……親にはなんて説得するつもりなんだよ」
「……気合い?」
「お前ら、そういうとこ似てるよな……」
怜央は、隼人が両親を説得した時のことを思い出していた。
「まぁ、任せてって!」
そんなやり取りをしているうちに、エルフの村へ戻っていた。
「おお、戻ったか!ネネも一緒だったとは。それで、どうだった?」
エラードがハラハラした顔で出迎えてくれた。
「とりあえず、敵意はないようです。また近いうちに訪ねてくると」
「そうか、それは安心した!」
ひと通り説明を終えると、明里が口を開いた。
「ねえ、パパ」
(パ、パパ!?)
(お前、村長の娘だったのかよ!!)
「私、冒険者になりたいの。ダメ?」
「……は?」
エラードは手にしていた書類を取り落とし、床にばらまいた。
そこから、明里の熱烈な説得が始まり──何とか許可が下りた。……丸三日かかったが。
────────
「じゃあ、明里の登録も終わったし。次はパーティー名、どうする?」
パーティーは三人以上じゃないと組めない決まりだった。
今までは、怜央と隼は「たまたま同じ依頼を受けた冒険者」という扱いだった。
「何がいいかな……“Re:note”は使いたくない?」
「たしかにー!」
「……“リナリア”ってのはどうだ?」
「リナ……リア? どういう意味?」
「花の名前なんだ。“コンバラリア”っていう、鈴蘭のラテン語名にちょっと似ててさ。
しかも、鈴蘭の花言葉は『再び幸せが訪れる』──
“Re”と鈴をかけてみた」
「……いいじゃん!リナリア!」
「さすが定期考査学年1位。ラテン語とか……ガリ勉」
「うるせぇ!」
「では、パーティー名《リナリア》として登録させていただきます」
残るは──鈴だけだ。
待ってろ、必ず見つけ出すからな。
***
「あっ!やっと帰ってきた!」
「おせーよ。先に飯食っちまったぞー」
宿屋に戻ると、隼人と明里がちょうど夕食を食べ終えたところだった。
2人の賑やかな笑い声を聞きながら、ふと俺は思う。
……また、こうして仲間がそばにいてくれる。
今はそれだけで、少し心が軽くなる気がした。
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